腹痛や下痢は、ごく一般的に起こる症状のひとつです。暴飲暴食など、腹痛や下痢の原因が思い当たる場合や、体質などと思っている方も多く、症状が軽い場合にはあまり気にしていない方もいることでしょう。ただし、症状が急で激しい場合には、重症化のリスクや深刻な病気が隠れている可能性があるため、注意が必要です。このような場合には、すぐに病院で診察を受ける必要があります。ここでは、腹痛と下痢が同時に起こる原因や、自分でできる対処法を紹介し、腹痛や下痢を生じる病気について詳しく解説します。
1.腹痛と下痢を同時に引き起こす原因
食事をすると、胃や十二指腸で消化され、小腸や大腸を通過する間に、必要な栄養素は水分と一緒に吸収され、不要なものは適度な硬さの便となり排泄されるのが通常です。下痢は、便の水分量が多い状態で、腸管で水分が吸収しきれなかったり、腸からの水分の分泌が増えたりした場合に起こります。また、下痢の時には、腸の収縮やけいれん、炎症などにより腹痛をともなうことがあります。
腹痛と下痢が同時に引き起こされる原因を、次の4つに分けて説明します。
腹痛と下痢は、食べ過ぎや飲み過ぎ、食中毒や感染症など、食事と関係して起こることがあります。
■食べ過ぎ・飲み過ぎ
食べ過ぎると消化不良になることがあり、消化できていない食物が腸を刺激することで腸の動きが速くなり、本来、腸で吸収される水分が吸収されないまま便と一緒に排出されて下痢になります。過度の飲酒や刺激物の摂りすぎなども、腸を刺激する原因となり、腹痛や下痢を起こすことがあります。
■食中毒などの感染性の下痢
ノロウイルスやO-157などのウイルスや細菌が付着した食物を摂ると、病原体が消化管で増殖し、腸などを傷つけたり炎症を起こしたり毒素を出したりします。生体防御反応として、これらの有害物質を排出するために腸からの分泌物を大量に増やすため、水様性の下痢になり腹痛をともないます。
腸の動きは自律神経の働きが大きく関わっており、脳が強いストレスや緊張を感じると、自律神経を刺激して腸の動きが異常に活発になります。そのため、便が腸を通過するスピードが早くなり、水分を吸収しきれずに下痢になります。また、脳と腸は互いに連携していることもわかっており、腸の異常を脳が感知することで、腹痛を強く感じるようになります。
体が冷えると胃腸の血管が収縮して血流が減るため、胃腸の働きが悪くなって消化不良になりやすいことや、冷えによって自律神経がバランスを崩すことなどが関わって、下痢を引き起こす原因となります。
また、生理中の下痢は、生理周期におけるホルモン分泌と関係しています。生理中は子宮内膜からプロスタグランジンという物質が分泌され、子宮を収縮させて経血を押し出す働きがあり、月経痛の原因となります。同時にプロスタグランジンは、腸管に対しても異常に収縮させるため、腹痛をともなう下痢が引き起こされるのです
腹痛と下痢が同時に起こる原因が、消化管の病気であることがあります。中には、手術など緊急の処置が必要な病気もあります。腹痛と下痢から病気を診断するには、画像診断や血液検査などが必要になる場合がありますが、医療機関を受診する際には、以下のことを伝えるようにしましょう。
■医療機関を受診する際に伝えるポイント
■どのような症状が、いつから始まり、どのぐらい続いているか
■排便の頻度と便の状態
■腹痛の有無とその程度
■腹痛と下痢以外の症状の有無
■発症前後の状況(食事、生活、薬、サプリメントなど)
■基礎疾患の有無(服用している薬など)
腹痛と下痢がある場合の自宅でできる対処法について説明します。ただし、腹痛と下痢が同時に起きており、発症や症状の経過が急である、症状が強く激しいなどの時には、以下の点に注意したうえで、医療機関を受診しましょう。
どのような下痢であっても、最も大切なのは脱水にならないように、しっかり水分を摂ることです。スポーツドリンク、経口補水液など電解質が含まれた飲料を、少しずつ飲むようにします。おかゆ、重湯、柔らかく煮たうどん、みそ汁、野菜スープなど、食事から水分を摂ることも大切です。
緊張やストレスがあるとお腹が痛くなり下痢になるなど、一定の条件で症状が発症することが分かっている場合には、下痢止めが有効な場合があります。しかし、むやみに下痢止めを使うことはすすめられません。それは、腹痛と下痢の原因が、食中毒や感染症の場合、病原体を排出するために下痢が起きているからです。また、一時的に腹痛や下痢を止めてしまうことで、症状の原因となる消化管の病気の発見が遅れることがあるからです。下痢止めはさまざまな種類があるため、医療機関や薬剤師に相談して、適切に使用することが大切です。
