外科部門 – 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門「COKU」

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外科部門

第22回日本ヘルニア学会

2024年5月24日~25日に新潟県の朱鷺メッセで開催された第22回日本ヘルニア学会に司会を担当させていただき参加してきました。

新潟県信濃川

私は新潟県に行くのが初めてでとても楽しみにしていました。大阪や兵庫と比べると肌寒い気温でしたが、街の雰囲気はとても落ち着いており、朝早く起きて散歩すると信濃川河口の新潟湾ではとても気持ちのよい風が吹いていました。

第22回日本ヘルニア学会

さて、今回TEPのセッションで司会を担当させていただきました。演者の先生方からはInterparietal herniaの症例をTEPやKugel法で治療された報告や、肝硬変による難治性腹水を伴う巨大鼠径ヘルニアに対してTEP法を行った報告など興味深いものばかりでした。朝早いセッションでしたが、多くの方にも来ていただき、TEP法を普段から行っている演者の先生方と議論ができました。

学会参加中にはノーカットビデオセッションというフルビデオで「TAPP法」「TEP法」「Lichtenstein法」の3術式を議論しながら討論するという発表を聞いてきました。当院ではいずれの術式も行っており、剥離層や細かな注意点などを再度確認してきました。

また会期中は、大阪で一緒に働いていた先生方など多くの先生方とお話する機会がありました。ヘルニア手術などの情報を共有してさらに知識をアップデートし、日常の臨床に少しでも役に立てるようにしていきたいと思います。

文責 西宮敬愛会病院 消化器外科部長 三賀森 学

鼠径ヘルニア手術の費用と保険について

・鼠径ヘルニア(脱腸)手術に対する公的医療保険

鼠径ヘルニアの手術は公的医療保険である健康保険が適応されます。

当院は病院施設であり、国から定められた短期滞在手術基本料3で算定しております。

鼠径ヘルニアの方が、腹腔鏡下ヘルニア修復術を受けられた場合には、3割負担の方で約15万円前後の窓口負担が発生いたします。

公的医療保険である高額療養費制度もご利用いただけます。負担の上限額は、年齢や所得によって下記の図のように異なりますので、詳細をお聞きになりたい方は受付にお声掛けください。

【高額療養費制度を利用される皆様へ】厚生労働省保険局

高額療養費制度の表

・日帰り入院手術について

当院では、鼠径ヘルニア手術を受けていただく患者様には日帰りか一泊入院をお選びいただいております。(合併症などでこちらから入院をおすすめさせていただく場合もあります)。

日帰りで行う手術には、「日帰り入院手術」と「日帰り外来手術」がありますが、当院では「日帰り入院手術」になります。

日帰り入院手術の保険

よくご質問をいただきますが、民間保険の医療保険で、「入院手術だと手術給付金の支払い対象になり、日帰り手術が保障の対象外」という場合があります。当院では、日帰り入院手術となりますので、そのような場合には手術給付金の支払い対象となります。また、給付倍率も日帰り手術と入院手術で異なる場合がありますが、入院手術での申請となります。ご加入されている医療保険により異なりますので、不明な点がある場合は、一度ご確認をお願いいたします。

太腿の付け根が膨らむ病気(鼠径ヘルニアなど)

当院では鼠径ヘルニア(脱腸)の診察・治療を行っています。

皆さんは鼠径ヘルニアがどのような病気かご存じでしょうか。典型的な症状は、「足の付け根が膨らんだり、押すと膨らみが引っ込んだりする」「長い時間立っていると足の付け根が膨らみ、寝た状態だと膨らみがわかりにくくなる」等です。日本ではまだ鼠径ヘルニアという病気が浸透しておらず、一般の方へのアンケートによると鼠径ヘルニアや脱腸という言葉を約8割の人が聞いたことがあるが、症状と鼠径ヘルニアという病名が一致しているという人は約1-2割といわれています。

(そけいヘルニアノート参照:https://www.hernia.jp/notice/about_inguinal-hernia/

鼠径ヘルニアは症状が現れる場所が足の付け根であるため、恥ずかしさがあり受診をしない方も多くいます。また、他の疾患で受診しても一般的な診察ではズボンを太ももまで下ろすことが少ないために気が付かない、診察時に初めから横になってもらうことが多いので鼠径ヘルニアが引っ込んでしまい気が付かないということもあります。そのため、鼠径ヘルニアに慣れている医師に診察してもらうことが必要です。

今回は、足の付け根や下腹部が膨らむ病気として代表的である鼠径ヘルニアに加えて、よく鼠径ヘルニアと間違えられる病気や、かなり頻度が低いですが鼠径ヘルニアと区別が紛らわしい病気などを紹介したいと思います。

下のイラストでは、鼠径部や大腿、下腹部といったご相談いただくことが多い部位を示しています。

鼠径部のイラスト

1.足の付け根(鼠径部)・下腹部に立つと膨らみが出現し、横になると消える疾患

① 鼠径ヘルニア(脱腸)

立つと膨らみが出現し横になると消える疾患の代表的なものは、鼠径ヘルニア(脱腸)です。イラストに表している丸で囲った斜線部分を鼠径部といい、この部分の筋膜が弱くなって、本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が筋肉の隙間から皮膚の下に出てくる病気が鼠径ヘルニアです。

穴の場所の違いで外鼠径ヘルニア内鼠径ヘルニア大腿ヘルニアと3つのタイプに分かれます。大きさはさまざまで指先大~子供の頭くらいになることもあります。

膨らみが大きくなり長い期間お腹の中の脂肪などがはまり込んでいると、横になっても消えないこともあります。また膨らみが急に硬くなったり、腫れた部分が押さえても引っ込まずに、お腹が痛くなったり、吐いたりすることもあります。これをヘルニアの嵌頓(かんとん)や急性非還納性ヘルニアといい、緊急の手術が必要になることもあります。

