医療コラム
太ももの付け根あたりにピンポン玉のようなふくらみができる鼠径(そけい)ヘルニア。脱腸とも呼ばれるこの病気は、一度発症すると自然治癒することはなく、治療するためには外科手術が必要です。
では、鼠径ヘルニアの症状に気付いた場合は、何科を受診すればよいのでしょうか。
今回は、鼠径ヘルニアを発症した時に受診すべき診療科や、受診すべきタイミングについて詳しく解説します。
鼠径(そけい)ヘルニアとは、「鼠径部」と呼ばれる太ももの付け根の筋膜の一部に穴が開き、本来腹腔内にある小腸や大腸などの組織が外に飛び出してしまう病気です。別名、「脱腸」と呼ばれることもあります。
鼠径部の皮膚のすぐ下に腸の一部が飛び出してくるので、柔らかくぽっこりしたふくらみができます。ごく軽度の鼠径ヘルニアでは、痛みなどの症状がともなわないことも多く、ふくらみの部分を手で押したり、仰向けで横になったりすると、お腹の中に戻っていきます。しかし、排便やくしゃみ、重いものを持つなどの動作や長時間の立ち仕事などでお腹に圧力がかかると、再びふくらみがぽっこりと出てきます。
放置していると、だんだんふくらみが大きくなってきて、鼠径部のツッパリ感や違和感、痛みなどの症状が出たり、便の通りが悪くなることによって便秘になったりすることもあります。
一度鼠径ヘルニアになると、自然治癒することはなく、医療機関での治療が必要です。
鼠径ヘルニアは腸が飛び出してしまう病気で、根治するためには、鼠径部の筋膜に開いてしまった穴を塞ぐ外科手術が必要です。
一般外科、消化器外科を掲げている病院や総合病院、鼠径ヘルニア専門病院などの医療機関を受診しましょう。
医療機関では、鼠径ヘルニアの位置や大きさを医師が診断し、最善の手術方法を選択し、提案します。
鼠径ヘルニアの手術には、開腹しておこなうものや、腹腔鏡を使っておこなうものなどいくつかの方法があります。以前は、数日入院して手術を受けるのが一般的でしたが、近年では、医療機器や技術の進歩により、日帰りでの手術が可能なケースも増えてきています。
こどもの鼠径ヘルニアは小児科外科の領域になりますので、かかりつけの小児科や小児外科のある総合病院にご相談ください。
鼠径ヘルニアの治療のための病院選びでは、患者さんご自身の症状や生活状況に合った医療機関を選ぶことが大切です。
鼠径ヘルニアの治療は、一般外科または消化器外科を掲げた医療機関であれば受けることができますが、病院によって、病院形態や得意とする手技、日帰り手術への対応の可否など、違いがあり、それぞれに特色があります。
まず総合病院では、さまざまな合併症に対応できる体制が整っているため、心臓病や糖尿病などの重い持病がある患者さんの受け入れが可能という利点があります。しかし大勢の医師が所属し、毎日さまざまな病気の手術を受け入れているので、鼠径ヘルニアの手術に特化した病院と比較すると、手術経験が少ないケースもあります。また、日帰り手術に対応している施設が少なく、入院手術が中心になります。
一方、鼠径ヘルニア専門の日帰りクリニックは、鼠径ヘルニア手術の症例数が多く、内視鏡手術などの負担の少ない手術を得意としているため、日帰りを希望する患者さんや、軽症例の患者さんに適しています。ただし、術後は自宅で過ごすことになるため、術後の経過観察で不安を抱く方もおられます。また入院を必要とするような比較的大きい手術には対応できないのが大きなデメリットです。
そして当院をはじめとする消化器外科病院は、消化器領域の手術に特化しているため、症例数が豊富で、内視鏡手術から短期入院をともなう手術まで柔軟に対応することができます。当院では、入院設備も完備しているため、日帰り手術と入院手術の両方に対応しています。そのため例えば、「日帰り手術を予定していたけど、術後の状態次第でやっぱり入院したいかも」という場合でも対応可能です。
このように、鼠径ヘルニアの手術は、医療機関ごとに受け入れ態勢や選択できる治療が異なる傾向があります。できるだけ負担や不安が少なく、希望する治療が受けられるよう自分に合った医療機関を受診しましょう。
太ももの付け根あたりに「ピンポン玉のようなふくらみがある」「ふくらみが大きくなったり引っ込んだりする」「つっぱり感や痛みがある」などの症状に気付いたら、すぐに受診しましょう。
冒頭でもお伝えしたように、初期の鼠径ヘルニアは痛みもほとんどなく、手で押したり、仰向けになるとふくらみがおなかの中に戻ります。そのため、気になりながらも放置してしまう人が少なくありません。しかし、鼠径ヘルニアは自然治癒することはなく、完治するためには筋膜の穴を閉じる外科手術が必要です。この手術は、症状が軽いほど身体への負担が少なくなるため、早期発見・早期治療がとても重要です。
鼠径ヘルニアの治療をせずに放置していると、嵌頓(かんとん)という深刻な状態になることがあります。これは、ふくらみの部分が戻らなくなり、腸閉塞を起こすような命にかかわる状態です。嵌頓を起こすと、患部が熱を持って硬くなり、激しい痛みに襲われ、緊急手術が必要になります。できるだけ負担の少ない手術で完治できるよう、早めの受診をおすすめします。
鼠径ヘルニア(脱腸)は、鼠径部の筋膜に穴が開き、腸が飛び出してしまう病気です。一度発症すると、自然治癒することはないため、外科手術で治療する必要があります。
鼠径ヘルニアの治療は、消化器外科や一般外科で受けることができます。これらの診療科を受診するにあたっては、総合病院、鼠径ヘルニア専門クリニック、消化器外科病院などの医療機関それぞれの特徴を理解し、患者さん自身が希望する治療が受けられる医療機関を選択することが大切です。近年では、軽症の鼠径ヘルニアであれば日帰りで手術できるケースも増えており、治療を開始するタイミングが早いほど、患者さんへの負担も少なく治療することができます。鼠径ヘルニアが疑われるような症状がある場合は放置せず、早めに受診し、早期に治療しましょう。
40代以上の男性に発症することの多い鼠径(そけい)ヘルニア。鼠径ヘルニアは、ごく症状の軽いものであればすぐに手術をせずに経過観察をすることもありますが、悪化させないためには日常生活での制限や注意点も多く、手術でしか根治できない厄介な病気です。鼠径ヘルニアを未然に予防することはできるのでしょうか?
今回は、鼠径ヘルニアを予防するためにできることや、万が一鼠径ヘルニアを発症した場合の注意点などについて解説します。
鼠径(そけい)ヘルニアとは、「鼠径部」と呼ばれる太ももの付け根の筋膜の一部に穴が開き、本来腹腔内にある小腸や大腸などの組織が外に飛び出してしまう良性の病気です。40代以上の男性に比較的よくみられ、鼠径部にぽっこりとした柔らかいふくらみができます。通常、ふくらみを手で押すと、一時的にお腹の中に押し戻すことができますが、立ち仕事をしたり、お腹に入れたりするたびに、また同じところにふくらみができるという特徴があります。一度鼠径ヘルニアになると、自然にふさがることはなく、内服薬による治療もできないため、根治するには手術が必要です。ただし、鼠径ヘルニアの程度が軽い場合は、すぐに手術をせずに仕事などのスケジュールとあわせて治療時期を調整することも可能です。
残念ながら、鼠径ヘルニアを未然に防ぐ医学的な方法は確立されていません。
ただし、鼠径ヘルニアは、
などに起こりやすいといわれています。これらに共通するのは、おなかに力を入れる機会が多いということです。
また、喫煙習慣も鼠径ヘルニアの危険因子であるとの報告もあります。
鼠径ヘルニアは、加齢にともなっておなかの筋膜が弱くなり、おなかの圧力を支えきれなくなるなどの要因が重なって鼠径ヘルニアが起こると考えられています。
このことから、鼠径ヘルニアになりやすい要因を遠ざけることで、ある程度鼠径ヘルニアの発症リスクを減らせる可能性があります。
鼠径ヘルニアを予防するために、日常的に心がけたほうがよいことや習慣について具体的にみていきましょう。
内臓脂肪が多く、肥満ぎみの人は、常にお腹に圧がかかった状態になるため、鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。また、便秘ぎみの人も、排便時におなかに圧がかかるため鼠径ヘルニアのリスクが高まります。心当たりのある人は、普段の食習慣を見直し、肥満や便秘を解消しましょう。内臓脂肪や肥満を解消するためには、栄養バランスの取れた食事を規則正しくとることが大切です。具体的には、主食、主菜、副菜のそろった献立を基本に、野菜や果物、豆類、乳製品などを積極的に取り入れて、ビタミン、ミネラル、食物繊維が不足しないように注意しましょう。食物繊維や発酵食品を積極的に摂ると、便秘解消にも役立ちます。
食べ方にも工夫が必要です。内臓脂肪を減らすためには、食事は腹八分目にして、夜食や甘いものも控えるようにしてください。ゆっくりよく噛んで食べるように心がけると、満腹感が得られやすくなり、食べる量を無理なく減らすことができます。
喫煙習慣のある人は、たばこをやめましょう。喫煙していると、慢性的な炎症によって気道がせまくなり、呼吸のたびにお腹に余計な力が入るようになるので、鼠径ヘルニアの発症リスクが上がると考えられています。また喫煙は、鼠径ヘルニアの手術を受けた後の回復を妨げたり、術後肺炎などの感染症や心筋梗塞などの術後合併症の発症リスクを高めたりするという報告もあります。鼠径ヘルニアを未然に防ぐためにも、発症後のリスクを抑えるためにも禁煙することが大切です。
生活の中に適度な運動習慣を取り入れましょう。運動が不足すると、肥満の原因になるだけでなく、腹壁の筋力が低下して、鼠径ヘルニアの発症や悪化につながる可能性があります。適度な運動をして、鼠径ヘルニアを引き起こす肥満や筋力低下を防ぎましょう。ただし、お腹に力を込めるような過度な筋力トレーニングをすると、腹圧が上がって、逆に鼠径ヘルニアを誘発してしまいます。過度な筋力トレーニングではなく、ウォーキングなどの有酸素運動をおこない、運動量を調整しましょう。健康をキープするための運動としては、うっすら汗をかくぐらいの強度で30分程度のウォーキングを週に3~4回を目安におこなうとよいでしょう。また日常生活では、家事や通勤、通学などでも積極的に身体を動かすように意識しましょう。
