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医療コラム

鼠径ヘルニアに関するブログ記事一覧

2024.12.21

鼠径ヘルニア(脱腸)は、初期段階では痛みをほとんど感じず、膨らみを指で押すと元に戻りますが、放置して悪化すると、重篤な病気を引き起こす可能性があります。

鼠径ヘルニアが自然治癒することは期待できず、根治を目指すためには手術が必要です。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUには、病院のある西宮市以外に、神戸方面からも患者さまが受診されています。この記事では神戸在住の方が鼠径ヘルニア手術を当院で受けていただくために、ぜひ参考にしていただきたいポイントや神戸方面からのアクセスなどについてご紹介いたします。

1.  鼠径ヘルニアの手術をする病院を選ぶポイント

鼠径ヘルニアの手術を受けなければならず、どの病院を選べばよいか迷っていませんか?

通院の手間を考えて、自宅から近い病院を探している方は多いかもしれませんが、重視したいのは、病院の専門性や実績です。鼠径ヘルニアの手術の実績や先進的な医療機器や設備、治療環境が整っているか、経験や資格を有している医師や麻酔科専門医が在籍しているかを十分に確認しましょう。

2. 神戸から来られる患者さまはどれくらい?

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUへは当院のある西宮市や隣接する尼崎市の方が多くいらっしゃいますが、神戸方面からも全体の約3割ほどの患者さまが受診されています。近隣の方はお近くのクリニックからのご紹介が多いのですが、神戸より西からはホームページをご覧になって来院される方が多い印象です。鼠径ヘルニア治療のセカンドピニオンを目的に遠方から来られる方もいらっしゃいます。

3. 神戸在住の方が受診しやすいポイント

初めての病院を受診するときは不安になるものです。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、神戸在住の患者さまにできるだけ負担なく受診していただけるように、最善の配慮を心がけております。ここでは、神戸在住の患者さまが当院を受診しやすいポイントについてご紹介します。

3.1. 紹介状なしで受診できる

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは紹介状がなくても受診していただけます。専門的な診断や検査のご希望、セカンドオピニオンにも対応しております。「まずは相談したい」「気になる症状を確認してほしい」といったご相談も可能です。患者さま一人ひとりの状況に合わせた丁寧な診療を心掛けております。

3.2. 日帰りか短期入院を選択できる

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、鼠径ヘルニア(脱腸)の手術において日帰りまたは短期入院の選択が可能です。お仕事でお忙しい方やお子さんが小さい方など、日帰り手術のニーズは多く、同様に日帰り手術に対する不安から短期入院を希望される患者さまもいらっしゃいます。当院では日帰り手術や短期入院にも対応できるように、施設・設備を整えています。日帰り手術を予定していたけれど、術後の様子で入院をしたくなった場合にも柔軟に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

3.3. 体への負担を抑えた低侵襲治療

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 COKUでは鼠径ヘルニアなどの外科的良性疾患に対して、腹腔鏡手術を中心に、できる限り身体への負担や苦痛を軽減した低侵襲外科治療をおこなっています。腹腔鏡手術では、従来の開腹手術と比べて傷が小さいのが特徴です。また、当院では、患者さまの身体により負担の少ない単孔式手術(腹部に1つの孔を開けておこなう腹腔鏡手術)をおこなうことも可能です。

3.4. 検査と術式のこだわり

鼠径ヘルニアは、足の付け根が立つとぽっこりと膨らみ、寝ると戻るのが特徴です。そのため、当院では必ず立位で膨らみを確認し、押して戻るか、寝て戻るかを観察します。術前の診断のため当院では、腹臥位(ふくがい)でのCTを用いています。高精度のCTでは外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニアといったヘルニアのタイプ分類も可能です。さらに、外科医による鼠径部の読影だけでなく、放射線科医が肝臓や胆のう、腎臓なども確認し、何らかの疾患を確認した場合は、その疾患の専門病院をご紹介しています。

また、術式はヘルニアのタイプや患者さまの状態に適していることにこだわり、患者さまのご希望にも配慮しています。主におこなっているのは腹腔鏡手術ですが、全身麻酔が困難、前立腺手術の既往がある場合など、患者さまの病態に応じて鼠径部切開法をご提案することもあります。消化器外科領域において経験と資格を持つ医師が手術を担当し、腹腔鏡手術(TEP法・TAPP法)が可能で、TEP法は単孔式TEP法(SILS-TEP)を採用しています。

3.5. 神戸からでもアクセスしやすい立地

西宮敬愛会病院COKUには神戸からもアクセスしやすい場所に位置しており、神戸在住の方も多く受診されています。ここでは、電車と車を利用しての当院へのアクセスをご紹介します。

電車でのアクセス

≪最寄り駅≫

・西宮北口駅(阪急神戸線)

当院の最寄り駅は、西宮北口駅(阪急神戸線)です。西宮ガーデンズへ向かう東改札口を出て徒歩6~7分で到着します。途中の道は西宮ガーデンズの回廊で、多くが屋根のある道になっています。

・西宮駅(JR神戸線)

西宮駅からの場合は、徒歩17分と少し歩きます。そのため西宮駅からはバスの利用がおすすめです。当院の目の前のバス停である「西宮営業所前」、もしくは「阪急西宮北口駅」にて下車いただくと、当院まで徒歩数分で到着します。

≪最寄り駅までのアクセス≫

・西宮北口駅(阪急神戸線)の場合

神戸市内の主要駅から阪急電車を利用します。

阪急神戸本線が最も便利です。

例:神戸三宮駅からのアクセス

①阪急神戸本線の「大阪梅田行き」に乗車。

②西宮北口駅で下車(約15分〜20分)。

③改札を出て徒歩6~7分で当院に到着します。

・西宮駅(JR神戸線)の場合

神戸市内の主要駅からJR東海道本線(JR神戸線)を利用します。

例: 神戸三宮駅からのアクセス①JR神戸線(JR東海道本線)「大阪方面行き」に乗ります。

*新快速、快速、普通いずれも利用可能です。

*JR神戸線の西宮駅に「普通」と「快速」は停車しますが、「新快速」は停車しません。

「新快速」に乗ってこられる場合は、尼崎駅で「普通」か「快速」にお乗り換えください。

②西宮駅で下車(快速で約10分、普通電車で約15分)

改札を出て、徒歩の場合は約17分、バスの場合は「西宮営業所前」で下車するとすぐに当院に到着します。

*「西宮営業所前行き」のバスがない場合は、西宮北口駅から徒歩でお越しください。

  • 車でのアクセス

≪高速道路を利用する場合≫

  1. 神戸市内から阪神高速3号神戸線(大阪方面)に入ります。
  2. 西宮出口で降ります。
  3. 県道82号線などを利用して、当院を目指します。

≪一般道路を利用する場合≫

  1. 神戸市内から国道2号線や43号線を東に進みます。
  2. 西宮市内に入り薬師町方面を目指します。

当院は、無料でご利用いただける駐車場を設けています。

4. 西宮敬愛会病院COKUに来られた神戸在住の方の声

西宮敬愛会病院COKUではできるだけ多くの方に、快適に来院していただけるように、できる限りの配慮を心がけています。実際に来院された方からは、交通アクセスの良さや無料で使用していただける駐車場、予約の取りやすさ、スタッフの対応などについて、さまざまなお声をいただいていますので、その一部をご紹介します。

  • とても清潔で明るい雰囲気の待合室だったので安心できました。
  • 受付のスタッフの方の対応が良くて気持ちよく通えました。
  • 待ち時間が短くてよかったです。
  • 広い無料の駐車場があるので助かりました。
  • 神戸市西区からでしたが、電車のアクセスが良いのでよかったです。
  • 予約の段階からスムーズに手続きが進みました。受付のスタッフの皆さんがとても親切でありがたかったです。
  • 土曜日も含め予約が取りやすかったです。
  • 病院内が綺麗で心地よく過ごせました。
  • 送り迎えが一人のため難しいと思ったのですが、車で来て一泊し翌日車で帰れました。

5. 鼠径ヘルニアかもとお悩みの症状がある方はご相談ください!

鼠径ヘルニアは放置すると重症化するおそれがあるため、早めに病院で治療する必要があります。そのうえで、どの病院を選択するかは重要です。自宅に近いからという理由ではなく、先進的な医療機器や治療環境を備え、鼠径ヘルニア手術の実績がある医師が在籍しているかを重視して選びましょう。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUは、鼠径ヘルニアや胆のう疾患など、外科的良性疾患に対し、低侵襲外科治療を専門的におこなっています。消化器外科領域においてさまざまな経験や知識を有する医師が先進的な治療を提供し、患者さまの負担をできる限り少なくする治療を目指しています。「足のつけ根の膨らみが気になる」「下腹部に違和感がある」など、もしかして鼠径ヘルニアかもと思うような症状がある方は、いつでもご相談ください。

2024.11.09

腹腔鏡による鼠径(そけい)ヘルニア手術は、身体への負担が軽い「低侵襲」な治療法です。しかし、医療用のメッシュシートや医療器具を体内に挿入する外科手術をおこなうため、リスクがゼロとはいえません。再発や感染を防ぐためには、手術後の生活には一定の注意が必要です。今回は鼠径ヘルニアの手術後の経過と生活上の注意点、手術によって起こる症状や合併症の可能性について解説します。

1. 鼠径ヘルニア手術の日帰り・入院の判断

近年、鼠経ヘルニアの手術は、手術の方法や使用する医療機器、医薬品などの進化によって日帰りでおこなえるようになってきました。ただし、日帰り手術を受けられるのは、ヘルニアが重症化しておらず、合併症のリスクが低い方に限られます。

