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医療コラム

大腸カメラ

2024.08.03

1. 下痢とは

下痢とは,便の中の水分が多くなり、液状またはそれに近い状態の便が出る状態をいいます。
なぜ、便の中の水分が多くなってしまうのか、それを理解するために、まずは私たちの正常な消化吸収のはたらきについてみていきましょう。

私たちの口から入った食物は、食道、胃、小腸、大腸、肛門からなる1本の消化管を通って処理されます。この過程で、食物はいくつかの消化液と混ざることによって、吸収しやすい養分へと分解され、小腸の粘膜を通して体内に吸収されます。

一方、この時に吸収されず残ったものは、大腸に送られ、そこで水分だけが吸収され、適度な硬さを持った便として排出されます。

このとき、腸の中を通る水分の量は、1日あたり、口から摂取する水分(約2リットル)+消化液(約7リットル)の合計9リットルにのぼります。その約99%(約8.9リットル)は大腸でしっかりと再吸収され、最終的に便の中に排出される水分はわずか100g程度といわれています。

通常、大腸はこれだけの水分を吸収し、便を適度な硬さに調整しており、なんらかの原因によってこの水分吸収のバランスが崩れると、下痢を発症します。

下痢を発症してから1~2 週間以内に治まるものを「急性下痢」、3 週間以上続くものを「慢性下痢」といいます。

2. 下痢の原因は3つに分けられる

下痢の原因は、主に細菌感染や食物アレルギーによるもの(分泌性下痢)、水分の吸収不良による下痢(浸透圧性下痢)、腸蠕動(ちょうぜんどう)が過剰に亢進することによる下痢(運動亢進性下痢)の3つに分けられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

2.1. 細菌感染や食物アレルギーによる下痢

“食中毒”や“食あたり”によって、腸粘膜がダメージを受け、腸管内の分泌液が過剰になることで起こるタイプの下痢です。これを「分泌性下痢」といいます。食中毒や食あたりのほか、食物アレルギーや内服薬の副作用として超粘膜が障害されて発症するケースもあります。

2.2. 水分の吸収不良による下痢

大腸での水分の吸収が妨げられることによって起こるタイプの下痢で、「浸透圧性下痢」といいます。腸管の中に、浸透圧(水分を取り込もうとする力)の高い物質があることで、そちらに水分が取り込まれ、便がゆるくなります。

一部の下剤(マグネシウム含有製剤など)や食品(難消化性糖質など)、大量のアルコール摂取の摂取で発生するケースなどがあります。

2.3. 腸蠕動が過剰に亢進することによる下痢

腸内の食べ物や便を肛門の方へ送り出す動き(腸蠕動運動)が過剰にはたらき、便が腸内を速く通過することで水分が十分に吸収できず、便がゆるくなるタイプの下痢です。これを「運動亢進性下痢」といいます。

過度なストレスや食べすぎ・飲みすぎ、身体の冷えなどによって、腸の運動をコントロールしている自律神経のバランスが崩れることによって起こります。

3. 下痢を引き起こす病気

下痢の原因になる病気はさまざまです。下痢を引き起こす代表的な病気について詳しく解説します。

3.1. 感染性胃腸炎

ウイルスや細菌、寄生虫などの病原菌への感染によって下痢の症状が起こります。感染経路は、汚染された食べ物を食べることによる感染(経口感染)と病原体が付いた食器や手などを介した感染(接触感染)があります。下痢だけでなく、吐き気や嘔吐、血便、悪寒、発熱などの症状をともなうこともあります。
感染性胃腸炎の原因となる代表的な病原体は、以下のようなものがあります。


■ ウイルス…ノロウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなど
■ 細菌…腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど
■ 寄生虫…クリプトスポリジウム、アメーバ、ランブル鞭毛虫(べんもうちゅう)など

3.2. 虚血性大腸炎

大腸に栄養を送る動脈の血流が妨げられることで、大腸の粘膜に血液が行き届かなくなり、粘膜がダメージを受け、水のような下痢、激しい腹痛、血便などの症状を生じる病気です。ダメージを受けた粘膜部位には、ただれや潰瘍(かいよう)などができ、そこから分泌液や血液などの滲出液(しんしゅつえき)がたくさん出ることで水っぽい便になったり、血が混じった便になりします。

虚血性大腸炎の原因は、動脈硬化などの血管の病気によるものや便秘や浣腸のし過ぎなど腸管へのダメージがきっかけになるもののほか、ストレスや生活習慣の乱れの要素が絡み合って発症すると考えられています。

3.3. 潰瘍性大腸炎

何らかの原因によって、大腸の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍ができる病気です。炎症部位から分泌液や滲出液がたくさん出ることで、下痢を引き起こします。発症の詳しい原因はわかっていませんが、免疫機能の異常やストレスなどの要因が関わっているのではないかと考えられています。根本的な治療法についても解明されていないため、厚生労働省の指定難病になっています。

3.4. 大腸がん

大腸にできる悪性腫瘍です。大腸がんの初期はほとんどが無症状ですが、病気が進行し腫瘍が大きくなると腸管が圧迫され、腹痛や排便習慣の変化(便秘や下痢)、血便などの症状があらわれます。腫瘍によって腸管が狭くなるので、便自体が細くなったり、狭い所でも通過できる下痢便が頻繁に出たりするなどの症状がみられることもあります。

3.5. 過敏性腸症候群

腸に炎症や潰瘍などの見た目の異常がないにもかかわらず、腹痛や下痢、便秘、下腹部の不快感などの慢性的な消化器症状が続く病気です。

下痢の症状が出る人の場合は、人前に出るなどのストレスや緊張により、腸の蠕動運動が過剰になるケースがよくみられます。消化器症状の原因を明らかにするために、大腸カメラ検査を行い、何の異常も見つからなかった場合には、過敏性腸症候群の可能性を疑います。