腹圧がかかる動作を控えましょう。たとえば、長時間立ったままの姿勢でいる、重いものを持ち上げる、大きな咳やくしゃみをする、排便時に長時間いきむなどの動作は、お腹に力が入って鼠径ヘルニアのきっかけになります。立ちっぱなしにならないように休憩する、重いものを持つのを控えるなどして、身体への負担を減らしましょう。便秘ぎみの人は、食習慣を見直してお通じを良くするなどの工夫をし、排便時に腹圧がかかるのを防ぎましょう。咳やくしゃみを勢いよく出してしまう人は、できるだけ小さく出せるように心がけてください。ただし、日常生活で心がけていても、便秘や慢性的な咳やくしゃみが治まらない場合は、医療機関を受診し、しっかり治療することが大切です。
いくら気を付けていても、鼠径ヘルニアを発症してしまうリスクはあります。ここでは鼠径ヘルニアになった際に注意すべき点について紹介します。
鼠径ヘルニアを発症したら、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
鼠径ヘルニアは、初期の段階ではただふくらみがあるだけですが、進行するとだんだんふくらみも大きくなり、痛みも出てくるようになります。放置していると、嵌頓(かんとん)といって、ふくらみの部分が戻らなくなり、腸閉塞を起こすような重篤な状態に陥ることもあり、こうなってしまうと緊急手術が必要になります。
鼠径ヘルニアは、腸を包み支えている筋膜が弱って穴が開き、そこから腸が出てきてしまう病気であるため、症状を改善するためには、お腹の筋肉を鍛えればよいのではと思うかもしれません。しかし、鼠径ヘルニアを発症した後に筋力トレーニングを一生懸命おこなっても、筋膜を鍛えることはできず、そもそも一度筋膜に開いた穴を自力でもとに戻すこともできません。それどころか、無理に筋肉トレーニングをすると、力を入れた瞬間に腹圧がかかってしまい、かえって鼠径ヘルニアの症状を悪化させてしまいます。ヘルニアの症状を根本的に改善するためには、外科的な手術によって筋膜に開いてしまった穴をふさぐ意外に方法はありません。自己判断で症状を改善しようとせずに、できるだけ早く医師に相談するようにしましょう。
鼠径ヘルニアを確実に予防する方法は確立されていないのが現状です。しかしながら、鼠径ヘルニアは40代以上の男性に多く、肥満や便秘症、前立腺肥大症の人、よく咳込む人、立ち仕事や重い荷物を持つ動作の多い人など、おなかに圧がかかる機会が多い人や喫煙習慣のある人に発症しやすいことがわかっています。したがって、鼠径ヘルニアになりやすい年齢になったら、生活習慣や普段の行動を見直し、鼠径ヘルニアの発症リスクを遠ざけるようにしましょう。ただしいくら気を付けていても、鼠径ヘルニアを発症してしまうことはあります。症状に気付いたときは、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。症状があるにも関わらず、おなかに圧のかかる生活を続けていたり、自己流の筋力トレーニングをしたりすると、鼠径ヘルニアの悪化につながります。鼠径ヘルニアは、放置していても自然治癒することはないため、早期のうちに適切な治療を受けましょう。
俗に脱腸とも呼ばれる鼠径ヘルニアは、皮膚の下に腸などの内臓が飛び出してしまう病気で、便秘が原因のひとつともいわれています。なぜなら便秘は腸内の圧力を高め、排便時に腹圧がかかることで、鼠径ヘルニアのリスクを高める可能性があるからです。特に、慢性的な便秘は腹部の筋肉や組織に負担がかかり、鼠径ヘルニアが発生しやすくなるといわれています。このように、便秘と鼠径ヘルニアの関連性は非常に重要です。本記事では、鼠径ヘルニアと便秘の関係性や、鼠径ヘルニアの予防にもつながる便秘の効果的な対処方法について詳しく解説します。
太ももの付け根のあたりを「鼠径部」といいますが、鼠径部の皮膚の下にある筋肉を包む膜である筋膜が弱くなって、おなかの中にある腹膜や腸の一部が袋状に飛び出してくることがあります。これが鼠径ヘルニアという病気で、俗に「脱腸」とも呼ばれます。ピンポン玉のようなふくらみが現れるのが特徴で、中高年男性に多くみられ、統計によると成人男性の3人に1人が生涯のうち一度は発症するといわれています。
多くの場合、鼠径ヘルニアは命にかかわるような重症化に至りませんが、患部の見栄えが悪いだけでなく、時として日常生活のさまたげにもなります。さらに、一度ヘルニアが起きてしまうと手術以外に治療の方法がないため、まず予防が重要だといえるでしょう。
便秘は鼠径ヘルニアの発症や悪化に寄与する重要な要因です。便秘により排便時に過度の力を入れることで腹圧が上昇し、これが鼠径部に負担をかけます。特に慢性的な便秘は、既存の鼠径ヘルニアを悪化させるリスクを高めます。また、鼠径ヘルニアがあると排便が困難になり、便秘がさらに悪化する悪循環が生じることもあります。したがって、便秘の予防と改善は鼠径ヘルニアのリスク軽減に重要です。
鼠径ヘルニアのリスクを回避するだけでなく、健康で楽しい毎日を送るためにも、しっかりと便秘の対処法を実践しましょう。
3.1. 生活リズムを一定にする
大腸の働きは自律神経によって調節されていて、副交感神経が優位になることがスムーズな排便につながります。反対に交感神経が優位になると大腸は動きを止めて排便しにくくなります。不規則な生活リズムは自律神経のバランスを崩してしまい、便秘が起こる原因につながります。
生活リズムを一定にするための基本は、まず睡眠をしっかりとることです。就寝前のスマホや明るすぎる照明は交感神経を優位にして睡眠不足の原因となります。食事や入浴も寝る2時間前には済ませるように心がけましょう。
起床したらカーテンを開けて日の光を浴び、軽く体を動かしましょう。そして朝食をしっかりとることで体内時計がリセットされ、自律神経のバランスが整います。朝食は大腸を目覚めさせる刺激になるので、朝食後はトイレに行く習慣をつけましょう。毎日同じ時間にトイレに行くことが快適な排便習慣につながる第一歩です。
3.2. こまめにトイレに行く
トイレにこまめに行くことも、便秘の改善には重要な習慣です。したいときに我慢することが続くと、大腸に便がたまったことを脳に知らせる排便反射が弱くなってしまいます。せっかく大腸が脳へ排便のタイミングを知らせるシグナルを送っているのに、脳が反応しなくなってしまい、便秘を引き起こすきっかけになってしまいます。したいときには我慢せずこまめにトイレに行きましょう。
また、排泄は、副交感神経というリラックス状態のときに優位になる神経が関わっているため、まずはリラックスすることが大切です。そのためトイレにはリラックスできる環境を整えることも大切です。トイレのデザイン、照明や色調、換気や消臭などに気を配り、快適に過ごせるトイレにすることで、排便ストレスから解放されやすくなります。トイレが快適な空間ならこまめに行くことも苦ではなくなり、規則正しい排便習慣が身につきやすくなります。
3.3. しっかり水分を摂る
大腸の役割は小腸から送られてきた食べ物のカスや腸内細菌の死骸から水分を吸収して大便をつくることです。通常、排泄された便の成分は水分が70~80%、固形物が20~30%の割合となっていますが、便が大腸内にとどまっている時間が長いほど、便は水分を吸収されて固形物の割合が増えて硬くなります。
便が硬くなると排泄しづらくなるという悪循環におちいってしまいます。そのためしっかりと水分をとることは便秘の改善にとても重要で、便のやわらかさを維持するには、成人なら1日に1.5~2リットル以上の水分補給が目安となります。
3.4. 食生活を整える
便秘の改善には食生活を整えることがとても大切です。規則正しい食事のタイミングや栄養バランスのとれた食事内容はもちろんですが、おなかの調子を整えて大腸の働きを活発にする食物繊維や発酵食品を積極的にとりいれることが便秘の改善につながります。
食物繊維には野菜やイモ類、豆類などに多く含まれる不溶性食物繊維と、リンゴ、バナナなどのフルーツや海藻類に多い水溶性食物繊維があります。消化されない不溶性食物繊維は水分を吸って便のかさを増す働きがあり、大腸を内側から刺激して排便を促します。
水溶性食物繊維は水に溶けることでネバネバしたゲル状になります。便の中の水溶性食物繊維が便を柔らかくなめらかにすることで便を出しやすくしてくれます。不溶性と水溶性のバランスは2:1が理想的といわれており、両方を合わせた食物繊維の1日の摂取目安量は25gで、これは野菜なら350gに相当する量です。
また、酪酸(らくさん)には腸の働きを活発にする働きがあります。酪酸は大腸内の善玉菌が食物繊維を分解してつくり出すので、ヨーグルトや納豆などの発酵食品を積極的にとって善玉菌を増やし、より多くの酪酸を作ることが効果的です。
3.5. 適度な運動を取り入れる
運動不足は便秘の原因となる可能性があり、特に高齢の方は運動量の低下が便秘につながりやすくなります。便秘の改善にはウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が効果的とされていますが、その理由として有酸素運動には腸内の善玉菌を増やす効果と食物繊維の効果を高める2つの働きがあることがわかっています。
腹筋運動などの筋トレも便秘改善には効果的ですが、重いものを持ち上げることは鼠径ヘルニアの引き金となる可能性があるので注意が必要です。また、おなかのマッサージも便秘の改善に効果があるとされています。マッサージのやり方や時間、回数などはさまざまですが、以下のようなやり方が文献などで紹介されています。
おなかのマッサージはお風呂でバスタブにつかりながらおこなうと、お風呂の浮力による腸のリラックス効果も得られて、さらに効果的です。
3.6. ストレスをためこまない
腸は「第二の脳」とも呼ばれ、脳からの指令を待つことなく独自に活動することができます。一方で、脳と腸のあいだには密接なネットワークがあり、腸の不調が精神の不安定をもたらしたり、精神的なストレスが腸の不調を引き起こしたりすることが知られています。
緊張するとおなかが痛くなったり、便意をもよおしたりすることがありますが、逆にストレスが腸の活動を低下させて便秘になるケースも多くみられます。ストレスは腸の運動だけでなく、腸内細菌の働きも低下させてしまうため、ストレスの解消は重要な便秘対処法といえるでしょう。
