医療コラム
大腸カメラ検査や胃カメラ検査は、食道や胃、十二指腸、大腸などの消化管を直接観察し、さまざまな病気の早期発見や診断に役立つ有用な手段です。「大腸カメラも胃カメラ検査も必要だと分かってはいるけれど、忙しくてなかなか時間をとれない」という方は多いのではないでしょうか。大腸カメラと胃カメラの検査では、検査前の食事制限や検査の流れが共通しているため、医療機関によっては同じ日に受けることが可能です。この記事では、大腸カメラと胃カメラの同日検査のメリットや注意点、検査の流れについて、詳しく解説します。
大腸カメラ検査と胃カメラ検査を同じ日に受けることは可能です。どちらの検査にも食事制限や時間的な拘束、投薬が必要ですが、2つの検査を同じ日におこなうことで、それらの負担をまとめることができます。ただし、高齢の方やハイリスクな病気を抱えている方は、身体の負担を考慮して、別の日に実施をおすすめする場合があります。
大腸カメラ検査と胃カメラ検査を同じ日に受けるメリットについて、スケジュール調整、費用、食事制限の回数の観点からご紹介します。
2.1. スケジュール調整の負担が減る
大腸カメラと胃カメラの検査を別の日に受ける場合、それぞれに事前受診、検査、結果説明のための受診が必要になります。2つの検査を同じ日に受けることで、これらの受診が半分で済み、スケジュール調整の負担が軽くなります。それぞれの診断結果を早く知ることができる点もメリットです。
2.2. 費用総額が安くなりやすい
2つの検査を別の日におこなうよりも、費用総額が安くなりやすくなることもメリットです。例えば、検査に関わる初診料や再診料、薬代、検査で使用される麻酔薬(鎮静剤)の料金など、2つの検査で重複している費用が節約できる可能性があります。また、検査日が同じ日になることで、来院回数が減るため、交通費の負担も抑えられるでしょう。
2.3. 食事制限が1回で済む
大腸カメラ検査や胃カメラ検査は、検査前に食事制限が設けられます。例えば、前日は21時までに夕食を終え、当日の朝は絶食する必要があるなど、検査に向けて事前に食事を調整しなければなりません。検査が別の日におこなわれる場合には、こうした食事制限が2回必要になります。しかし、2つの検査を同じ日におこなうことで、食事制限は1回で済み、時間と手間が軽減されます。これは特に忙しい方にとってはメリットといえるでしょう。
大腸カメラと胃カメラの検査を同じ日に受ける際の注意点について、副作用の可能性、実施可能な病院の少なさの観点からご紹介します。
3.1. 体質によっては麻酔の副作用が起こる可能性がある
大腸カメラと胃カメラの検査を同じ日におこなうことで、単独でおこなうよりも検査時間は長くなります。その分、検査中に使用する麻酔薬(鎮静剤)の量が増加するため、患者さんの体質によっては、血圧の低下や呼吸が弱くなるなどの副作用が生じる可能性があります。
3.2. 実施可能な病院を見つけることが難しい
大腸カメラ検査と胃カメラ検査を同じ日におこなう場合、検査時間が長くなるため、麻酔薬(鎮静剤)の適切な調整が求められます。そのため、高度な内視鏡挿入技術や麻酔薬(鎮静剤)の管理が必要になり、実績豊富な病院で熟練した医師やスタッフによる対応が求められます。このような条件を満たす病院は限られているため、同じ日に胃カメラ検査と大腸カメラ検査を受けられる病院を見つけるのが難しいといえるでしょう。
大腸カメラと胃カメラを同じ日におこなう場合、どのような流れで実施されるのでしょうか。検査の流れについては病院やクリニックによって異なります。ここでは、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU の同日検査について詳しく解説します。
4.1. 前日・当日の食事について
大腸に便や未消化の物質が残っていると、検査に時間がかかり正確な診断ができなくなります。できる限りスムーズな検査ができるように、検査の前日は消化に良いもの(素うどんやおかゆ、豆腐、たまご、やわらかく煮た大根や人参、プリン、ゼリーなど)を食べるようにおすすめしています。消化に悪いもの(ゴボウや葉野菜、トマト、ゴマ、とうもろこし、海藻類、ひじき、切り干し大根、こんにゃく、納豆など)は避けるようにしましょう。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、検査前日の夕食は21時までに済まし、それ以降は、水分を除き当日の検査終了まで絶食としています。
4.2. 着替え・検査前のお薬の服用
大腸カメラ検査のために、検査前日の寝る前に下剤を服用し、当日も検査の5時間前から下剤の服用を開始します。(便が透明な状態であることを確認します。)来院したら検査着に着替えます。胃カメラ検査のために、胃の中の泡をとるための薬を服用します。鼻から内視鏡を入れる方は、鼻の粘膜を広げる点鼻薬を投与します。喉をしびれさせる麻酔薬の入った氷を口にふくんでいただきます。必要に応じて追加のスプレー麻酔をします。
4.3. 血圧・脈拍モニターを装着し麻酔
ベッドに横になり血圧計や脈拍モニター、酸素モニターを装着します。大腸カメラ検査、胃カメラ検査のどちらが先の場合も、左側を下にして横になります。口から胃カメラを挿入する方は、マウスピースをくわえます。(鼻から検査をする方は鼻の麻酔をします。)その後、鎮静剤(眠くなる薬)を点滴で投与し検査に入ります。(西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、大腸カメラ検査を受ける場合、原則鎮静剤を使用させていただきます。)
4.4. 胃カメラを挿入