② 腹壁ヘルニア

鼠径部から少し場所がずれたお腹の壁(腹壁)に穴があいて、鼠径ヘルニアと同じようにお腹の腹膜や腸の一部がでる病気が腹壁ヘルニアです。

おへそが膨らむ場合は、臍ヘルニアといいます。

過去に手術を受けて切ったところが膨れる場合は、腹壁瘢痕ヘルニアといいます。

鼠径部のやや上で腸骨とおへその間のラインで穴が開いている場合、Spigelianヘルニアの可能性があります。

③ 帯状疱疹後の腹筋麻痺

お腹の壁に穴が開いているわけではないのですが、お腹の筋肉の一部が麻痺して緩く伸びてしまい、立つとその部分が膨らむことがあります。

この麻痺の原因としては帯状疱疹の影響が言われています。お腹に帯状疱疹ができた場合に起こることがあります。

④ 大伏在静脈瘤、子宮円策静脈瘤

太腿には大伏在静脈という血管があります。静脈の逆流防止弁が機能しなくなると、うっ滞した血液により静脈が膨れて瘤(コブ)のようになってしまいます。太腿の静脈である大伏在静脈に静脈瘤がおこると鼠径ヘルニアのように膨らんだり消えたりするように見えることがあります。

また妊婦では、子宮が大きくなって骨盤内の静脈が圧迫されることで、鼠径部を通る子宮円策に静脈瘤を起こし、同様の膨らみに見えることがあります。静脈炎や血栓性静脈瘤になると痛みを伴うこともあります。

2.足の付け根(鼠径部)・下腹部に膨らみが持続している疾患

① 鼠径ヘルニア(脱腸):非還納性ヘルニア、saclessヘルニア

鼠径ヘルニアでは立つと膨らみが出現し、横になると消えることが典型的ですが、お腹の脂肪などが長い期間出たままでヘルニア嚢と癒着などが起こり戻らなくなると、膨らみが持続してる状態になります。

また、鼠径部が膨らんでいるが、お腹の腹膜や腸などが脱出していないことがあります。これは、鼠径部を通る精索や子宮円じん帯や腹膜と筋膜の間の脂肪(腹膜前脂肪)に脂肪腫といわれる脂肪の塊が脱出している状態で、ヘルニア嚢をもたないため、saclessヘルニアといわれます。治療は、脂肪の除去およびヘルニア門をメッシュで覆うことで通常の鼠径ヘルニアと同様の手術が行われます。

② 精索水腫・陰嚢水腫(男性)、ヌック管水腫(女性)

これらの病気は小児外科の疾患としてもよく知られていますが、成人でも幅広い年齢で見られます。胎生期に腹膜が鞘状に飛び出したもの(腹膜症状突起)が引っ込まないで残った状態で、そこに水がたまると水腫になります。陰嚢に水がたまることを陰嚢水腫、鼠径部に水がたまることを精索水腫、女性の鼠径部に水がたまることをヌック管水腫といいます。水の貯留なので、しこりとしてふれます。押してもすぐにへこんだりはしませんが、日や月の単位で大きさが変化することがあります。女性のヌック管水腫の場合、異所性子宮内膜症を合併していることが比較的多くあり、生理周期により大きさが変化したり痛みなどの症状がでたりすることがあります。

③ 粉瘤

アテロームとも呼ばれます。粉瘤は皮膚の内側に袋状の構造物ができて、垢などの老廃物がその袋の中にたまってできたものです。たまった老廃物が大きくなると膨らみも大きくなります。身体のどこにでもできますが、鼠径部や太腿にできることもあります。

④ リンパ節の腫大

鼠径部はリンパ組織が豊富な場所であり、さまざまな病気が原因でリンパ節が腫れることがあります。まず原因の一つとして挙げられるのが感染です。太腿に怪我をして、細菌感染が広がると、鼠径部のリンパ節が腫れることがあります。また、他にリンパ節が腫れる原因としては、がんなどの悪性疾患によるものがあります。具体的には、悪性リンパ腫やさまざまな癌の鼠径部へのリンパ節の転移です。だんだんと大きくなり、ゴロゴロと数珠状に複数個触れることがあります。

3.鼠径ヘルニアと区別を要するまれな疾患

・脂肪肉腫:精索脂肪腫や腹膜前腔の脂肪組織から発生した悪性腫瘍(軟部肉腫)の一種です。後腹膜から発生して鼠径管内まで進展すると、鼠径ヘルニアにように膨隆を認めることがあります。

・子宮円靭帯に発生した平滑筋腫:子宮円靭帯は子宮を支持する繊維性索状物で、平滑筋や脂肪、リンパ管、神経などにより構成されています。平滑筋腫は筋成分の一種である平滑筋から発生する腫瘍です。

・鼠径部mesothelial cyst:「mesothelial cyst」は体腔漿膜を覆う中皮細胞に由来する嚢腫で、ヘルニア嚢内や周囲に発生することで鼠径部の膨隆を認めることがあります。

・精巣・精索疾患:原発の精巣腫瘍(精巣癌や精巣上体乳頭状嚢胞腺腫)や他癌の精巣への転移、精索悪性中皮腫により精巣の増大を認めることがあります。

・類内膜癌や腹膜偽粘液腫、癌の腹膜転移:腹膜の一部であるヘルニア嚢内に癌ができたり、腹膜転移があると鼠径部のしこりとして固く触れることがあります。

当院では臨床的な診察(立位と仰臥位での視診・触診)に加えて、診断の補助に高性能のCT検査も用いています。初診時に撮影することも可能です。鼠径ヘルニア(脱腸)でお悩みの方はまずは当院を受診してご相談ください。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 消化器外科部長 三賀森 学