腹痛と下痢が同時に起こる際に疑われる病気について、以下に病気の概要、原因、症状について説明します。
急性胃炎・腸炎は、何らかの原因で胃や腸に炎症が起きている状態です。
■原因
急性胃炎・腸炎の多くは、ウイルスや細菌、寄生虫による感染が原因の感染性胃腸炎です。感染以外が原因で急性胃腸炎を発症する場合もあり、その原因として暴飲暴食、アレルギー、キノコや貝類による中毒、薬などが挙げられます。
■症状
急性胃炎・腸炎の原因にもよりますが、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、発熱、血便が主な症状です。下痢や嘔吐にともない体の水分が不足して脱水症状となり、口の渇きや倦怠感があらわれ、悪化すると血圧低下や意識障害をおこすことがあるため注意が必要です。
炎症性腸疾患とは、腸の粘膜に炎症を起こす病気の総称で、一般的には潰瘍性大腸炎とクローン病のことをいいます。潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)は大腸に炎症が生じる一方、クローン病は口から肛門までの消化管すべてに炎症を生じます。いずれも難病に指定されており、良くなったり悪くなったりを繰り返し、長期間の治療が必要な慢性の病気です。
■原因
潰瘍性大腸炎もクローン病も、詳しい発症の原因は解明されていませんが、遺伝的因子と環境因子(腸内細菌叢、ウイルスや細菌などの感染など)が複雑にからみ合い、免疫機能の異常がもたらされることで、発症や炎症の持続に関わっていると考えられています。
■症状
腸の炎症により、共通して下痢、腹痛、血便の症状があらわれます。また、発熱や倦怠感などの全身症状、関節炎、皮疹(ひしん)、結膜炎、口内炎など、腸以外の部位に症状が出ることもあります。特に、潰瘍性大腸炎は、血便(粘液便)と下痢が多く、クローン病は腹痛と下痢、肛門周辺に膿がたまる穴(痔ろう)をともなうことが多いのが特徴です。
何らかの原因で、大腸の動脈への血流が妨げられて、大腸の粘膜に炎症が起きて傷ついている状態です。大腸の動脈への血流が妨げられるのは、血管と腸管の両方に要因があり、それぞれがからみ合って発症すると考えられています。
■原因
大腸の動脈への血流が妨げられる原因として、動脈硬化をきたす糖尿病、高血圧、脂質異常症などの基礎疾患や、血液が固まりやすい方に起こりやすいです。また便秘のある方では、排便の時に強くいきんだことで血流が低下して起こることがあります。
■症状
左側の大腸に起こることが多いため、突然、左下腹部の腹痛の後、軟便や下痢になることがあります。大腸への血流が妨げられることで粘膜が傷つき、潰瘍ができて出血すると血便になります。また微熱が出ることもあります。ほとんどの場合、一時的な症状ですが、腸閉塞や腹膜炎を併発すると手術が必要になることもあります。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、食物を分解する働きのある胃酸や消化酵素によって、胃や十二指腸の粘膜が深く傷つけられて潰瘍になっている状態で、消化性潰瘍とも呼ばれます。
■原因
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が深く関わっています。ヘリコバクター・ピロリ菌が胃や十二指腸に感染すると、胃や十二指腸の粘膜に慢性的な炎症が生じたり、粘液が減ったりすることで、粘膜が傷つきやすくなり発症します。また解熱鎮痛剤、喫煙、暴飲暴食、ストレスなどにより、粘膜が傷つきやすい状態となり発症する場合もあります。
■症状
胃潰瘍も十二指腸潰瘍も腹痛が主な症状で、みぞおちあたりの鈍い痛みや吐き気、嘔吐をともなうこともあります。胃潰瘍は食後、十二指腸潰瘍は空腹時や夜間に痛みが強くなることが多いようです。いずれも潰瘍から出血すると、黒色の便が出たり、貧血や顔色が悪くなったり、疲れやすいなどの症状をともなうことがあります。
大腸憩室炎とは、憩室と呼ばれる消化管の一部分にできた風船状の小さい袋に炎症が起きる病気です。