胃カメラを挿入します。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUで使用する胃カメラは、先端部が径5.8mmの、高画質細径カメラで、鼻もしくは口から挿入可能です。食道・胃・十二指腸の内視鏡治療には先端部径9.8mmの処置用スコープを使用します。どちらも、操作性に優れ、画質が良く、より精密な処置が可能です。
また、AI内視鏡システムを導入しており、病変がある場所をAIが表示します。検査の所要時間は7~8分程度で、検査中は常に血圧や脈拍をモニターで観察し、異常があればすぐに対応できる体制を整えています。
4.5. 大腸カメラの挿入
ベッドの方向を180度回します。左側を下にしたまま、膝を抱えるような姿勢になり、大腸カメラがスムーズに動くように肛門に麻酔ゼリーや潤滑用ゼリーを塗ります。肛門から大腸カメラを挿入します。この際も必要があれば鎮静剤を追加して投与します。大腸カメラは、先端径11.7mmの高画質カメラで、ポリープの診断に欠かせない拡大観察機能を併せ持っています。病変はAIが検出して表示する仕組みです。大腸カメラ検査の所要時間はおよそ、10分~20分程度です。
4.6. リカバリー室での休憩
検査後は、リカバリー室(休憩室)に移動し、ベッドで30分~1時間程度、ゆっくりお休みいただきます。リカバリー室でも血圧と血中酸素量のモニターで観察をしているので安心です。目が覚めたら、着替えをしていただきます。
4.7. 結果のご説明
当日、結果説明をご希望の方は、診察室で検査画像をみながら、一緒に確認しご説明します。
病理検査をおこなった場合は、結果が出るまで2週間ほどかかるので、後日、説明いたします。生検が必要だった場合は、病理検査結果がでる頃に再度受診をしていただいております。
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、大腸カメラや胃カメラ検査の身体的負担をできるだけ軽減できるように徹底しています。安心して検査をしていただくための当院の検査の特徴についてご紹介します。
5.1. 検査時にかかる身体的負担を徹底的に軽減
大腸カメラや胃カメラ検査は「痛い」「苦しい」というイメージがありますが、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは鎮静剤(麻酔薬)を用いて、うとうとしている間に検査を終えることができます。また、大腸カメラ検査で腸内菅を膨らませる際、空気の代わりに炭酸ガスを用います。炭酸ガスは腸管内で速やかに吸収されるため腸内に空気が長時間残らず、検査後のお腹の張りや痛み、違和感を和らげます。
5.2. ポリープが見つかった場合は治療に移行
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUは病院施設のため、大腸カメラ検査中にポリープが見つかった場合、大きさが概ね2cm未満で出血のリスクが高くないものについては、そのまま治療に移行し検査中に切除しています(日帰り手術)。また、2cm以上の大きなポリープや早期がんを疑う病変は、別日に短期入院治療をおこなっています。
大腸カメラや胃カメラ検査は、「痛い」「苦しい」「我慢」といったイメージを持たれる方がいらっしゃいますが、内視鏡検査は、病変の早期発見や何らかの症状があるときの診断に有用な手段です。細いスコープや鎮静剤(麻酔薬)の使用、高い内視鏡技術により、なるべく苦痛の少ない検査を目指すことができます。また、大腸カメラと胃カメラを同日に検査することで、食事制限や受診回数、麻酔薬や鎮静剤の投薬回数を減らすことができ、時間的、身体的な負担を軽減できます。
西宮敬愛会病院の低侵襲治療部門COKUは、身体への負担をできる限り抑えた低侵襲外科治療を専門的におこなう病院です。内視鏡部門では、消化器内視鏡専門医・指導医資格を持つ経験豊富な内視鏡医が、最新のシステムと高い挿入技術を用いて検査をおこなうため、大腸カメラ検査と胃カメラ検査を同じ日におこなうことも可能です。また検査時には鎮静剤(麻酔薬)を使用することで、患者さんの苦痛を和らげるよう努めています。大腸カメラ検査や胃カメラ検査に関する不安なことがございましたら、いつでもご相談ください。
胃痛は日常生活に支障をきたす場合があり、繰り返す場合は心配です。健康な胃では胃酸と粘液のバランスが保たれていて、これが崩れると胃粘膜が傷つき胃痛が起こります。痛む部位や痛みの出方はさまざまで、他の臓器に病気が見つかることもあります。胃痛の原因や考えられる病気を中心に検査方法、改善策について詳しく解説します。
胃痛は、胃の攻撃因子である胃酸と、防御因子としての粘液の分泌バランスが崩れることで発生します。通常、胃は粘膜で覆われており、胃酸(主に塩酸)が食べ物の消化と殺菌をおこないますが、同時に胃の粘膜を攻撃します。これに対抗するため、防御因子である粘液が胃粘膜を保護します。攻撃因子と防御因子のバランスが取れていると健康が維持されますが、ストレスや睡眠不足、暴飲暴食、脂肪や刺激物の多い食生活、喫煙などでこのバランスが崩れると、胃酸が粘膜を傷つけ、胃痛が起こります。
また、アニサキスのような寄生虫に対するアレルギーも、胃痛を引き起こす要因です。
胃痛といっても、胃痛を起こした原因や病気によってその症状はさまざまです。例えば、キリキリする痛み、しぼられるような痛み、鈍痛、みぞおち付近の痛み(心窩部痛:しんかぶつう)などです。また、胃痛には、次のような症状をともなうことがあります。
・食欲不振
・膨満感
・胸やけやげっぷ
・吐き気
・吐血や下血
胃痛のよくある原因として、ストレス、食生活、細菌やウイルスの感染、ヘリコバクター・ピロリ菌について取り上げて説明していきます。