社会生活を送るうえでストレスはつきものですが、ストレスを感じたらなるべくその日のうちに解消して、ストレスをためこまないことが大切です。また、お通じがないことへのあせりや罪悪感がストレスとならないように、気持ちを楽にして便秘と向き合いましょう。ストレスの解消には休養と睡眠をしっかりとることが第一ですが、運動や趣味などを通じて自分なりのストレス解消法をみつけることをおすすめします。
医療機関で鼠径ヘルニアの手術がおこなわれる回数は盲腸(虫垂炎)よりも多く、外科手術の中でもっとも多い病気です。鼠径ヘルニアは周囲の人たちが気付かないだけで、実は多くの方が悩んでいる身近な病気といえるでしょう。鼠径ヘルニアが起こる最大の要因は「腹圧」の高まりであり、便秘が鼠径ヘルニアのリスクを高めることは間違いありません。
一方、便秘の2大原因は腸の機能低下と精神的なストレスです。便秘になると、鼠径ヘルニアのリスクが一層高まることになるため、日ごろから便秘予防を心がけておく必要があるでしょう。便秘を改善するには、生活習慣・食生活・運動習慣の改善に加えてストレスをため込まないことです。全身の健康維持と鼠径ヘルニアの予防を兼ねて、今日から便秘の改善に取り組むことをおすすめします。
鼠径ヘルニアは、一般的に脱腸とも呼ばれ、太ももの付け根(鼠径部)の腹膜の筋肉に穴が開き、腸や臓器の一部が外へ飛び出す病気です。鼠径ヘルニアの発症の要因には生まれつき、遺伝といった先天的なものと、性別や加齢、腹圧のかかりやすい体勢や動作などの後天的なものがあります。遺伝的な要因については、現在のところ確証はされていないものの、近年の研究で特定の遺伝子との関連性が示唆されています。ここでは、鼠径ヘルニアの症状について触れ、発症する主な要因や遺伝性、予防法などについて解説します。
鼠径ヘルニアは、一般的に脱腸とも呼ばれ、太ももの付け根(鼠径部)の腹膜の筋肉に加齢などが原因で弱まって穴が開き、そこから、腹膜と一緒に腸や臓器の一部が外へ飛び出すことをいいます。
初期症状としては、鼠径部にやわらかな膨らみができ、立っているときは現れますが、指で押さえたり、横になったりすると引っ込んでしまう特徴があります。放置すると、急に硬くなったり、膨らみを押しても引っ込まなくなったりする「陥頓(かんとん)」という状態になることがあり、こうなると、緊急手術が必要になります。
鼠径ヘルニアは、腹膜の筋肉に穴が開くという構造的な問題のため、自然治癒することはなく、手術による治療となるため、早めに専門の医療機関を受診することが大切です。
鼠径ヘルニアの発症には、先天的な要因と後天的な要因があります。先天的な要因の場合、生まれたときからある、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき:腹膜が袋状にのびてできた出っ張り)により、乳児期から発症します。後天的な要因の場合、加齢によって腹部の筋肉が弱くなることや慢性的に腹圧のかかる動作などにより発症します。
2.1. 先天的な要因
小児の鼠径ヘルニアの原因は先天的な体の構造が関係しています。鼠径部にはお腹と外陰部を結ぶ管が通っており、これを「鼠径菅」といいます。胎児期において、男児の場合、はじめはお腹の中にある精巣が鼠径管を通って陰嚢(いんのう)へと移動します。この過程で、お腹の内側を覆う腹膜の一部が引き込まれ、袋状の構造(腹膜鞘状突起)が形成されます。
一方、女児の場合、鼠径菅を通るのは、子宮円索(しきゅうえんさく)という、子宮を支える靭帯です。この過程で腹膜の一部が大陰唇に向かって伸びることがあり、これを「ヌック菅」と呼びます。
通常、腹膜鞘状突起(ヌック菅)は、出生時に自然と閉鎖しますが、閉じずに残っていると、腹圧がかかった際に、その袋(ヘルニア嚢)の中に腸や臓器の一部が入り込み、鼠径ヘルニアを発症することがあるのです。
2.2. 後天的な要因
鼠径ヘルニアは先天的な理由に加えて、性別や加齢による腹部の筋力の脆弱化、肥満、腹圧のかかる体勢や動作による鼠径部への圧力などの要因で発症する場合があります。それぞれの要因について詳しくみていきます。
2.2.1.性別
鼠径ヘルニアは女性に比べて男性の方が、発症リスクが高く3人に1人が罹患するともいわれています。その理由の一つとして、男性の鼠径菅の弱さが挙げられます。男性の精巣は胎児期にはお腹の中に位置していますが、妊娠期間中にお腹から鼠径菅という筒状の通路を経由して陰嚢へ移動します。この移動にともない鼠径管が構造的に弱くなっているため鼠径ヘルニアが発症しやすくなります。
一方、女性の場合は、妊娠中や出産をきっかけに、鼠径ヘルニアを発症することがあります。なぜならば、妊娠後期は胎児が急激に大きくなり子宮が大きくなることで腹圧が高まり、出産時はいきむことで強く腹圧がかかるためです。
2.2.2.加齢
加齢は鼠径ヘルニアの主な原因の一つであり、特に40代以降の男性に多く見られます。加齢にともない、腹部の筋肉や筋膜が弱くなり、内臓を支える力が不足します。このため、内臓が腹膜の隙間から脱出しやすくなり、発症リスクが高まります。
2.2.3.腹圧のかかる体勢や動作
体内脂肪の重量が重く、腹圧が高く鼠径部に負担がかかりやすい肥満の方は、鼠径ヘルニアになりやすい傾向があります。また、便秘気味の方も排便時にいきむことで、腹圧がかかり鼠径ヘルニア発症の要因になります。その他、立ち仕事の人、咳が多い人、立ったり座ったり、重い物を持ち上げるなど、慢性的に腹圧のかかる体勢や動作も発症につながるため、注意が必要です。
鼠径ヘルニアの遺伝性については、いくつかの報告があります。
一つは、「コラーゲンタイプIのα1遺伝子多型」との関わりです。
コラーゲンタイプIのα1遺伝子とはコラーゲンの一部を作るための設計図となる遺伝子で骨の強度や皮膚の弾力性などに関与しています。そのバリエーション(変異)である「コラーゲンタイプIのα1遺伝子多型」と鼠径ヘルニアの発症リスクとの関連性が示唆されています。
もう一つは、「アンギオテンシン変換酵素遺伝子の多型」との関連です。
アンギオテンシン変換酵素遺伝子とは血圧などの調整などに関与しています。そのバリエーション(変異)であるアンギオテンシン変換酵素遺伝子の多型は、腹部大動脈瘤(腹部大動脈が部分的に大きくなる病気)と鼠径部ヘルニアの発症に関与することが報告されています。
いずれも、現在のところ研究段階であり、他の遺伝子や生活習慣、環境要因などとの関わりも含めて、さらなる研究が期待されています。
鼠径ヘルニアを確実に予防する方法はありません。しかしながら、急激に体重が変化しないように注意して適切な体重を維持し、日常生活で重い物を持ち上げるなどの腹圧がかかる動作や状況を避けることによって、予防できる可能性があります。
また、慢性咳嗽(まんせいがいそう:8週間以上、せきが続く)の症状や便秘による排便時のいきみ、尿閉(にょうへい:尿がまったく出ない状態)による排尿困難などで、慢性的に腹圧がかかりやすくなります。鼠径ヘルニアを発症させたないためにも、早めに治療をすることが大切です。
鼠径ヘルニアは40代以上の男性に多く、加齢による腹部の筋力の低下や腹圧をかけやすい体勢や動作などが要因になって発症する傾向があります。男性ばかりでなく、女性も妊娠や出産などをきっかけに発症することがある病気です。遺伝性については明確に証明されてはいませんが、いくつかの研究で特定の遺伝子との関連性が示唆されています。
鼠径ヘルニアは筋膜に穴があく病気のため自然治癒することはなく、根本的な治療は手術になります。患者さまの鼠径ヘルニアの種類や大きさなどのよって、リスクは異なります。また、放置すると、膨らみが大きくなって治療が困難になったり、手で押しても戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を引き起こしたりする可能性があるので、注意が必要です。
気になる症状があれば、できるだけ早く専門の医療機関に相談することをおすすめします。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のう疾患など、外科的良性疾患に対する診療・治療を専門的におこなっています。腹腔鏡手術を中心にできる限り体への負担を抑えた低侵襲治療を心がけており、日帰り手術または短期入院を選択していただけます。消化器外科領域において、経験と資格を持つ医師が、腹腔鏡手術や内視鏡治療をはじめとする先進的な治療を提供しています。鼠径ヘルニアのことで少しでも気になることがあれば、いつでもご相談ください。
鼠径(そけい)ヘルニアとは、脚の付け根にぽっこりとしたふくらみができ、そのなかに皮下脂肪や腸など臓器の一部が飛び出してしまう病気です。あまり耳なじみのない病名かもしれませんが、生涯のうちで男性がこの病気で手術を受ける割合は27~42.5%にものぼるといわれています。また、鼠径ヘルニアは発生する場所がデリケートゾーンのため、受診をためらう方も少なくありませんが、放置すると重症化する恐れがあり、早期の発見と治療が重要な病気でもあります。
ここでは鼠径ヘルニアという病気の概要、どんな痛みや症状があり、どんな症状の際に病院に行かなければならないのかをわかりやすく解説します。
両脚の付け根の部分を「鼠径部」といいますが、この部分の皮膚の下にある筋膜が弱くなって、おなかの中にある腹膜や腸の一部が袋状に飛び出してくることがあります。これが鼠径ヘルニアという病気で、俗に「脱腸」とも呼ばれます。
鼠径ヘルニアの直接の原因はおなかの筋膜が弱くなることと腹圧が高まることにあります。そのため、以下のような方は鼠径ヘルニアになるリスクが高いと考えられます。
「ヘルニア」とは内臓などの一部が、本来あるべき場所から飛び出した状態を指しており、鼠径ヘルニアとは腸など臓器の一部が鼠径部に飛び出してしまう病気を意味しています。
鼠径ヘルニアの症状が軽いうちは痛みを感じることは少なく、鼠径部に飛び出した袋状のふくらみやしこりが主な症状です。ふくらんだヘルニア部分は押し戻したり、体を横にしたりすると引っ込みますが、いきんだり、長時間立っていたりすると、再び飛び出てきます。
