鼠径ヘルニアという病名を聞いてピンとくる方は少ないかもしれませんが、「脱腸」という名前なら聞いたことのある方も多いと思います。この病気は、脚の付け根にポッコリとしたふくらみができるのが特徴ですが、それ以外のことはあまり知られていないのではないでしょうか。しかし、鼠径ヘルニアの手術数は虫垂炎(盲腸)や胆石よりも多く、特に男性では約3割~4割の方が一生のうち一度は鼠径ヘルニアになるといわれています。
この記事では鼠径ヘルニアの種類や症状を紹介するとともに、気になる症状がある方必見の検査や治療法についても初心者向けにポイントを絞って解説します。
太ももの付け根から腰骨に向かう、いわゆるビキニラインにあたる部分を鼠径部といいますが、このあたりにできるピンポン球のようなふくらみができるのが「鼠径ヘルニア」の特徴です。丸いふくらみの正体は皮膚の下に飛び出た腸などであり、俗に「脱腸」とも呼ばれます。中高年男性に多いのも大きな特徴で、実に男性の約3割~4割の方が生涯で一度は鼠径ヘルニアを経験するというデータがあるほどです。
鼠径ヘルニアは患部が股間のすぐ近くであることや、あまり痛みを感じないことなどから受診をためらう方が少なくありません。しかし、一度発症してしまうと自然に治ることのない病気であり、放っておくと内臓の壊死や腹膜炎などの合併症を引き起こして重症化する恐れがあります。
「ヘルニア」とは、臓器や体の組織などが本来あるべき場所から「脱出」している状態を指します。鼠径ヘルニアは腸などが皮膚の下に「脱出」して起こりますが、ヘルニアの位置によって3つのタイプに分類されます。
外鼠径ヘルニアとは、からだの中心線から少し離れた、体の外側寄りの鼠径部にあらわれるヘルニアです。鼠外鼠径ヘルニアでは、鼠径管のなかを通って腸などが出てくるのが特徴で、鼠径ヘルニアでもっとも多くみられるタイプで男性の方が発症しやすい傾向があります。
内鼠径ヘルニアは、外鼠径ヘルニアよりもからだの中心線に近い部分にあらわれます。鼠径管の中は通らずに、おなかの筋膜のほころびから腸などが飛び出てくるタイプです。主に中高年の男性に多くみられるのが特徴です。
太ももの付け根にある「大腿管」という血管や神経が通る管を通って、鼠径部の下側から腸などの臓器が飛び出してしまうのが大腿ヘルニアです。出産経験のある、やせ型で中年期以降の女性はこの病気のリスクが高いといわれています。大腿管はもともと細いため、ヘルニアになると飛び出した腸などが締め付けられて血流障害をおこし、重症化する恐れが高くなります。
鼠径ヘルニアの原因には先天性のものと後天的な要因によるものとがあります。先天性の鼠径ヘルニアは子どものうちに発症することが多く、性別や加齢が要因となる後天性の鼠径ヘルニアは中高年男性に発症しやすいといわれています。
子どもに多い先天的な鼠径ヘルニアは、母親の胎内にいるときに鼠径管などの管が袋状に変形してしまい、その中に内臓の一部が入り込むことで起こります。一方、中高年男性に多い後天的な鼠径ヘルニアは、もともと男性の鼠径管が弱いことに加え、加齢で筋肉や筋膜が衰えることで起こります。
鼠径ヘルニアの詳しい原因については以下の記事をご参照ください。
「鼠径ヘルニアは遺伝する?遺伝の確率と発症の要因、予防方法について」
初期の鼠径ヘルニアでは、丸いふくらみのほかは無症状のことも少なくありませんが、以下のような症状があらわれる場合があります。
ヘルニアの丸いふくらみは、初期のころには横になったり手で押したりすると引っ込みますが、立っているときやおなかに力を入れたときに再びあらわれます。しかし、時間が経つにつれて手で押しても引っ込まなくなり、さらに悪化すると飛び出した腸の一部が筋肉に締め付けられて血流障害を起こす「嵌頓(かんとん)」という状態に至る恐れがあります。嵌頓は激しい痛みをともない、腹膜炎や腸の壊死などを引き起こして生命にかかわる場合もあります。
以下の記事で鼠径ヘルニアの症状について詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
鼠径ヘルニアが疑われる場合は、医師による「問診」、ふくらみの状態を目視で確認する「視診」、手で触れてふくらみの状態を調べる「触診」などの検査で診断します。ただし、視診や触診で症状が確認できない場合や、ほかの病気が疑われる場合には、超音波検査やCT検査などの画像診断をおこないます。
詳しい鼠径ヘルニアの検査や診断方法については以下の記事をご参照ください。
鼠径ヘルニアはおなかの筋肉や筋膜のほころび(ヘルニア門)から腸などが飛び出でてしまう病気であり、治療にはヘルニア門をふさぐ手術が必要です。現在は医療用のメッシュシートでヘルニア門をふさぐ手術が主流となっていますが、この手術には主に腹腔鏡(内視鏡)を用いる「腹腔鏡手術」と、ふくらみの部分を切開する「鼠径部切開法」の2種類があります。また、腹腔鏡手術には、おなかに複数の穴をあける通常の手術法と、1ヵ所だけ穴をあける最新の手術法があります。
鼠径ヘルニアの手術については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
鼠径ヘルニアはおなかの筋膜が弱くなってほころびができてしまい、そこから腸などが飛び出てしまう病気です。一度できたほころびは自然に治ることはなく、手術でふさぐことが唯一の治療法です。放っておくとヘルニアが大きくなったり、嵌頓(かんとん)を起こして重症化したりすることもあるため、できるだけ早い段階で医療機関を受診することが重要です。
鼠径ヘルニアの手術には腹腔鏡手術と鼠径部切開法がありますが、鼠径部切開法は患部を切開するため、痛みや術後の回復に時間がかかるといったデメリットがあります。切開法に対して、腹腔鏡による手術は痛みが少なく術後の回復も早いため、日帰りでもおこなえることが大きなメリットです。
数多くの鼠径ヘルニア手術を手がけている西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、からだの負担が少ない最新の腹腔鏡手術「SILS-TEP法」を取り入れています。通常の腹腔鏡手術では腹部に3ヵ所の穴をあける必要があるのに対して、SILS-TEP法ではおへそに小さな穴を1ヵ所あけるだけで手術をすることが可能です。
SILS-TEP法は他の手術法に比べてからだへの負担が少なく、ヘルニアの再発率も極めて低い手術法ですが、医師には高度な技術が求められます。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、高度な技術を習得した専門医が最新の腹腔鏡システムを使用して手術をおこなうことにより、患者さんに安心して治療を受けていただけます。また、患者さんのご要望に応じて、日帰りや短期入院も選択することも可能です。
鼠径ヘルニアは早めの治療がなにより重要です。鼠径部に異常を感じたら、1日も早く専門の医療機関を受診し、適切な治療を受けてください。