糖尿病や心臓病、呼吸器疾患など持病のある方や症状の重い方の場合、使用している薬の副作用や手術後の合併症リスクへの対応が求められます。そのため、それぞれの診療科がそろう総合病院に入院して手術を受ける必要があります。なお、総合病院では標準的な入院期間を定めていることが多く、鼠経ヘルニア手術での入院日数は3泊4日や4泊5日が一般的となっています。


2. 鼠径ヘルニアの手術後の経過について

からだに負担の少ない日帰り手術ですが、手術のあと約2週間は禁止事項や制限事項があります。痛みがなくても無理をせず、医師のアドバイスに従って日常生活を送るよう心がけてください。

2.1. 手術当日〜3日程度

手術当日は全身麻酔の影響があるため、自動車や機械の運転は厳禁です。自転車に乗ることも避けてください。また、出血のリスクを高めるため、入浴は短時間のシャワーで済ませてください。アルコールも出血のリスクを高めますので、手術後3日間は禁酒となります。

手術当日の夜から翌朝にかけて、痛みが強く現れることがあります。手術後の痛みに対しては、処方された鎮痛剤を服用して対処してください。手術当日はできるだけ安静に過ごしていただきますが、翌日からはデスクワークや負担の軽い仕事を始めていただけます。長時間の立ち仕事などは3日目以降を目安として再開いただけますが、引っ越しなどの重労働やトイレで強くいきむなど腹圧のかかることは避けてください。

手術に際して中止したお薬は翌日からご使用いただけます。おおむね手術後3日間は、あまり無理をせず、からだに負担をかけないようにお過ごしください。

2.2. 手術後1週間〜2週間

手術後1週間ほどで痛みや違和感は和らいできますが、からだを動かした際に少し痛むことがあるかもしれません。散歩やゆっくりとしたジョギングなどの軽い運動なら始めてかまいませんが、ジムでの筋トレや登山、マラソンなどハードな運動は控えてください。

2.3. 手術後2週間以降

手術後2週間経過して違和感や痛みがおさまっていれば、通常の生活に戻していただいて問題ありません。スポーツ選手や重労働をおこなう方の場合も、競技や仕事への本格的な復帰は手術後2週間以降を目安として、徐々に始めることをおすすめします。

3. 当院では術後1週間を目安に経過確認をします

当院では、手術後1週間を目安にご来院いただき、経過の診察をおこないます。傷口や痛みの程度などを確認させていただき、必要があればお薬を処方いたします。問題がないようであれば、術後約1か月目に診察を行います。その後は症状に応じて3か月目の診察が必要か判断いたします。

4. 鼠径へルニアの手術後の運動について

鼠径ヘルニアの手術では、メッシュシートを使用してヘルニアの穴をふさぎますが、手術部位の浮腫や炎症が十分に落ち着くのに約2週間かかります。そのため、鼠径ヘルニアの手術から最低でも2週間は、おなかに力が入る運動は控える必要があります。

散歩やウォーキング程度であれば手術後1週間以降から始めていただいて問題ありませんが、ランニング、水泳などの「激しい運動」は、手術後2週間が経過するまでは控えてください。バーベル・ダンベルなど器具を使用した筋トレはもちろんのこと、腕立て伏せ・腹筋、スクワットなどの自重トレーニングも禁止です。

ほかにも、ゴルフ、サーフィン、サイクリング、乗馬、長距離のランニングやマラソンなどの激しい運動はメッシュの固定を妨げ、ヘルニアが再発する可能性を高めるおそれがあります。鼠径ヘルニアの手術から2週間は、強い腹圧のかかる運動や重い物を持つことは避けてください。

強度の高いトレーニングや激しいスポーツは、手術後2週間を経過して痛みや違和感がなくなってから、無理をせず徐々に再開してください。

5. 鼠径へルニアの手術後に起こることのある症状

鼠径ヘルニアの手術後に起こる可能性のある症状について説明します。これらの症状のほとんどは一時的なもので、時間の経過とともによくなりますが、心配な場合は遠慮なく担当医にご相談ください。

5.1. 痛み

手術後は当日から翌日にかけては強く痛むことがあります。長い場合は3日間ほど痛みが続くこともありますが、その後は次第にやわらいでいきます。痛みの感じ方は個人差があるため、痛みの程度をお伝えするのは難しいですが、動くのがつらいほどの痛みを感じる場合は、鎮痛薬を服用し、安静にしてください。

5.2. 出血や内出血・あざ

手術後は、傷口に貼られた保護テープに血がにじむことがありますが、これは傷口からの出血ではなく、縫合したすき間から血液がしみ出しているもので問題はありません。また、傷のまわりには内出血によるあざができることがありますが、これも1~2週間で消えていくので心配いりません。

内出血した血液は時間が経つと下の方に下がってくることがあります。男性の場合は陰嚢にあざが出ることがありますが、これもよくみられる症状のひとつですので問題はありません。

5.3. しこりや腫れ

手術後はヘルニアがあった部分に空間ができるので、そこに体液がたまって腫れやしこりのようになる症状がみられます。痛むことはほとんどありませんが、ヘルニアよりも硬く感じられるかもしれません。しこりや腫れは数週間から6ヵ月くらいで消えていきますので心配ありませんが、腫れがあまりに大きい場合や不快感が強い場合は医師にご相談ください。

6. 再発や合併症の可能性について

鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は再発や合併症が起こる確率がとても低い安全な治療法です。ただし、残念ながらリスクはゼロではありません。ここでは再発の可能性と、感染や漿液腫(しょうえきしゅ)などの合併症について説明します。

6.1. 再発の可能性

鼠径ヘルニア手術の再発率は2~3%といわれていますが、重症化した例を含まない一般的な鼠径ヘルニアの場合は1%未満と考えられます。ただし、鼠径ヘルニアを発症した方は、肥満や重労働な仕事、咳やいきみなどのリスク因子を持つことが多く、手術した側と反対側に鼠径ヘルニアが起こる可能性があります。

6.2. 感染

手術の手法からして、腹腔鏡下でおこなわれる鼠径ヘルニア手術の感染率は極めて低いと考えられます。ただし、手術器具が皮膚と接触することによる細菌感染が起こる可能性はゼロではありません。感染がメッシュシートにまで及んでしまった場合は再手術が必要になることもあります。


6.3. 漿液腫(しょうえきしゅ)

手術によってヘルニアがおなかの中に戻されると、ヘルニアのあった箇所に空間ができます。この空間に漿液(しょうえき=リンパ液などの体液)が溜まってできる「しこり」や「こぶ」を漿液腫と呼びます。漿液腫は手術後少し経ってからふくらんできますが、もとのヘルニアと同じくらいの大きさになることもあり、ヘルニアが再発したと思われる方も少なくありません。

ほとんどの場合、痛みもなく自然に消えていくため、放置しておいて構いませんが、あまりに大きく邪魔に感じるような場合は、注射針を刺して中の漿液を吸い出す治療をすることもあります。漿液腫は合併症ではありますが、ヘルニアが完治するまでの経過状態と考えていいかもしれません。

7. まとめ

鼠径ヘルニアの治療は、技術の進歩により、安全に日帰り手術を受けられるようになりました。ただし、腹腔鏡手術も外科手術であることに変わりはなく、経過観察や手術後のケアには細心の注意を払う必要があります。手術直後にしてはいけないことや、手術からの経過日数に応じた生活上の注意点を守ることも治療の一部とお考えください。

また、運動によるヘルニア再発のリスクや、手術後の症状、合併症の可能性について知っておくことは大変重要です。鼠径ヘルニアリスクの高い方、自覚症状のある方は、この病気と日帰り手術についての理解を深めていただき、気になることがあれば遠慮なく、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUにご相談ください。

2024.11.02

鼠経(そけい)ヘルニアとは、本来腹腔内にある小腸や大腸などの組織が、鼠径部(太ももの付け根のあたり)に飛び出し、ぽっこりとふくらんでしまう良性の病気です。ほとんどの場合、緊急性はありませんが、ふくらみによって違和感や痛みがあるなど、日常生活に支障がでる場合には治療が必要になります。ここでは、鼠経ヘルニアの治療方法について詳しくご紹介するとともに、治療にかかる費用や注意点、術後の痛みなども合わせて解説します。


1.鼠径ヘルニアの治療は手術をおこないます

鼠径ヘルニアは、小腸や大腸などの臓器を包んでいる腹壁の組織の一部が弱くなって穴があき(ヘルニア門)、その穴から腹腔内の内容物が出てきてしまう病気です。ふくらみを手で押すと、一時的にお腹の中に押し戻すことができますが、立ち仕事をしたり、お腹に入れたりするたびに同じところにふくらみができてしまいます。一度空いたヘルニア門は、自然にふさがることはなく、薬による治療もできません。鼠経ヘルニアを根本的に治すには、ヘルニア門を閉じる手術をおこないます。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、日帰りにも短期入院にもどちらにも対応しています。

2.鼠径ヘルニアの治療方法

従来の鼠経ヘルニアの手術といえば、飛び出してしまった腹膜(ヘルニア嚢)を処理した後に、ヘルニア門を縫い閉じる方法が広くおこなわれていましたが、組織が引っ張られて緊張がかかり、術後のつっぱり感や痛みが強く、再発率も高いという問題がありました。しかし現在では、より痛みが少なく、再発しにくい術式に進歩しています。

現在広くおこなわれている鼠経ヘルニアの手術方法は、ヘルニア門に人工のメッシュシート(医療用合成繊維でできた網)を置いて腹壁を補強する手術(Tension-free repair)です。この方法だと、ヘルニア門を覆うだけなので、緊張がかからず、術後のつっぱり感や痛みを軽減することができます。

手術に使用するメッシュシートは、医療用に安全性が確認されているもので、分解したり変質したりすることもないので、一度入れたシートを取り替える必要もありません。腹壁にメッシュシートを置いたあと、次第に腹壁の組織がメッシュシートを包み込み、線維状の結合組織が絡み合うことで強度を発揮します。