ヘルニアが生じることで皮膚や組織が引っ張られるため、違和感や不快感、おなかの張りなどの症状が起こることがあります。ヘルニアの袋のなかに大腸が飛び出している場合には、便の通りが悪くなるために便秘が起こることがあります。また膀胱の一部が飛び出しているときは排尿障害が起こることもあります。
飛び出した腸の一部が周囲の筋肉に締めつけられると、血流障害を起こして、強い痛みとともに便秘や嘔吐など腸閉塞の症状を引き起こすこともあります。
鼠径ヘルニアの痛みは、初期段階では軽い違和感や引きつるような痛みとして現れます。立っているときやお腹に力を入れたときに、鼠径部に柔らかい腫れが感じられ、指で押すと一時的に引っ込むことがあります。しかし、時間が経つにつれて腫れが硬くなり、元に戻らなくなることがあります。この段階では、痛みは通常軽度ですが、進行するにつれて強くなり、特に長時間立っているときや重い物を持ったときに痛みが増す傾向があります。具体的には、歩行時にチクチクしたり、皮膚が突っ張ったりするような感覚をともなうこともあります。さらに重度になると「人生で経験したことがないほどの激痛」と表現されることもあり、このような痛みは日常生活に大きな影響を及ぼします。
ヘルニアの袋は筋肉にあいた穴やすき間から飛び出していることが多く、飛び出た腸の一部が筋肉に挟まれて元に戻らなくなることがあります。この状態を「嵌頓(かんとん)」といい、筋肉と筋肉のあいだにヘルニアの部分が「はまり込んだ」状態で、経験したことがないほどの強い痛みを感じることがあります。
嵌頓状態のヘルニアは、専門用語で「急性非還納性ヘルニア(きゅうせいひかんのうせいヘルニア)」といい、急に起こって元通りに納まらなくなったヘルニアを意味します。さらに、飛び出した腸が筋肉に締めつけられて血流障害を起こした「絞扼性ヘルニア(こうやくせいヘルニア)」という状態になると、腸に壊死が起こる可能性があります。ただちに医療機関を受診しましょう。
鼠径ヘルニアによる痛みを和らげる方法の一つとして、痛み止めの使用が一般的に考えられるかもしれません。しかし、ヘルニアには市販の痛み止めはあまり効かないことが多いようです。仮に痛み止めで一時的に痛みを低減できたとしても、それはあくまで対処療法であり、ヘルニアの進行や重篤化するリスクを低減するものではありません。
一般的に初期の鼠径ヘルニアで痛みを感じることはほとんどなく、引きつるよう痛みや針で刺すような局所的な痛みの場合、体を横にしたり、手で押し戻したりして、ヘルニアを引っ込めると痛みは楽になることがあります。
ただし、痛みの原因が嵌頓によるものなら、飛び出た腸への血流が妨げられて虚血状態になっているか、もっと悪い場合は腸が壊死していることも考えられます。このような状態になっては痛み止めも効果はありません。すぐに手術が必要です。
鼠径部に痛み止めを使用したくなるほどの強い痛みを感じたら、根本的な解決のためにも、すぐに医療機関を受診して診断を受けてください。
鼠径部にふくらみやしこり、痛みや違和感が起こる代表的な病気は鼠径ヘルニアですが、以下のような別の病気や症状の可能性もあります。
<鼠径ヘルニアと似た症状や病気の例>
・鼠径部リンパ節腫大(そけいぶリンパせつしゅだい)
鼠径部にある通常2~3ミリのリンパ節が感染などで1センチ以上に腫れる症状
・鼠径部皮下腫瘍(そけいぶひかしゅよう)、鼠径部皮下膿瘍(そけいぶひかのうよう)
鼠径部の皮膚の下にしこりが生じたり、膿がたまったりしている状態
・大伏在静脈瘤(だいふくざいじょうみゃくりゅう)
下肢静脈瘤の1種で、脚の内側にある静脈にコブのような膨らみができる病気
・ヌック管水腫(ヌックかんすいしゅ)
女性に特有のヌック管という鼠径部の管に水が溜まる病気
足の付け根にしこりや痛みがある病気とは?原因や受診の目安を解説[1]
鼠径部にしこりや痛みを感じたら、鼠径ヘルニアやほかの病気が原因かもしれません。どのような病気であれ早期に診断を受けることが、適切な治療と病気の重症化を防ぐことにつながります。鼠径部に痛みや違和感を覚えたら、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
鼠径ヘルニアは外科手術の中でもっとも症例の多い病気で、虫垂炎(盲腸)よりも多くの方が治療を受けています。実は、私たちが思っているよりもずっと身近な病気であり、特に中高年世代の男性には、いつ、誰にでも起こる可能性があります。鼠径ヘルニアがどのような病気で、どのようにして起こり、どのような痛みや症状があるかを理解しておくことはとても大切です。
もしも鼠径ヘルニアを発症してしまったら、もとに戻す方法は手術以外にありません。特に中高年男性で親兄弟に鼠径ヘルニアの経験者がいる、立ち仕事や重いものを持つ仕事をしている、など鼠径ヘルニアのリスクが高い方は、「急に腹圧が高まる行動を避ける」「肥満に気をつける」「禁煙」などの予防を心がけ、気になるからだの変化を発見したら、すぐに専門の医療機関を受診してください。
少しでも早く医師の診断を受け、適切な処置を施すのが、鼠径ヘルニアを悪化させないための最も確実な唯一の方法です。
鼠径部(そけいぶ)は、左右の太ももの付け根辺りに位置し、股間を構成する重要な部位です。普段はあまり意識することがないかもしれませんが、鼠径部に痛みやしこりなどの違和感がある場合、鼠径ヘルニアや鼠径部リンパ節腫大など、何らかの病気が疑われます。放置すると悪化するリスクがあるため、早めに医療機関を受診することが大切です。この記事では、鼠径部の位置や構造をわかりやすく解説するとともに、その名前の由来についても触れます。また、鼠径部に起こりやすい病気についても説明します。
鼠径部(そけいぶ)とは、足の付け根にある溝の内側に位置し、股間を構成する大切な部位です。ここでは、鼠径部のより詳しい位置や構造、その名前の由来について説明します。
1.1. 鼠径部の位置・構造
鼠径部は左右の太ももの付け根の溝の内側にある三角形状の部分で、下腹部の一部を指します。お腹の下にある恥骨の左右外側にあり、股関節の前方に位置します。
鼠径部の下側には、鼠径靭帯と呼ばれる靭帯があります。この鼠径靭帯の内側寄りには、鼠径管という、腹壁の内と外をつなぐ短い管状の構造物が通っています。鼠径管は男女で役割が異なり、男性には精索(せいさく:精巣から伸びる血管や神経、精管を包んだ束)が通り、女性には子宮円索(しきゅうえんさく:子宮を固定して支える組織)などが通っています。
1.2. 鼠径部の名前の由来
鼠径部という名前に含まれる「鼠(ねずみ)」という漢字は、男性の身体の発達に関連する由来があります。男性が産まれる直前、精巣(睾丸)は腹部から陰嚢(男性の性器が収められている袋状の器官)へと移動するといわれています。この動きが、まるで鼠が移動しているようだと例えられたことから、「鼠径部」という名称になったと考えられています。
足の付け根にあたる「鼠径部」では、鼠径ヘルニアをはじめとする、様々な病気が起こり得ます。鼠径部に膨らみやしこり、痛みなどの症状がある場合、以下のような病気が疑われます。
2.1. 鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアは、加齢などにより鼠径部の腹壁の筋肉が弱まり、そこから本来お腹のなかにあるはずの腹膜や腸の一部が皮下に袋状に脱出してしまう病気です。お腹に力を入れたり立っているときに、鼠径部がぽっこりと膨らみが現れますが、横になったり指で押し戻したりすると引っ込んで目立たなくなります。初期段階では痛みをほとんど感じませんが、放置すると膨らみが大きくなり、開いた穴に腸が入り込み穴の入り口で締め付けられ、指で押してもお腹に戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を引き起こすことがあります。
陥頓を起こすと強い痛みや吐き気、腹痛のほか、腸の血流が悪化して壊死する絞扼性腸閉塞(こうやくせいちょうへいそく)や腹膜炎などを発症することがあります。鼠径ヘルニアは自然治癒することはないので、根本的な治療は手術になります。手術の方法としては、穴があいた部分を人工のメッシュシートで補強するのが一般的です。
2.2. 鼠径部リンパ節腫大(そけいぶりんぱせつしゅだい)
鼠径部にあるリンパ節が腫れる症状です。通常、リンパ節は2~3ミリ程度ですが、1センチ以上に腫れることがあります。腫れたリンパ節は痛みをともなう場合もありますが、痛みを感じないケースもあります。
鼠径部のリンパ節が腫れる原因の一つが細菌の感染です。感染が原因の場合、腫れは一時的なもので、感染が治癒すれば自然に消えることがほとんどです。そのほか、膠原病(こうげんびょう)などの自己免疫疾患やがんなどの悪性疾患などが原因のことがあり、その場合は治療が必要です。
2.3. 鼠径部皮下腫瘍(そけいぶひかしゅよう)・鼠径部皮下膿瘍(そけいぶひかのうよう)
鼠径部皮下腫瘍や鼠径部皮下膿瘍は、いずれも鼠径部にしこりや腫れが生じる病気です。鼠径部皮下腫瘍は、皮膚が丸く盛り上がったり、しこりができたりしますが、通常痛みはありません。粉瘤(ふんりゅう:皮膚の下に袋状の組織に老廃物が溜まる良性の皮下腫瘍)や石灰化上皮腫(表皮が変形・変質してできる腫瘍)、脂肪腫などが見られます。
鼠径部皮下膿瘍は痛みがあり、熱を持って赤く腫れることがあります。主な原因は、化膿性汗腺炎(皮膚の毛包に炎症が起こり、膿が蓄積する病気)などの皮膚炎です。
治療法としては、腫瘍が良性の場合、手術で切除する、あるいは摘出することが一般的です。膿瘍で軽傷の場合は抗菌薬などを使用して治療します。重症の場合には、手術で患部を切除します。
2.4. ヌック(Nuck)管水腫
ヌック(Nuck)菅水腫は、女性特有の病気で、鼠径部にある「腹膜鞘状突起(ヌック管)」と呼ばれる管に液体が溜まることによって、鼠径部が膨らむ状態を指します。このヌック管は、胎児期に腹膜の一部として形成されますが、通常は出生後1年以内に自然に閉じます。しかし、何らかの理由でこの管が閉鎖されずに残存して内部に液体が溜まり、ヌック菅水腫を引き起こすことがあります。
症状としては、鼠径部にコリっとしたしこりや膨らみが現れます。この膨らみは、鼠径ヘルニアと似ていますが、膨らみを手で押しても引っ込みません。また、痛みをともなうこともあります。