■原因
憩室は、大腸にできることがほとんどで、腸壁の弱い部分に圧力が加わってできるといわれています。憩室のある方で、便秘や肥満、喫煙などが憩室炎を発症するリスクとして挙げられます。
■症状
大腸憩室炎の主な症状は、左下腹部の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、腹部の圧痛などです。憩室炎が進行し憩室に穴があいたり、膿がたまったりすると、膀胱炎や腹膜炎などを合併することがあります。
検査では大腸の腫瘍や炎症などの病気がないのにもかかわらず、数ヵ月間以上、腹痛が繰り返し起こり、下痢や便秘など便の状態や排便の回数が変わる病気です。お腹の症状や、腹痛や排便に対する不安で日常生活に支障がある場合があります。
■原因
腸の働きは自律神経がコントロールしていますが、脳がストレスや不安を感じると自律神経のバランスが崩れて、腸の動きが異常になり下痢や便秘などの症状があらわれます。それと同時に、腸で生じた異常を脳が感じると痛みに対して過敏に反応するようになり、腹痛が起こりやすくなるということが、過敏性腸症候群の発症メカニズムと考えられています。
■症状
症状の現れ方には個人差があり、下痢型、便秘型、混合型があります。下痢型は、ストレスや不安をきっかけに急な腹痛と便意、下痢を生じます。便秘型は、便秘にともないお腹の張りなどがあります。混合型は、下痢と便秘を繰り返すのが特徴です。ストレスや疲労で症状が悪化し、休日などには症状があらわれにくいようです。
慢性膵炎とは、膵臓に繰り返し炎症が起こることで、膵臓で作られる消化酵素によって、自らの膵臓の正常な細胞が壊され、線維に置き換わり(線維化)、膵臓が働かなくなる病気です。
■原因
慢性膵炎は、男性では主にお酒の飲み過ぎが原因であり、女性では原因の分からない特発性膵炎が多くみられます。また、喫煙は発症リスクとなることが分かっています。
■症状
初期の主な症状は腹痛で、食後数時間で現れることが多く、吐き気や嘔吐、上腹部の膨満感をともなうことがあります。進行すると徐々に膵臓の機能が低下して、消化不良による下痢、体重減少が起こります。また、膵臓の機能のひとつである血糖を下げるインスリンの分泌が低下することで、糖尿病によるのどの渇き、夜間の頻尿や多尿などの症状があらわれます。
腹痛と下痢が同時に起こっている場合に、手術などの緊急治療が必要な病気があります。また、胃がんや大腸がんのように、腹痛と下痢はもちろん、自覚症状がある場合には進行している可能性が否定できず、早急に検査を受け、診断と治療をはじめる必要があるものもあります。腹痛と下痢が同時に起こった場合に、早急な診断と治療が必要な病気について、原因や症状を紹介します。
腸閉塞とは、何らかの原因で腸の内容物が肛門の方に移動できなくなっている状態です。腹部の手術経験のある方は注意が必要です。
腸の内容物が肛門の方に移動できなくなる原因として、腹部の手術後に腸管が狭くなったり、腸捻転(ちょうねんてん)やヘルニアなどによって腸管が折れ曲がったりして起こる通過障害や、腹部の手術にともなう腸管の麻痺やけいれんで腸が動かなくなることです。
腸閉塞の症状の特徴は、腹痛、嘔吐、便やガスが出なくなることです。ただし、部分的な閉塞の場合や、腸閉塞の初期には、閉塞している部分よりも肛門側にある便が、腸の強い蠕動運動(ぜんどううんどう)によって下痢となって出ることがあります。そのほか、腹部膨満感(ふくぶほうまんかん)や食欲不振をともなうこともあります。腸管の血流が悪くなって起こる絞扼性(こうやくせい)イレウスは、強い腹痛に発熱、嘔吐をともない、腸管の血流が悪くなり壊死する場合があるため、診断と治療に緊急性を要します。
胃や大腸の粘膜の細胞が、何らかの原因でがん細胞になる病気です。がん細胞が増えて周囲にしみ出したり、他の臓器に転移したりすることがあります。
■原因
胃がんの原因は、主にヘリコバクター・ピロリ菌の感染に生活習慣のリスクが重なり、胃の粘膜が萎縮して発症することが多いです。大腸がんは、大腸の粘膜にできた腺腫(せんしゅ)と呼ばれる良性のポリープが大きくなりがん化する場合や、大腸の粘膜から直接発生する場合があります。
■症状
胃がんも大腸がんも、初期はもちろん進行しても、ほとんど自覚症状がない場合があります。比較的多く見られる症状も、他の消化器の病気と似た症状で、特有の症状があるわけではありません。胃がんと大腸がんの代表的な症状は次の通りです。