この人工メッシュシートを用いた鼠経ヘルニアの手術については主に2つの術式があります。腹腔鏡を使用する方法と、鼠径部を直接切開しておこなう方法であり、患者さまの体型やヘルニアの位置や大きさを検討して、ベストな選択をします。それぞれを詳しくみていきましょう。


2.1.腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、腹部に5~10ミリ程度の穴をあけて腹腔鏡を入れ、身体の中からヘルニア門を観察し、細い鉗子を使ってヘルニア部にメッシュシートを置く手術方法です。腹腔鏡手術はアプローチの違いから、TAPP法:Transabdominal preperitoneal repair(経腹的腹膜前修復法)とTEP法:Totally extraperitoneal repair(腹膜外腹膜前修復法)に分けられます。

TAPP法は、スコープ用(1ヵ所)、鉗子用(左右1ヵ所ずつ)の計3ヵ所の小さな穴をあけて腹腔鏡を入れ、腹腔内から患部にアプローチする方法です。

一方、TEP法は、腹腔内には腹腔鏡を入れず、腹膜と筋層の間(腹膜前腔)に腹腔鏡を入れ、患部にアプローチする方法です。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、腹腔鏡手術による傷を少なくしたTEP法であるSILS(Single incisional laparoscopic surgery)-TEP法を主におこなっています。SILS-TEP法は、へその部分に2センチ程度の穴を1つだけあけ、そこからスコープ用、鉗子用(左右)の腹腔鏡を入れて患部にアプローチする方法です。

どちらのアプローチでも、腹膜前腔のスペースに、人工メッシュシートを置いて腹壁を補強するというコンセプトは同じです。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、ヘルニア門径などに応じてTAPP法と使い分けることで、患者さまに最適な術式で対応します。

腹腔鏡手術では、傷の範囲が小さいため、術後の痛みが少なく、回復も早いと考えられています。しかし、腹腔鏡手術は技術的に難しく、スキルを持った医師でなければ実施が困難なことや、全身麻酔が必要になることなどから、どこでも受けられるわけではありません。

表:鼠経ヘルニアに対する内視鏡手術方法

切開孔の数切開孔の大きさ患部へのアプローチ
TAPP法3ヵ所5~10ミリ程度腹腔内から
SILS-TEP法1ヵ所2センチ程度腹膜前腔から(腹膜と筋膜の間)

2.2. 鼠径部切開法

鼠径部のふくらみの部分を切開してヘルニア門を見つけ、メッシュシートで覆って腹壁を補強する方法です。体型やヘルニアの大きさなどによって異なりますが、切開する幅は4~6センチ程度です。

鼠径部切開法にもいくつかの術式があり、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUではLichtenstein法(リヒテンシュタイン法)やメッシュプラグ法、ダイレクトクーゲル法などを用いています。

Lichtenstein法はオンレイ法とも呼ばれ、鼠経部の外側の位置にある筋膜の表面をメッシュで覆う方法です。メッシュプラグ法は、ヘルニア門に傘状のメッシュ(プラグ)を挿入し、さらに鼠径部の筋膜表面をメッシュシートで覆って補強する方法です。ダイレクトクーゲル法は、Lichtenstein法よりも深い筋膜と腹膜の間に形状記憶リングに縁取られ、中央にストラップの付いたメッシュシートを挿入し、筋膜の内側から患部を補強する方法です。

鼠径部切開法は、脊髄クモ膜下麻酔(腰椎麻酔)や局所麻酔のみでおこなうことができるので、全身麻酔が使えない方は鼠径部切開法を選択することになります。また、過去に腹腔鏡による前立腺手術を受け、腹膜前腔(ふくまくぜんくう)を治療済みの方も、鼠径部切開法をおこないます。

表:鼠経ヘルニアに対する鼠径部切開法

切開孔の数切開孔の大きさメッシュシートの置き方
Lichtenstein法1ヵ所4~6センチ筋膜の外側を覆う
メッシュプラグ法ヘルニア門にプラグを挿入+筋膜の外側を覆う
ダイレクトクーゲル法腹膜と筋膜の間に置いて腹膜を覆う

3.当院での鼠径ヘルニアの手術の流れ

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでの鼠経ヘルニアの手術前の準備や手術の流れ、手術後の注意点について詳しくお伝えします。

3.1. 手術前日の入浴・お食事など

手術前日も入浴可能です。前日の食事には特に制限はありませんが、前日24時以降は絶食してください。 前日のアルコール摂取は控えていただき、どうしても飲む場合も1杯までにしてください。飲水は手術前2時間までは可能ですが、手術開始時間によって異なりますので、オリエンテーションの際にお伝えします。

お化粧はせず、マニキュア、ペディキュア、コンタクト、指輪、時計、義歯、ヘアピン、アクセサリーなどはとって来院してください。

以下の準備をお願いいたします。

■タオル、保険証、お薬手帳

■肺血栓塞栓予防用弾性ストッキング(売店でご購入いただけます)

3.2. 手術当日の流れ

来院後は、受付からお部屋にご案内いたします。お部屋で手術着に着替えていただきます。施錠可能なロッカーも設置しています。お着替えが終わりましたら、スタッフより最終の確認をおこないます。

準備ができましたら、手術室に入り、看護師よりお名前の確認後、手術台に横になっていただきます。麻酔科医が点滴をとり、全身麻酔もしくは腰椎麻酔、局所麻酔をおこないます。十分に麻酔が効いていることを確認して手術を開始します。鼠径ヘルニアの手術時間の目安は、平均約1時間程度です。

手術後、全身麻酔の場合は麻酔を覚ましていきます。


3.3. 術後の経過観察

手術室で麻酔を覚ました後は、医師付き添いのもと、ストレッチャーでとなりのリカバリー室へと移動し、約2時間、術後の経過観察をおこないます。術後経過観察は、日帰り手術でも入院手術でも共通です。

最初はリカバリー室の奥のスペースで約15分程度モニターをつけてお休みいただきます。リカバリー室には看護師が常駐していますので、何かお困りの際はお声がけください。その後、離床の基準を満たせば、ご自身のリカバリースペースのリクライニングチェアに移り、お休みいただきます。

約2時間の間に、状態に合わせて水分摂取、歩行、排尿、軽い食事をとっていただきます。痛みがある方は痛み止めを適切に使用して痛みをコントロールします。

※短期入院の患者は、術後2時間の経過観察後、病棟の病室へ移ります。院内歩行は自由です。夕食と翌朝の朝食があります。

3.4. 日帰り手術の体制について

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、安全安心に日帰り手術をおこなうために、日本麻酔学会が提唱する「日帰り麻酔の安全のための基準」のガイドラインを厳守し、明確な基準を設けて日帰りの可否を判断しています。このガイドラインは、日帰り手術に適した患者の選択基準、受け入れ体制、麻酔中の安全管理、帰宅基準が記載されているもので、このガイドライン離床基準はAldreteスコア(The modified Aldrete scoring system)を評価指標に判断基準を設定しています。帰宅の基準はPADSSスコア(The revised postanesthesia discharge scoring system)を評価指標に判断基準を設けています。

■Aldreteスコア

活動性、呼吸、循環、意識、酸素飽和度をスコア化して評価

■PADSSスコア

バイタルサイン、活動性、悪心・嘔吐、術後痛、外科的出血を評価して帰宅判断

実際には、手術後は専任の看護師が常駐するリカバリー室に移動し、Aldreteスコアの判断基準に基づいて離床(ベッドから起き上げる)の判断をおこないます。離床の基準を満たした場合はソファ型のリカバリーチェアに移り、お休みいただきます。

約2時間の術後経過観察後、PADSSスコアの判断基準を満たせば、帰宅していただきます。

個人差はありますが、手術翌日から職場や学校に復帰できます。負荷のかかる動作は、術後2週間はお控えください。

緊急時の連絡先を退院時にお渡しいたします。ご不安なことがあればご連絡ください。

※手術当日は患者様本人の運転による帰宅はできません。公共交通機関をご利用いただくか、付き添いの方の運転でお帰りください。

4.手術の費用について

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUで実施する鼠径ヘルニアの手術には健康保険が適応されます。実際に使用する薬剤の量や種類などにより患者さまごとに費用は多少前後しますが、腹腔鏡下ヘルニア手術の費用は、3割負担の方のケースで、外来から入院までの総額として約10~15万円前後の窓口負担が発生します。窓口負担に対しては、高額療養費制度もご利用いただけるため、施設間で大きな差が出たり、高額になったりすることはありません。ただし、入院の方は入院費用が別途かかります。

お支払いは、銀行振り込みやクレジットカードもご利用いただけます。


5.手術後の注意点

手術は一定の確率で合併症が起こりえます。手術後に気になる症状がある場合は、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUへご連絡ください。また、気になる症状がない場合でも、術後フォローアップとして術後1週間目を目安にご来院いただき術後の経過を確認させていただきます。

5.1. 痛み・感染について

手術後は、手術部位に痛みや感染が起こる場合があります。術後の痛みに関しては、通常、術後数日は切開部の疼痛(とうつう)があるため、鎮痛薬を処方して症状を和らげます。多くの場合、痛みは徐々に和らいでいきますが、まれに数ヵ月にわたる知覚異常や神経疼痛が残ることがあります。慢性疼痛は術後の生活にとても大きな影響を与える合併症です。手術時には神経の同定や温存、神経の存在しやすい部位の操作を避けるなどの工夫をおこなっていますが、確定的なものはありません。術後の疼痛もしっかりとフォローアップしていますので、術後の外来時にご相談ください。

感染については、まれに遅発性の感染が生じるケースがあります。創部の発赤や腫脹、疼痛がある際には、感染が疑われるため診察を受けてください。軽いものは抗生剤治療で軽快することもありますが、感染が長引くときは再手術が必要になることもあります。