ヌック菅水腫は自然に治癒することはなく、治療には手術が必要です。手術では、ヌック管を切除して液体が溜まる原因を取り除く処置がおこなわれます。
Nuck管水腫は、まれに子宮内膜症と併存することがあります。子宮内膜症とは、子宮内膜が本来あるべき子宮の内側以外に発生し発育する病気で、この場合、水腫のなかに血液が含まれることが多く痛みを伴います。治療は、手術で水腫を切除し、子宮内膜症の成分を確認する必要があります。鼠径部の子宮内膜症は、腹腔内など他の部位にも病変がある可能性があるため、婦人科での専門的な検査と治療をおすすめします。
2.5. 大伏在静脈瘤(だいふくざいじょうみゃくりゅう)
大伏在静脈瘤は「下肢静脈瘤」の一種で、太ももや足の付け根のあたりにある静脈に血液が溜まり、コブのような膨らみが生じる状態です。
この病気は、静脈内の血液が心臓へとスムーズに戻れなくなることが原因です。通常、静脈内には血液の逆流を防ぐための「弁」が備わっています。しかし、加齢による筋力の低下や長時間の立ち仕事、肥満、さらには妊娠による体への負荷などの要因によって静脈内の圧力が高まると、この弁が正常に機能しなくなり血液が逆流してしまいます。その結果、静脈が拡張してコブのように膨らみ、見た目にもはっきりと浮き出る状態になります。
大伏在静脈瘤が発生すると、太ももからふくらはぎの内側を流れる静脈がボコボコと目立つようになり、足のだるさや重さを感じたり、むくみやこむらがえりを起こしたりすることがあります。症状が悪化すると出血や潰瘍につながることがあるため、早めの治療が大切です。
軽症の場合は、弾性ストッキングと呼ばれる靴下を使用して症状の進行を抑える保存療法をおこないます。症状が進行している場合には、膨らんだ静脈を直接切除する手術や、レーザーや高周波を使用して静脈内を焼く血管内治療をおこなうことがあります。
3. まとめ
鼠径部は、鼠径靭帯やリンパ管、神経、動脈や静脈などが集まっている重要な部位です。そこに痛みや腫れなどの違和感があれば、何らかの病気を発症している可能性があります。痛みがないからといって安易に放置すると、重篤な状態につながるリスクがあるため、早めに消化器外科のある医療機関を受診することをおすすめします。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUは、鼠径ヘルニアや胆のう疾患など、外科的良性疾患に対し、体への負担をできる限り抑える検査や治療を目指す低侵襲外科治療を専門的におこなう施設です。消化器外科・内科領域においてさまざまな経験と資格を有する医師が先進的な治療を提供しています。鼠径部の膨らみや痛み、違和感で気になることがあれば、いつでもご相談ください。
鼠径ヘルニア(脱腸)は、初期段階では痛みをほとんど感じず、膨らみを指で押すと元に戻りますが、放置して悪化すると、重篤な病気を引き起こす可能性があります。
鼠径ヘルニアが自然治癒することは期待できず、根治を目指すためには手術が必要です。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUには、病院のある西宮市以外に、神戸方面からも患者さまが受診されています。この記事では神戸在住の方が鼠径ヘルニア手術を当院で受けていただくために、ぜひ参考にしていただきたいポイントや神戸方面からのアクセスなどについてご紹介いたします。
鼠径ヘルニアの手術を受けなければならず、どの病院を選べばよいか迷っていませんか?
通院の手間を考えて、自宅から近い病院を探している方は多いかもしれませんが、重視したいのは、病院の専門性や実績です。鼠径ヘルニアの手術の実績や先進的な医療機器や設備、治療環境が整っているか、経験や資格を有している医師や麻酔科専門医が在籍しているかを十分に確認しましょう。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUへは当院のある西宮市や隣接する尼崎市の方が多くいらっしゃいますが、神戸方面からも全体の約3割ほどの患者さまが受診されています。近隣の方はお近くのクリニックからのご紹介が多いのですが、神戸より西からはホームページをご覧になって来院される方が多い印象です。鼠径ヘルニア治療のセカンドピニオンを目的に遠方から来られる方もいらっしゃいます。
初めての病院を受診するときは不安になるものです。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、神戸在住の患者さまにできるだけ負担なく受診していただけるように、最善の配慮を心がけております。ここでは、神戸在住の患者さまが当院を受診しやすいポイントについてご紹介します。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは紹介状がなくても受診していただけます。専門的な診断や検査のご希望、セカンドオピニオンにも対応しております。「まずは相談したい」「気になる症状を確認してほしい」といったご相談も可能です。患者さま一人ひとりの状況に合わせた丁寧な診療を心掛けております。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、鼠径ヘルニア(脱腸)の手術において日帰りまたは短期入院の選択が可能です。お仕事でお忙しい方やお子さんが小さい方など、日帰り手術のニーズは多く、同様に日帰り手術に対する不安から短期入院を希望される患者さまもいらっしゃいます。当院では日帰り手術や短期入院にも対応できるように、施設・設備を整えています。日帰り手術を予定していたけれど、術後の様子で入院をしたくなった場合にも柔軟に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 COKUでは鼠径ヘルニアなどの外科的良性疾患に対して、腹腔鏡手術を中心に、できる限り身体への負担や苦痛を軽減した低侵襲外科治療をおこなっています。腹腔鏡手術では、従来の開腹手術と比べて傷が小さいのが特徴です。また、当院では、患者さまの身体により負担の少ない単孔式手術(腹部に1つの孔を開けておこなう腹腔鏡手術)をおこなうことも可能です。
鼠径ヘルニアは、足の付け根が立つとぽっこりと膨らみ、寝ると戻るのが特徴です。そのため、当院では必ず立位で膨らみを確認し、押して戻るか、寝て戻るかを観察します。術前の診断のため当院では、腹臥位(ふくがい)でのCTを用いています。高精度のCTでは外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニアといったヘルニアのタイプ分類も可能です。さらに、外科医による鼠径部の読影だけでなく、放射線科医が肝臓や胆のう、腎臓なども確認し、何らかの疾患を確認した場合は、その疾患の専門病院をご紹介しています。
また、術式はヘルニアのタイプや患者さまの状態に適していることにこだわり、患者さまのご希望にも配慮しています。主におこなっているのは腹腔鏡手術ですが、全身麻酔が困難、前立腺手術の既往がある場合など、患者さまの病態に応じて鼠径部切開法をご提案することもあります。消化器外科領域において経験と資格を持つ医師が手術を担当し、腹腔鏡手術(TEP法・TAPP法)が可能で、TEP法は単孔式TEP法(SILS-TEP)を採用しています。
西宮敬愛会病院COKUには神戸からもアクセスしやすい場所に位置しており、神戸在住の方も多く受診されています。ここでは、電車と車を利用しての当院へのアクセスをご紹介します。
電車でのアクセス
≪最寄り駅≫
・西宮北口駅(阪急神戸線)
当院の最寄り駅は、西宮北口駅(阪急神戸線)です。西宮ガーデンズへ向かう東改札口を出て徒歩6~7分で到着します。途中の道は西宮ガーデンズの回廊で、多くが屋根のある道になっています。
・西宮駅(JR神戸線)
西宮駅からの場合は、徒歩17分と少し歩きます。そのため西宮駅からはバスの利用がおすすめです。当院の目の前のバス停である「西宮営業所前」、もしくは「阪急西宮北口駅」にて下車いただくと、当院まで徒歩数分で到着します。
≪最寄り駅までのアクセス≫
・西宮北口駅(阪急神戸線)の場合
神戸市内の主要駅から阪急電車を利用します。
阪急神戸本線が最も便利です。
例:神戸三宮駅からのアクセス
①阪急神戸本線の「大阪梅田行き」に乗車。
②西宮北口駅で下車(約15分〜20分)。
③改札を出て徒歩6~7分で当院に到着します。
・西宮駅(JR神戸線)の場合
神戸市内の主要駅からJR東海道本線(JR神戸線)を利用します。
例: 神戸三宮駅からのアクセス①JR神戸線(JR東海道本線)「大阪方面行き」に乗ります。
*新快速、快速、普通いずれも利用可能です。
*JR神戸線の西宮駅に「普通」と「快速」は停車しますが、「新快速」は停車しません。
「新快速」に乗ってこられる場合は、尼崎駅で「普通」か「快速」にお乗り換えください。
②西宮駅で下車(快速で約10分、普通電車で約15分)
改札を出て、徒歩の場合は約17分、バスの場合は「西宮営業所前」で下車するとすぐに当院に到着します。
*「西宮営業所前行き」のバスがない場合は、西宮北口駅から徒歩でお越しください。
≪高速道路を利用する場合≫
≪一般道路を利用する場合≫
当院は、無料でご利用いただける駐車場を設けています。
西宮敬愛会病院COKUではできるだけ多くの方に、快適に来院していただけるように、できる限りの配慮を心がけています。実際に来院された方からは、交通アクセスの良さや無料で使用していただける駐車場、予約の取りやすさ、スタッフの対応などについて、さまざまなお声をいただいていますので、その一部をご紹介します。
鼠径ヘルニアは放置すると重症化するおそれがあるため、早めに病院で治療する必要があります。そのうえで、どの病院を選択するかは重要です。自宅に近いからという理由ではなく、先進的な医療機器や治療環境を備え、鼠径ヘルニア手術の実績がある医師が在籍しているかを重視して選びましょう。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUは、鼠径ヘルニアや胆のう疾患など、外科的良性疾患に対し、低侵襲外科治療を専門的におこなっています。消化器外科領域においてさまざまな経験や知識を有する医師が先進的な治療を提供し、患者さまの負担をできる限り少なくする治療を目指しています。「足のつけ根の膨らみが気になる」「下腹部に違和感がある」など、もしかして鼠径ヘルニアかもと思うような症状がある方は、いつでもご相談ください。