   西宮敬愛会病院 主任部長    大塚 正久

鼠径ヘルニア(脱腸)手術の当院でのながれ(予約~術前~手術~術後)

鼠径ヘルニアの手術を受けられる患者様の基本的な流れをご紹介します。具体的なイメージを持っていただき、手術の流れがわからないという不安を少しでも払拭していただければと思い作成いたしました。

鼠径ヘルニア手術の予約画面

① 初診のご予約

初診のご予約は、WEBまたはお電話(0798-64-0059)で承ります。予約が取れましたら、当日は、健康保険証(マイナンバーカード)、お薬手帳を持参してください。

太ももの付け根に膨らみなどの症状がある方、鼠径ヘルニアかどうかわからないが診察を希望する方など、ぜひご相談ください。

② 受診日のながれ

受付時の画像

1.診察・検査

受付でお名前や住所などを確認し、問診票を記入していただきます。その後、診察室にお呼びします。診察室では、医師が病歴や症状の確認と視診や触診など診察を行います。女性の方の診察には、必ず女性看護師が立ち会います。

鼠径ヘルニア検査のCT

当院では、臨床所見での診察に加えて、腹臥位で腹圧をかけた状態でCT検査を行うことで補助的に鼠径ヘルニアの診断を行います。

鼠径ヘルニア手術の説明文書

2.手術説明

臨床所見・CT検査などから診断がついた場合は、鼠径ヘルニアの状態や患者様の既往歴、手術歴などの背景を踏まえて、最適な手術の方法をご提案いたします。手術の具体的な方法や合併症についても説明の文章やイラストを用いてご説明いたします。

手術前カンファレンス

3.術前検査

術前検査では、採血検査・呼吸機能検査・心電図検査・胸部レントゲン撮影を行います。現在他の医療機関に通院されている方は、病院間で診療情報のやり取りを行いながら安全に手術が行えるかどうかを判断します。結果を外科医・麻酔科医・看護師が参加する術前カンファレンスを定期的に行っています。術前検査結果を共有し、アレルギー薬剤の確認、術後の嘔気対策などに役立てています。

手術日程

4.手術日の決定

術前検査で問題がない方は、手術日を決定します。日帰りか一泊入院かについてもお選びいただきます。

鼠径ヘルニア手術前のオリエンテーション

5.術前オリエンテーション

術前のオリエンテーションは、看護師がパンフレットを用いて手術当日の持ち物や注意事項の確認を行います。また、口の開き具合や歯の状態などを確認します。手術当日の流れでイメージしにくいところがあれば、お気軽にご相談ください。

※手術を受けるにあたり既往歴などの問題がない方は、基本的には次回来院時が手術当日になります。別日に検査を受けていただく必要がある場合や、術前検査で確認することがある場合は、手術前の別日に外来にお越しいただく場合があります。

③ 手術当日のながれ

1.当日の朝~来院

術前の説明でお伝えした絶飲食時間や内服薬をご確認ください。事前にお伝えした来院時間にお越しいただきます。来院後に必要な書類や体調、手術部位の確認を医師・看護師が行います。その後、お部屋に移動し、お着替えを行っていただきます。

※付き添いの方は、患者様のお帰りの時間まで受付でお待ちいただけます。西宮ガーデンズなど近くに外出していただいてもかまいません。一泊入院の場合は、手術終了後にご面会いただきます。

2.手術室に入室

西宮敬愛会病院の手術室

・入室

手術の準備ができましたら、看護師がお部屋にうかがいます。手術室に入りましたら手術台に腰を掛けていただき、お名前、手術部位、アレルギーやグラグラする歯がないかなど最終確認を医師・看護師とともに行います。その後、手術台に仰向けになり心電図などのモニターを装着します。

全身麻酔

・麻酔開始

麻酔科医師が腕から点滴をとります。その後、酸素マスクをお顔に近づけて、点滴から麻酔薬の投与を行います。麻酔が十分に効いたのちに人工呼吸のチューブをいれて、手術中は人工呼吸管理を行います。麻酔の導入の後に、手術体位を整えて手術部位を消毒します。※短時間の手術のため、尿道カテーテルの留置は行いません。

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術

・手術開始

消毒後に清潔な覆布をかけて手術の準備を行います。外科医・麻酔科医・看護師で術前の確認を行い、手術を開始します。手術はおおよそ1時間程度です。手術終了時に、使用したガーゼや針などのカウントを行ってから、傷を閉じます。また、局所麻酔や吐き気止めの投与など必要な処置を行います。

・手術終了

手術終了後に麻酔を覚まして人工呼吸の管を抜きます。受け答えができることを確認してストレッチャーに移り、リカバリー室に移動します。

術後のリカバリー室

・リカバリー室

リカバリー室では約15分程度、心拍や血圧、酸素濃度などのモニタリングを行います。十分に覚醒して血圧などが落ち着いていればリクライニングチェアに看護師付き添いで歩いて移動します。その後、トイレ歩行や飲水・軽食の摂取を行い状態が落ち着いていることを確認します。術後2時間程度で退院基準を満たせば点滴を抜針し、お部屋に戻りお着替えをします。

・退院時診察

診察室で体調や傷口の最終確認を行った上で、帰ってからの注意事項や内服薬について説明します。次回診察の予約を取ったあと清算を行い、退院となります。緊急時の連絡先を退院時にお渡しいたします。帰宅後ご不安な点があればご連絡ください。