発症の原因はわかっていませんが、ストレスや生活習慣による自律神経の乱れや腸内細菌のバランスの乱れなども関与しているのではないかと考えられています。

3.6. 慢性膵炎

慢性膵炎(まんせいすいえん)とは、膵臓に慢性的な炎症が起き、膵臓が破壊されていく病気です。膵臓は、私たちの消化吸収プロセスにおいて、脂肪やたんぱく質を分解するための消化酵素を出す重要な役割を担っている臓器ですが、慢性膵炎が進行すると消化酵素が出なくなり、消化不良による下痢が起きます。慢性膵炎による下痢には、未消化の脂肪やたんぱく質が混じっているため、薄黄色クリーム状で水に浮きやすく、悪臭がするといった特徴があります。

4. 下痢の症状があらわれた際の対処法

下痢の症状があらわれるというのは、腸の中に何かしらの異常が起きているサインです。

便や変化を注意深く観察しながら、無理をせず過ごすようにしましょう。下痢の症状があらわれた際の対処法についてみていきましょう。

4.1.このようなときはすぐに受診を

下痢の中には、1~2日で自然に治るものもある一方で、すぐに受診が必要なものもあります。

以下のような場合は、無理をせず医療機関を受診しましょう。


■ 経験したことのような激しい下痢
■ 激しい腹痛がある
■ 強い吐き気や嘔吐、悪寒、発熱などをともなっている
■ 便に血が混じっているまたは黒い便(タール便)が出る
■ 状態が悪化している
■ 口が異常に渇く、尿量が減るなど、脱水症状がある
■ 一緒に食事をした人も同じ症状を発症した
■ 1週間以上下痢が続いている など

受診の際は、次の内容を医師に伝えることで正確な診断に役立ちます。


■ いつから下痢がはじまったか
■ 下痢の回数
■ 下痢以外の症状
■ 思い当たる原因(外食や生ものを食べたなど)
■ 家庭や学校など周囲に同じような症状の人がいるか
■ 便の形状、におい など


下痢便の色や形状が特徴的(赤い、黒い、白いなど)な場合は、スマートフォンなどで便の写真を撮って記録しておくと診断に役立ちます。

4.2. 胃腸に負担のかからない食事をする

下痢症状が軽く、様子を見る場合は、次のような消化の良い炭水化物を中心に、なるべくやわらかく調理して、少しずつ食べるようにしましょう。


■ 消化の良いもの
  ■ おかゆ
  ■ 重湯
  ■ よく煮込んだうどん
  ■ 卵がゆなど

消化機能が回復するまでは、極力胃腸に負担のかかる次のような食べ物は避けるようにします。


■ 胃腸に負担をかけるもの
  ■ 脂質の多い肉や魚
  ■ 重湯
  ■ 食物繊維が多い、玄米、生野菜、海藻

■ 胃腸を刺激してしまうもの
  ■ 香辛料
  ■ 重湯
  ■ 濃い味付けのもの
  ■ 酸味のあるフルーツ類
  ■ アルコール
  ■ コーヒー

4.3. 水分・電解質を摂取する

下痢が続くと、身体から大量の水分とともに、電解質 (ナトリウム、カリウムなどの体組成成分)も失うため、脱水症状や電解質異常という状態に陥り、のどが激しく渇いて血圧低下やふらつきなどの症状が出ます。下痢症状のあるときは、失われた水分と電解質を同時に摂取して、これらの症状を予防することが大切です。電解質は、野菜や魚介類、肉類などにも豊富に含まれていますが、下痢の時は、電解質の入ったスポーツ飲料やイオン飲料、経口補水液などを飲むことで、胃腸に負担をかけずに効率よく補給することができます。

4.4. 食あたりには下痢止め薬を使用しない

市販の下痢止め薬は、細菌感染やウイルス感染、食物アレルギーによる下痢症状には使用してはいけません。

下痢止め薬で下痢を止めてしまうと、有害な病原体を身体の外に排出しようとするはたらきを妨げ、かえって状態を悪化させてしまう恐れがあります。感染性胃腸炎や食品アレルギーが疑われる場合には、自己判断での下痢止めの使用は避け、医師の診断や治療を受けましょう。

5. 下痢の原因を調べる検査

緊急性のある下痢症状があるときや、下痢が続いているときには、病院で検査をおこない、原因を調べます。ここでは下痢の原因を調べる検査について詳しく解説します。

5.1. 血液検査・便潜血検査

血液検査や便潜血検査はさまざまな病気による身体への影響を調べることができます。まず腕から血液を採取し、細菌・ウイルス感染やがんなどによる炎症所見がないかどうか調べます。同時に、便潜血検査といって、便の中に血液が混じっていないかを調べます。便潜血検査が陽性の場合は、小腸や大腸などからの出血の可能性があるため、さらなる精密検査で原因を特定することになります。

5.2. 腹部エコー検査

超音波を使って身体の外から臓器の様子を観察する検査です。慢性的に下痢症状が続いている場合などは、腹部エコー検査をおこない、肝臓、胆のう、膵臓、腎臓などの臓器に腫れや炎症、ポリープなどの異常がないかを調べます。腹部エコー検査では、皮膚にジェルを塗り、探触子(プロープ)をあてることで、臓器ごとに観察していきます。検査時間は10~20分程度で痛みはまったくありません。

5.3. 大腸カメラ検査

肛門からカメラを挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を詳細に観察する検査です。粘膜のわずかな炎症や、潰瘍、狭窄(狭くなっている)、ポリープなど、下痢につながるような所見がないかをカメラでリアルタイムに観察します。大腸カメラ検査は、下痢の原因を見つけるだけでなく、下部消化器のあらゆる病気の早期発見に有効です。たとえば、がん化するリスクのあるポリープをその場で切除したり、がんが疑われる部位を採取し、精密検査へ回して正確な診断につなげたりすることができます。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、富士フィルム社製のELUXEO 8000システムを導入し、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医の資格を持つ医師が正確かつ迅速に大腸カメラ検査を実施します。検査時には鎮静剤を併用し、うとうとと眠ったまま検査を受けられるので、大腸カメラ検査に不安のある方でも安心して受けることができます。また、カメラ挿入時は、腸内に残りにくい炭酸ガスを使用し、検査後の「お腹の張り」「痛み」「違和感」などの苦痛も最小限に抑えています。