■胃がん
食欲不振、胃の不快感、胃やみぞおちの痛み、吐き気を感じることがあり、腫瘍から出血すると、黒色便や貧血になることがあります。また、進行胃がんやスキルス胃がんでは、がん性腹膜炎や腹水により腹痛や下痢を生じることがあります。
■大腸がん
下血・血便、下痢と便秘を繰り返す、出血による貧血、腹部のしこり、便が細くなる、残便感、腹痛などの症状を生じることがあります。
腹痛と下痢がある場合に、病院で診察を受けた方が良い状態なのか、判断に悩むことがあります。次の症状がある場合には、緊急で医療機関への受診をしましょう。
これまでに経験したことがない、冷や汗が出るほどの耐えられない激しい痛みは、緊急で受診が必要な症状です。例えば、胃や腸に穴が開いた、腸閉塞などの治療が必要な状態の可能性があるからです。
腹痛と下痢に、発熱や吐き気、嘔吐、血便などをともなう場合は、緊急で病院を受診するべき状態です。ウイルスや細菌による感染性腸炎や食中毒が疑われ、脱水のリスクが高く、点滴による水分や電解質の補給、原因物質が分かれば薬物療法など適切な治療が必要だからです。
腹痛が続く場合や、だんだん痛みが強くなる場合も、すぐに病院を受診するべき状態です。なぜなら腹痛の痛みが長時間消えない場合は、緊急性が高く早期の診断や手術などの治療が必要な場合が多いからです。腹痛が持続する時間の目安は6時間以上とも言われていますが、時間に関わらず安静にしていても痛みが続く場合には、急いで病院を受診しましょう。
腹痛と下痢が同時に起こっている場合、通常の検査として、血液検査、尿や便の検査、腹部X線検査をおこない、必要に応じて腹部超音波検査(腹部エコー)、腹部CT検査、腹部MRI検査をおこなうこともあります。さらに精密検査として、大腸カメラ、問診により胃の病気が疑われる場合には胃カメラをおこなうこともあります。
■腹痛や下痢がある時の検査項目
主な検査 | 主な検査の項目や診断、検査の目的 |
血液検査 | ・白血球・CRP:炎症の存在・好酸球:寄生虫の感染の有無・貧血:出血の有無・電解質の異常:脱水の状態・血糖値、凝固能、脂質など:基礎疾患の確認 |
尿検査 | ・尿路系の疾患の推定(尿路感染症など)・妊娠反応 |
便の検査 | ・便潜血:潰瘍、びらん、腫瘍などからの出血・便培養:細菌性腸炎など |
腹部X線検査 | ・腸管のガスの有無や分布・腸閉塞の有無 |
腹部エコー検査、腹部CT検査、MRI検査 | ・膵炎、腸管の拡張、腸管壁の肥厚などの観察・尿路結石、胆石の確認 |
大腸カメラ | ・虚血性腸炎、細菌性腸炎などの診断・炎症性腸疾患の診断・大腸の憩室の有無・大腸ポリープや大腸がんの発見 |
胃カメラ | ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎の診断・胃がんの発見・ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無など |
腹痛と下痢が同時に起こった時、感染性胃腸炎や暴飲暴食など食事に関係している場合があります。感染性胃腸炎では、食物から入り体内で増えた病原体を排出するために腹痛と下痢が起こります。また、暴飲暴食では消化不良や、アルコールの刺激によって腸が激しく動き、腸管で水分が吸収されずに腹痛と下痢が起こります。食事以外の原因として、大腸は自律神経によってコントロールされているため、ストレスや不安が引き金となり、脳と腸が相互に関係して大腸を刺激し下痢と腹痛を生じます。また、女性は生理周期にともない腹痛と下痢になる方も少なくありません。腹痛と下痢が同時に起こった時、最も大切なのは脱水にならないように、水分を適切に摂ることですが、すぐに病院を受診して診断と治療が必要な場合もあるため、自己判断で下痢止めなどを使用せず、症状の強さや経過に注意が必要です。腹痛と下痢が同時に起きる場合に疑われる病気は数多くあり、放っておくと重症化したり、重篤な病気が隠れていたりすることもあります。気になる症状がある場合には、病院を受診して大腸カメラ検査などでその原因を明らかにし、適切な治療をすることが大切です。
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