④ 手術翌日

医師が体調確認の電話をします。体調や傷口で気になることがありましたら、お伝えください。

基本的な日常生活の制限はありませんが、ジムでの筋トレなど積極的な運動は手術後約2週間程度お控えください。

⑤ 初回外来

手術後約1週間で術後初回の外来診察を行います。傷口や痛みの程度の確認などを行います。必要があればお薬の処方を行います。

⑥ 1か月目の外来

手術後約1か月目に再度外来診察を行います。とくに問題がなければその後の外来は電話での確認にするかなどをご相談させていただきます。

※基本的な手術を受けられる方の流れをご紹介しました。お仕事など日程の都合のにもご相談にも対応させていただきますので、受診の際にお気軽にお話しください。

外科専門医について

手術をお考えの際に、執刀医がどのような専門医資格を持っているかを確認されることもあるかと思います。

今回は、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のう手術に関わる、外科・消化器外科領域における専門医制度について解説したいと思います。

専門医の資格は多くありますが、消化器外科領域では細分化された領域が多いため、3階建ての専門医構造になっています。

外科 専門医 消化器外科 専門医

1.外科専門医

多くの医師は、卒後2年間の初期研修医を終了後に自分の専門科を決定します。消化器外科や心臓血管外科、呼吸器外科などの外科系に進むことを決めた人は、まずは「外科専門医」を目指します。これが1階部分にあたります。一昔前までは、自身で病院を決めて研修して外科専門医試験を受けていましたが、2018年より日本専門医機構による新専門医制度が開始され、専門研修プログラムを受けることで外科専門医の取得を目指すようになりました。外科の基本的な知識や手技を学んで試験に合格すれば、おおよそ卒後7年目で「外科専門医」が取得できます。

また「外科指導医」というものもあり、こちらは認定施設での十分な期間と複数の論文発表が必要となり、最短でも卒後17-8年は取得にかかります。

2.消化器外科専門医

消化器外科医が次に目指す専門医資格は、「消化器外科専門医」です。ここが2階部分になります。サブスペシャリティとよばれて、外科専門医より一段階上の資格です。消化器外科専門医試験の受験資格には、指定修練施設での規定年数の修練と、規定症例数の診療経験が必要となります。また、消化器外科に関する論文発表が筆頭1編、共著2編以上と学会発表3件と学術活動の実績も必要となります。そのほか、学会や教育集会の参加などの要件を満たすと、受験が可能となります。試験は、消化器外科領域全般にわたり、総論・上部消化管・下部消化管・肝胆膵脾の4領域に分けて出題され、70%以上の正答率で合格となります。

地域や大学によりキャリアの進み方に若干の違いがありますが、消化器外科専門医取得後に病院のスタッフとして後輩の指導をはじめることが一般的でしょうか。つまり、消化器外科専門医の取得はレジデント(専修医)終了のようなイメージでもあります。そこからは上の3階部分の資格を目指します。

なお、「消化器外科指導医」という資格もあり、専門医取得後に十分な症例数や発表などの業績が認められれば取得できます。

3.内視鏡外科技術認定医や肝胆膵高度技能専門医など

消化器外科のキャリアで3階部分にあたる高次専門医として、「内視鏡外科技術認定医」「肝胆膵外科高度技能専門医」「食道外科専門医」などがあります。消化器外科専門医は経験症例や学会参加などの実績と試験が取得の要件ですが、3階部分の内視鏡外科技術認定医や肝胆膵外科高度技能専門医は、術者としての多くの経験症例に加え、実際の手術ビデオの審査が必要となります。両資格とも、執刀開始から終了までのフルビデオを編集なしで評価され、合格が決まります。つまり、これらの試験の特徴は、実際に手術の技術が評価されるということです。内視鏡技術認定医の合格率は2023年で各領域全体の平均は31%、肝胆膵高度技能専門は受験資格のハードルの高さもあり2011年~2022年で約500名程度の狭き門となっています。

◎ 当院の手術執刀医の専門医資格

当院で手術を行う我々も多くの資格をとるべく研鑽を積んできました。資格というと知識だけでとれるイメージがあるかもしれませんが、消化器外科領域において3階部分の高次専門医までとるためには、技術も必要となります。私も大塚Drも「外科専門医」「外科学会指導医」「消化器外科専門」「消化器外科指導医」を取得しており、大塚Drは「内視鏡外科技術認定医」、私は「肝胆膵外科高度技能専門医」を取得しています。ほかにも、各分野で多くの資格を取得するべく努力を行ってきましたのでプロフィールをぜひご確認ください。

鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のうの手術を行う当院外科医の専門医資格 

専門医資格の意義として、資格をとるためにさまざま工夫や反省を行ってきた経験が細かなところまでこだわった手術を行うことにつながるのではないかと思います。みなさんに安心して鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のうの手術をうけていただけるように、これらの経験を活かしたいと思います。

  文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

西宮敬愛会病院 鼠径ヘルニア(脱腸)、大腸カメラの日帰り手術・短期滞在手術

日帰り手術・短期滞在手術とは?

日帰り手術とは、手術を受けた数時間後にはご自分で歩いて帰宅できる治療です。欧米では一般的な手術方法で、日本でもその安全性と利便性から積極的な導入が始まっています。その背景には、医療技術や機械の進歩により、患者様への負担の少ない術式の確立、安全性の高い麻酔方法などにより日帰りで受けられる手術が増えていることが挙げられます。

厳密には、日帰り手術は2週類あります。ひとつは入院施設のないクリニックでの日帰り手術で、保険診療上は外来手術になります。もうひとつは病院や有床診療所での日帰り手術で、保険診療上は入院治療になります。(※当院は病院施設のためこちらに該当します。)

短期滞在手術とは、1泊などの短期入院で治療するものをいいます。

どのような疾患で日帰り手術が可能?

