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鼠径ヘルニアの治療方法と費用、術後の痛みなどについて

鼠経(そけい)ヘルニアとは、本来腹腔内にある小腸や大腸などの組織が、鼠径部(太ももの付け根のあたり)に飛び出し、ぽっこりとふくらんでしまう良性の病気です。ほとんどの場合、緊急性はありませんが、ふくらみによって違和感や痛みがあるなど、日常生活に支障がでる場合には治療が必要になります。ここでは、鼠経ヘルニアの治療方法について詳しくご紹介するとともに、治療にかかる費用や注意点、術後の痛みなども合わせて解説します。


1.鼠径ヘルニアの治療は手術をおこないます

鼠径ヘルニアは、小腸や大腸などの臓器を包んでいる腹壁の組織の一部が弱くなって穴があき(ヘルニア門)、その穴から腹腔内の内容物が出てきてしまう病気です。ふくらみを手で押すと、一時的にお腹の中に押し戻すことができますが、立ち仕事をしたり、お腹に入れたりするたびに同じところにふくらみができてしまいます。一度空いたヘルニア門は、自然にふさがることはなく、薬による治療もできません。鼠経ヘルニアを根本的に治すには、ヘルニア門を閉じる手術をおこないます。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、日帰りにも短期入院にもどちらにも対応しています。

2.鼠径ヘルニアの治療方法

従来の鼠経ヘルニアの手術といえば、飛び出してしまった腹膜(ヘルニア嚢)を処理した後に、ヘルニア門を縫い閉じる方法が広くおこなわれていましたが、組織が引っ張られて緊張がかかり、術後のつっぱり感や痛みが強く、再発率も高いという問題がありました。しかし現在では、より痛みが少なく、再発しにくい術式に進歩しています。

現在広くおこなわれている鼠経ヘルニアの手術方法は、ヘルニア門に人工のメッシュシート(医療用合成繊維でできた網)を置いて腹壁を補強する手術(Tension-free repair)です。この方法だと、ヘルニア門を覆うだけなので、緊張がかからず、術後のつっぱり感や痛みを軽減することができます。

手術に使用するメッシュシートは、医療用に安全性が確認されているもので、分解したり変質したりすることもないので、一度入れたシートを取り替える必要もありません。腹壁にメッシュシートを置いたあと、次第に腹壁の組織がメッシュシートを包み込み、線維状の結合組織が絡み合うことで強度を発揮します。

この人工メッシュシートを用いた鼠経ヘルニアの手術については主に2つの術式があります。腹腔鏡を使用する方法と、鼠径部を直接切開しておこなう方法であり、患者さまの体型やヘルニアの位置や大きさを検討して、ベストな選択をします。それぞれを詳しくみていきましょう。


2.1.腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、腹部に5~10ミリ程度の穴をあけて腹腔鏡を入れ、身体の中からヘルニア門を観察し、細い鉗子を使ってヘルニア部にメッシュシートを置く手術方法です。腹腔鏡手術はアプローチの違いから、TAPP法:Transabdominal preperitoneal repair(経腹的腹膜前修復法)とTEP法:Totally extraperitoneal repair(腹膜外腹膜前修復法)に分けられます。

TAPP法は、スコープ用(1ヵ所)、鉗子用(左右1ヵ所ずつ)の計3ヵ所の小さな穴をあけて腹腔鏡を入れ、腹腔内から患部にアプローチする方法です。

一方、TEP法は、腹腔内には腹腔鏡を入れず、腹膜と筋層の間(腹膜前腔)に腹腔鏡を入れ、患部にアプローチする方法です。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、腹腔鏡手術による傷を少なくしたTEP法であるSILS(Single incisional laparoscopic surgery)-TEP法を主におこなっています。SILS-TEP法は、へその部分に2センチ程度の穴を1つだけあけ、そこからスコープ用、鉗子用(左右)の腹腔鏡を入れて患部にアプローチする方法です。

どちらのアプローチでも、腹膜前腔のスペースに、人工メッシュシートを置いて腹壁を補強するというコンセプトは同じです。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、ヘルニア門径などに応じてTAPP法と使い分けることで、患者さまに最適な術式で対応します。

腹腔鏡手術では、傷の範囲が小さいため、術後の痛みが少なく、回復も早いと考えられています。しかし、腹腔鏡手術は技術的に難しく、スキルを持った医師でなければ実施が困難なことや、全身麻酔が必要になることなどから、どこでも受けられるわけではありません。

表:鼠経ヘルニアに対する内視鏡手術方法

切開孔の数切開孔の大きさ患部へのアプローチ
TAPP法3ヵ所5~10ミリ程度腹腔内から
SILS-TEP法1ヵ所2センチ程度腹膜前腔から(腹膜と筋膜の間)