攻撃因子の胃酸と防御因子の胃粘液の分泌には、自律神経が関わっています。
ストレスがかかると緊張状態が続くため、自律神経のうちの交感神経が高まり、胃の血管が収縮して血流が低下し、胃粘液の分泌が少なくなります。そのうえ、副交感神経の働きで胃酸の分泌が増えることがわかっています。つまり、ストレスがかかると、攻撃因子と防御因子のバランスが崩れるため、胃粘膜が傷つきやすい状態になることが、ストレスで胃痛が起こる原因です。
胃痛は普段の食生活と深いかかわりがありますが、胃痛のリスクとして、次のような食生活があげられます。
刺激物は、攻撃因子として胃の粘膜を直接傷つけたり、胃酸の分泌を増やしたりするため、胃痛の原因となります。例えば、香辛料の多い激辛のラーメンやカレー、カフェイン飲料やコーヒー、熱すぎたり冷たすぎたりする食べ物などです。
脂肪は胃では消化されずに十二指腸に送られますが、十二指腸で消化を助けるために分泌される消化管ホルモンは、胃の動きを抑える働きがあります。そのため脂肪分の多い食事をすると、食べ物が胃内に留まる時間が長く、胃に負担がかかるため、胃痛の原因となります。
アルコールは、直接胃粘膜に刺激を与えたり、胃酸の分泌を促したりすることから、胃痛の原因となります。
細菌やウイルスは感染性胃腸炎の原因となり、胃痛のほか、腹痛、悪心・嘔吐、下痢、発熱などの症状をともなうことがあります。感染性胃腸炎を起こす原因の病原体によって、症状や治るまでの期間などは異なります。
ヘリコバクターは、胃の粘膜内に生息する細菌のひとつで、感染があると胃の粘膜に慢性的な炎症を起こします。その結果、長い間に胃粘膜に特徴的な変化(萎縮:いしゅく)が起こり、胃粘液の分泌が減ることで、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの病気の原因となり、胃痛や胃の不快感などの症状が起こります。ヘリコバクターは、幼少期に保菌者の親から感染し、無症状のまま保菌することが多く、検診や胃カメラで感染が分かった場合には除菌が必要です
胃痛が起きた場合、胃そのものに病気がある場合だけでなく、胃の周辺の臓器に病気がある場合もあります。胃痛が起きた場合に原因として考えられる主な病気を紹介します。
急性胃炎とは、胃の粘膜に急に炎症が起きている状態です。
突然胃が突然キリキリと痛み、吐き気や嘔吐、下痢などの症状をともなうこともあります。
痛み止めなどの薬の副作用、ストレス、激辛など刺激の強い食べ物、アルコールの飲み過ぎなどのことが多いようです。
通常、絶食や消化の良い食物で胃の安静を保つと症状は改善します。胃の粘膜を保護する薬を使うこともあります。
食中毒は、細菌やウイルスなどの微生物が付着した食物を食べることで発症する病気です。
胃痛・腹痛、悪心・嘔吐、下痢・血便のほか、発熱や頭痛など全身症状があらわれることもあります。
肉や魚の生食や不十分な加熱、食品の不適切な温度管理や、原因物質が付着した手指による調理による料理を食べることで起こることが多く、食中毒の原因菌としては、サルモネラ菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O-157など)、腸炎ビブリオ、ノロウイルス、黄色ブドウ球菌などが知られています。
食中毒が疑われる場合には、下痢止めや胃腸薬などを勝手に飲まずに、医療機関を受診することをおすすめします。医療機関では、食中毒の原因に合わせた治療と解熱剤などの対症療法、点滴による水分と栄養の補給がおこなわれます。
逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起きる病気です。
すっぱいものが上がってくる呑酸(どんさん)、胸やけ、食後の胸の痛みなどが主な症状です。寝ている間に逆流すると、せき、のどのかすれや違和感などを生じる場合があります。
食道と胃のつなぎ目の下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)が、加齢による筋力低下、肥満や妊娠による圧迫、食べ過ぎなどにより緩むことが原因です。
生活習慣の改善や肥満の解消を心がけ、胃酸の分泌を抑える薬や、胃の動きを良くする薬などで治療します。
胃・十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜に潰瘍ができる病気です。
潰瘍のできた部位によって異なりますが、上腹部やみぞおちの鈍痛や吐き気などが主な症状です。胃潰瘍は食後、十二指腸潰瘍は夜間や空腹時に痛みが出ることが多いとされ、吐血や下血がある場合もみられます。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染、解熱鎮痛薬、喫煙、ストレスなどが原因で、胃の防御因子が減り、胃から分泌される胃酸や消化酵素によって、粘膜にできた傷が深くなり発症します。
胃カメラで診断し、出血箇所を見つけた場合には、その場で処置具を使って、電気メスでの焼灼やクリップなどで止血することもできます。胃酸の分泌を抑える薬や、胃の粘膜を保護する薬を服用するだけでなく、食生活やストレス解消、禁煙など生活習慣の改善も必要です。
ディスペプシアとは、腹部膨満感、胃痛などみぞおち付近の不快な症状を言いますが、これらの症状があるにもかかわらず、胃カメラやX線検査などで胃がんや胃潰瘍など、症状の原因が見つからない病気です。
慢性的な、胃もたれ、腹部膨満感、胃痛などみぞおち付近の不快な症状があります。
胃や十二指腸の動きが悪くなることや、胃酸に対して痛みを感じやすくなる胃の知覚過敏、ストレスなど、いくつかの要因が複合的に関わって発症します。ヘリコバクター・ピロリ菌が関係していることもあります。