日帰り手術を行うためには次のような条件を満たす必要があります。

  1.手術時間が短く侵襲も比較的小さいこと

  2.術後改めて何らかの治療を行う必要がないこと(ドレーン抜去など)

  3.術後早期に経口摂取、トイレ、歩行などが可能なこと。

  4.術後の創部の痛みは、体動時を中心に数日はあるものの、一般的な通常の内服の鎮痛薬で対処

    でき、入院治療でも自宅療養でも対応に差がないこと

当院で行っている鼠径ヘルニア(脱腸)手術や内視鏡的治療(大腸ポリープや早期がん)は上記の条件を満たしています。

日帰り手術・短期滞在手術のメリットは?

日帰り手術・短期滞在手術の一番のメリットは入院時間が大幅に短縮できることです。術前と同じ環境下で日常生活が継続できるため、早期の社会復帰が可能になります。仕事世代の方では、仕事や家庭の調整などの負担が減りますし、ご高齢の方では周術期の環境の変化が少なくなることで、術後のせん妄のリスク軽減になります。

一般的に総合病院で鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のう摘出術、内視鏡的ポリープ切除術などの治療をうけると少なくとも2泊3日~3泊4日の入院が必要となります。(DPCデータに基づく病院情報によると鼠径ヘルニア手術の平均在院日数は4.59日となっています)。多くの総合病院では、前日入院が必要です。病棟や手術室オリエンテーション、手術当日の絶食の管理などを行うためです。当院では、外来で十分にオリエンテーションを行い、手術当日の流れを一緒に確認するため当日入院を実現させていています。また当院のスタッフは外来も手術室も内視鏡室も担当しますので、一貫して患者様と関わっていくことができます。

日帰り手術・短期滞在手術はどのようなところで行われる?

現在多くは一般的な総合病院で治療が行われます。前述のように、長めの入院期間が必要であったり、外来の待ち時間が長かったりすることがあります。また総合病院ではがんの手術や緊急手術も多く行われるため、日帰り手術に向いている鼠径ヘルニアなどの良性疾患の手術枠が多く確保できず、手術待機時間も長くなる傾向があります。

一方で日帰り専門のクリニックは術後に入院を要する場合に対応が難しいため、手術を行う患者さんの条件を厳しくせざるを得なくなります。

当院では、入院も可能な日帰り手術ユニットを併設しているため日帰り手術・短期滞在手術において理想の形となっております。

病歴や術前検査を確認して一部の方には、入院での治療をおすすめすることがありますが、大きな問題のない方は患者さんのご希望に沿って日帰りと入院を選択いただけます。

日帰り手術に適した病院・施設

日帰り手術をうけた後の経過は?

手術後は手術室のすぐ横のリカバリー室で経過をみます。麻酔後の回復をAldrete score system(活動性、呼吸、循環、意識、酸素飽和度)を基本に観察します。問題がなければその後約2時間で、歩行、トイレ、飲水、軽食の摂取などを行います。退院基準(バイタルサイン、自立歩行、悪心嘔吐や疼痛の程度、創部の観察など)をみたせば、診察後に退院となります。退院時には必要な処方を行い、薬や退院後の生活について説明します。翌日に医師が電話をし、体調や傷の状態の確認を行います。

安心安全な日帰り手術のために

日帰り手術が比較的普及してきたことには、負担の少ない術式の確立、安全性の高い麻酔方法が大きく関わっています。当院では麻酔科医師とも連携し、術後の鎮痛対策、悪心嘔吐対策の知識をアップデートしながら手術を行っています。また、適切な術式を選択することで切開創の縮小や手術時間の短縮が行えるように日々努めています。スタッフも日本短期滞在外科手術研究会での勉強などケアの面でもブラッシュアップを行っています。

<当院で日帰り手術・短期滞在手術を受けられた方の例>

事例①:あるご高齢の患者様が日帰り手術を希望されました。過去に長期の入院が必要となり、体力が落ちたことにとても不安を抱いていたそうです。術前検査や帰宅後の環境に問題がないことを確認して日帰り手術を行いました。手術2時間後にしっかりとした足取りで帰宅され、術後数日目の外来では経過も順調でとても満足されていました。

事例②:またある若い患者様は、術後に家に帰ると家事などをしなくてはいけないためゆっくりしたいと一泊されました。術後は問題なくお部屋で休まれており、「久しぶりにゆっくりできました」とお話しされていました。

事例③:お仕事のお忙しい患者様は、土曜日しか来院できないため土曜日の術前検査、日帰り手術、術後外来とすべて土曜日で行うことができました。多忙な仕事の中で通院回数が少なくすんだことをよろこばれていました。

さまざまな背景をお持ちの患者様がいらっしゃると思います。当院では幅広い選択肢を提示できるように丁寧に説明をさせていただきたいと思います。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 消化器外科部長 三賀森 学

鼠径ヘルニア(脱腸)手術 術式

当院では様々な情報を定期的にお伝えしていきます。

今回は、鼠径ヘルニア手術の種類など術式について解説したいと思います。

・鼠径ヘルニア手術における腹腔鏡手術と鼠径部切開法

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術は大きく分けて腹腔鏡手術(laparoscopic surgery)と鼠径部切開法(open inguinal hernia repair)の2つがあり、どちらがよりよいかという議論が多くなされています。本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)では、「手技に十分習熟した外科医が実施する場合には、鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下ヘルニア修復術は推奨できる」とされています。両者の再発率は同等でありますが、腹腔鏡手術は手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早いとされています。

また、Hernia誌(Hernia 23(3): 461-472, 2019)の論文報告では、片側の鼠径ヘルニア手術において腹腔鏡下手術(TAPP:タップ、TEP:テップ)と鼠径部切開法(Lichtenstein法)の再発に関して複数の研究結果の統合と分析が行われています。12のランダム化比較試験を対象として、腹腔鏡下手術群(2040名)と鼠径部切開法群(1926名)の比較が行われました。結果、再発率には有意差がありませんでしたが、副次解析において、腹腔鏡下手術群は急性及び慢性疼痛の割合が少なかったとされています。