5.2. ヘルニア嚢が大きい場合

ヘルニア嚢(のう)が大きい場合、手術部位に水がたまり、その部分に触れると丸く硬いしこりのような感触がある場合があります。

これを漿液腫(しょうえきしゅ)といい、通常痛みなどはなく経過をみていくと徐々に小さくなっていくことがほとんどです。小さくならず疼痛などがある場合は針を刺して水を抜く治療をおこなうこともあります。

6.鼠径ヘルニアの再発の可能性

鼠経ヘルニアの手術は、メッシュシートを用いる術式が普及してから再発は減っているものの、再発のリスクはゼロではありません。組織が脆弱なところから再発をきたすことがあり、内視鏡外科学会が実施したアンケート調査によると、鼠径部切開法後の再発率は2%、TAPP法では3%、TEP法では0.4%であったと報告されています。手術後に再発した場合は、再手術が必要になります。術後数年たってから再発する可能性もあるため、術後に変化があればご相談ください。

7.まとめ

鼠経ヘルニアを根本的に治療するためには手術が必要です。近年では、ヘルニア門の部分にメッシュシートを置いて補強する手術法が主流になり、以前に比べて術後の痛みや再発率も減っています。さらに腹腔鏡と組み合わせることで、手術による身体への負担を軽減することができます。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUの腹腔鏡を用いた鼠経ヘルニアの手術では、おへそに小さな穴を1ヵ所あけ、そこから腹腔鏡を入れて手術をするSILS-TEP法を主に実施しており、手術後の痛みや傷跡が最小限になるよう工夫をしています。日帰りにも短期入院にもどちらにも対応しており、選択いただけます。

2024.10.10

径ヘルニア(脱腸)は、腹部の中にある小腸や大腸などが太ももの付け根あたり(鼠径部)から飛び出して、こぶのようなふくらみができる病気です。ふくらみの大きさはさまざまですが、横になって休んだり、ふくらみを手で押し戻したりすると、一時的に目立たなくなるのが特徴です。ふしかし、一度ヘルニアになってしまうと、重いものを持ったり、力んだりするたびにふくらみが出てきてしまうため、根本的に治すためには手術が必要です。

鼠径ヘルニアにはいくつかの種類があり、ヘルニアに似た別の疾患もあるため、治療に当たっては正確な診断をおこない、適切な手術方法を選択することが重要です。そこで本記事では、鼠径ヘルニアの検査・診断方法や手術の必要性について詳しく解説します。

1.鼠径ヘルニアってどんな疾患?

鼠径ヘルニアとは、腹腔内の小腸や大腸などの組織が、鼠径部(太ももの付け根のあたり)に飛び出してしまい、ぽっこりとふくらんでしまう良性の病気です。ふくらみの中身のほとんどが、腸の一部が飛び出したもののため、「脱腸」とも呼ばれています。

鼠径ヘルニアには大きく分けて、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3つの種類があり、鼠径部のふくらみ(隆起)の大きさも、ごく小さいものから、ソフトボール大の大きなものまでさまざまです。力んだり、長時間立ったりするとふくらみは大きくなり、横になったり、ふくらみの部分を手で押し戻したりすると、ふくらみが一時的に小さくなるのが特徴です。患部に違和感や軽い痛みを感じることもあります。

本来、腹腔内の腸や脂肪組織は、腹筋と筋膜などからなる腹壁に包まれており、外に出てくることはありません。ところが腹筋が弱くなったり、腹筋のつなぎ目に弱い部分があったりすると、腹壁に穴があくことがあります。その穴を通って腹腔内の内容物が出てきてしまうのが鼠径ヘルニアなのです。

生まれつき筋膜などに穴があいていることによって、こどもの時に鼠径ヘルニアになるケースもありますが、大人になってから発症する鼠径ヘルニアは、加齢による筋力低下、肥満、長時間の立ち仕事や力仕事などがきっかけで発症します。

2. 鼠径ヘルニアの検査・診断方法

鼠径ヘルニアが疑われる場合は、まず視診や触診を実施して診断します。ただし、症状が不明瞭なときは、画像診断を実施することもあります。鼠径ヘルニアの検査・診断方法について詳しくみていきましょう。

2.1.視診・触診が基本

鼠径ヘルニアは、基本的に医師が目でみて調べる「視診」と患部に触れて調べる「触診」で診断します。鼠径ヘルニアは、「足の付け根(太ももの付け根)が立つとぽっこりとふくらみ、寝ると戻る」という特徴があるので、視診や触診をおこなうときは、患者さんに立ってもらったり、横になってもらったり、お腹に力を入れてもらったりして、隆起の大きさや位置の変化、固さなどを確認します。

診断においては、問診から得られる情報も重要になります。患者さんの生活の中で、"長時間立っているとふくらみが大きくなる""重いものを持ったり、くしゃみをしたりすると痛みや違和感がある"などの症状がないかなどの質問をします。

視診・触診・問診などの臨床所見による鼠径ヘルニアの診断率は70~90%といわれています。

2.2. 超音波検査・CT検査を実施することも

鼠径ヘルニアは、視診と触診で診断できることがほとんどですが、視診や触診で鼠径ヘルニアの典型的な症状が確認できないときや、他の病気が疑われる場合には、超音波検査やCT検査などの画像診断をおこなう場合があります。

鼠径ヘルニアに症状が似た病気には、腹腔の外側にある脂肪のかたまりが皮膚の下に飛び出してくる「精索脂肪腫」(せいさくしぼうしゅ)や、うまれつき鼠径部にできた袋状の空間に体液が溜まってふくらむ「精索水腫」(せいさくすいしゅ)、睾丸の静脈血が滞ってこぶになる「精索静脈瘤」(せいさくじょうみゃくりゅう)などがあります。若い女性特有の病気としては、胎児期に女性器を形作る過程で、鼠径部にできた袋状の空間に体液が溜まってふくらむ「ヌック管嚢胞」(ぬっくかんのうほう)などもあります。これらの病気でも、鼠径部がふくらんで一見ヘルニアのように見えますが、画像診断をおこなうことで鑑別できます。

画像診断では、手軽に実施できる超音波検査が一般的ですが、超音波検査だけでは鑑別できないケースもあり、追加でCT検査が必要になることもあります。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、院内に高精度CT設備を導入しおり、詳しい鑑別が必要な患者さんに対しては腹臥位(ふくがい・うつ伏せの状態)でのCT検査を積極的に実施しています。患者さんにうつぶせになっていただき、鼠径部のふくらみが出た状態で撮影することで、ふくらみの大きさや内容物、周りの組織との位置関係が詳細に観察できます。国内の研究では、腹臥位のCTによる鼠径ヘルニアの診断率は98.3%と報告されており、より正確な診断につながります。

3.     鼠径ヘルニアの手術の必要性について

一度鼠径ヘルニアになったら、自然に治ることはないため、根治させるためには手術が必要です。しかし、全ての鼠径ヘルニアに対してただちに手術が必要かというと、必ずしもそうではなく、症状の程度や状態によっては、症状を抑えながら経過観察をすることもできます。鼠径ヘルニアの手術の必要性について、詳しくみていきましょう。

3.1. 鼠径ヘルニアは自然治癒しない

鼠径ヘルニアでは、すでに腹壁に穴があいてしまっているため、自然に治ることはありません。治療方針としては、手術で根本的に治療するのが基本です。鼠径ヘルニアに対する手術方法としては、従来は袋状に飛び出した腹壁(ヘルニア嚢)を処理し、腹壁にあいた穴を縫合する手術がおこなわれていましたが、最近では、より痛みが少なく、再発率の低い「メッシュ法」が広くおこなわれています。メッシュ法は、鼠径部の腹壁が弱くなっている部分を人工のメッシュシートで覆い、腹壁を補強することで、腹腔内の腸などの組織が出てこないようにする方法です。メッシュ法にもさまざまな方法があり、患者さんの状態に合わせて最適な方法を選択します。

ただし、症状が軽く、緊急性がないと判断できるときは、すぐに手術はおこなわず、しばらく経過観察することもあります。

3.2. 嵌頓状態は早急に手術が必要

鼠径ヘルニアは、嵌頓(かんとん)状態といって、腹壁にあいた穴に腸の一部が挟まり込んでしまい、手で押してもお腹の中に戻らなくなってしまうことがあります。嵌頓状態を放置していると、挟まった腸に血液が通わなくなって一部が壊死したり、腸が詰まってしまう“腸閉塞(ちょうへいそく)”などを引き起こしたりします。このようなケースでは、命に関わる病気になるおそれがあるため、ただちに緊急手術をおこなう必要があります。

嵌頓が起きていない状態であっても、痛みや違和感があったり、強い吐気を感じたりする場合や、鼠径部のふくらみの影響で射精障害や排尿障害などの自覚症状がある場合は、早めの手術が必要です。

4.     手術を実施する前の検査

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは日帰りまたは短期入院で全身麻酔を用いて鼠径ヘルニアの手術をおこなっています。まず全身麻酔の事前準備として、血液検査、心電図検査、呼吸機能検査、胸部レントゲンなどの術前検査を実施し、循環器や呼吸器、肝臓・腎臓機能などに異常がないかを調べます。術前検査で心電図の異常などが見つかった場合は、循環器科での精査をおこなってから治療をすすめていくことになります。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは、院内に高精度CT設備を導入しているため、手術前にCT検査を実施し、鼠径ヘルニアの位置や大きさを事前に把握し、患者さんにとって最適な手術計画を立てて、手術に臨みます。

5.     まとめ

鼠径ヘルニアは良性の病気であるものの、自然に治ることはありません。ごく軽いものの場合、しばらく様子をみることもありますが、力んだり、長時間立っていたりすると症状を繰り返すため、基本的には手術が必要です。