腹腔鏡による鼠径(そけい)ヘルニア手術は、身体への負担が軽い「低侵襲」な治療法です。しかし、医療用のメッシュシートや医療器具を体内に挿入する外科手術をおこなうため、リスクがゼロとはいえません。再発や感染を防ぐためには、手術後の生活には一定の注意が必要です。今回は鼠径ヘルニアの手術後の経過と生活上の注意点、手術によって起こる症状や合併症の可能性について解説します。
近年、鼠経ヘルニアの手術は、手術の方法や使用する医療機器、医薬品などの進化によって日帰りでおこなえるようになってきました。ただし、日帰り手術を受けられるのは、ヘルニアが重症化しておらず、合併症のリスクが低い方に限られます。
糖尿病や心臓病、呼吸器疾患など持病のある方や症状の重い方の場合、使用している薬の副作用や手術後の合併症リスクへの対応が求められます。そのため、それぞれの診療科がそろう総合病院に入院して手術を受ける必要があります。なお、総合病院では標準的な入院期間を定めていることが多く、鼠経ヘルニア手術での入院日数は3泊4日や4泊5日が一般的となっています。
からだに負担の少ない日帰り手術ですが、手術のあと約2週間は禁止事項や制限事項があります。痛みがなくても無理をせず、医師のアドバイスに従って日常生活を送るよう心がけてください。
手術当日は全身麻酔の影響があるため、自動車や機械の運転は厳禁です。自転車に乗ることも避けてください。また、出血のリスクを高めるため、入浴は短時間のシャワーで済ませてください。アルコールも出血のリスクを高めますので、手術後3日間は禁酒となります。
手術当日の夜から翌朝にかけて、痛みが強く現れることがあります。手術後の痛みに対しては、処方された鎮痛剤を服用して対処してください。手術当日はできるだけ安静に過ごしていただきますが、翌日からはデスクワークや負担の軽い仕事を始めていただけます。長時間の立ち仕事などは3日目以降を目安として再開いただけますが、引っ越しなどの重労働やトイレで強くいきむなど腹圧のかかることは避けてください。
手術に際して中止したお薬は翌日からご使用いただけます。おおむね手術後3日間は、あまり無理をせず、からだに負担をかけないようにお過ごしください。
手術後1週間ほどで痛みや違和感は和らいできますが、からだを動かした際に少し痛むことがあるかもしれません。散歩やゆっくりとしたジョギングなどの軽い運動なら始めてかまいませんが、ジムでの筋トレや登山、マラソンなどハードな運動は控えてください。
手術後2週間経過して違和感や痛みがおさまっていれば、通常の生活に戻していただいて問題ありません。スポーツ選手や重労働をおこなう方の場合も、競技や仕事への本格的な復帰は手術後2週間以降を目安として、徐々に始めることをおすすめします。
当院では、手術後1週間を目安にご来院いただき、経過の診察をおこないます。傷口や痛みの程度などを確認させていただき、必要があればお薬を処方いたします。問題がないようであれば、術後約1か月目に診察を行います。その後は症状に応じて3か月目の診察が必要か判断いたします。
鼠径ヘルニアの手術では、メッシュシートを使用してヘルニアの穴をふさぎますが、手術部位の浮腫や炎症が十分に落ち着くのに約2週間かかります。そのため、鼠径ヘルニアの手術から最低でも2週間は、おなかに力が入る運動は控える必要があります。
散歩やウォーキング程度であれば手術後1週間以降から始めていただいて問題ありませんが、ランニング、水泳などの「激しい運動」は、手術後2週間が経過するまでは控えてください。バーベル・ダンベルなど器具を使用した筋トレはもちろんのこと、腕立て伏せ・腹筋、スクワットなどの自重トレーニングも禁止です。
ほかにも、ゴルフ、サーフィン、サイクリング、乗馬、長距離のランニングやマラソンなどの激しい運動はメッシュの固定を妨げ、ヘルニアが再発する可能性を高めるおそれがあります。鼠径ヘルニアの手術から2週間は、強い腹圧のかかる運動や重い物を持つことは避けてください。
強度の高いトレーニングや激しいスポーツは、手術後2週間を経過して痛みや違和感がなくなってから、無理をせず徐々に再開してください。
鼠径ヘルニアの手術後に起こる可能性のある症状について説明します。これらの症状のほとんどは一時的なもので、時間の経過とともによくなりますが、心配な場合は遠慮なく担当医にご相談ください。
手術後は当日から翌日にかけては強く痛むことがあります。長い場合は3日間ほど痛みが続くこともありますが、その後は次第にやわらいでいきます。痛みの感じ方は個人差があるため、痛みの程度をお伝えするのは難しいですが、動くのがつらいほどの痛みを感じる場合は、鎮痛薬を服用し、安静にしてください。
手術後は、傷口に貼られた保護テープに血がにじむことがありますが、これは傷口からの出血ではなく、縫合したすき間から血液がしみ出しているもので問題はありません。また、傷のまわりには内出血によるあざができることがありますが、これも1~2週間で消えていくので心配いりません。
内出血した血液は時間が経つと下の方に下がってくることがあります。男性の場合は陰嚢にあざが出ることがありますが、これもよくみられる症状のひとつですので問題はありません。
手術後はヘルニアがあった部分に空間ができるので、そこに体液がたまって腫れやしこりのようになる症状がみられます。痛むことはほとんどありませんが、ヘルニアよりも硬く感じられるかもしれません。しこりや腫れは数週間から6ヵ月くらいで消えていきますので心配ありませんが、腫れがあまりに大きい場合や不快感が強い場合は医師にご相談ください。
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は再発や合併症が起こる確率がとても低い安全な治療法です。ただし、残念ながらリスクはゼロではありません。ここでは再発の可能性と、感染や漿液腫(しょうえきしゅ)などの合併症について説明します。
鼠径ヘルニア手術の再発率は2~3%といわれていますが、重症化した例を含まない一般的な鼠径ヘルニアの場合は1%未満と考えられます。ただし、鼠径ヘルニアを発症した方は、肥満や重労働な仕事、咳やいきみなどのリスク因子を持つことが多く、手術した側と反対側に鼠径ヘルニアが起こる可能性があります。
手術の手法からして、腹腔鏡下でおこなわれる鼠径ヘルニア手術の感染率は極めて低いと考えられます。ただし、手術器具が皮膚と接触することによる細菌感染が起こる可能性はゼロではありません。感染がメッシュシートにまで及んでしまった場合は再手術が必要になることもあります。
手術によってヘルニアがおなかの中に戻されると、ヘルニアのあった箇所に空間ができます。この空間に漿液(しょうえき=リンパ液などの体液)が溜まってできる「しこり」や「こぶ」を漿液腫と呼びます。漿液腫は手術後少し経ってからふくらんできますが、もとのヘルニアと同じくらいの大きさになることもあり、ヘルニアが再発したと思われる方も少なくありません。
ほとんどの場合、痛みもなく自然に消えていくため、放置しておいて構いませんが、あまりに大きく邪魔に感じるような場合は、注射針を刺して中の漿液を吸い出す治療をすることもあります。漿液腫は合併症ではありますが、ヘルニアが完治するまでの経過状態と考えていいかもしれません。
鼠径ヘルニアの治療は、技術の進歩により、安全に日帰り手術を受けられるようになりました。ただし、腹腔鏡手術も外科手術であることに変わりはなく、経過観察や手術後のケアには細心の注意を払う必要があります。手術直後にしてはいけないことや、手術からの経過日数に応じた生活上の注意点を守ることも治療の一部とお考えください。
また、運動によるヘルニア再発のリスクや、手術後の症状、合併症の可能性について知っておくことは大変重要です。鼠径ヘルニアリスクの高い方、自覚症状のある方は、この病気と日帰り手術についての理解を深めていただき、気になることがあれば遠慮なく、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUにご相談ください。
鼠経(そけい)ヘルニアとは、本来腹腔内にある小腸や大腸などの組織が、鼠径部(太ももの付け根のあたり)に飛び出し、ぽっこりとふくらんでしまう良性の病気です。ほとんどの場合、緊急性はありませんが、ふくらみによって違和感や痛みがあるなど、日常生活に支障がでる場合には治療が必要になります。ここでは、鼠経ヘルニアの治療方法について詳しくご紹介するとともに、治療にかかる費用や注意点、術後の痛みなども合わせて解説します。
鼠径ヘルニアは、小腸や大腸などの臓器を包んでいる腹壁の組織の一部が弱くなって穴があき(ヘルニア門)、その穴から腹腔内の内容物が出てきてしまう病気です。ふくらみを手で押すと、一時的にお腹の中に押し戻すことができますが、立ち仕事をしたり、お腹に入れたりするたびに同じところにふくらみができてしまいます。一度空いたヘルニア門は、自然にふさがることはなく、薬による治療もできません。鼠経ヘルニアを根本的に治すには、ヘルニア門を閉じる手術をおこないます。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、日帰りにも短期入院にもどちらにも対応しています。
従来の鼠経ヘルニアの手術といえば、飛び出してしまった腹膜(ヘルニア嚢)を処理した後に、ヘルニア門を縫い閉じる方法が広くおこなわれていましたが、組織が引っ張られて緊張がかかり、術後のつっぱり感や痛みが強く、再発率も高いという問題がありました。しかし現在では、より痛みが少なく、再発しにくい術式に進歩しています。
現在広くおこなわれている鼠経ヘルニアの手術方法は、ヘルニア門に人工のメッシュシート(医療用合成繊維でできた網)を置いて腹壁を補強する手術(Tension-free repair)です。この方法だと、ヘルニア門を覆うだけなので、緊張がかからず、術後のつっぱり感や痛みを軽減することができます。