・鼠径ヘルニア手術の腹腔鏡手術におけるTEP法とTAPP法

では、腹腔鏡手術においてTEP法とTAPP法の結果の違いはあるのでしょうか?この両者の術式の比較に関しても、多くの検討がされています。

TAPPはTrans-Abdominal Pre-Peritoneal repair(経腹的腹膜外修復法)といいます。おなかの中から鼠径ヘルニアの穴を確認し、その周りの腹膜を切開・剥離し、鼠径ヘルニアの穴をメッシュで閉鎖し、腹膜を閉鎖する方法です。

一方、TEPはTotally Extra-Peritoneal repair(完全腹膜外修復法)といいます。おなかの中に入らずに、おなかの壁の中で、筋膜と腹膜の間を剥がして鼠径ヘルニアの穴まで到達し、メッシュで穴を閉鎖する方法です。

TEP法とTAPP法の比較については多くの論文が報告されていますが、2021年のHernia誌(Hernia 25(5): 1147-1157, 2021)では15の研究結果を集めて、TAPP(702名)、TEP(657名)を評価しています。再発率や慢性疼痛に関しては両群ともに同等であり、術後早期の疼痛、手術時間、創部の合併症、仕事や日常への復帰、費用についても有意差がなかったとされています。結語に、「これ以上比較をしても両術式に差は出ないのではないか」とも書かれています。

欧米ではTEP法が主流となっていますが、本邦では腹腔鏡手術の約8割がTAPP法で行われています。その理由として、本邦では鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術がTAPP法で開始されたことや、鼠径ヘルニア手術を主に担当する消化器外科医が腹腔内からのアプローチに慣れていることなどが考えられます。TEP法のメリットは腹腔内に入らないため、腹腔内臓器合併症のリスクが低いことや腹膜縫合が不要なことが考えられますが、腹壁の中をアプローチしていくことから解剖学的な把握や視野の取りにくさによる手技の難しさが課題とされています。

・鼠径ヘルニア手術のベストな術式は?

ここまでをまとめると、「TEP法、TAPP法と鼠径部切開法のいずれも再発率に差はない。腹腔鏡手術は疼痛が軽度であるが、手術時間は鼠径部切開法が短い」となります。

TEP法とTAPP法両方の術式を十分に経験してきた私たちの意見では、ベストな術式は患者さんの体格や鼠径ヘルニアの状態によって異なります。

両側の鼠径ヘルニアでは、片側と同じ傷で手術ができるため腹腔鏡手術が適していると考えます。腹腔鏡手術のなかでも内鼠径ヘルニアは、頭側からの操作でヘルニア嚢を引き抜きやすいためTEP法がとても適しています。しかし大きな外鼠径ヘルニアで年季が入っていて精索周囲の瘢痕化が強い場合は、TEP法よりTAPP法の方が良好な視野がえられ、精管や精索の分離操作が安定して行えます。一方で、前立腺手術を受けた方は、腹腔鏡手術で操作する部位にすでに操作が加わってしまっているため、鼠径部切開法が適しています。合併症などで全身麻酔が困難な方は、局所麻酔が可能な鼠径部切開法が選択されます。

当院では、腹腔鏡手術を主として行っていますが鼠径部切開法も患者さんの病態に応じてご提案させていただいております。われわれはTEP法もTAPP法も鼠径部切開法も経験を積んできており、以下のフローチャートのように適応を考えております。またTEP法は一つの傷で行う単孔式TEP法(SILS-TEP)を行っております。術式に関しては、患者さんの状態やご希望もふまえて検討いたしますのでぜひご相談ください。

当院での鼠径ヘルニア(脱腸)手術の術式

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

ヘルニア術後の漿液腫

今回は、鼠径ヘルニア手術後の漿液腫について説明を行いたいと思います。

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術後、もともとあったスペースに浸出液やリンパ液などの体液がたまり、しこりやこぶ状にふれる状態を漿液腫(しょうえきしゅ)と言います。

下の図のように手術直後はヘルニアが出ていた空間はデッドスペースとなります。術後にその空間が癒着などしてなくなる前に、体液がたまるために起こります。

そのため、元のヘルニアが大きい方の場合、漿液腫も元のヘルニアと同じような大きさになることがあり、ヘルニアが再発したと心配される患者さんもいます。

鼠径ヘルニア 漿液腫

再発との違いは、漿液腫は取り残された空間にたまった水のため、もともとの腸が出入りしていた状態とは違い、仰向けになっても引っ込みません。また、硬さもコリっと丸くビー玉のように感じることがあります。多くの場合、痛みはなく自然に体液が吸収されて消失してきます。小さなものでは一か月以内、大きなものでは少し時間がかかることもあります。

漿液腫が大きくて気になったり、痛みがある場合には針を刺して中の水を抜く処置を行うこともありますが、穿刺処置による細菌感染のリスクもあるため、症状がない場合には自然治癒を待つことが好ましいとされています。

鼠径ヘルニア(脱腸)の説明

さて、この漿液腫は合併症ともいわれますが、個人的には治療経過中の状態という意味合いの方が強いと考えています。術中操作により漿液腫を予防するという方法も過去にいろいろ報告されていますが、完全に有効な方法はありません。具体的には、内鼠径ヘルニアのpseudo sacである横筋筋膜を反転させて固定させたり、鼠径輪の縫縮を行ったり、ヘルニア嚢をすべて引き抜いたりなどが挙げられます。大きなヘルニアになると、ヘルニア嚢の引き抜きは出血のリスクになりますし、鼠径輪の縫縮やpseudo sacの固定は術後の痛みに関連するリスクも考えられるため、症例を選び慎重に適応を考えた方がよいのではないかと思います。小~中程度のヘルニアでは、漿液腫が起きてもそこまで期間がかからず治癒するために、自然に経過をみることが望ましいと考えます。