6. 下痢の治療方法

下痢の治療方法は原因によって異なります。

まず、感染性胃腸炎では、ほとんどの場合が対処療法で軽快することから、経口補水液の補給で脱水症状を防いだり、すでに脱水が見られる場合は点滴治療をおこなったりします。吐き気や発熱がひどい場合は、吐き気止めや解熱剤を使用することもあります。

過敏性腸症候群に関しては、対人ストレスなど原因がはっきりしているときは、できるだけストレスを軽減するなどして発症機会を減らす努力をします。原因が分からない場合や症状が強い場合には、医師の判断で腸の運動を整える薬や整腸剤(プロバイオティクス)などによる薬対処療法で回復を待ちます。

虚血性大腸炎の場合は、症状が強い場合は入院して絶食、点滴で改善を待てばよくなるケースが多いです。慢性膵炎については消化酵素を内服薬で補う治療を行います。アルコール性の慢性膵炎であれば禁酒が必須です。下痢の原因が大腸癌であった場合は腫瘍の外科切除やステント挿入などの専門的な治療が必要です。潰瘍性大腸炎に関しては完治できる内科的治療は確立されていませんが、腸の炎症を抑える薬物などを使って症状をコントロールすることになります。

いずれのケースにおいても、下痢症状があるときには、水分・電解質補給を心がける、胃腸に負担のかからない食事内容にするなどして、回復を促しましょう。

7. まとめ

一口に下痢といっても、症状の出方や原因はさまざまです。下痢の中には、よくある感染性胃腸炎のように1~2日で良くなるものもあれば、背後に大きな病気が隠れているものもあります。下痢の原因を突き止め、適切な治療を受けるためにも、下痢症状が続いているときや、下痢のほかに気になる症状をともなうときは、専門医に相談しましょう。

2024.07.20

大腸カメラ検査は、大腸ポリープや大腸がんなどを発見する有効な手段のため、定期的に受けることがすすめられています。大腸がんは、食生活の欧米化により年々増え、2022年の死亡率は男性が2位、女性が1位となっています。大腸カメラ検査は、下剤を飲むことの不安、検査による苦痛、恥ずかしさなどのイメージからハードルが高い方が多いようですが、大腸がんの早期発見、早期治療には有用な検査です。ここでは、大腸カメラ検査にともなう痛みに焦点をあて、痛みが生じる理由やタイミング、痛みが出やすい方の特徴を紹介し、痛みが少ない大腸カメラ検査について、その検査方法や、痛みをやわらげるポイントについて詳しく解説します。

1.大腸カメラ検査ではどのような痛みが生じるのか?

大腸カメラ検査は、正式には下部消化管内視鏡検査といいます。便潜血検査で陽性になった時や、血便や腹痛が続いている、下痢や便秘を繰り返すなど、何らかの症状がある時に、その原因を調べる目的でおこなう検査です。内視鏡を肛門から挿入し、一番奥の盲腸から直腸まで、内視鏡を引き抜きながら大腸全体を観察します。

大腸カメラ検査では、個人差はあるものの痛みが生じることがあります。どのような痛みが生じるのか、その理由や痛みを生じるタイミングについて説明します。



1.1.大腸カメラ検査で生じやすい痛み

大腸カメラ検査で生じやすい痛みは、主に「腸が押されるような痛み」や「お腹が張るような痛み」です。大腸の長さや形状は個人差があるため、痛みというより腹部の不快感程度の方から、腸がひっくり返るような強い痛みを感じる方まで、痛みの出方や強さも人それぞれです。

1.2.痛みが発生する仕組み

大腸カメラ検査で痛みが発生する仕組みとして、次の2つがあげられます。
ひとつは、大腸は曲がりくねった形状のため、内視鏡を大腸の奥まで挿入する際には、腸を押したり引っ張ったりする必要があり、内視鏡で腸が押されるような痛みが発生します。
もうひとつは、検査中には進行方向を確認したり、腸のひだの裏まで確認したりするために、腸に空気や炭酸ガスなどを入れて膨らませる必要があり、お腹が張ったような痛みが発生します。

1.3.検査中に痛みが発生しやすいタイミング

検査中に痛みが発生しやすいタイミングは、次の部位を内視鏡が通過する時です。

■ 後腹膜に固定されていない「S状結腸、横行結腸」
大腸は後腹膜という臓器に固定されている部位と、固定されていない部位があります。S状結腸と横行結腸は、後腹膜に固定されていないため動きやすく、内視鏡を挿入していく時に腸管がひき延ばされたり押されたりするため、痛みが発生しやすい部位です。

■ 大腸の曲がりが強い「脾彎曲(ひわんきょく)、肝彎曲(かんわんきょく)」
下行結腸から横行結腸へ向かう脾彎曲と、横行結腸から上行結腸へ向かう肝彎曲は、腸管の曲がりが強いため、内視鏡が曲がった腸管にあたることで痛みが発生しやすい部位です。

(図)痛みが発生しやすい部位

2.痛みが出やすい方の特徴

大腸カメラ検査で痛みが出やすい方として、女性、40歳未満、お腹の手術をしたことのある方、腹痛の原因を調べる場合、前回検査時に痛みがあった方、憩室炎(けいしつえん)をしたことのある方が報告されています。この中から、以下について説明します。