手術に使用するメッシュシートは、医療用に安全性が確認されているもので、分解したり変質したりすることもないので、一度入れたシートを取り替える必要もありません。腹壁にメッシュシートを置いたあと、次第に腹壁の組織がメッシュシートを包み込み、線維状の結合組織が絡み合うことで強度を発揮します。
この人工メッシュシートを用いた鼠経ヘルニアの手術については主に2つの術式があります。腹腔鏡を使用する方法と、鼠径部を直接切開しておこなう方法であり、患者さまの体型やヘルニアの位置や大きさを検討して、ベストな選択をします。それぞれを詳しくみていきましょう。
腹腔鏡手術は、腹部に5~10ミリ程度の穴をあけて腹腔鏡を入れ、身体の中からヘルニア門を観察し、細い鉗子を使ってヘルニア部にメッシュシートを置く手術方法です。腹腔鏡手術はアプローチの違いから、TAPP法:Transabdominal preperitoneal repair(経腹的腹膜前修復法)とTEP法:Totally extraperitoneal repair(腹膜外腹膜前修復法)に分けられます。
TAPP法は、スコープ用(1ヵ所)、鉗子用(左右1ヵ所ずつ)の計3ヵ所の小さな穴をあけて腹腔鏡を入れ、腹腔内から患部にアプローチする方法です。
一方、TEP法は、腹腔内には腹腔鏡を入れず、腹膜と筋層の間(腹膜前腔)に腹腔鏡を入れ、患部にアプローチする方法です。
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、腹腔鏡手術による傷を少なくしたTEP法であるSILS(Single incisional laparoscopic surgery)-TEP法を主におこなっています。SILS-TEP法は、へその部分に2センチ程度の穴を1つだけあけ、そこからスコープ用、鉗子用(左右)の腹腔鏡を入れて患部にアプローチする方法です。
どちらのアプローチでも、腹膜前腔のスペースに、人工メッシュシートを置いて腹壁を補強するというコンセプトは同じです。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、ヘルニア門径などに応じてTAPP法と使い分けることで、患者さまに最適な術式で対応します。
腹腔鏡手術では、傷の範囲が小さいため、術後の痛みが少なく、回復も早いと考えられています。しかし、腹腔鏡手術は技術的に難しく、スキルを持った医師でなければ実施が困難なことや、全身麻酔が必要になることなどから、どこでも受けられるわけではありません。
表:鼠経ヘルニアに対する内視鏡手術方法
切開孔の数 | 切開孔の大きさ | 患部へのアプローチ | |
TAPP法 | 3ヵ所 | 5~10ミリ程度 | 腹腔内から |
SILS-TEP法 | 1ヵ所 | 2センチ程度 | 腹膜前腔から(腹膜と筋膜の間) |
鼠径部のふくらみの部分を切開してヘルニア門を見つけ、メッシュシートで覆って腹壁を補強する方法です。体型やヘルニアの大きさなどによって異なりますが、切開する幅は4~6センチ程度です。
鼠径部切開法にもいくつかの術式があり、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUではLichtenstein法(リヒテンシュタイン法)やメッシュプラグ法、ダイレクトクーゲル法などを用いています。
Lichtenstein法はオンレイ法とも呼ばれ、鼠経部の外側の位置にある筋膜の表面をメッシュで覆う方法です。メッシュプラグ法は、ヘルニア門に傘状のメッシュ(プラグ)を挿入し、さらに鼠径部の筋膜表面をメッシュシートで覆って補強する方法です。ダイレクトクーゲル法は、Lichtenstein法よりも深い筋膜と腹膜の間に形状記憶リングに縁取られ、中央にストラップの付いたメッシュシートを挿入し、筋膜の内側から患部を補強する方法です。
鼠径部切開法は、脊髄クモ膜下麻酔(腰椎麻酔)や局所麻酔のみでおこなうことができるので、全身麻酔が使えない方は鼠径部切開法を選択することになります。また、過去に腹腔鏡による前立腺手術を受け、腹膜前腔(ふくまくぜんくう)を治療済みの方も、鼠径部切開法をおこないます。
表:鼠経ヘルニアに対する鼠径部切開法
切開孔の数 | 切開孔の大きさ | メッシュシートの置き方 | |
Lichtenstein法 | 1ヵ所 | 4~6センチ | 筋膜の外側を覆う |
メッシュプラグ法 | ヘルニア門にプラグを挿入+筋膜の外側を覆う | ||
ダイレクトクーゲル法 | 腹膜と筋膜の間に置いて腹膜を覆う |
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでの鼠経ヘルニアの手術前の準備や手術の流れ、手術後の注意点について詳しくお伝えします。
手術前日も入浴可能です。前日の食事には特に制限はありませんが、前日24時以降は絶食してください。 前日のアルコール摂取は控えていただき、どうしても飲む場合も1杯までにしてください。飲水は手術前2時間までは可能ですが、手術開始時間によって異なりますので、オリエンテーションの際にお伝えします。
お化粧はせず、マニキュア、ペディキュア、コンタクト、指輪、時計、義歯、ヘアピン、アクセサリーなどはとって来院してください。
以下の準備をお願いいたします。
■タオル、保険証、お薬手帳
■肺血栓塞栓予防用弾性ストッキング(売店でご購入いただけます)
来院後は、受付からお部屋にご案内いたします。お部屋で手術着に着替えていただきます。施錠可能なロッカーも設置しています。お着替えが終わりましたら、スタッフより最終の確認をおこないます。
準備ができましたら、手術室に入り、看護師よりお名前の確認後、手術台に横になっていただきます。麻酔科医が点滴をとり、全身麻酔もしくは腰椎麻酔、局所麻酔をおこないます。十分に麻酔が効いていることを確認して手術を開始します。鼠径ヘルニアの手術時間の目安は、平均約1時間程度です。
手術後、全身麻酔の場合は麻酔を覚ましていきます。
手術室で麻酔を覚ました後は、医師付き添いのもと、ストレッチャーでとなりのリカバリー室へと移動し、約2時間、術後の経過観察をおこないます。術後経過観察は、日帰り手術でも入院手術でも共通です。
最初はリカバリー室の奥のスペースで約15分程度モニターをつけてお休みいただきます。リカバリー室には看護師が常駐していますので、何かお困りの際はお声がけください。その後、離床の基準を満たせば、ご自身のリカバリースペースのリクライニングチェアに移り、お休みいただきます。
約2時間の間に、状態に合わせて水分摂取、歩行、排尿、軽い食事をとっていただきます。痛みがある方は痛み止めを適切に使用して痛みをコントロールします。
※短期入院の患者は、術後2時間の経過観察後、病棟の病室へ移ります。院内歩行は自由です。夕食と翌朝の朝食があります。
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、安全安心に日帰り手術をおこなうために、日本麻酔学会が提唱する「日帰り麻酔の安全のための基準」のガイドラインを厳守し、明確な基準を設けて日帰りの可否を判断しています。このガイドラインは、日帰り手術に適した患者の選択基準、受け入れ体制、麻酔中の安全管理、帰宅基準が記載されているもので、このガイドライン離床基準はAldreteスコア(The modified Aldrete scoring system)を評価指標に判断基準を設定しています。帰宅の基準はPADSSスコア(The revised postanesthesia discharge scoring system)を評価指標に判断基準を設けています。
■Aldreteスコア
活動性、呼吸、循環、意識、酸素飽和度をスコア化して評価
■PADSSスコア
バイタルサイン、活動性、悪心・嘔吐、術後痛、外科的出血を評価して帰宅判断
実際には、手術後は専任の看護師が常駐するリカバリー室に移動し、Aldreteスコアの判断基準に基づいて離床(ベッドから起き上げる)の判断をおこないます。離床の基準を満たした場合はソファ型のリカバリーチェアに移り、お休みいただきます。
約2時間の術後経過観察後、PADSSスコアの判断基準を満たせば、帰宅していただきます。
個人差はありますが、手術翌日から職場や学校に復帰できます。負荷のかかる動作は、術後2週間はお控えください。
緊急時の連絡先を退院時にお渡しいたします。ご不安なことがあればご連絡ください。
※手術当日は患者様本人の運転による帰宅はできません。公共交通機関をご利用いただくか、付き添いの方の運転でお帰りください。
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUで実施する鼠径ヘルニアの手術には健康保険が適応されます。実際に使用する薬剤の量や種類などにより患者さまごとに費用は多少前後しますが、腹腔鏡下ヘルニア手術の費用は、3割負担の方のケースで、外来から入院までの総額として約10~15万円前後の窓口負担が発生します。窓口負担に対しては、高額療養費制度もご利用いただけるため、施設間で大きな差が出たり、高額になったりすることはありません。ただし、入院の方は入院費用が別途かかります。
お支払いは、銀行振り込みやクレジットカードもご利用いただけます。
手術は一定の確率で合併症が起こりえます。手術後に気になる症状がある場合は、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUへご連絡ください。また、気になる症状がない場合でも、術後フォローアップとして術後1週間目を目安にご来院いただき術後の経過を確認させていただきます。
手術後は、手術部位に痛みや感染が起こる場合があります。術後の痛みに関しては、通常、術後数日は切開部の疼痛(とうつう)があるため、鎮痛薬を処方して症状を和らげます。多くの場合、痛みは徐々に和らいでいきますが、まれに数ヵ月にわたる知覚異常や神経疼痛が残ることがあります。慢性疼痛は術後の生活にとても大きな影響を与える合併症です。手術時には神経の同定や温存、神経の存在しやすい部位の操作を避けるなどの工夫をおこなっていますが、確定的なものはありません。術後の疼痛もしっかりとフォローアップしていますので、術後の外来時にご相談ください。