2.2. 鼠径部切開法

鼠径部のふくらみの部分を切開してヘルニア門を見つけ、メッシュシートで覆って腹壁を補強する方法です。体型やヘルニアの大きさなどによって異なりますが、切開する幅は4~6センチ程度です。

鼠径部切開法にもいくつかの術式があり、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUではLichtenstein法(リヒテンシュタイン法)やメッシュプラグ法、ダイレクトクーゲル法などを用いています。

Lichtenstein法はオンレイ法とも呼ばれ、鼠経部の外側の位置にある筋膜の表面をメッシュで覆う方法です。メッシュプラグ法は、ヘルニア門に傘状のメッシュ(プラグ)を挿入し、さらに鼠径部の筋膜表面をメッシュシートで覆って補強する方法です。ダイレクトクーゲル法は、Lichtenstein法よりも深い筋膜と腹膜の間に形状記憶リングに縁取られ、中央にストラップの付いたメッシュシートを挿入し、筋膜の内側から患部を補強する方法です。

鼠径部切開法は、脊髄クモ膜下麻酔(腰椎麻酔)や局所麻酔のみでおこなうことができるので、全身麻酔が使えない方は鼠径部切開法を選択することになります。また、過去に腹腔鏡による前立腺手術を受け、腹膜前腔(ふくまくぜんくう)を治療済みの方も、鼠径部切開法をおこないます。

表:鼠経ヘルニアに対する鼠径部切開法

切開孔の数切開孔の大きさメッシュシートの置き方
Lichtenstein法1ヵ所4~6センチ筋膜の外側を覆う
メッシュプラグ法ヘルニア門にプラグを挿入+筋膜の外側を覆う
ダイレクトクーゲル法腹膜と筋膜の間に置いて腹膜を覆う

3.当院での鼠径ヘルニアの手術の流れ

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでの鼠経ヘルニアの手術前の準備や手術の流れ、手術後の注意点について詳しくお伝えします。

3.1. 手術前日の入浴・お食事など

手術前日も入浴可能です。前日の食事には特に制限はありませんが、前日24時以降は絶食してください。 前日のアルコール摂取は控えていただき、どうしても飲む場合も1杯までにしてください。飲水は手術前2時間までは可能ですが、手術開始時間によって異なりますので、オリエンテーションの際にお伝えします。

お化粧はせず、マニキュア、ペディキュア、コンタクト、指輪、時計、義歯、ヘアピン、アクセサリーなどはとって来院してください。

以下の準備をお願いいたします。

■タオル、保険証、お薬手帳

■肺血栓塞栓予防用弾性ストッキング(売店でご購入いただけます)

3.2. 手術当日の流れ

来院後は、受付からお部屋にご案内いたします。お部屋で手術着に着替えていただきます。施錠可能なロッカーも設置しています。お着替えが終わりましたら、スタッフより最終の確認をおこないます。

準備ができましたら、手術室に入り、看護師よりお名前の確認後、手術台に横になっていただきます。麻酔科医が点滴をとり、全身麻酔もしくは腰椎麻酔、局所麻酔をおこないます。十分に麻酔が効いていることを確認して手術を開始します。鼠径ヘルニアの手術時間の目安は、平均約1時間程度です。

手術後、全身麻酔の場合は麻酔を覚ましていきます。


3.3. 術後の経過観察

手術室で麻酔を覚ました後は、医師付き添いのもと、ストレッチャーでとなりのリカバリー室へと移動し、約2時間、術後の経過観察をおこないます。術後経過観察は、日帰り手術でも入院手術でも共通です。

最初はリカバリー室の奥のスペースで約15分程度モニターをつけてお休みいただきます。リカバリー室には看護師が常駐していますので、何かお困りの際はお声がけください。その後、離床の基準を満たせば、ご自身のリカバリースペースのリクライニングチェアに移り、お休みいただきます。

約2時間の間に、状態に合わせて水分摂取、歩行、排尿、軽い食事をとっていただきます。痛みがある方は痛み止めを適切に使用して痛みをコントロールします。

※短期入院の患者は、術後2時間の経過観察後、病棟の病室へ移ります。院内歩行は自由です。夕食と翌朝の朝食があります。

3.4. 日帰り手術の体制について

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、安全安心に日帰り手術をおこなうために、日本麻酔学会が提唱する「日帰り麻酔の安全のための基準」のガイドラインを厳守し、明確な基準を設けて日帰りの可否を判断しています。このガイドラインは、日帰り手術に適した患者の選択基準、受け入れ体制、麻酔中の安全管理、帰宅基準が記載されているもので、このガイドライン離床基準はAldreteスコア(The modified Aldrete scoring system)を評価指標に判断基準を設定しています。帰宅の基準はPADSSスコア(The revised postanesthesia discharge scoring system)を評価指標に判断基準を設けています。