しかし、術後に以前のヘルニアのようなふくらみがでるとやはり不安だと思いますので、手術時の状態もふまえて、漿液腫のリスクなども丁寧にお話させていただきたいと思います。

 文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

術後の吐き気PONV

今回は、全身麻酔による手術後の吐き気について考えてみたいと思います。

術後に吐き気がしたり吐いてしまったりすることを、医学用語では「術後悪心・嘔吐(PONV:Post-Operative Nausea and Vomiting)」といいます。発生頻度は一般的に約30%の割合で発症し、辛い思いをされる患者さんもいらっしゃるため避けたい麻酔合併症の一つです。

1.どのような患者さんにリスクがある?

2020年に米国PONVガイドラインが発表されました。

「Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting」(Gan TJ, et. Anesth Analg 131: 411-448, 2020)

解析されたPONVのリスク因子として、最も関連されている項目は「女性」とされ、男性に比べて女性は約2.6倍も頻度が高いとされています。続いて、「術式」でガイドラインでは、腹腔鏡手術、婦人科手術、胆のう摘出術が取り上げられています。ほかに、「吸入麻酔薬」「PONV既往や乗り物酔い」「非喫煙者」「長時間手術」「50歳未満」となります。

ガイドラインにはPONVの発生率を評価するスコアとして、「Apfel simplified score」が使われます。女性・非喫煙者・PONV既往や乗り物酔い・術後オピオイド使用の4つのリスク因子のうち、項目が1つ当てはまるごとに約20%ずつPONVの発生率が増加するというものです。問診でわかるものですので、術前診察でお聞きします。

なお、当院では胆石や胆のうポリープなどに対して腹腔鏡胆のう摘出術を行っていますが、胆石のできやすい方の特徴として、太っている(Fatty)、40から50歳代(Forty-Fifty)、女性(Female)、たくさんお産をされた方(Fertile)とされ、英語の頭文字をとって4Fと言われています。これは、PONVのリスク因子と重なる項目が多く、女性の胆のう手術の際には、特にPONVに留意する必要があると考えられます。

術後の吐き気

2.PONVの予防のためには

PONVの予防のためには、まずは予防薬剤の使用が挙げられます。

制吐作用を期待していくつか使用される薬剤があります。

まずは、ステロイドです。主にデキサメタゾンが使用されます。効果の発現までに、時間を要するために手術開始後早期に投与されます。単回使用ではステロイドの副作用として一般的な血糖や感染に関しての問題視は必要ないとされています。

次にドロペリドールです。手術の終了時に投与します。錐体外路症状や心電図でのQT延長に注意が必要とされています。

次に、メトクロプラミド(プリンペラン)です。病棟で嘔気のある方によく使用される薬です。副作用も大きなものがなく使いやすい薬ではあります。

海外では、PONVの予防・治療薬としてゴールデンスタンダードであったセロトニン(5-HT3)受容体拮抗薬(オンダンセトロンとグラニセトロン)が2021年に日本でも「術後の消化器症状(悪心・嘔吐)」に使用することが許可されました。もともと日本でも5-HT3受容体拮抗薬は抗がん剤に対する制吐薬として長らく使用されてきました。

術後の制吐薬

抗がん剤に対する制吐薬は様々なものが使われ、5-HT3受容体拮抗薬(第一世代)であるオンダンセトロンやグラニセトロンなど、5-HT3受容体拮抗薬(第二世代)のパロノセトロン、NK1受容体拮抗薬であるアプレピタント、多受容体作用抗精神病薬であるオランザピンなどがあげられます。

米国PONVガイドラインではオンダンセトロンが最も一般的に使用・研究されている5-HT3受容体拮抗薬とされています。

5-HT3受容体拮抗薬の作用機序としては、延髄にあるCTZ(chemoreceptor trigger zone)や求心性迷走神経の5-HT3受容体に作用して、嘔吐を抑制すると考えられています。なお、投与タイミングですが、「患者背景や術式等を考慮し、術前から術後の適切なタイミングで投与してください」とされております。

3.日帰り手術とPONV

日帰り手術を行う上で、PONVは大きな障害となるため当院でもPONVを予防することは重要な課題と考えています。そのため、腹腔鏡手術ではオンダンセトロンやグラニセトロンの投与を麻酔科医師と相談し積極的に使用しています。また、腹腔鏡下胆のう摘出術では、前述のようにPONVのリスク因子の高い患者さんも多く、5-HT3受容体拮抗薬に加えて他の制吐薬の投与なども検討を行います。

当院では、術中麻酔は麻酔科の専門の先生方にお願いしています。薬剤の選択や麻酔方法の選択など、患者さんごとに適したものを相談しながら選択していきたいと思います。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

腹腔鏡手術後の肩の痛み

手術にまつわるトピックを定期的にあげていきたいと思います。

今回は、腹腔鏡手術後に起こることのある肩の痛みについて考えてみたいと思います。

1.お腹の手術後に肩の痛み?