鼠径ヘルニアの手術は、術前検査と正確な診断技術によってヘルニアの大きさや位置を見極め、状態に合った手術方法を選択することが求められます。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUでは術前検査として高精度CTを用いた画像診断を併用し、患者さんの状態に最適な手術をご提案しています。鼠径部のふくらみや違和感などの気になる症状があるときはご相談ください。

2024.09.06

足の付け根にときどき現れる膨らみを手で押したり横になったりすると元に戻り、痛みはあまりないが下腹部に違和感があるといった症状はありませんか。もしかすると「鼠径ヘルニア」という病気かもしれません。鼠径ヘルニア以外にも足の付け根にしこりや痛みが現れる病気は多く、治療せずに放っておくと命にかかわる可能性があります。

足の付け根「鼠径部」に現れるしこりや痛みの原因となるさまざまな病気について、さらに受診すべき診療科と受診のタイミングについて解説します。

1.足の付け根「鼠径部」とは

足(太もも)の付け根のややくぼんだ部分から斜め上へと向かう線、いわゆるVライン(ビキニライン)付近とVラインからやや内側のあたりを「鼠径部(そけいぶ)」と呼びます。この部分に「鼠径管」という細い管があることからこう呼ばれています。

2.足の付け根にしこりや痛みが起こる原因

足の付け根にしこりや痛みが起こる原因には、鼠径部にあるリンパ節の腫れや静脈瘤、女性に特有のヌック管と呼ばれる部分に水がたまるヌック管水腫などがあります。多くは弱くなった鼠径部の組織から腹膜の一部が飛び出してしまう「鼠径ヘルニア」によるものです。

3.足の付け根にしこりや痛みがある場合に考えられる病気

足のつけ根にしこりや痛みがある場合に考えられる代表的な病気は鼠径ヘルニアですが、鼠径ヘルニアと似ている別の病気や、血管やリンパの病気、腫瘍なども考えられます。ここでは、足の付け根にしこりや痛みがある場合に考えられる病気についてご紹介します。

3.1. 鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアは腸など内臓の一部が皮膚の下に飛び出して、足の付け根あたりにぽっこりとした膨らみができる病気です。

  • 症状

膨らみはおなかに力を入れたり、立っているときに現れ、横になったり指で押し戻したりすると引っ込んで目立たなくなります。初期には軽い痛みや不快感がある程度ですが、放っておくと飛び出した内臓が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」が起こり、強い痛みや内臓の壊死、腸閉塞をともなうこともあります。

  • 原因

大人の鼠経ヘルニアは、加齢により鼠径部の腹壁が弱くなるために起こります。この部分はもともと薄く、重いものを持ったり、いきんだりしておなかの圧力(腹圧)が高まることで、穴があいて内臓が飛び出すことが原因です。子供の鼠経ヘルニアは先天性です。

  • 治療

一度あいた穴が自然にふさがることはないため、手術で穴をふさぎます。手術は穴の部分をメッシュ状のシートで補強する方法が一般的です。

3.2. 鼠径部リンパ節腫大(そけいぶりんぱせつしゅだい)

鼠径部にあるリンパ節が手で触れてわかるくらいの大きさに腫れる症状です。

  • 症状

通常は2~3ミリのリンパ節が1センチ以上に腫れます。痛みをともなうことが多いのですが、痛みがない場合もあります。

  • 原因

多くの場合、腫れは感染による免疫反応で起こりますが、膠原病(こうげんびょう)などの自己免疫疾患や悪性腫瘍が原因の場合もあります。リウマチなど膠原病の治療薬で腫れが起こることもあります。

  • 治療

感染が原因の場合は、病気が治ることで自然によくなります。腫瘍や膠原病が原因の場合は病気の治療が必要です。膠原病治療薬を使用中にリンパ節が腫れてきた場合は主治医に相談してください。

3.3. 鼠径部皮下腫瘍(そけいぶひかしゅよう)、鼠径部皮下膿瘍(そけいぶひかのうよう)

鼠径部の皮膚に下にしこりができたり、膿が溜まったりしている状態です。

  • 症状

鼠径部皮下腫瘍の場合、痛みはなく皮膚が丸く盛り上がるか、皮膚の下にごろごろしたしこりを感じます。鼠径部皮下膿瘍の場合は痛みがあり、熱をもって赤く腫れる場合があります。

  • 原因

粉瘤(ふんりゅう)や石灰化上皮腫という表皮が変形・変質してできる腫瘍や、脂肪のかたまりの脂肪腫が多く見られますが、いずれも良性の腫瘍です。膿瘍は化膿性汗腺炎などの皮膚炎が主な原因となります。

  • 治療

良性腫瘍の場合は手術で切除または摘出します。皮膚炎が原因の場合、軽症であれば抗菌薬による治療、重症化している場合には手術により患部を切除します。

3.4. 大伏在静脈瘤(だいふくざいじょうみゃくりゅう)

太ももからふくらはぎの内側を流れる大きな静脈にコブのような膨らみができる下肢静脈瘤の一種です。

  • 症状

静脈血管がコブのように膨らんで見えるほか、足のだるさやむくみ、こむらがえりなどが起こります。進行すると出血したり潰瘍を起こしたりすることもあります。

  • 原因

立ち仕事や肥満、妊娠などで静脈内の圧力が高まったり、加齢で筋力が弱くなったりすることで静脈の弁がこわれ、血液が逆流することで起こります。

  • 治療

生活習慣の改善や弾性ストッキングの使用で進行を抑える保存療法や、静脈を切除する外科手術、レーザーや高周波で血管内を焼く血管内治療などが適用されます。

3.5. ヌック管水腫

女性に特有のヌック管という鼠径部の管に水が溜まる病気です。

  • 症状

鼠径ヘルニアとよく似た膨らみが特徴で、痛みをともなうことがあります。鼠径ヘルニアや異所性子宮内膜症を合併している場合があります。

  • 原因

生まれる前の赤ちゃんには、おなかの下の方の腹膜が伸びて袋状になった管がありますが、通常は生後まもなく閉鎖します。この管が閉鎖せずに残り、中に水がたまることで起こります。

  • 治療

鼠径ヘルニアと同様、自然に治ることはないため手術によって患部を切除します。水腫の内容物に子宮内膜組織が混じっていることがあるため、切除した水腫を検査、診断します。

3.6.      粉瘤・脂肪腫

粉瘤(ふんりゅう)とは、表皮が陥没してできた空洞に皮脂や垢などが溜まったおでき状の膨らみです。脂肪腫は皮膚の下にできる脂肪のかたまりで、どちらも良性の腫瘍です。

  • 症状

通常、どちらも痛みはなくドーム状の膨らみがみられるだけですが、粉瘤の中心には小さな穴があり悪臭のする内容物が出てくることがあります。睾丸と体内をつなぐ精索(せいさく)に生じる「精索脂肪腫」の場合、鼠径ヘルニアと合併していることがあります。

  • 原因

粉瘤、脂肪腫ともに原因は不明ですが、粉瘤はケガやニキビなどから生じることがあります。

  • 治療

粉瘤も脂肪腫も痛みがなく、小さいものであれば経過観察となります。炎症を起こしたり、大きくなり過ぎた場合には手術で取り除きます。

4. 足の付け根にしこりや痛みがある場合は何科を受診すべき?

足の付け根にしこりや膨らみがあって押すと引っ込む、立っている時間が長いと膨らんでくる、横になると膨らみがわからなくなる、などの症状がある場合は鼠径ヘルニアの可能性があります。痛みには個人差があり、痛みを感じない方もいます。これらの症状がある場合は外科(ヘルニア外来)または消化器外科を受診しましょう。

一方、リンパ節の腫れでも触るとしこりを感じ、ときに赤く腫れたり押すと痛んだりします。全身の発熱を伴い数日のうちに現れた症状であればウイルス性の感染症が疑われます。このような症状の場合は早めに内科を受診しましょう。また、粉瘤に細菌感染が起こると熱をもって赤く腫れ、急に大きさを増す場合があります。このような場合は皮膚科を受診してください。

痛みはあるがしこりはない、逆にしこりはあるが痛みはない、全身に倦怠感がある、どくんどくんと脈打つしこりがある、などの症状がある場合はほかの病気の可能性があります。まずはかかりつけ医に相談してみましょう。

5. 足の付け根にしこりや痛みがある場合の受診の目安

足の付け根にしこりや痛みが起こる原因には鼠径ヘルニアやヘルニアに類似した病気、リンパ節の腫れ、血管にできたコブ、腫瘍など多くの種類があります。このうち、リンパ節の腫れによるしこりは小さいことが多く、しこりが1cm以下であれば正常な生体反応と考えられるので、発熱や痛みをともなわない場合は少し様子をみてもいいでしょう。

ただし、鼠径部にしこりが起こる病気のなかには放っておくと悪化してしまう病気も多くあり、原因を特定するためにも早めの受診をおすすめします。患部がデリケートな場所だけに受診をためらったり、膨らみがあっても押すと元に戻るから、と受診を先延ばしにしてしまう方も少なくありません。原因がわかるだけでも気持ちが楽になりますから、鼠径部に異状を感じたら、どの診療科でも構いませんので、まずはかかりつけ医の先生に相談してみましょう。

6. まとめ

鼠径部とその周辺には動脈・静脈やリンパ節、生殖器、大腸などさまざまな臓器があり、鼠径ヘルニアをはじめ、しこりや痛みの原因となる病気が起こる可能性があります。鼠径ヘルニアのような良性の病気でも放っておくと命にかかわることがあり、リンパ節の腫れや痛みのないできものでもその背後には悪性の病気が隠れているかもしれません。

症状によって適切な診療科を受診するのが望ましいのはいうまでもありませんが、それよりも気になる症状を放置せず、どの診療科でもよいので早めに医師に相談することが大切です。

2024.08.17

鼠径ヘルニアは、いわゆる脱腸と呼ばれ、小児や中年男性の病気として知られていますが、女性も男性に比べると少ないものの、すべての年代で発症する可能性のある病気です。

ただし、男性と女性では体のつくりが違うことから、それぞれの鼠径ヘルニアの特徴も異なります。ここでは、女性の鼠径ヘルニアについて、その特徴や似ている病気、治療法のポイントなどについて解説します。

1.鼠径ヘルニアになる男女の割合は?