■Aldreteスコア

活動性、呼吸、循環、意識、酸素飽和度をスコア化して評価

■PADSSスコア

バイタルサイン、活動性、悪心・嘔吐、術後痛、外科的出血を評価して帰宅判断

実際には、手術後は専任の看護師が常駐するリカバリー室に移動し、Aldreteスコアの判断基準に基づいて離床(ベッドから起き上げる)の判断をおこないます。離床の基準を満たした場合はソファ型のリカバリーチェアに移り、お休みいただきます。

約2時間の術後経過観察後、PADSSスコアの判断基準を満たせば、帰宅していただきます。

個人差はありますが、手術翌日から職場や学校に復帰できます。負荷のかかる動作は、術後2週間はお控えください。

緊急時の連絡先を退院時にお渡しいたします。ご不安なことがあればご連絡ください。

※手術当日は患者様本人の運転による帰宅はできません。公共交通機関をご利用いただくか、付き添いの方の運転でお帰りください。

4.手術の費用について

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUで実施する鼠径ヘルニアの手術には健康保険が適応されます。実際に使用する薬剤の量や種類などにより患者さまごとに費用は多少前後しますが、腹腔鏡下ヘルニア手術の費用は、3割負担の方のケースで、外来から入院までの総額として約10~15万円前後の窓口負担が発生します。窓口負担に対しては、高額療養費制度もご利用いただけるため、施設間で大きな差が出たり、高額になったりすることはありません。ただし、入院の方は入院費用が別途かかります。

お支払いは、銀行振り込みやクレジットカードもご利用いただけます。


5.手術後の注意点

手術は一定の確率で合併症が起こりえます。手術後に気になる症状がある場合は、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUへご連絡ください。また、気になる症状がない場合でも、術後フォローアップとして術後1週間目を目安にご来院いただき術後の経過を確認させていただきます。

5.1. 痛み・感染について

手術後は、手術部位に痛みや感染が起こる場合があります。術後の痛みに関しては、通常、術後数日は切開部の疼痛(とうつう)があるため、鎮痛薬を処方して症状を和らげます。多くの場合、痛みは徐々に和らいでいきますが、まれに数ヵ月にわたる知覚異常や神経疼痛が残ることがあります。慢性疼痛は術後の生活にとても大きな影響を与える合併症です。手術時には神経の同定や温存、神経の存在しやすい部位の操作を避けるなどの工夫をおこなっていますが、確定的なものはありません。術後の疼痛もしっかりとフォローアップしていますので、術後の外来時にご相談ください。

感染については、まれに遅発性の感染が生じるケースがあります。創部の発赤や腫脹、疼痛がある際には、感染が疑われるため診察を受けてください。軽いものは抗生剤治療で軽快することもありますが、感染が長引くときは再手術が必要になることもあります。

5.2. ヘルニア嚢が大きい場合

ヘルニア嚢(のう)が大きい場合、手術部位に水がたまり、その部分に触れると丸く硬いしこりのような感触がある場合があります。

これを漿液腫(しょうえきしゅ)といい、通常痛みなどはなく経過をみていくと徐々に小さくなっていくことがほとんどです。小さくならず疼痛などがある場合は針を刺して水を抜く治療をおこなうこともあります。

6.鼠径ヘルニアの再発の可能性

鼠経ヘルニアの手術は、メッシュシートを用いる術式が普及してから再発は減っているものの、再発のリスクはゼロではありません。組織が脆弱なところから再発をきたすことがあり、内視鏡外科学会が実施したアンケート調査によると、鼠径部切開法後の再発率は2%、TAPP法では3%、TEP法では0.4%であったと報告されています。手術後に再発した場合は、再手術が必要になります。術後数年たってから再発する可能性もあるため、術後に変化があればご相談ください。

7.まとめ

鼠経ヘルニアを根本的に治療するためには手術が必要です。近年では、ヘルニア門の部分にメッシュシートを置いて補強する手術法が主流になり、以前に比べて術後の痛みや再発率も減っています。さらに腹腔鏡と組み合わせることで、手術による身体への負担を軽減することができます。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUの腹腔鏡を用いた鼠経ヘルニアの手術では、おへそに小さな穴を1ヵ所あけ、そこから腹腔鏡を入れて手術をするSILS-TEP法を主に実施しており、手術後の痛みや傷跡が最小限になるよう工夫をしています。日帰りにも短期入院にもどちらにも対応しており、選択いただけます。

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