感染については、まれに遅発性の感染が生じるケースがあります。創部の発赤や腫脹、疼痛がある際には、感染が疑われるため診察を受けてください。軽いものは抗生剤治療で軽快することもありますが、感染が長引くときは再手術が必要になることもあります。
ヘルニア嚢(のう)が大きい場合、手術部位に水がたまり、その部分に触れると丸く硬いしこりのような感触がある場合があります。
これを漿液腫(しょうえきしゅ)といい、通常痛みなどはなく経過をみていくと徐々に小さくなっていくことがほとんどです。小さくならず疼痛などがある場合は針を刺して水を抜く治療をおこなうこともあります。
鼠経ヘルニアの手術は、メッシュシートを用いる術式が普及してから再発は減っているものの、再発のリスクはゼロではありません。組織が脆弱なところから再発をきたすことがあり、内視鏡外科学会が実施したアンケート調査によると、鼠径部切開法後の再発率は2%、TAPP法では3%、TEP法では0.4%であったと報告されています。手術後に再発した場合は、再手術が必要になります。術後数年たってから再発する可能性もあるため、術後に変化があればご相談ください。
鼠経ヘルニアを根本的に治療するためには手術が必要です。近年では、ヘルニア門の部分にメッシュシートを置いて補強する手術法が主流になり、以前に比べて術後の痛みや再発率も減っています。さらに腹腔鏡と組み合わせることで、手術による身体への負担を軽減することができます。
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUの腹腔鏡を用いた鼠経ヘルニアの手術では、おへそに小さな穴を1ヵ所あけ、そこから腹腔鏡を入れて手術をするSILS-TEP法を主に実施しており、手術後の痛みや傷跡が最小限になるよう工夫をしています。日帰りにも短期入院にもどちらにも対応しており、選択いただけます。
径ヘルニア(脱腸)は、腹部の中にある小腸や大腸などが太ももの付け根あたり(鼠径部)から飛び出して、こぶのようなふくらみができる病気です。ふくらみの大きさはさまざまですが、横になって休んだり、ふくらみを手で押し戻したりすると、一時的に目立たなくなるのが特徴です。ふしかし、一度ヘルニアになってしまうと、重いものを持ったり、力んだりするたびにふくらみが出てきてしまうため、根本的に治すためには手術が必要です。
鼠径ヘルニアにはいくつかの種類があり、ヘルニアに似た別の疾患もあるため、治療に当たっては正確な診断をおこない、適切な手術方法を選択することが重要です。そこで本記事では、鼠径ヘルニアの検査・診断方法や手術の必要性について詳しく解説します。
鼠径ヘルニアとは、腹腔内の小腸や大腸などの組織が、鼠径部(太ももの付け根のあたり)に飛び出してしまい、ぽっこりとふくらんでしまう良性の病気です。ふくらみの中身のほとんどが、腸の一部が飛び出したもののため、「脱腸」とも呼ばれています。
鼠径ヘルニアには大きく分けて、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3つの種類があり、鼠径部のふくらみ(隆起)の大きさも、ごく小さいものから、ソフトボール大の大きなものまでさまざまです。力んだり、長時間立ったりするとふくらみは大きくなり、横になったり、ふくらみの部分を手で押し戻したりすると、ふくらみが一時的に小さくなるのが特徴です。患部に違和感や軽い痛みを感じることもあります。
本来、腹腔内の腸や脂肪組織は、腹筋と筋膜などからなる腹壁に包まれており、外に出てくることはありません。ところが腹筋が弱くなったり、腹筋のつなぎ目に弱い部分があったりすると、腹壁に穴があくことがあります。その穴を通って腹腔内の内容物が出てきてしまうのが鼠径ヘルニアなのです。
生まれつき筋膜などに穴があいていることによって、こどもの時に鼠径ヘルニアになるケースもありますが、大人になってから発症する鼠径ヘルニアは、加齢による筋力低下、肥満、長時間の立ち仕事や力仕事などがきっかけで発症します。
鼠径ヘルニアが疑われる場合は、まず視診や触診を実施して診断します。ただし、症状が不明瞭なときは、画像診断を実施することもあります。鼠径ヘルニアの検査・診断方法について詳しくみていきましょう。
鼠径ヘルニアは、基本的に医師が目でみて調べる「視診」と患部に触れて調べる「触診」で診断します。鼠径ヘルニアは、「足の付け根(太ももの付け根)が立つとぽっこりとふくらみ、寝ると戻る」という特徴があるので、視診や触診をおこなうときは、患者さんに立ってもらったり、横になってもらったり、お腹に力を入れてもらったりして、隆起の大きさや位置の変化、固さなどを確認します。
診断においては、問診から得られる情報も重要になります。患者さんの生活の中で、"長時間立っているとふくらみが大きくなる""重いものを持ったり、くしゃみをしたりすると痛みや違和感がある"などの症状がないかなどの質問をします。
視診・触診・問診などの臨床所見による鼠径ヘルニアの診断率は70~90%といわれています。
鼠径ヘルニアは、視診と触診で診断できることがほとんどですが、視診や触診で鼠径ヘルニアの典型的な症状が確認できないときや、他の病気が疑われる場合には、超音波検査やCT検査などの画像診断をおこなう場合があります。
鼠径ヘルニアに症状が似た病気には、腹腔の外側にある脂肪のかたまりが皮膚の下に飛び出してくる「精索脂肪腫」(せいさくしぼうしゅ)や、うまれつき鼠径部にできた袋状の空間に体液が溜まってふくらむ「精索水腫」(せいさくすいしゅ)、睾丸の静脈血が滞ってこぶになる「精索静脈瘤」(せいさくじょうみゃくりゅう)などがあります。若い女性特有の病気としては、胎児期に女性器を形作る過程で、鼠径部にできた袋状の空間に体液が溜まってふくらむ「ヌック管嚢胞」(ぬっくかんのうほう)などもあります。これらの病気でも、鼠径部がふくらんで一見ヘルニアのように見えますが、画像診断をおこなうことで鑑別できます。
画像診断では、手軽に実施できる超音波検査が一般的ですが、超音波検査だけでは鑑別できないケースもあり、追加でCT検査が必要になることもあります。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、院内に高精度CT設備を導入しおり、詳しい鑑別が必要な患者さんに対しては腹臥位(ふくがい・うつ伏せの状態)でのCT検査を積極的に実施しています。患者さんにうつぶせになっていただき、鼠径部のふくらみが出た状態で撮影することで、ふくらみの大きさや内容物、周りの組織との位置関係が詳細に観察できます。国内の研究では、腹臥位のCTによる鼠径ヘルニアの診断率は98.3%と報告されており、より正確な診断につながります。
一度鼠径ヘルニアになったら、自然に治ることはないため、根治させるためには手術が必要です。しかし、全ての鼠径ヘルニアに対してただちに手術が必要かというと、必ずしもそうではなく、症状の程度や状態によっては、症状を抑えながら経過観察をすることもできます。鼠径ヘルニアの手術の必要性について、詳しくみていきましょう。
鼠径ヘルニアでは、すでに腹壁に穴があいてしまっているため、自然に治ることはありません。治療方針としては、手術で根本的に治療するのが基本です。鼠径ヘルニアに対する手術方法としては、従来は袋状に飛び出した腹壁(ヘルニア嚢)を処理し、腹壁にあいた穴を縫合する手術がおこなわれていましたが、最近では、より痛みが少なく、再発率の低い「メッシュ法」が広くおこなわれています。メッシュ法は、鼠径部の腹壁が弱くなっている部分を人工のメッシュシートで覆い、腹壁を補強することで、腹腔内の腸などの組織が出てこないようにする方法です。メッシュ法にもさまざまな方法があり、患者さんの状態に合わせて最適な方法を選択します。
ただし、症状が軽く、緊急性がないと判断できるときは、すぐに手術はおこなわず、しばらく経過観察することもあります。
鼠径ヘルニアは、嵌頓(かんとん)状態といって、腹壁にあいた穴に腸の一部が挟まり込んでしまい、手で押してもお腹の中に戻らなくなってしまうことがあります。嵌頓状態を放置していると、挟まった腸に血液が通わなくなって一部が壊死したり、腸が詰まってしまう“腸閉塞(ちょうへいそく)”などを引き起こしたりします。このようなケースでは、命に関わる病気になるおそれがあるため、ただちに緊急手術をおこなう必要があります。
嵌頓が起きていない状態であっても、痛みや違和感があったり、強い吐気を感じたりする場合や、鼠径部のふくらみの影響で射精障害や排尿障害などの自覚症状がある場合は、早めの手術が必要です。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは日帰りまたは短期入院で全身麻酔を用いて鼠径ヘルニアの手術をおこなっています。まず全身麻酔の事前準備として、血液検査、心電図検査、呼吸機能検査、胸部レントゲンなどの術前検査を実施し、循環器や呼吸器、肝臓・腎臓機能などに異常がないかを調べます。術前検査で心電図の異常などが見つかった場合は、循環器科での精査をおこなってから治療をすすめていくことになります。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、院内に高精度CT設備を導入しているため、手術前にCT検査を実施し、鼠径ヘルニアの位置や大きさを事前に把握し、患者さんにとって最適な手術計画を立てて、手術に臨みます。
鼠径ヘルニアは良性の病気であるものの、自然に治ることはありません。ごく軽いものの場合、しばらく様子をみることもありますが、力んだり、長時間立っていたりすると症状を繰り返すため、基本的には手術が必要です。
鼠径ヘルニアの手術は、術前検査と正確な診断技術によってヘルニアの大きさや位置を見極め、状態に合った手術方法を選択することが求められます。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは術前検査として高精度CTを用いた画像診断を併用し、患者さんの状態に最適な手術をご提案しています。鼠径部のふくらみや違和感などの気になる症状があるときはご相談ください。