鼠径ヘルニアの男女の割合は、5:1~10:1といわれており、男性が多いのはもちろんですが、女性も少なからず発症することがあります。男女の割合に幅があるのは、20~40歳代の若年層は、女性の比率が高い傾向であり、50代以降になると男性が圧倒的に多くなるためです。ただし、日本ヘルニア学会の報告では、2011年から2017年に鼠径ヘルニアの手術を受けた方全体で見ると、平均年齢は65歳前後で、男女の割合は、男性が約85%、女性が約15%でした。

2.女性の鼠径ヘルニアの特徴

鼠径ヘルニアは、何らかの原因で弱くなった腹壁を構成する組織のすき間にできた穴(ヘルニア門)から、腸などの内臓が腹膜ごと押し出されている状態です。女性の鼠径ヘルニアには、ヘルニア門の位置によって、鼠径部ヘルニア(外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア)や閉鎖孔ヘルニアがあります。


(図)鼠径ヘルニアの種類

■  鼠径ヘルニアの種類と特徴

鼠径ヘルニアの種類特徴
外鼠径ヘルニア鼠径管の入り口付近の筋膜が弱くなり、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)*に押し出される
内鼠径ヘルニア鼠径部の腹壁が弱くなり、すき間から皮下へ押し出される
大腿ヘルニア骨盤から下肢へ向かう血管が通る穴から大腿部の付け根に押し出される
閉鎖孔ヘルニア骨盤の恥骨と坐骨からなる小さい穴から押し出される

*腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)
お腹の中にいる間に、女性では子宮を支える靱帯が鼠径管を通る際に腹膜が引っ張られてできる袋で、通常は出生後に閉じるが、開いたまま残ると外鼠径ヘルニアなどの原因となる。

女性は年代によって、できやすい鼠径ヘルニアに違いがあります。以下に、女性の鼠径ヘルニアの特徴を年代別に説明していきます。

2.1.若年層に多いのが「外鼠径ヘルニア」

20歳代から40歳代までの若年層の女性の鼠径ヘルニアは、小児の鼠径ヘルニアの再発や放置のことが多く、外鼠径ヘルニアがほとんどです。この年代では、脱出した腸や内臓が引っ込まなくなる嵌頓(かんとん)を起こすことは、ほとんどありません。若年層の女性の場合、生理周期に合わせて鼠径部のふくらみが大きくなったり、痛みなどの症状が出たりすることがあります。これは、ヘルニアの袋に腹水がたまっている場合(ヌック管水腫)や、子宮内膜症が入りこんでいる場合などがあり、鼠径ヘルニアと似た症状のため、専門医による診断が必要です。また、この年代では妊娠や出産がきっかけで発症したり、悪化したりすることがあります。

2.2.中高年層に多いのが「内鼠径ヘルニア」

中高年層の女性では、外鼠径ヘルニアに加え、内鼠径ヘルニアも増えてきます。内鼠径ヘルニアは、鼠径管の入り口より内側の筋膜が弱くなり、すき間ができて皮膚の下に腸などの内臓が押し出されて起こります。加齢により筋膜が弱くなったり、慢性的に鼠径部に圧力がかかりやすい生活習慣などが原因のため、中高年男性にも多い鼠径ヘルニアです。

2.3.やせ型の中高年層に多いのが「大腿ヘルニア」や「閉鎖孔ヘルニア」

中高年層でやせ型の女性に多い鼠径ヘルニアとして、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアがあります。それぞれの特徴は以下の通りです。

■ 大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは、血管が骨盤の中から下肢へ向かう時に通過する場所(大腿輪:だいたいりん)から、腹膜や内臓が押し出されて起こります。女性の中でも痩せている方で、特に出産経験がある方が大腿ヘルニアになりやすいといわれています。なぜならば、女性は男性と比べて骨盤が広く、特に痩せている方は大腿輪がひろがりやすいからです。さらに出産経験のある方は、大腿輪周囲の筋肉や筋膜が弱くなり、すき間ができやすくなり、腸などが押し出されやすくなるためです。

■ 閉鎖孔ヘルニア
閉鎖孔ヘルニアは、骨盤の恥骨と坐骨からなる神経や血管が通過する小さい穴から、腹膜や内臓が押し出されて起こります。通常、閉鎖孔は脂肪で覆われていますが、やせ型の方では脂肪が薄くなり、腸などが押し出される原因となります。



大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは、いずれもヘルニア門が小さいため、一端押し出された腸が腹膜内に戻らなくなる嵌頓(かんとん)になりやすいのが特徴です。嵌頓になると血液の流れが悪くなり、押し出された腸が壊死したり、腸閉塞を起こしたりすることもあり、緊急手術が必要となります。

3.女性が鼠径ヘルニアになる原因

女性が鼠径ヘルニアを発症する原因には、生まれつきヘルニアの袋ができている場合(先天性)と、生まれた後にヘルニアになる場合(後天性)があります。

先天性の場合、お腹の中にいる間にできる腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき:ヌック管)が開いたままになって、生まれつきヘルニアの袋ができると、腸などの内臓が押し出されて、乳児期から鼠径ヘルニアを発症する原因になります。

後天性の場合の原因は男性と共通で、生活習慣や加齢などにより腹壁全体の筋力が弱くなり、慢性的な鼠径部への圧力によって、筋膜の弱くなっているすき間から、腸などの臓器が押し出されて発症します。お腹に力を入れて踏ん張ることの多い便秘症や肥満の方、咳がひどいなどが多いようです。また、妊娠時に腹圧がかかることがきっかけになることもあります。

4.女性の鼠径ヘルニアの症状

女性の鼠径ヘルニアは、男性と比べてふくらみは小さく、鼠径部の不快感や違和感だけの場合もあります。女性に多い大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは、いずれもヘルニア門が小さいため嵌頓をおこしやすいにも関わらず発見しにくく、腸がはさまれて起こる腸閉塞にともなう食欲不振やお腹の張り、吐き気や嘔吐などで発見される場合もあります。

若い女性の場合、生理周期に関連して鼠径部のふくらみが大きくなることがありますが、子宮内膜症が入り込んでいることが原因のため注意が必要です。

5.女性の鼠径ヘルニアの診断は難しい?

女性の鼠径ヘルニアは、男性よりも診断が難しいといわれています。
理由は以下の通りです。


■ 一般的にふくらみの大きさが小さく、診察時にふくらみが出ていない場合もある
■ 女性の場合、後述する鼠径ヘルニアと似た症状の病気がある
■ 鼠経ヘルニアの中でも女性に多く、発見されにくい大腿ヘルニアなどがある



以上のことから鼠経ヘルニアが気になったら、まず専門医への受診がすすめられます。

6.鼠径ヘルニアに似ている病気

女性の鼠径部にふくらみが生じ、痛みなどの症状が出る、鼠径ヘルニアに似ている病気を紹介します。

6.1.ヌック(Nuck)管水腫

ヌック管水腫とは、出生後に閉じるはずのヌック管(腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき))の内部に腹水がたまった状態のことです。

鼠径部のふくらみが、生理の周期により大きくなったり小さくなったりすることがあり、痛みをともなうこともあります。鼠径ヘルニアとの違いとして、押しても引っ込まないことが多いようです。鼠径ヘルニアとの鑑別にはCTなどの画像診断をおこないます。Nuck管水腫に鼠径ヘルニアが合併していることもあります。生理周期による大きさや痛みの変化があれば子宮内膜症が入り込んでいる可能性があり、切除が必要です。

6.2.子宮内膜症

子宮内膜症は、子宮内膜が子宮の内腔以外の卵巣や腹膜などにでき、生理で体外に排出されることなく炎症が起きたり、周囲の組織と癒着したりして痛みを生じる病気です。鼠径部のふくらみが、生理周期と一致して大きくなったり痛みをともなったりする場合には、前述のヌック管の子宮内膜症や、子宮内膜症が鼠径ヘルニアに併存している可能性もあります。超音波検査やCTなどの画像診断をおこない、子宮内膜症があればヌック管やヘルニアごと切除します。

6.3.子宮円索静脈瘤

子宮円索静脈瘤(しきゅうえんさくじょうみゃくりゅう)は、妊娠中に子宮が大きくなり、鼠径部を通る子宮円索と呼ばれる靱帯周辺にある静脈に静脈瘤ができる病気です。

鼠径部に鼠径ヘルニアと似たふくらみができ、静脈瘤による静脈炎や血栓ができると痛みが出ることがあります。超音波検査で診断し、出産すると自然とふくらみや症状はなくなるため経過観察しますが、鼠径ヘルニアが併存している場合や血栓ができている場合には、手術などの治療が必要になることもあります。

7.女性の鼠径ヘルニアの治療法

鼠径ヘルニアは自然に治ることはないため、手術が唯一の治療法です。

手術方法は男性と基本的には同じで、鼠径ヘルニアの原因となっている、腹壁を構成する組織にあいた穴を網状のメッシュでふさぐ手術です。ヘルニア門に到達する方法には、大きく分けて2つあります。お腹に1か所の2cm程度、もしくは3カ所(腹腔鏡用・両手の鉗子用)5~10mmほどの小さい穴を開け、腹腔鏡と細い鉗子を挿入しておこなう腹腔鏡手術法と、鼠径ヘルニアのふくらみの部分を約5cmほど切開しておこなう鼠径部切開法です。女性の鼠径ヘルニアの治療には、腹腔鏡手術をおすすめします。その理由は以下の通りです。