生活習慣や食習慣を改善すると、症状が改善することがあります。薬物療法としては、胃酸の分泌を抑える薬と胃の運動を良くする薬、胃の動きや不安感を和らげる漢方薬を服用することがあります。効果がない場合には、抗不安薬や抗うつ薬を使うこともあります。
胃がんは、胃の内側の粘膜の細胞が、何らかの原因でがん細胞になり、無秩序に増えていく病気です。
初期には症状がないことが多いですが、進行すると、胃痛、胃周辺の不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などの症状があらわれます。がんが大きくなると、胃粘膜の下層へ深く進み、周辺の他の臓器へも広がり、血液の流れにしたがって、離れた臓器に転移することもあります。
胃がんのリスクとして、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、喫煙、塩分の摂りすぎが挙げられます。
胃カメラで胃がんが疑われる細胞を採取し、病理診断をおこない、病期などに合わせた治療法が選択されます。
胆石症は、胆のうや胆管に石(胆石)ができる病気です。約8割は胆のう内に石ができる胆のう結石であり、約2割は胆管に石ができる総胆管結石です。肝臓の中にできることもありますが、ごくわずかです。
食後まもなく、右の肋骨の下あたりや、みぞおちにあらわれる痛みを、胃痛と感じることがあります。右肩に抜けるような痛みが出たり、吐き気や嘔吐をともなったりすることもあります。胆石ができる場所によって、胆汁の流れが悪くなると皮膚が黄色くなる黄疸になります。ただし、胆石症になっても症状がない場合も多く、胆のう結石では約8割の方が無症状です。
胆汁の成分が、何らかの原因で固まって胆石ができることが原因です。胆汁の成分であるコレステロールやビリルビンは、高カロリー食、肥満、脂質異常症、妊娠などに影響を受けることがわかっています。
胆のう結石は、無症状の場合には経過観察をし、症状がある場合は、基本的に手術で胆石と胆のうを一緒に切除します。総胆管結石は症状がある場合が多く、重症になることが多いため、胃カメラや手術で切除します。
膵炎には、急性膵炎と慢性膵炎があります。急性膵炎は、何らかの原因で本来食べ物を消化する膵液によって、膵臓自体の組織が破壊される病気です。慢性膵炎は、膵臓に長期間にわたり炎症が持続することで、膵臓の組織が変化(線維化:せんいか)し、機能が衰える病気です。
急性膵炎の症状は、みぞおちから背中にかけての強い痛み、嘔吐や発熱です。慢性膵炎は腹痛が主な症状で、進行して膵臓がほとんど機能しなくなると、消化不良や下痢が起こることがあり、糖尿病を発症することもあります。
急性膵炎も慢性膵炎も、その原因のほとんどは、長期間に渡る多量の飲酒です。急性膵炎は胆石が原因の場合もあります。
急性膵炎の治療は、絶飲食をし、膵液の働きを抑える薬や痛みに対する鎮痛薬を使用します。慢性膵炎の治療は、膵臓の機能がどのぐらい保たれているかという病期によって異なりますが、禁酒、禁煙に膵液の働きを抑える薬や鎮痛薬を使います。
急性虫垂炎は、いわゆる盲腸です。大腸のもっとも奥の盲腸の部分にある、親指大の突起物の虫垂に、炎症が起きる病気です。
盲腸というと、右下腹の痛みのイメージですが、初期には食欲不振、へその周りの不快感、みぞおちの痛みがあり、胃腸炎の症状と似ています。その後、右下腹部に痛みが集中するように移動します。腹膜炎を併発すると、発熱、下痢、嘔吐をともなうことがあります。
虫垂に硬い便が詰まったり虫垂の粘膜が腫れたりすると、虫垂の出口がふさがることがあります。その結果、虫垂の粘膜の血流が悪くなったり、血の塊ができたりしたところに、細菌が感染すると虫垂に炎症が起こり発症します。
虫垂の炎症の程度や腹膜炎の併発の有無などにより、治療方法は異なります。治療には抗生物質で虫垂の炎症を抑える方法と、虫垂を手術で切除する方法があります。
魚介類に寄生するアニサキスという寄生虫が、胃の粘膜に食い付くことで胃痛が起こる病気で、近年、増えています。
魚介類を刺身など生食で食べた6〜12時間後に、強い胃痛、吐き気、嘔吐などの症状が起こり、蕁麻疹などのアレルギー症状をともなうこともあります。
アニサキスが寄生している魚介類を生食し、胃の粘膜に食いつくことが原因です。胃痛は、アニサキスが食いついた痛みではなく、アニサキスという異物やアニサキスの分泌物に対するアレルギー症状によるものです。
胃カメラでアニサキスが確認できれば、同時に器具を使ってアニサキスを除去する治療をします。胃痛の前に生魚などを食べていれば、早急に胃カメラによる除去がすすめられます。
胃痛が起こる病気がある場合には、その治療が優先されますが、ここでは、日常生活の中でできる胃痛が起きた時の改善方法や予防方法について紹介します。
5.1.胃薬を使用する
胃薬は、胃の粘膜を保護する薬、胃酸の分泌を抑える薬、胃の動きを良くする薬、逆に胃の動きを抑える薬など多くの種類があるため、薬局やドラッグストアで薬剤師に相談して、自分の症状に合った適切な薬を選んでもらうことをおすすめします。
5.2.ストレスを解消する
ストレス解消は、胃痛を改善、予防することにつながります。十分な睡眠時間で休息することが大切ですが、気分転換や軽い運動など、自分なりのストレス解消法を見つけるようにしましょう。
5.3.食習慣を改善する
胃に滞留時間が長く、負担が大きい脂肪分の多い食事や、刺激物やアルコールなど胃粘膜に直接影響を与える食べ物などは、なるべく控えるようにしましょう。暴飲暴食は避け、消化の良い物を腹八分目にすることが、胃痛の改善・予防に役立ちます。