2.1.痩せている、あるいは小柄な方

大腸カメラ検査で痛みが出やすいのは、痩せている方や小柄な方で、女性の割合が多いようです。こうした方は、腸がおさまっているおなかのスペース狭く、腸管の曲がり具合が強いため、内視鏡によって押されたり引っ張られたりして、痛みが発生しやすいようです。また、慢性便秘症の方は、腸が長い方やねじれている方が多く、大腸カメラの挿入が難しく痛みが出やすいといわれています。

2.2.腸の炎症などで痛みに対して敏感になっている方

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患のある方は、炎症のある部位に内視鏡が接した時や、腸管が腫れて狭くなり内視鏡の挿入が困難な場合など、大腸カメラ検査では痛みがともないます。そのほか、過敏性腸症候群や感染性腸炎では、腸管の神経が過敏になっていることで痛みが発生しやすくなります。

2.3.おなかの手術をしたことのある方

大腸カメラ検査で痛みが出やすいのは、お腹の手術をしたことがある方です。お腹を開いた手術では約9割、帝王切開や婦人科の手術では半数以上で、腸管同士や腸管と他の臓器がくっつく癒着(ゆちゃく)が起こるといわれています。癒着があると、腸がねじれたり、折れ曲がったり、狭くなったりして、内視鏡を進めることが難しく、ある程度の圧をかけて内視鏡を進める必要があります。そのため、腸が押されたり引っ張られたりすることで、痛みが発生する原因となります。


3.大腸カメラの検査で生じる痛みを防ぐには

どうしたら大腸カメラ検査の痛みを防ぐことができるのでしょうか。最近では、大腸カメラ検査にともなう痛みを防ぐ、さまざまな方法が普及しています。当院でおこなっている方法も含めてご説明します。

3.1.静脈麻酔を利用して検査を受ける

少量の鎮静薬(眠り薬)を静脈内に注射や点滴で投与すると、うとうとしている状態で検査を受けられるため、検査中の痛みや不安感をやわらげることができます。完全に寝てしまう方もいますが、意識下鎮静といって、医師の呼びかけなどには答えることができる程度の状態です。当院でも、大腸カメラでは原則として鎮静剤を使用して、痛みが少ない検査をおこなっています。

3.2.軸保持短縮法と水浸法で内視鏡を挿入する

痛みを軽減する内視鏡の挿入方法として、軸保持短縮法と水浸法があります。それぞれの検査方法は以下に説明します。

■ 軸保持短縮法

軸保持短縮法とは、できるだけ腸管を伸ばさないようにして、内視鏡を腸の奥まで挿入する方法です。大腸のひだを折りたたんで短縮し、大腸の軸を保ちながら、できるだけ腸をまっすぐにして内視鏡を進めます。イメージとしては、長い靴下をはく時に靴下を手繰り寄せて短縮すると、足を入れやすいのと同じです。この方法の場合、内視鏡を挿入する時の腸管が押されたり引っ張られたりする痛みをやわらげることができ、腸管への負担も少なくなります。
軸保持短縮法のバリエーションとして、軸保持短縮法の際に空気を入れずに内視鏡を挿入する「無送気軸保持短縮法」や、軸保持短縮法と以下の「水浸法」を組み合わせた方法など、さらに痛みが少ない挿入方法がひろくおこなわれています。

■ 水浸法

水浸法とは、内視鏡を挿入する際に、腸管に入れる空気やガスの代わりに、水を注入する方法です。直腸からS状結腸に内視鏡の先端から少しずつ水を注入すると、水の重みである程度腸管が固定され、水が充満した分だけ腸管がひろがるため、空気やガスのように腸が伸びることなく、痛みが発生しません。また、水の流れを利用して内視鏡を奥へ進めることができ、挿入がスムースで盲腸への到達時間も短くなります。

3.3. 空気以外の方法で腸を広げる

内視鏡を挿入する際に、空気を入れて視野を確保しますが、空気の代わりに炭酸ガス(CO2)を入れると、検査中や検査後の痛みが少なくなることがわかっています。当院でも、大腸カメラ検査では炭酸ガスを用いていますが、炭酸ガスは空気よりすみやかに腸管から吸収されるため、腸管内に空気が長時間とどまることがなく、お腹が張る感じや痛み、不快感が少なくなります。


4.検査中の痛みをやわらげるポイント

大腸カメラ検査では、痛みをやわらげる検査方法が進んでいますが、さらに苦痛の少ない検査を受けるために、ご自身ができるポイントを紹介します。



4.1.内視鏡の専門医のいるクリニックを選ぶ

痛みが少ない検査方法が開発されたものの、屈曲して伸びやすい大腸に内視鏡を挿入するには、高い技術と豊富な経験が必要です。そのため、内視鏡の専門医のいるクリニックを選びましょう。当院では、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医の資格を持った医師が検査をおこないますので、安心して検査を受けていただけます。

4.2.不安や緊張を緩和させる

心理的なストレスがあると、痛みに敏感になるといわれています。大腸カメラ検査では、下剤の前処置に対する不安、検査時の恥ずかしさ、痛みに対する恐怖感など、さまざまな心理的ストレスが生じるため、痛みをやわらげるには安心してリラックスできる環境も大切です。例えば、プライバシーに配慮されている、施設に清潔感がある、感染対策が万全であるなどは、不安や緊張をやわらげるために必要な環境的要素といえます。

当院では、前処置に対する不安に対応するために、下剤を飲むための専用スペースや、前日からの短期入院が可能です。検査後のリカバリー室もプライバシーに配慮し、ゆっくり休息を取っていただけます。また、内視鏡は体の中に入るため、どのように洗っているのか、消毒や滅菌されているかなど、不安に思うこともあるでしょう。当院では、日本消化器内視鏡学会が推奨する高水準の洗浄機器や滅菌機を導入し、万全の感染対策をおこなっています。

4.3.特段の事情が無い限り麻酔を利用する

以下のような特段の事情がない限り、麻酔を利用して痛みが少ない状態で検査を受けることをおすすめします。大腸カメラ検査では、腸の長さや形状は個人差があるため、内視鏡の挿入に熟達した医師が痛みの少ない方法で上手に挿入しても、痛みが発生することがあるからです。