① 腹腔内から腹膜を直接確認できる
女性は、男性と比較して大腿ヘルニアが多く(女性13%、男性1%)、他の鼠径ヘルニアとの併存も多い(5%)傾向があります。腹腔鏡手術の場合、腹腔内(TAPP法)または筋層と腹膜の間(TEP法)に挿入した腹腔鏡で、ヘルニアになりやすい部位を直接確認することができます。

② 大腿ヘルニアや併存する鼠経ヘルニアの見落としがない
女性の鼠径ヘルニアは、男性に比べて再発率が高いことがわかっていますが、他の鼠径ヘルニアの手術における大腿ヘルニアの見落としが原因として挙げられるといわれています。腹腔鏡手術(TEP法、TAPP法)では、大腿ヘルニアの部分も剥離して必ず確認するため、見落とすことがありません。

③ 大腿ヘルニアの治療に適している
大腿ヘルニアの治療に対し、鼠径部切開法のうちリヒテンシュタイン法という術式は、効果がないことがわかっています。また、他の術式の鼠径部切開法と比較しても、腹腔鏡手術は併存する他の鼠径ヘルニアの見落としによる再発が少なく、術後の異物感などの後遺症が少ない点でも優れているといわれています。

8.まとめ

鼠径ヘルニアは、一般的に脱腸と呼ばれ、鼠径部にふくらみができる良性の病気です。中年以降の男性の病気というイメージが強いですが、女性にも少なからず発症し、若年からすべての年代で発症する可能性があります。

鼠径ヘルニアは、鼠径部の筋膜が何らかの原因で弱くなった部分に、慢性的に圧力がかかることで、筋膜のすき間から腸などの内臓が押し出されて起こり、その押し出された穴の位置によって、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3種類に分けられます。

女性は骨盤から下肢へ神経や血管が通る穴から押し出される大腿ヘルニアが多いのが特徴です。女性の鼠径ヘルニアは、ふくらみが小さいことや、似た症状を呈する女性特有の病気があることなどから、診断が難しいとされています。

鼠径ヘルニアは自然治癒することがないため、ふくらみや症状を取り除き、嵌頓を予防するための手術が唯一の治療法です。女性の鼠径ヘルニアは嵌頓になりやすいため、診断と同時に手術による治療を検討する必要があります。女性の場合、女性に多い大腿ヘルニアの発見を念頭に、腹腔鏡による手術がすすめられています。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、鼠経ヘルニアの治療において腹腔鏡手術を中心に行っています。資格を備え、また消化器外科手術の経験を十分に積んだ専門の医師が先進的な治療環境で鼠径ヘルニア手術(腹腔鏡手術:TEP法やTAPP法)を行います。鼠経ヘルニアに関して、ご不明点やご要望などがあればお気軽にご相談ください。患者さまの状態やご希望もふまえて最適な術式をご提案いたします。

2024.08.10

鼠径ヘルニアを発症しても、直ちに重大な事態につながるわけではありません。

しかしながら、放置すると膨らみが徐々に大きくなって治療が困難になる可能性があります。また、通常では横になったり、指で押したりすると元の位置に戻っていた膨らみが、ヘルニア門(開いた穴)に挟まれたまま戻らなくなり、嵌頓(かんとん)を引き起こすリスクがあります。鼠径ヘルニアは薬では治癒できず、放置しても自然に治ることはないため、早めの段階で専門の医療機関を受診し適切な治療をおこなう必要があります。本記事では鼠径ヘルニアを放置することのリスクや陥頓が引き起こす疾患、鼠径ヘルニアの治療法などについて詳しく解説します。

1. 鼠径ヘルニアは放置しても治らない

鼠径ヘルニアは腸や脂肪組織などの臓器の一部が筋膜の隙間から鼠径部の皮下に飛び出してしまう症状です。腹壁を構成する組織の一部に穴があくという構造的な原因のため、放置しても穴が自然に塞がることはありません。薬では治癒できず根本的な治療は手術になります。ヘルニアバンド(脱腸帯)で脱腸を外から圧迫して抑え込み、痛みなどの症状を緩和する方法はありますが、一時的な措置であり、治るわけではありません。

2. 鼠径ヘルニアを放置するリスク

鼠径ヘルニアを放置すると、次の2つのリスクが考えられます。

■ 膨らみが大きくなる

鼠径ヘルニアを放置すると、膨らみが徐々に大きくなり、陰嚢(いんのう)にまで広がるケースもあります。膨らみが大きいほど手術時間が長くなる、出血が多くなるなど、治療が難しくなります。また、痛みが増したり、より違和感が強くなったりすることもあります。

■ 嵌頓(かんとん)状態になる

鼠径ヘルニアを放置するリスクとして、特に気をつけたいのが嵌頓です。陥頓とは、腸が腹壁から脱出してヘルニア門に挟まったまま締め付けられ、元に戻らなくなる状態のことです。陥頓の発症率はそれほど高くはありませんが、突然起こるものであり予測できないため注意が必要です。

3. 嵌頓(かんとん)の主な症状

通常の鼠径ヘルニアは横になったり、指で膨らみを押したりすると元に戻ることが多いですが、嵌頓になるとはみ出た腸がヘルニア門に挟まったまま戻らなくなります。嵌頓状態になると鼠径部が硬く大きく腫れるため、強い痛みが生じます。腸管の流れが滞る腸閉塞を引き起こすと吐き気や嘔吐、腹部が膨らんで腹痛などが起こり、さらに腸の血流が悪化して腸管が壊死する絞扼性腸閉塞(こうやくせいちょうへいそく)に発展するなど重篤な状態に可能性があります。

4. 嵌頓(かんとん)が引き起こす疾患

嵌頓を放置すると腸閉塞や腸の壊死、ひいては腹膜炎を引き起こす可能性があります。鼠径ヘルニアになったからといって嵌頓を発症する可能性は高くありませんが、もし、嵌頓になった場合は命にかかわることもあるため、早期の治療が必要です。鼠径部ヘルニアの種類や大きさによっても嵌頓のリスクは異なるため、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは診察時にリスクを判断して適切なタイミングでの手術をご相談させていただきます。

4.1. 腸閉塞

腸閉塞とは腸管の何らかの原因で口から摂取した飲食物や消化液の流れが腸で滞る病気です。嵌頓になると、ヘルニア門に挟まった腸の一部が締め付けられ、腸閉塞を引き起こすことがあります。腸閉塞を発症すると腹痛や吐き気、嘔吐、お腹の張り、食欲低下などの症状が出ます。

4.2. 腸の壊死・腹膜炎

嵌頓になって腸が締め付けられ血流が悪くなると、血流が行き届かなくなった組織が腐って壊死することがあります。壊死した組織を放置すると、細菌や有毒物質が体内を回り敗血症の原因につながります。さらに、腸管に穴があき消化液などが漏れ出ると腹膜炎を引き起こすリスクもあります。腹膜炎になると激しい腹痛や吐き気、嘔吐などが生じ、命にもかかわってきます。

5. 鼠径ヘルニアの治療について

鼠径ヘルニアの根本的な治療は手術になります。手術は大きく分けて腹腔鏡手術と鼠径部切開法があり、どちらも脱出したヘルニア嚢(腹膜がのびた袋状の膜)を剥離して切除、もしくは元の位置に戻す処理をした後、ヘルニア門にメッシュシート(網目状の人工膜)を置いて補強します。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は鼠径部を切開せず、腹腔鏡で腹腔内を観察しながら、細い鉗子で手術する方法です。お腹に1か所(臍に約2cm)もしくは小さな3か所(腹腔鏡用・両手の鉗子用)の5~10mmほどの小さな穴を開けて、スコープや鉗子を挿入して手術をおこないます。メリットとして、手術時間は長いものの、術後の痛みや神経損傷、慢性的な痛みが軽く回復が早い点が挙げられます。

腹腔鏡手術には、お腹の中で鼠径ヘルニアの穴の確認から腹膜の切開・剥離、穴の閉鎖までをおこなう経腹的腹膜外修復法(TAPP)と、お腹の中に入らず、筋層と腹膜の間に腹腔鏡を挿入して手術をする完全腹膜外修復法(TEP)があります。西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU ではおへその下に約2cmの切開を1カ所だけでおこなうTEP単孔式(SILS-TEP)を主に採用しています。腹腔鏡手術をおこなう際には、患者さまの体格や鼠径ヘルニアの状態に応じてTAPPと使い分けて最適な術式を選択しています。

鼠径部切開法

鼠径部切開法は膨らんだ鼠径部の少し上を切開し、目視で鼠径ヘルニアを確認しながらおこなう手術方法です。前立腺手術の既往のある方や全身麻酔が困難な方は、局所麻酔が可能な鼠径部切開法を選択します。

鼠径部切開法にはさまざまな種類がありますが、西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU では以下の3つの術式をおこなっています。


■ リヒテンシュタイン法
内鼠径輪を覆うように鼠径管後壁にメッシュを覆う術式。
■ ダイレクト・クーゲル法
形状記憶リングに縁どられ中央にストラップの付いた楕円形のメッシュシートで腹膜のすぐ外側を覆い鼠径部の弱い部分を補強する術式。
■ メッシュ・プラグ法
円錐形にしたメッシュをヘルニア門に挿入して補強する術式。

6. 鼠径ヘルニアは放置せずに早めの治療を

鼠径ヘルニアを発症しても、すぐに重大な疾患が引き起こされるわけではありません。しかし、放置すると徐々に膨らみが大きくなって治療が困難になったり、嵌頓を引き起こしたりするリスクは否定できません。