5.4.睡眠をしっかり取る
前述の通り、胃酸や胃粘膜の分泌には、自律神経が関わっています。睡眠不足や睡眠の質の低下は、自律神経のバランスを乱す原因になるため、睡眠をしっかりとることが胃痛の改善・予防につながります。
5.5.禁煙する
たばこに含まれるニコチンは、胃や十二指腸の血管を収縮させ粘液の分泌を減らすだけでなく、胃液の分泌を増やす作用があり、胃の粘膜に対する攻撃因子が優位になることで、胃痛の原因になります。禁煙は、胃痛の改善・予防だけでなく、胃がんをはじめとしたさまざまな病気のリスクを減らすことがわかっているため、禁煙することが大切です。
5.6.医療機関を受診する
胃痛を改善する方法を試してもよくならない場合には、医療機関を受診することをおすすめします。その場合には、消化器内科の専門医のいるクリニックで、必要に応じて胃カメラができることが望ましいでしょう。胃カメラで胃の粘膜を直接観察することで、胃痛の原因を見つけて、適切な治療をすることができるからです。
胃痛の原因を調べる検査について説明します。
6.1.超音波検査(腹部エコー検査)
胃痛であっても、胃以外の臓器に病気があることも多いため、肝臓、胆のう、胆管、膵臓、脾臓、腎臓、子宮、卵巣、膀胱、前立腺、胃、小腸、大腸などを観察することができる腹部超音波検査は有用な検査です。腹部超音波検査は、おなかに超音波をあてて、臓器への反射波を映像としてとらえ、異常の有無を調べる検査です。
6.2.血液検査
胃痛の原因や胃痛を生じる病気の状態を調べるために、血液検査をおこないます。血液検査では、主に肝機能(AST、ALT、γGTPなど)、貧血(ヘモグロビンの数値)、炎症の有無(白血球数、CRP)などを調べます。
6.3.胃カメラ(胃内視鏡検査)
胃カメラは、口や鼻から胃カメラ用のスコープを挿入し、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察する目的でおこなわれる検査です。胃痛がある場合に胃カメラをおこなうと、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、逆流性食道炎、胃ポリープ、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がん、胃アニサキス症などの病気の有無や、重症度などを診断することができ、適切な治療につなげることができます。また、必要があれば、胃カメラと同時に出血部の止血などの治療や、組織の一部を採取して病理診断をおこない、良性・悪性の確認もできます。
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、最新の内視鏡システムを導入し、可能な限り苦痛の少ない検査を目指しています。検査・治療は、総合病院で経験を積んだ日本消化器内視鏡専門医・指導医の資格を持った医師がおこない、AIによる見落とし防止システムも導入しています。受診当日や土曜日に検査することもできるため、胃痛の症状がある方は、是非ご相談ください。
胃痛は、ストレスや睡眠不足などによる自律神経のバランスの乱れや、暴飲暴食、刺激の強い食べ物、喫煙などによって引き起こされます。これらの要因により、胃酸分泌と粘液分泌のバランスが崩れ、胃の粘膜が傷つきやすくなることが原因です。
胃痛の原因となる病気には、胃の病気だけでなく、周辺の臓器の病気もあります。正確な診断のために、腹部超音波エコーや血液検査、胃カメラなどの検査がおこなわれます。特に胃カメラは、食道から胃、十二指腸までの粘膜を直接観察でき、確実な診断と治療につなげることができる有用な検査です。最近では、細いスコープや鎮静剤の使用、鼻からの挿入などにより、苦痛の少ない検査が可能になっています。胃痛がある場合は、一度胃カメラを受けることをおすすめします。
胃カメラ検査(胃の内視鏡検査)は、胃がんや食道がんの早期発見だけではなく、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、上部消化管のさまざまな病気の発見や診断・処置に役立つため、消化器内科領域で特に重要な検査の一つです。
ここでは、消化器内科医が推奨する胃カメラ検査の受診年齢や、検査を受けたほうが良い症状や見つかる病気などについて詳しく解説します。胃カメラ検査で見つけることのできる主な病気や、当院の「苦痛の少ない胃カメラ検査」についてもご紹介します。
胃カメラ検査は何歳から受けるべきでしょうか?胃カメラ検査の受診推奨年齢や、胃カメラ検査を受けたほうが良い症状等についてみていきましょう。
特に消化器に不調を感じていなくても、40歳以上の方には胃カメラ検査の受診を推奨します。なぜなら、40歳代から胃がんや食がんに罹患する人が増え始め、50歳以上になると胃がんや食がんの罹患率が本格的に増えるからです。胃がんや食道がんは、初期の段階では症状を自覚しづらく、発見が遅れがちです。40歳を過ぎたら、2〜3年に1回のペースで胃カメラ検査を受けることで、病気の早期発見・早期治療につなげることができます
ただし、次のような症状がある方は、年齢に関わらず胃カメラ検査を受けることをおすすめします。
1.2. 胃カメラ検査の受診を推奨する症状
以下のような症状がある方は、胃や食堂などに何らかの病気が潜んでいる可能性がありますので、年齢に関係なく、胃カメラ検査を受けることをおすすめします。
■ 胃痛、胸痛
■ 便の色がおかしい(黒っぽい)
■ 胸やけ・吐き気
■ 食べ物が飲み込みにくい
■ 体重減少・腹部膨満
その他、以下の生活習慣や背景のある方も、胃がんなどの罹患リスクが高いため、定期的に胃カメラ検査を受けることを推奨します。