■ 検査後に自動車や機械の運転をする必要がある場合
麻酔薬を利用することはできないため注意が必要です。検査日の変更を含めて検討しましょう。

■ 各種アレルギーをお持ちの方
アレルギーと診断されている方や、以前に、薬剤や食物で、ジンマシンや発疹、かゆみ、呼吸困難、顔の腫れなどが出たことがある方は、麻酔薬だけでなく、検査中に使用する薬剤が使用できない場合があります。しかし、利用できる他の薬剤がある場合もあるので、必ず事前に医師に相談しましょう。

■ 高齢者や基礎疾患のある方
麻酔を利用すると、呼吸が弱くなったり、血圧が下がったり、予想以上に意識レベルが低下したりするリスクが大きくなります。高齢者や基礎疾患のある方でも、検査前の全身状態や基礎疾患に合わせた適切な麻酔薬を使用できる可能性があります。必ず事前に医師に相談しましょう。

■ 妊娠、授乳中の方
可能であれば検査の時期を延期します。また、麻酔をかけた後の授乳は避けるようにしましょう。


5.まとめ

大腸カメラ検査では、大腸に内視鏡を挿入する際に、腸管が押されたり、引き延ばされたりすることで痛みが生じることがあります。また、腸管に入れる空気によって、お腹が張った感じや不快感をともなう場合があります。特に、臓器に固定されていないS字結腸や横行結腸、屈曲がきつい脾彎曲や肝彎曲は痛みが発生しやすい部位です。もちろん、腸の形や長さは人それぞれ違うため、検査にともなう痛みも個人差がありますが、女性ややせ型の方、おなかの手術をしたことのある方などは、痛みが強く出る傾向にあります。
痛みが少ない大腸カメラ検査には、医師の経験やスキルが重要な部分を占めていますが、静脈麻酔を使用してうとうとしている間に検査をしたり、腸管ができるだけ伸びたり引っ張られたりしない挿入方法などもあります。
当院では、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医の資格を持った医師が、内視鏡の径が細く腸管に負担の少ない最新の機器を使用して大腸カメラ検査をおこなっています。
また、検査の技術だけではなく、患者さまの苦痛を軽減することも重視しました。例えば検査への恐怖心や痛みを和らげるために鎮静薬を使用して、うとうと眠ったまま検査を受けることができるようにしたり、腸管に吸収されやすい炭酸ガスを使用したりすることで「お腹の張り」「痛み」「違和感」を和らげることを実現しました。その他、検査前から検査後まで、院内や短期入院での前処置をはじめ、あらゆる不安に対応してリラックスして検査を受けていただける環境も整えています。

大腸カメラ検査は、大腸がんの予備軍ともいえるポリープや、大腸がんなどの病気を見つけるためにとても有効な手段です。ただし、一度でも痛い経験をすると消極的になりがちです。
当院の「COKU」という名称は、「限りなくゼロに近い」という意味で、検査にともなう心のストレスも体の痛みも限りなくゼロに近づけることを心がけています。当院の痛みの少ない大腸カメラ検査を定期的に受けることが、大腸がん予防と健康維持につながるため、是非一度ご相談ください。

2024.07.13

朝、トイレから立ち上がって便器を見たら血で真っ赤に染まっていた、あるいはこれまでに見たことのない黒っぽい便が出たなど、突然の血便に驚かれることがあるかもしれません。「血便」の文字から、赤い血の色を想像される方も多いと思いますが、血便の色や硬さ、形状はさまざまです。本記事では、血便の種類や疑われる病気について解説し、血便が出た際の原因を調べる大腸カメラ・胃カメラ検査や治療方法についてご紹介します。

1.血便とは

血便とは、胃や腸から肛門までの消化管内で出血した血液が混じった便のことをいいます。血便の色は、黒に近い赤から鮮血が混じった真赤な便までさまざまですが、腸のなかにいる時間が長いほど血液は黒っぽくなり、出血している場所が肛門に近いほど鮮やかな赤色になります。ただし肛門から遠い部位の出血でも、大量に出血した場合は赤みの強い血便になることがあります。

2. 血便の種類

血便は出血している部位や出血量、腸のなかに留まっている時間によって色や形状が変わってきます。真赤な鮮血便、粘液の混じった粘血便、少し黒っぽい暗赤色便やドロドロしたタール状の黒色便までさまざまです。

2.1.鮮血便

真赤な血にまみれた便が出た、お尻を拭いたペーパーに血がにじんだ、など文字通り真赤な鮮血の混じった便を鮮血便といい、場合によっては便器一面が赤く染まるほどの出血がみられることもあります。多くは肛門の周囲や、肛門に近い部位からの出血によるものですが、肛門から遠い大腸や胃・小腸などからの出血でも、大量出血の場合は鮮血便になることがあります。
鮮血便の原因となるのは主に大腸がんやポリープ、痔などですが、前立腺がんや子宮がんなど大腸周辺のがんに対する放射線治療でも鮮血便になることもあります。

2.2.粘血便

粘血便はなんらかの病気で腸内に炎症が起こり、出血とともに粘液や膿が混じって排出される血便です。赤と茶色のまだら模様やイチゴジャムのような便が特徴的ですが、赤みが薄い場合は硬い便によって腸壁が傷つき出血している可能性があります。
粘血便の原因となる病気には、細菌性腸炎やアメーバ赤痢などによる食中毒、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性疾患などがあります。

2.3.暗赤色便

大腸に近い小腸や大腸の始まりあたりで出血があると黒っぽい赤色の暗赤色便となります。これは血液が消化液や胃酸に触れて酸化されることで、血液に含まれる色素が黒く変色するためと考えられています。

