手術を受ける際、多くの方が気になるのが「感染のリスク」ではないでしょうか。
テレビドラマなどで、外科医が両手を胸の前に上げたまま手術室に入ってくる場面を見たことがあるかもしれません。これは、手術前に手指を消毒して清潔な状態にし、その後、滅菌手袋やガウンを着用するまでの間に不潔にならないよう配慮しているためです。
手術では、感染を予防するために皮膚の消毒や滅菌された器具の使用など、さまざまな清潔操作が行われます。当院で多く行っている鼠径ヘルニア手術では人工メッシュを使用するため、特に感染対策が重要です。ここでは、当院で行っている主な感染対策・清潔操作について解説します。
いくら手指や器具を清潔にしても、手術室自体が清浄でなければ意味がありません。当院の手術室では、垂直層流方式の空調を採用しています。天井吹出口にはHEPAフィルターを備えており、微細な粒子や浮遊細菌を除去したクリーンな空気を供給しています。これにより、清浄度ISOクラス7のクリーンルーム環境を維持しています。
当院では、手術前の皮膚消毒にオラネジンを使用しています。オラネジンは2015年に発売された消毒薬で、従来よく使用されてきたヨード製剤と比較して、手術部位感染の発生率を有意に低下させたという報告があります(Obara H et al. Lancet Infect Dis. 2020 20(11):1281-1289)。
この報告では、オラネジン使用群において手術部位感染が約半分に減少しており、当院でもエビデンスに基づいた消毒薬選択を行っています。
手術前の手洗いにはラビング法を採用しています。以前はブラシを用いて強くこする方法が一般的でしたが、皮膚に微細な傷が生じることで、感染予防の観点から現在では推奨されなくなっています。
当院では、アルコール製剤を用いたラビング法により、十分な消毒効果を保ちつつ、皮膚への負担を最小限に抑えています。また、手術件数が多く1日に何度も手洗いを行う環境においても、ラビング法は適した方法と考えています。
内視鏡手術では比較的長い内視鏡鉗子を使用します。そのため、操作中に器具が体に触れても不潔にならないよう、マスクの部位まで覆う滅菌ガウンを使用しています。患者さんにかけるシーツ(覆布)についても、すべてディスポーザブル製品を用いています。
滅菌手袋は必ず二重装着(ダブルグローブ)を行っています。これにより、手袋の破損(ピンホール)による血液曝露や汚染のリスクを低下させることが報告されています(Cochrane Review)。また、万が一針刺し事故が起きた場合にも、医療従事者の安全確保につながります。
また、当院では鼠径ヘルニア手術で人工メッシュを使用する直前に、必ず手袋交換を行い、より清潔な状態で手術を進めるよう徹底しています。
手術の安全性は、術者の技術だけで決まるものではありません。
手術室の環境整備、皮膚消毒の選択、手洗い方法、滅菌手袋やガウンの使い方など、一つ一つの清潔操作を積み重ねることが、感染予防につながります。
特に人工メッシュを使用する鼠径ヘルニア手術では、わずかな感染でも治療に影響を及ぼす可能性があるため、当院では標準的な方法に加えて、より安全性を重視した対応を行っています。
患者さんの目には見えにくい部分ではありますが、こうした基本的な感染対策を丁寧に積み重ねることが、安心して手術を受けていただくための土台になると考えています。
今後も、安全で質の高い手術を提供できるよう、清潔操作と感染対策を徹底してまいります。

文責 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学
公開日:2026年2月7日