■ 検診で食道・胃・十二指腸などの異常を指摘された
■ 飲酒習慣がある
■ 喫煙習慣がある
■ 肥満
■ 胃がんの家族歴がある(身内に胃がんにかかった人がいる)
胃内にヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染が見つかった方は、1~2年に1回のペースでの定期的に胃カメラ検査を受けることをおすすめします。ピロリ菌に感染していると、胃粘膜に慢性的な炎症が起き、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの病気を引き起こすリスクが高くなります。また、ピロリ菌に感染している方では、感染していない方に比べて、胃がんの罹患リスクが5倍になると報告されています。定期的に胃カメラ検査を受けることで、病気の早期発見、早期治療につなげることができます。
胃カメラ検査は、上部消化管に起こりうるさまざまな病気の早期発見に有効な検査です。胃カメラ検査で見つかる主な病気などについてみてみましょう。
胃粘膜の状態を観察することでピロリ菌の感染の有無を調べることができます。ピロリ菌感染を放置していると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に罹患する場合があります。また、萎縮性胃炎が進行し、その一部が胃がんに進展すると考えられています。したがって、ピロリ菌が見つかった場合には、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発症リスクや生涯の胃がんのリスクを下げるため、内服薬を処方し、除菌治療をおこないます。
除菌方法は、
・胃酸を抑える薬1種類 (ボノプラザン)
・抗菌薬2種類(クラリスロマイシン+アモキシシリンか、メトロニダゾール+アモキシシリン)
の合計3種類の組み合わせを、1日2回朝夕、7日間服用します。
当院では便利なパック製剤を使用しています。
ピロリ菌を除菌した後も、胃がんリスクがゼロになるわけではありませんので、胃カメラ検査を受けることをおすすめします。
胃がんは、症状を自覚しづらいため、発見が遅れがちですが、胃粘膜表面を直接観察できる胃カメラ検査であれば、早期に発見することができます。がんが疑われる部位を見つけた場合は、組織を採取し、がん細胞の有無を調べるために生検に出し、がん細胞がみつかれば確定診断ができます。胃がんというと怖い病気のイメージがありますが、最も初期のステージⅠで早期発見し、適切な治療をおこなうことができれば、5年生存率は90%以上であり、根治が目指せます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃または十二指腸の粘膜が強度に荒れて、ただれている状態です。胃潰瘍・十二指腸潰瘍になると、たいていみぞおちの痛みや吐き気、嘔吐、腹部膨満感などの自覚症状があり、ひどいと潰瘍から出血し、吐血やタール便(ドロドロした黒っぽい便)が出ます。しかし中には、潰瘍があっても自覚症状がなく、胃カメラによる胃がん検診で偶然発見されることも少なくありません。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さまの約80~90%はピロリ菌に感染していることや、ピロリ菌除菌治療によって、1年間の再発率が胃潰瘍で65%→11%、十二指腸潰瘍で85%→6%へ著明に低下することがわかっています。そのため、胃カメラ検査で胃潰瘍や十二指腸潰瘍が見つかった場合は、除菌治療をおすすめします。
バリウム検査と胃カメラ検査は、いずれも上部消化管内に異常がないかを調べる検査です。
胃カメラ検査は、スコープを胃の中まで挿入し、先端に内蔵したCCDカメラで、粘膜の形態変化(凹凸)や色調変化を直接観察する検査です。カメラを飲みこむことに不安を感じる方がおられますが、初期の小さな病変やわずかな色調変化を発見しやすく、疑わしい部位が見つかったときは同時に生検をおこない、確定診断することができます。
一方、バリウム検査は、バリウムという造影剤と発泡剤(胃を膨らませる薬)を飲み、レントゲン(X線)で撮影して消化管の様子を見る検査です。炎症や潰瘍、腫瘍による粘膜表面の凹凸や狭窄(せまくなっているところ)などを白黒の印影で映し出します。バリウム検査は、自治体や会社の検診などに付いていることもあるので、受けやすい検査ではありますが、カラーでの観察ができないことや、ごく初期の小さな異常を見つけにくいなどのデメリットがあります。また、万が一異常が見つかった場合には、胃カメラでの精密検査が必要になります。二度手間にならないためにも、初めから胃カメラ検査を受けることをおすすめします。
かつて胃カメラ検査は「痛い・苦しい」というイメージがありました。しかし、検査機器や検査技術の発達によって、現在では痛みや苦痛の少ない検査方法を選択できるようになっています。
胃カメラ検査にともなう痛みや苦しさが心配な方は、「経口内視鏡検査」に鎮静剤(眠り薬)を併用することで、うとうとと眠っている間に苦痛なく検査を受けることができます。もちろん個人差はあるものの、カメラ挿入時の嘔吐反射や、喉の痛み・圧迫感を感じることはほとんどありません。
ただし、鎮静剤を使用したくないという場合は、カメラを鼻から挿入する「経鼻内視鏡検査」を選択し、苦痛を軽減する方法もあります。鼻から挿入する経鼻内視鏡検査のほうが、覚醒下でも嘔吐反射を起こしにくく、管も細いため、喉を通過するときの圧迫感や痛みも少なくて済むことがほとんどです。ただ鼻腔内が狭い人の場合、カメラが鼻の中を通るときに痛みが生じることや、カメラの挿入ができないことがあるため、最適な検査方法については医師と相談しましょう。
