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鼠径ヘルニアは遺伝する?遺伝の確率と発症の要因、予防方法について

鼠径ヘルニアは、一般的に脱腸とも呼ばれ、太ももの付け根(鼠径部)の腹膜の筋肉に穴が開き、腸や臓器の一部が外へ飛び出す病気です。鼠径ヘルニアの発症の要因には生まれつき、遺伝といった先天的なものと、性別や加齢、腹圧のかかりやすい体勢や動作などの後天的なものがあります。遺伝的な要因については、現在のところ確証はされていないものの、近年の研究で特定の遺伝子との関連性が示唆されています。ここでは、鼠径ヘルニアの症状について触れ、発症する主な要因や遺伝性、予防法などについて解説します。

1. 鼠径ヘルニアの症状

鼠径ヘルニアは、一般的に脱腸とも呼ばれ、太ももの付け根(鼠径部)の腹膜の筋肉に加齢などが原因で弱まって穴が開き、そこから、腹膜と一緒に腸や臓器の一部が外へ飛び出すことをいいます。

初期症状としては、鼠径部にやわらかな膨らみができ、立っているときは現れますが、指で押さえたり、横になったりすると引っ込んでしまう特徴があります。放置すると、急に硬くなったり、膨らみを押しても引っ込まなくなったりする「陥頓(かんとん)」という状態になることがあり、こうなると、緊急手術が必要になります。

鼠径ヘルニアは、腹膜の筋肉に穴が開くという構造的な問題のため、自然治癒することはなく、手術による治療となるため、早めに専門の医療機関を受診することが大切です。

2. 鼠径ヘルニアが発症する主な要因

鼠径ヘルニアの発症には、先天的な要因と後天的な要因があります。先天的な要因の場合、生まれたときからある、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき:腹膜が袋状にのびてできた出っ張り)により、乳児期から発症します。後天的な要因の場合、加齢によって腹部の筋肉が弱くなることや慢性的に腹圧のかかる動作などにより発症します。

2.1. 先天的な要因

小児の鼠径ヘルニアの原因は先天的な体の構造が関係しています。鼠径部にはお腹と外陰部を結ぶ管が通っており、これを「鼠径菅」といいます。胎児期において、男児の場合、はじめはお腹の中にある精巣が鼠径管を通って陰嚢(いんのう)へと移動します。この過程で、お腹の内側を覆う腹膜の一部が引き込まれ、袋状の構造(腹膜鞘状突起)が形成されます。

一方、女児の場合、鼠径菅を通るのは、子宮円索(しきゅうえんさく)という、子宮を支える靭帯です。この過程で腹膜の一部が大陰唇に向かって伸びることがあり、これを「ヌック菅」と呼びます。

通常、腹膜鞘状突起(ヌック菅)は、出生時に自然と閉鎖しますが、閉じずに残っていると、腹圧がかかった際に、その袋(ヘルニア嚢)の中に腸や臓器の一部が入り込み、鼠径ヘルニアを発症することがあるのです。

2.2. 後天的な要因

鼠径ヘルニアは先天的な理由に加えて、性別や加齢による腹部の筋力の脆弱化、肥満、腹圧のかかる体勢や動作による鼠径部への圧力などの要因で発症する場合があります。それぞれの要因について詳しくみていきます。

2.2.1.性別

鼠径ヘルニアは女性に比べて男性の方が、発症リスクが高く3人に1人が罹患するともいわれています。その理由の一つとして、男性の鼠径菅の弱さが挙げられます。男性の精巣は胎児期にはお腹の中に位置していますが、妊娠期間中にお腹から鼠径菅という筒状の通路を経由して陰嚢へ移動します。この移動にともない鼠径管が構造的に弱くなっているため鼠径ヘルニアが発症しやすくなります。

一方、女性の場合は、妊娠中や出産をきっかけに、鼠径ヘルニアを発症することがあります。なぜならば、妊娠後期は胎児が急激に大きくなり子宮が大きくなることで腹圧が高まり、出産時はいきむことで強く腹圧がかかるためです。