3.血便が見つかった際に疑われる病気

血便の原因となる病気はとても多く、放射線治療や医薬品の副作用が原因となることもあります。ここでは血便が見つかった際に疑われる代表的な病気について解説します。

3.1.大腸ポリープ・大腸がん

大腸ポリープとは大腸の内側にできるイボのような「できもの」のことで、ポリープに便がこすれて出血し、血便の原因となります。ただし、出血量は少ないため目で見てわかるほどの血便となりにくく、便潜血検査で発見されることが多いです。目で見てわかるほどの血便が認められる場合はポリープが大きくなっている可能性があります。暗赤色便や鮮血便がでたらなるべく早く検査を受けましょう。
ポリープには、がん化する恐れのある腫瘍性ポリープと、がんにならない良性のポリープがあります。大腸がんの多くは腫瘍性ポリープが徐々に大きくなりがん化したもので、ポリープからがんになるまでには5~10年もの年月がかかります。大腸がんの組織はもろいため、便による少しの摩擦でも出血して血便となります。
大腸がんによる出血では、鮮血便や表面に血液が付着した血便、暗赤色便や血便とわからないほど便と血液が混じりあったものなどさまざまです。そのため、血便がみられた場合はまず大腸がんが疑われます。
ポリープも大腸がんも腹痛などの自覚症状がないため気付きにくく、血便から大腸がんと診断されたときには、すでにがんが進行しているケースが少なくありません。大腸がんを早期発見するためには、大腸カメラによる定期的な検査が必要です。

3.2.痔

血便でクリニックを受診する方のなかでも特に多いのが痔による出血です。
特に代表的ないぼ痔は、肛門内でうっ血してできたコブが出たり引っ込んだりする病気です。初期には痛みがなく、排便時に「ぽたぽた落ちる」「シャーとほとばしる」ような出血がみられますが、排便後には止まります。
続いて切れ痔は、硬い便で肛門の皮膚が傷つく病気です。切れ痔は排便時に強い痛みをともなうものの、出血は少なくトイレットペーパーに血がつく程度です。
最後に、痔ろうは小さな穴から細菌が入って肛門周囲に膿がたまって慢性化する病気です。痔ろうの特徴は肛門の周囲から出る黄色い膿ですが、血液が混じって出血と間違えることがあります。

3.3.虚血性大腸炎 

虚血性大腸炎とは、お腹の左側を縦に通る大腸の一部分が血行不良になって、ただれたり潰瘍ができたりする病気です。左のわき腹から左下腹部にかけて腹痛があり、下痢をともなう血便がみられます。直接の原因は主に便秘ですが、糖尿病や高血圧など動脈硬化につながる生活習慣病の方や、高齢の女性に発症しやすいとされています。
虚血性大腸炎の血便は次の潰瘍性大腸炎と似ていますが、粘液はあまり含まれておらず、鮮血便や鮮血の混じった下痢を特徴としています。

3.4.潰瘍性大腸炎 

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜が慢性的な炎症を起こして、ただれたり潰瘍ができたりする「炎症性腸疾患」の一種です。遺伝的な要因や食生活、生活習慣などが影響していると考えられますが、はっきりした原因はわかっていません。そのため根本的な治療法が確立されておらず、厚生労働省の「指定難病」に指定されています。
主な症状は下痢や粘血便、下腹部の痛みなどで、重症化すると貧血や体重減少が起こる場合もあります。同じ炎症性腸疾患のクローン病や細菌感染による細菌性赤痢、サルモネラ腸炎と症状が似ているため、慎重な診断が必要です。
潰瘍性大腸炎の初期では、血液と粘液の混じった赤いゼリー状のものが付着した粘血便や、下痢をともなう水っぽい血便がみられ、重症化すると便よりも血液が多い下痢、真っ赤な血便がみられるようになります。

3.5.憩室出血 

大腸の壁の一部が小さな風船のように外側に向けて飛び出ている袋状ものを「大腸憩室」と呼びます。憩室自体は病気ではなく痛みや自覚症状もありませんが、時として憩室の血管が切れて出血を起こすことがあります。これを「憩室出血」といい、痛みもないのに大量の血液が便と一緒に流れ出るのが特徴です。鮮血や赤黒い血液の多量出血がみられますが、憩室出血の3/4くらいは自然に止まります。
NSAIDs(消炎鎮痛剤)や抗血栓薬には、血液をサラサラにして出血しやすくする作用があり、憩室出血はこれらの薬を常用している方に起こりやすく、出血が止まったあとも再出血するリスクがあります。

3.6.胃・十二指腸潰瘍

胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃酸によって胃や十二指腸の粘膜がただれてしまう病気で、みぞおちのあたりがシクシクと痛み、特に空腹時は強く痛みます。ほかにも胸やけやげっぷ、食欲不振などの症状があり、潰瘍から出血すると胃酸の影響で黒色便となります。また、消化液と混じりあうことでタール便と呼ばれるドロドロした黒い便が出ることもあります。
胃・十二指腸潰瘍の原因の多くがピロリ菌の感染によるものですが、ピロリ菌は除去した後も再感染のリスクがあります。ピロリ菌は胃がんのリスクを高めるため、定期的に胃カメラによる検査を受けることが胃がんの予防となります。

4.血便が出たらすぐに病院へ行くべき?