当院の胃カメラ検査は、最新鋭の内視鏡システムとAIによる見落とし防止システムなどの最新技術を導入し、専門医・指導医の資格を持った医師による正確な検査・診断を実施するとともに、鎮静剤を併用しながら、患者さまにとって苦痛の少ない胃カメラを提供しています。
当院の内視鏡システムは富士フィルム社製のELUXEO 8000システム(2024年6月発売)を導入しています。メインの内視鏡は先端部径5.8mmという極めて細い高画質細径カメラを採用しており、操作性にも優れています。さらに、富士フィルム社製の「AIによる見落とし防止システム:CAD EYE」を組み合わせることで、正確な診断結果を導きます。検査中に疑わしい部位を発見し、組織採取や処置が必要になった場合も、先端部径9.8mmという極めて細い処置用内視鏡を使用し、安全かつ迅速に対応します。
日本消化器内視鏡専門医・指導医の資格を持ち、総合病院での経験が豊富な医師が検査・治療をおこないます。
日本消化器内視鏡専門医とは、医師の中でも消化器内視鏡診療に関する豊富な学識と経験を有する医師に与えられる資格で、取得するためには日本消化器内視鏡学会に5年以上所属し、消化器内視鏡学会が定めた研修や実技経験を積み、試験をクリアすることが求められます。
日本消化器内視鏡指導医は、専門医の資格を取得後、さらに3年経過し、高い診療能力と若手医師に対しての専門医取得のための指導がおこなえる能力を有する医師に与えられる資格です。
国内で胃カメラ検査を実施している医師の全てがこの専門医・指導医資格を持っているわけではないため、専門医・指導医による検査が受けられるのは、当院の大きな強みの一つです。
当院では、鎮静剤を投与し眠った状態で楽に胃カメラ検査が受けられます。鎮静剤を使用した方は、検査後、リカバリー室でゆっくりお休みいただき、はっきりと意識が回復してから帰宅していただけます。
胃カメラ検査は、胃などの上部消化管の病気の早期発見に欠かせない重要な検査です。上部消化器の病気は自覚症状がないことも多いため、不快な症状がない方でも、40歳を過ぎたら胃カメラ検査を定期的に受けることをおすすめします。胃カメラ検査を受ける間隔は、症状の有無やピロリ菌感染の有無によって個人差があるので、医師とよく相談しましょう。
胃カメラ検査といえば、苦しい・痛いというイメージを抱きがちですが、当院では、苦痛の少ない胃カメラ検査を提供しています。最新鋭の検査機器、経験豊富な医師による手技、検査方法の工夫によって、楽に検査を受けていただけますので、胃カメラ検査に不安のある方や、過去の検査で苦しい思いをした方も、気軽にご相談下さい。
バリウム検査と胃カメラ検査は、どちらも上部消化管の情報を読み取ることのできる重要な検査です。胃がんや胃潰瘍、ポリープなどの病気の発見に役立つもので、企業の定期健康診断や自治体のがん検診として受けられる機会も増えています。
本記事では、「バリウム検査と胃カメラ検査のどちらを受ければいい?」という悩みを持つ方のために、バリウム検査と胃カメラ検査の違いや検査の方法、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
バリウム検査と胃カメラ検査は、いずれも上部消化管内に異常がないかを調べる検査です。食道から十二指腸までの上部消化管を観察することができ、胃がんなどの病気を早期に発見するために重要です。現在、胃がんを直接診断するための検査として、科学的根拠に基づいて国が推奨しているのは、バリウム検査と胃カメラ検査の2つです。
バリウム検査と胃カメラの違いについて詳しくみていきましょう。
バリウム検査は、バリウムという造影剤と発泡剤(胃を膨らませる薬)を飲み、レントゲン(X線)で撮影して消化管の様子を見る検査です。胃や食道の粘膜は、そのままではレントゲンに映らないため、造影剤を飲んだ状態で身体の向きを変えることで、食道や胃の壁に造影剤を広げ、上部消化管の粘膜表面の凹凸(炎症や潰瘍、腫瘍など)や狭窄(せまくなっているところ)などを映し出します。正常な胃であれば、粘膜のヒダが整っていますが、粘膜上に異常があると、凹凸部分にバリウムが溜まってその影が観察できます。
バリウム検査は、正式には「上部消化管X線検査」または「上部消化管造影検査」といいます。一般的には「胃X線検査」や「胃レントゲン検査」と呼ぶこともあります。
バリウム検査のがん診断精度は約70〜80%といわれており、胃がんを早期発見することにより胃がん死亡率を40~50%減少させる効果が認められています。
胃がんのほかに、胃潰瘍(いかいよう)、胃ポリープ、胃憩室(いけいしつ)、胃粘膜下腫瘍、その他胃隆起性病変や食道がん、食道潰瘍、食道ポリープ、食道アカラシア、十二指腸潰瘍、十二指腸憩室などの病気の発見につながります。
胃カメラ検査は、スコープを胃の中まで挿入し、先端に内蔵したCCDカメラで、粘膜の形態変化(凹凸)や色調変化を直接観察する検査です。正式名称を「上部消化管内視鏡検査」といいます。
胃カメラを口から入れる場合には、オエっとなる嘔吐反射を抑えるため、あらかじめ喉に麻酔をしたり、あるいは鼻からカメラを挿入する方法、鎮静剤を併用して眠った状態で検査をおこなうなど、楽に検査が受けられるように工夫することもあります。
胃カメラ検査では、粘膜上にまだ凹凸のないごく初期のがんであっても、わずかな色調変化から異常を検出することができるため、がんなどの病気の早期発見に高い効果を発揮します。
胃カメラ検査による早期発見によって、胃がんによる死亡リスクを61%減少させる効果が認められています。