腹腔鏡手術 肩の痛み

腹腔鏡下胆のう摘出術や婦人科領域の腹腔鏡手術において、術後に肩が痛いということが起きることがあります。お腹にしか傷がないのに、肩が痛むというこの現象には様々な原因が考えられています。手術中にお腹を膨らませるために使用する二酸化炭素ガスを原因とするアシドーシスによって横隔膜や横隔神経が刺激されて痛みが生じるメカニズムや、気腹による腹膜や横隔膜の進展によるものが報告されています。治療介入が必要なことは少ないとされますが、手術部位とは関係ない部位の痛みのため不安に感じられる方もいらっしゃいます。

2.腹腔鏡に使うガスについて

この腹腔鏡手術で使う医療ガスについて考えてみたいと思います。まず、腹腔鏡手術を行うためには、ガスを送り込んでお腹を膨らませることが操作スペースの確保のために必要になります。腹腔内に送気するには、次のような条件がそろった気体である必要があります。

①引火性や爆発性がないこと

②無色透明であること

③患者さんおよび手術スタッフへの害がないこと

④吸収が早く体内から容易に排出されること

⑤安価であること

腹腔鏡手術 二酸化炭素

これらのことから、酸素はもちろん引火性がありますし、吸収がよくない気体だと空気塞栓(血管内の空気が肺に詰まること)のリスクがあります。腹腔鏡の手術では多くの気体を使用するので、コスト面も重要です。そのようなことから、これらの条件を満たす気体として、現在は腹腔鏡手術時に使用するガスは二酸化炭素が一般的になっています。消化器内視鏡で観察時に腸内を膨らます際にも二酸化炭素ガスを使用します。

3.腹腔鏡手術時の気腹圧について

腹腔鏡手術時に用いる気体は二酸化炭素を用いますが、実際に使用の際には気腹装置により腹腔内に送り込む圧の設定が必要となります。一般的には<12mmHgが低圧気腹、12-15mmHgで通常圧気腹、15mmHg以上で高圧気腹と考えられています。気腹圧が高いほどお腹の膨らみは大きくなり、操作スペースが広くなるのですが、その一方で皮下気腫(皮膚組織の間にガスが入り込むこと)や空気塞栓、圧による門脈血流の低下のリスクともされています。また、横隔膜の過伸展は前述のとおり肩の痛みの原因にもなっているかもしれません。

2020年にSurgical Endoscopy誌(Surg Endosc 34(7):2878-2890, 2020)より報告された「The impact of intra-abdominal pressure on perioperative outcomes in laparoscopic cholecystectomy: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials」では、22本の研究(2909名)においてシステマティックレビューが行われています。結果は、バイアスリスクがあるためさらに研究を要するとの注釈がありますが、低圧気腹群で標準圧気腹群より肩痛を含む術後疼痛や入院期間が減少したという報告があります。

また2022年にSurgical Endoscopy誌(Surg Endosc 36(10):7092-7113, 2022)で発表された「Low-pressure versus standard-pressure pneumoperitoneum in laparoscopic cholecystectomy: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials」では、待機的腹腔鏡下胆のう摘出術において異なる気腹圧で比較した44のランダム化試験のシステマティックレビューとメタアナリシスが行われ、入院期間や合併症には差がなかったが、術後の疼痛と鎮痛薬の消費量では低圧気腹において有意に低かったと報告されています。肩痛に関しては、このうち12の研究で解析され低圧気腹群で肩痛の発生率が有意に低かったとされています(1032人、RR 0.48, 95%CI 0.39 to 0.60)。

私の感覚ですが、腹腔鏡手術が始まった当初は各施設において12mmHg~15mmHgで気腹をしていた印象がありますが、最近は8-10mmHg程度で行っているところが多いような気がします。肝切除や視野の取りにくい患者さんの時にはスペースの確保や止血のために気腹圧を挙げることもあります。しかし、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のう摘出術では操作スペースの確保が比較的容易なため、われわれの施設でもこれらの腹腔鏡手術は8-10mmHgで行っています。

4.腹腔鏡手術後の遺残ガスについて

低圧気腹が可能であればそちらを選択した方がよいという方針が確認できました。ほかに、肩痛の改善のために研究されている課題としては、手術後の遺残ガスについて複数の論文が報告されています。経験的にも腹腔鏡手術の数日後にCT検査が必要な方の所見をみると、多くの方で腹腔内にガスが遺残しています。横隔膜の下にガスのたまりが、横隔膜を伸展させて刺激になっている原因かもしれません。

この遺残ガスを減らす方法として、ドレーンといって腹腔内に管を入れたしする方法もあります。しかし、侵襲の少ない手術ではドレーンを留置をすることがありませんのでこの方法は現実的ではありません。ほかの方法を調べてみると、手術終了前の人工呼吸中に肺をしっかりと膨らませて横隔膜を押し下げてガスを追い出すという方法の論文が見られました。

2021年のWorld Journal of Surgery誌(World J Surg 45(12):3575-3583, 2021)「Pulmonary Recruitment Maneuver Reduces Shoulder Pain and Nausea After Laparoscopic Cholecystectomy: A Randomized Controlled Trial」では、147人の腹腔鏡下胆のう摘出術患者さんをPRM群(pulmonary recruitment maneuver)と通常群の比較が行われました。PRM群は手術終了時に、1分間高めの圧で換気を行い腹腔内の二酸化炭素を体外に追い出す方法です。PRM群で術後の肩痛と嘔気が軽減したという結果でした。2023年のSurgical Endoscopy誌(Surg Endosc 37(11):8473-8482, 2023)の「The influence of the pulmonary recruitment maneuver on post-laparoscopic shoulder pain in patients having a laparoscopic cholecystectomy: a randomized controlled trial」でも、ランダム化比較試験においてPRM群が従来群より肩痛を減らすという結果を報告しています。

5.当院での取り組み

術後の疼痛や嘔気に関して、多くの報告がされています。実際に論文を読んで吟味し、臨床に役立ちそうなことは麻酔科の先生たちともしっかり検討して、少しでも手術を楽に受けていただけるように知識もアップデートしていきます。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

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