2.2.2.加齢
加齢は鼠径ヘルニアの主な原因の一つであり、特に40代以降の男性に多く見られます。加齢にともない、腹部の筋肉や筋膜が弱くなり、内臓を支える力が不足します。このため、内臓が腹膜の隙間から脱出しやすくなり、発症リスクが高まります。

2.2.3.腹圧のかかる体勢や動作

体内脂肪の重量が重く、腹圧が高く鼠径部に負担がかかりやすい肥満の方は、鼠径ヘルニアになりやすい傾向があります。また、便秘気味の方も排便時にいきむことで、腹圧がかかり鼠径ヘルニア発症の要因になります。その他、立ち仕事の人、咳が多い人、立ったり座ったり、重い物を持ち上げるなど、慢性的に腹圧のかかる体勢や動作も発症につながるため、注意が必要です。

3. 鼠径ヘルニアが遺伝する?

鼠径ヘルニアの遺伝性については、いくつかの報告があります。

一つは、「コラーゲンタイプIのα1遺伝子多型」との関わりです。

コラーゲンタイプIのα1遺伝子とはコラーゲンの一部を作るための設計図となる遺伝子で骨の強度や皮膚の弾力性などに関与しています。そのバリエーション(変異)である「コラーゲンタイプIのα1遺伝子多型」と鼠径ヘルニアの発症リスクとの関連性が示唆されています。

もう一つは、「アンギオテンシン変換酵素遺伝子の多型」との関連です。

アンギオテンシン変換酵素遺伝子とは血圧などの調整などに関与しています。そのバリエーション(変異)であるアンギオテンシン変換酵素遺伝子の多型は、腹部大動脈瘤(腹部大動脈が部分的に大きくなる病気)と鼠径部ヘルニアの発症に関与することが報告されています。

いずれも、現在のところ研究段階であり、他の遺伝子や生活習慣、環境要因などとの関わりも含めて、さらなる研究が期待されています。

4. 鼠径ヘルニアを予防する方法

鼠径ヘルニアを確実に予防する方法はありません。しかしながら、急激に体重が変化しないように注意して適切な体重を維持し、日常生活で重い物を持ち上げるなどの腹圧がかかる動作や状況を避けることによって、予防できる可能性があります。

また、慢性咳嗽(まんせいがいそう:8週間以上、せきが続く)の症状や便秘による排便時のいきみ、尿閉(にょうへい:尿がまったく出ない状態)による排尿困難などで、慢性的に腹圧がかかりやすくなります。鼠径ヘルニアを発症させたないためにも、早めに治療をすることが大切です。

5. まとめ

鼠径ヘルニアは40代以上の男性に多く、加齢による腹部の筋力の低下や腹圧をかけやすい体勢や動作などが要因になって発症する傾向があります。男性ばかりでなく、女性も妊娠や出産などをきっかけに発症することがある病気です。遺伝性については明確に証明されてはいませんが、いくつかの研究で特定の遺伝子との関連性が示唆されています。

鼠径ヘルニアは筋膜に穴があく病気のため自然治癒することはなく、根本的な治療は手術になります。患者さまの鼠径ヘルニアの種類や大きさなどのよって、リスクは異なります。また、放置すると、膨らみが大きくなって治療が困難になったり、手で押しても戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を引き起こしたりする可能性があるので、注意が必要です。

気になる症状があれば、できるだけ早く専門の医療機関に相談することをおすすめします。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のう疾患など、外科的良性疾患に対する診療・治療を専門的におこなっています。腹腔鏡手術を中心にできる限り体への負担を抑えた低侵襲治療を心がけており、日帰り手術または短期入院を選択していただけます。消化器外科領域において、経験と資格を持つ医師が、腹腔鏡手術や内視鏡治療をはじめとする先進的な治療を提供しています。鼠径ヘルニアのことで少しでも気になることがあれば、いつでもご相談ください。

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