実際に嵌頓が起こる可能性は高くありませんが、発症した場合は腸閉塞や腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こすケースがあるため手術が必要です。鼠径部の膨らみや違和感、痛みなど、鼠径ヘルニアを疑う症状に気づいたときは、自己判断せず、専門の医療機関を受診し、このまま様子を見て良いか否かを診断してもらうことをおすすめします。

7. まとめ

鼠径ヘルニアを発症しても、初期症状であれば、横になったり、腫れを指で押さえたりすると元に戻ります。痛みもほとんどない場合があり、日常生活に影響がないからと放置しがちですが、進行すると腫れが大きくなったり、急に腫れが硬くなったりして、指で押しても引っ込まなくなる嵌頓を引き起こす可能性があります。

嵌頓は急激な痛みや嘔吐などの症状を引き起こし、重篤な合併症につながり緊急手術が必要になります。

鼠径ヘルニアは腹壁の一部の組織に穴があく病気のため自然治癒することはなく、根本的な治療は手術になります。患者さまの体格や鼠径部ヘルニアの種類、大きさによってもリスクは異なるため、鼠径ヘルニアを疑ったら、まずは専門の医療機関に相談することが大切です。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、鼠径ヘルニアや胆のう疾患など、外科的良性疾患に対する治療を専門的におこなっています。腹腔鏡手術を中心に体への負担をできる限り抑えた低侵襲治療で患者さまの状態に応じて、最適な手術を選択しています。消化器外科領域において、経験と資格に基づいた知識と手術手技を有し、先進的な治療を提供しています。鼠径ヘルニアのことで少しでも気になることがあれば、いつでもご相談ください。

2024.06.08

鼠径ヘルニアとは、足の太もものつけ根にある「鼠径部」の皮膚の下に、本来はお腹の中にあるはずの腸や脂肪組織などが飛び出す、一般的に「脱腸」と呼ばれる病気です。外見的には鼠径部がぽっこりと柔らかく膨らみます。鼠径ヘルニアの症状は様々です。一部の方は痛みをほとんど感じず、膨らみを指で押すと元に戻りますが、放置して悪化すると、重篤な状態になる可能性があるため、治療するタイミングが大切です。鼠径ヘルニアは主に40歳以上の男性に多い病気ですが、若い方から80歳以上の高齢者まで、男女問わず起こる可能性があります。この記事では鼠径ヘルニアについて、主な種類や症状、原因、そしてなりやすい人の特徴や治療法について、詳しく解説します。

1. 鼠径ヘルニアとは

鼠径ヘルニアとは、足の太もものつけ根(鼠径部)の腹壁(腹膜・筋肉、皮下脂肪、皮膚で構成されているお腹の壁)が、加齢などの原因で弱まって穴が開き、そこから、お腹の臓器を覆っている腹膜と一緒に臓器(腸や脂肪組織など)の一部が、皮膚下に飛び出してしまう病気です。
「ヘルニア」とは体の組織や臓器が正しい位置からはみ出した状態のこと。つまり、鼠径ヘルニアは、「鼠径部から本来出てはいけない臓器が出ている」ということなのです。

1.1.鼠径ヘルニアの種類と主な症状

鼠径ヘルニアの症状は様々です。一部の方は痛みを感じず、立位のときは鼠径部にぽっこりとした柔らかい膨らみが現れますが、指で押したり横になったりすると、臓器がお腹に戻って、膨らみが消失することがあります。また、引っ張られるような違和感や不快感、痛みなどの症状がある人もいます。
日常生活に支障がないからと放置する人がいますが、放置すると足のつけ根の膨らみが大きくなったり、硬くなったりすることがあります。さらに、開いた穴(ヘルニア門)に入り込んだ腸が、穴の入り口で締め付けられて、お腹の中に戻らなくなる嵌頓(かんとん)が生じるリスクがあります。嵌頓が起こると強く痛み、腸の血流が阻害されて、腸閉塞や壊死することもあるため大変危険です。
鼠径ヘルニアは、ヘルニアが発生する部位によって、主に「外鼠径ヘルニア」「内鼠径ヘルニア」「大腿ヘルニア」の3つに分類されます。

1.1.1. 外鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアのなかでも最も多いのが外鼠径ヘルニアです。外鼠径ヘルニアを発症すると、鼠径部のやや外側が膨れ、鼠径管(鼠径部にあるお腹の中と外をつなぐ管)を通って、内鼠径輪(鼠径菅のお腹側の入り口)から腸などが飛び出します。内鼠径輪が広がって腸などが入り込み、陰嚢(いんのう)にまで脱出することがあります。

1.1.2. 内鼠径ヘルニア

内鼠径ヘルニアは、鼠径三角(内鼠径輪より内側)と呼ばれる部位の筋膜が弱くなり、腸などが飛び出してくる病態で、鼠径部のやや内側が膨れます。加齢や生活習慣によって腸壁が弱くなることが原因のため、中高年の男性に多いのが特徴です。

1.1.3 大腿ヘルニア

内鼠径ヘルニアは、鼠径三角(内鼠径輪より内側)と呼ばれる部位の筋膜が弱くなり、腸などが飛び出してくる病態で、鼠径部のやや内側が膨れます。加齢や生活習慣によって腸壁が弱くなることが原因のため、中高年の男性に多いのが特徴です。

2.鼠径ヘルニアの原因とは?

鼠径ヘルニアを発症する原因は、先天性と後天性があります。子どもの鼠径ヘルニアのほとんどが、生まれつきの先天性です。一方、大人の場合は、生まれた後の後天的な原因によって起こります。


2.1.先天性(生まれつき)

先天性の原因は、胎児期にできた鼠径部の腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)の残存です。腹膜鞘状突起とは、腹膜の一部が鼠径部に向かって袋状に伸びた出っ張りです。多くは生まれる前に自然に閉鎖しますが、稀に開いたまま残ることがあります。そこに、腹圧がかかるなどの要因で、お腹の中の臓器の一部が入り込むことで鼠径ヘルニアを発症することがあるのです。

2.2. 後天性

後天的な原因のなかで多いのが「加齢」といわれています。加齢により腹壁が弱くなると、咳込みや排便時のいきみ、立ったり座ったりの繰り返し、重い荷物を持つなど、慢性的に腹圧がかかる動作が要因となって、鼠径ヘルニアを発症することがあります。また、体内脂肪の重量が重く、鼠径部に負担がかかりやすい肥満の人も鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。

3. 鼠径ヘルニアになりやすい人の特徴とは?

厚生労働省が発表している第7回NDBオープンデータによると、鼠径ヘルニアは40歳以上の男性に多く、手術を受けている人は、60歳~70歳代が多いことがわかります。また、鼠径ヘルニアは、重たい物を持ち上げる仕事や立ち仕事、便秘気味、前立腺肥大症や肥満気味、慢性的に咳をするなど、腹圧がかかることが多い人は、鼠径ヘルニアになりやすいといわれています。妊婦やスポーツ選手にも多い傾向があります。

4.鼠径ヘルニアの治療方法

鼠径ヘルニアは自然に治癒することはなく、治療は原則的に手術になります。鼠径ヘルニアの手術は「鼠径部切開法」と「腹腔鏡下修復術」の2種類があり、どちらにするかは、患者さまのヘルニアの状態に応じて決定します。

4.1. 鼠径部切開法

膨らみのある鼠径部を約5cmほど切開して、鼠径ヘルニアを確認しながら手術をおこなう方法で、飛び出した腸などをお腹の中に戻し、ヘルニア門(ヘルニアの原因となる穴部分)をメッシュと呼ばれる網目状の人工膜で塞いで補強します。ヘルニア門への到達方法やメッシュをどこに敷き補強するかで術式が異なります。鼠径部切開法の場合、必ずしも全身麻酔である必要はなく、局所麻酔を使用して手術をおこなうことができます。手術後2週間は激しい運動や重い物を持つなどの腹筋に負荷がかかる動作は控える必要があります。

4.2.腹腔鏡手術

腹腔鏡手術とは、お腹に1か所の2cm程度、もしくは3カ所(腹腔鏡用・両手の鉗子用)5~10mmほどの小さな穴を開けて、そこに腹腔鏡や鉗子を挿入し、炭酸ガスでお腹の壁の隙間や腹腔内を広げて、お腹の中の様子をモニターで観察しながら手術をおこなう方法です。飛び出した腸などを元の場所へ戻し、ヘルニア門をメッシュで塞ぎます。腹腔鏡手術には、腹腔鏡を筋肉と腹膜の間に挿入するTEP法と腹腔内に挿入するTAPP法があります。鼠径部切開法よりも傷が小さく痛みが少ないため、早期に社会復帰できる利点があります。手術は全身麻酔でおこない、翌日には退院できます。退院後はデスクワークであれば、1~2日で復職できますが、激しいスポーツや腹筋に負荷がかかる仕事は1〜2週間程度避けることが推奨されています。

5.まとめ

鼠径ヘルニアは、子どもや中高年の男性がかかるイメージがありますが、男女問わず、誰もが発症する可能性がある病気です。膨らみだけで、痛みがなく日常生活に支障がないから、「放っておけば、そのうち良くなるだろう」と安易に考えるのは危険です。鼠径ヘルニアは腹壁に穴が開く病気であり、自然に穴が閉じることはなく、治療には手術が必要になります。太もものつけ根の膨らみや痛み、違和感に気づいたら、早めに鼠径ヘルニアの診察に慣れている消化器外科のある医療機関を受診することをおすすめします。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKUは、鼠径ヘルニアや胆のう疾患など、外科的良性疾患に対する低侵襲外科治療を専門的におこなう施設です。消化器外科領域においてさまざまな経験を有する医師が先進的な治療を提供することで、患者さまの負担を可能な限り少なくする治療を目指しています。鼠径ヘルニアのことで不安なことがあれば、いつでもご相談ください。

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