胃がんのほかに、胃炎、胃潰瘍、胃ポリープ、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染の有無、胃アニサキス、逆流性食道炎、食道がん、バレット食道、十二指腸がんなどの病気の発見につながります。
胃がん検診として、胃カメラ検査と共に推奨されているバリウム検査ですが、メリットとデメリットが存在します。バリウム検査のメリット・デメリットについて詳しくみていきましょう。
バリウム検査の主なメリットは、
の3つです。
バリウム検査は、費用が保険適用外で1万円前後と胃カメラ検査に比べて安く、自治体によっては無料で受けることもできます。
また、バリウム検査は、病変の形態・大きさ・位置や硬さを客観的に把握することも可能なため、内視鏡検査の短所をカバーすることができます。
検査時間も10分程度と短時間であり、比較的簡単に受けられるので、会社の定期健康診断に付加されていることも多く、受診機会が得られやすいのもメリットです。
バリウム検査のデメリットは、
などがあります。
バリウム検査では、白黒のX線写真で判定をするため、胃粘膜の色調が確認できないことや、凹凸の少ないタイプのがんは判別しにくいことがあります。また、胃液が多い人の場合、胃液が胃粘膜へのバリウムの付着を邪魔することで、検査精度が低下することがあります。そのほか、バリウム自体が飲みにくいことに加え、発泡剤の効果を持続させるため、込み上げるゲップを堪える必要があります。バリウム検査は比較的簡単で短時間で終わるものですが、途中でゲップをしてしまうと、再度発泡剤を飲まなくてはなりません。また、バリウムを誤嚥してしまうリスクがあることや、検査後に下剤を服用してバリウムを体外に排出しきらなくてはならないため、頻回にトイレに行くことで行動が制限されることがあります。バリウムを完全に排出しないと、便が腸に詰まる「腸閉塞」という重篤な状態に陥るリスクもあります。
バリウム検査では、人体に影響のない範囲ではあるものの、放射線被爆をともなうこともデメリットの一つです。また、バリウム検査の結果、精密検査が必要と判断された場合には、追加で胃カメラ検査が必要になります。
胃カメラ検査にもメリットとデメリットがあります。
胃カメラ検査のメリットとデメリットを詳しくみていきましょう。
胃カメラ検査のメリットは、
などです。
胃カメラ検査では、バリウム検査のように放射線被爆の心配がありません。消化管内部に挿入したカメラで直接粘膜の詳細な観察ができ、視野もカラーのため、初期の食道がんや小さな病変の発見や粘膜上の凹凸や形状、色も確認することができます。また、観察中に疑わしい病変を発見したときは、その場で組織を採取し生検に出すことができるなど、得られる情報が多いのが大きなメリットです。
胃カメラを挿入するときの不快感や不安感も、鎮静剤や喉の麻酔を適宜併用することで、苦痛を軽減し、楽に検査を受けることができるのも胃カメラの利点です。
胃カメラ検査のデメリットは、
などです。
胃カメラ検査では、きわめて稀ではありますが、胃カメラが粘膜を傷つけ、出血や穿孔などの合併症を起こすリスクや麻酔薬に対するアレルギー症状を起こすリスクが存在します。
また、胃カメラを飲みこむ際に嘔吐反射が起こりやすい方がおられますので、その場合は苦痛の軽減を目的に鎮静剤を併用します。鎮静剤の成分によって眠気や目がかすむなどの影響が出ることがあるため、当日は運転や精密な作業ができないので注意しましょう。
費用面でも、胃カメラ検査はバリウム検査と比較するとやや高額である傾向があります。
バリウム検査も胃カメラ検査についても、検査が受けられない場合があります。検査を検討する際は、以下に該当しないか確認しましょう。
バリウム検査は、妊娠中または妊娠の可能性のある方や、バリウムや発泡剤へのアレルギーがある方、自分で体位が変換できない方、嚥下(飲み込む)機能に障害のある方、検査前72時間に排便がなく便秘の状態の方は受けることができません。また、体重が概ね130㎏以上の方も、検査機器の耐荷重を超えるため、受けることができません。そのほか、糖尿病の方や循環器、呼吸器、消化器に大きな病気のある方は、検査を受ける前に医師の判断が必要になる場合があります。
胃カメラ検査を受けられないケースは少ないものの、喉の病気のためにカメラを挿入できない方や、重度の呼吸不全でカメラの挿入で酸素濃度が極端に下がり得る方など全身状態が極端に不良の方は適応がありません。
バリウム検査と胃カメラ検査を選べるのであれば、胃カメラ検査を受けることをおすすめします。バリウム検査は比較的受けやすく、消化器全体のバランスを把握することにおいてはメリットがありますが、白黒のレントゲン画像で判断するため、粘膜上のわずかな凹凸や色調変化を捉えることができません。その点胃カメラ検査であれば、消化管粘膜を直接カラーで詳細に観察することができ、万が一、疑わしい部位が見つかった場合でも、その場で組織を採取することができるなど、一回の検査で得られる情報が多く、ごく初期の胃がんや食道がんの発見にもつながります。
「胃カメラは苦しそう」「痛そう」というイメージから、胃カメラ検査を受けることに対して強い不安がある場合も、嘔吐反射が出にくい経鼻内視鏡(鼻から入れる胃カメラ)や、鎮静剤の併用を選択頂けますので、自分に合った方法を選ぶことで楽に胃カメラ検査を受けることができます。
バリウム検査と胃カメラ検査は、共に胃がん検診として国が推奨している検査です。検査を受けるにあたっては、それぞれにメリットとデメリットが存在することや、検査方法の違いを知った上で選択するようにしましょう。どちらの検査でも、妊娠中の方や大きな病気にかかったことのある方など、検査が受けられない場合がありますので、心当たりのある方は事前に医師に相談するようにしましょう。