血便が出たけど「すぐに止まるだろう」「そのうちに受診すればいいや」などと放っておくと、重大な病気を見逃す恐れがあります。血便がでるということはなんらかの病気が隠れているサインであり、「痔だと思っていたら大腸がんだった」というケースも少なくありません。

血便がみられたらなるべく早く医療機関を受診してください。
なお、受診の際に血便の状態をきちんと医師に伝えられるよう、血便をスマートフォンなどで撮影しておくことをおすすめします。

5.血便の原因を調べる検査

これまでにあげた大腸ポリープや大腸がん、いぼ痔(内痔核)、潰瘍性大腸炎、大腸憩室など、血便の原因となる病気のほとんどは、大腸カメラ検査で診断することができます。大腸カメラ検査で血便の原因がわからない場合や、黒色便やタール便など出血部位が小腸から上の消化管にあると推定される場合は、胃カメラ検査をおこないます。

6.血便の治療方法について

血便の原因にはここであげた以外にも多くの病気が考えられ、特定の治療法を用いることはできません。それぞれの病気に応じた正しい治療が必要で、そのためにも大腸カメラ・胃カメラ検査による早期の診断が必要です。また、小さなポリープや初期の大腸がんであれば、大腸カメラによる切除処置が可能です。

7.まとめ

血便といっても色や形状はさまざまで、背後に隠れている病気も大腸がんのような生命を脅かす病気から、比較的症状の軽いものまで多種多様です。大事なことは、痛みやほかの症状がない場合でも決して放置せず、早めに医療機関を受診することです。当院では、専門医や指導医の資格を持つ医師がAIによる診断支援を含む最新の内視鏡システムを使用して対応いたします。もしも血便がみられたなら、大腸がんなどの重い病気を見逃さないためにも、まずは大腸カメラ・胃カメラ検査を受けて、症状に合わせた治療をすることをおすすめします。

胃カメラ検査(胃の内視鏡検査)は、胃がんや食道がんの早期発見だけではなく、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、上部消化管のさまざまな病気の発見や診断・処置に役立つため、消化器内科領域で特に重要な検査の一つです。
ここでは、消化器内科医が推奨する胃カメラ検査の受診年齢や、検査を受けたほうが良い症状や見つかる病気などについて詳しく解説します。胃カメラ検査で見つけることのできる主な病気や、当院の「苦痛の少ない胃カメラ検査」についてもご紹介します。


1. 胃カメラ検査は何歳から受けるべき?

胃カメラ検査は何歳から受けるべきでしょうか?胃カメラ検査の受診推奨年齢や、胃カメラ検査を受けたほうが良い症状等についてみていきましょう。


1.1. 胃カメラ検査の受診推奨年齢は40歳以上から

特に消化器に不調を感じていなくても、40歳以上の方には胃カメラ検査の受診を推奨します。なぜなら、40歳代から胃がんや食がんに罹患する人が増え始め、50歳以上になると胃がんや食がんの罹患率が本格的に増えるからです。胃がんや食道がんは、初期の段階では症状を自覚しづらく、発見が遅れがちです。40歳を過ぎたら、2〜3年に1回のペースで胃カメラ検査を受けることで、病気の早期発見・早期治療につなげることができます
ただし、次のような症状がある方は、年齢に関わらず胃カメラ検査を受けることをおすすめします。

1.2. 胃カメラ検査の受診を推奨する症状
以下のような症状がある方は、胃や食堂などに何らかの病気が潜んでいる可能性がありますので、年齢に関係なく、胃カメラ検査を受けることをおすすめします。

■ 胃痛、胸痛
■ 便の色がおかしい(黒っぽい)
■ 胸やけ・吐き気
■ 食べ物が飲み込みにくい
■ 体重減少・腹部膨満

その他、以下の生活習慣や背景のある方も、胃がんなどの罹患リスクが高いため、定期的に胃カメラ検査を受けることを推奨します。

■ 検診で食道・胃・十二指腸などの異常を指摘された
■ 飲酒習慣がある
■ 喫煙習慣がある
■ 肥満
■ 胃がんの家族歴がある(身内に胃がんにかかった人がいる)


1.3 ピロリ菌が見つかった方は定期的に胃カメラ検査を

胃内にヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染が見つかった方は、1~2年に1回のペースでの定期的に胃カメラ検査を受けることをおすすめします。ピロリ菌に感染していると、胃粘膜に慢性的な炎症が起き、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの病気を引き起こすリスクが高くなります。また、ピロリ菌に感染している方では、感染していない方に比べて、胃がんの罹患リスクが5倍になると報告されています。定期的に胃カメラ検査を受けることで、病気の早期発見、早期治療につなげることができます。

2. 胃カメラ検査で見つかる病気等

胃カメラ検査は、上部消化管に起こりうるさまざまな病気の早期発見に有効な検査です。胃カメラ検査で見つかる主な病気などについてみてみましょう。


2.1. ピロリ菌感染の有無

胃粘膜の状態を観察することでピロリ菌の感染の有無を調べることができます。ピロリ菌感染を放置していると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に罹患する場合があります。また、萎縮性胃炎が進行し、その一部が胃がんに進展すると考えられています。したがって、ピロリ菌が見つかった場合には、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発症リスクや生涯の胃がんのリスクを下げるため、内服薬を処方し、除菌治療をおこないます。

除菌方法は、
・胃酸を抑える薬1種類 (ボノプラザン)
・抗菌薬2種類(クラリスロマイシン+アモキシシリンか、メトロニダゾール+アモキシシリン)
の合計3種類の組み合わせを、1日2回朝夕、7日間服用します。
当院では便利なパック製剤を使用しています。

ピロリ菌を除菌した後も、胃がんリスクがゼロになるわけではありませんので、胃カメラ検査を受けることをおすすめします。


2.2. 胃がん

胃がんは、症状を自覚しづらいため、発見が遅れがちですが、胃粘膜表面を直接観察できる胃カメラ検査であれば、早期に発見することができます。がんが疑われる部位を見つけた場合は、組織を採取し、がん細胞の有無を調べるために生検に出し、がん細胞がみつかれば確定診断ができます。胃がんというと怖い病気のイメージがありますが、最も初期のステージⅠで早期発見し、適切な治療をおこなうことができれば、5年生存率は90%以上であり、根治が目指せます。


2.3. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍など

胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、胃または十二指腸の粘膜が強度に荒れて、ただれている状態です。胃潰瘍・十二指腸潰瘍になると、たいていみぞおちの痛みや吐き気、嘔吐、腹部膨満感などの自覚症状があり、ひどいと潰瘍から出血し、吐血やタール便(ドロドロした黒っぽい便)が出ます。しかし中には、潰瘍があっても自覚症状がなく、胃カメラによる胃がん検診で偶然発見されることも少なくありません。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さまの約80~90%はピロリ菌に感染していることや、ピロリ菌除菌治療によって、1年間の再発率が胃潰瘍で65%→11%、十二指腸潰瘍で85%→6%へ著明に低下することがわかっています。そのため、胃カメラ検査で胃潰瘍や十二指腸潰瘍が見つかった場合は、除菌治療をおすすめします。

3. 胃カメラ検査とバリウム検査の違い

バリウム検査と胃カメラ検査は、いずれも上部消化管内に異常がないかを調べる検査です。

胃カメラ検査は、スコープを胃の中まで挿入し、先端に内蔵したCCDカメラで、粘膜の形態変化(凹凸)や色調変化を直接観察する検査です。カメラを飲みこむことに不安を感じる方がおられますが、初期の小さな病変やわずかな色調変化を発見しやすく、疑わしい部位が見つかったときは同時に生検をおこない、確定診断することができます。

一方、バリウム検査は、バリウムという造影剤と発泡剤(胃を膨らませる薬)を飲み、レントゲン(X線)で撮影して消化管の様子を見る検査です。炎症や潰瘍、腫瘍による粘膜表面の凹凸や狭窄(せまくなっているところ)などを白黒の印影で映し出します。バリウム検査は、自治体や会社の検診などに付いていることもあるので、受けやすい検査ではありますが、カラーでの観察ができないことや、ごく初期の小さな異常を見つけにくいなどのデメリットがあります。また、万が一異常が見つかった場合には、胃カメラでの精密検査が必要になります。二度手間にならないためにも、初めから胃カメラ検査を受けることをおすすめします。

4. 痛みの少ない検査方法はある?

かつて胃カメラ検査は「痛い・苦しい」というイメージがありました。しかし、検査機器や検査技術の発達によって、現在では痛みや苦痛の少ない検査方法を選択できるようになっています。

胃カメラ検査にともなう痛みや苦しさが心配な方は、「経口内視鏡検査」に鎮静剤(眠り薬)を併用することで、うとうとと眠っている間に苦痛なく検査を受けることができます。もちろん個人差はあるものの、カメラ挿入時の嘔吐反射や、喉の痛み・圧迫感を感じることはほとんどありません。

ただし、鎮静剤を使用したくないという場合は、カメラを鼻から挿入する「経鼻内視鏡検査」を選択し、苦痛を軽減する方法もあります。鼻から挿入する経鼻内視鏡検査のほうが、覚醒下でも嘔吐反射を起こしにくく、管も細いため、喉を通過するときの圧迫感や痛みも少なくて済むことがほとんどです。ただ鼻腔内が狭い人の場合、カメラが鼻の中を通るときに痛みが生じることや、カメラの挿入ができないことがあるため、最適な検査方法については医師と相談しましょう。

5.当院の胃カメラ検査について

当院の胃カメラ検査は、最新鋭の内視鏡システムとAIによる見落とし防止システムなどの最新技術を導入し、専門医・指導医の資格を持った医師による正確な検査・診断を実施するとともに、鎮静剤を併用しながら、患者さまにとって苦痛の少ない胃カメラを提供しています。

5.1. 最新の内視鏡システムを利用

当院の内視鏡システムは富士フィルム社製のELUXEO 8000システム(2024年6月発売)を導入しています。メインの内視鏡は先端部径5.8mmという極めて細い高画質細径カメラを採用しており、操作性にも優れています。さらに、富士フィルム社製の「AIによる見落とし防止システム:CAD EYE」を組み合わせることで、正確な診断結果を導きます。検査中に疑わしい部位を発見し、組織採取や処置が必要になった場合も、先端部径9.8mmという極めて細い処置用内視鏡を使用し、安全かつ迅速に対応します。

5.2. 専門資格を持った医師が検査を実施

日本消化器内視鏡専門医・指導医の資格を持ち、総合病院での経験が豊富な医師が検査・治療をおこないます。

日本消化器内視鏡専門医とは、医師の中でも消化器内視鏡診療に関する豊富な学識と経験を有する医師に与えられる資格で、取得するためには日本消化器内視鏡学会に5年以上所属し、消化器内視鏡学会が定めた研修や実技経験を積み、試験をクリアすることが求められます。

日本消化器内視鏡指導医は、専門医の資格を取得後、さらに3年経過し、高い診療能力と若手医師に対しての専門医取得のための指導がおこなえる能力を有する医師に与えられる資格です。

国内で胃カメラ検査を実施している医師の全てがこの専門医・指導医資格を持っているわけではないため、専門医・指導医による検査が受けられるのは、当院の大きな強みの一つです。

5.3. 検査後はリカバリー室で回復してから帰宅

当院では、鎮静剤を投与し眠った状態で楽に胃カメラ検査が受けられます。鎮静剤を使用した方は、検査後、リカバリー室でゆっくりお休みいただき、はっきりと意識が回復してから帰宅していただけます。

6. まとめ

胃カメラ検査は、胃などの上部消化管の病気の早期発見に欠かせない重要な検査です。上部消化器の病気は自覚症状がないことも多いため、不快な症状がない方でも、40歳を過ぎたら胃カメラ検査を定期的に受けることをおすすめします。胃カメラ検査を受ける間隔は、症状の有無やピロリ菌感染の有無によって個人差があるので、医師とよく相談しましょう。
胃カメラ検査といえば、苦しい・痛いというイメージを抱きがちですが、当院では、苦痛の少ない胃カメラ検査を提供しています。最新鋭の検査機器、経験豊富な医師による手技、検査方法の工夫によって、楽に検査を受けていただけますので、胃カメラ検査に不安のある方や、過去の検査で苦しい思いをした方も、気軽にご相談下さい。

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