大腸ポリープ、という言葉は実は定義が広く、大腸の粘膜由来の細胞が大腸の中に飛び出たものはすべてポリープです。
大腸ポリープは、腫瘍性のものと非腫瘍性のものに分かれます。切除したものを顕微鏡で見たときに、腫瘍でない細胞と比べて顔つきが変わってしまっているのが腫瘍性です。腫瘍性のなかで、著しく顔つきが悪いものや周囲への浸潤傾向があるものは癌(悪性腫瘍)と判断されます。ただ単に細胞が増えすぎて出っ張っているものは過形成といい、過形成性ポリープというものが大腸にはよくできます。手足にできたタコなども過形成の一種です。
腫瘍性のものについては6mm以上のものは切除が強く推奨されています。5mm以下のものについては、弱く奨励するが経過観察も許容するとされ、奨励のトーンは弱くなります。当院では、将来の癌への進展を予防する意味や、後述するCold polypectomyの登場で切除後の出血率が非常に下がったため、原則切除を行います。
非腫瘍性のもの、特に過形成性ポリープは原則切除が不要です。しかし、腫瘍性のもののなかに過形成性ポリープと見た目が紛らわしものがあり、切除して顕微鏡で判断することもあります。出血や腸重積の原因になるものも切除が必要です。
当院では内視鏡中に発見されたポリープについて、患者様の内服薬及びポリープのサイズや予想される深達度に問題がなければその場で切除できます。
10mm以下で癌の所見を認めないものは、電気メスを使用せずスネアと呼ばれる金属の輪っかを押し当て、締め上げることで掴んでちぎり取る「Cold snare polypectomy」(コールドスネアポリペクトミー)を行います。電気メスを使わないため切除直後は少量の出血がありますがすぐ止血され、術後出血や穿孔(腸に穴があくこと)はかなり稀ですので、近年積極的に用いられています。
以前、5mm以下のポリープはとらなくてよい、とよく言われました。しかし、Cold snare polypectomyの登場で、(合併症がほとんどないので)5mm以下でも腫瘍性のポリープならとっておいたらよい、という考え方が主流になっているように思います。
患者様によっては極めて多数のポリープがあり、出血のリスクなどを考えて一度に取りきらず複数回に分ける場合があります。
熱を加えないメリットもありますが、その分、ポリープの端からギリギリのところで切ってしまうと、ポリープの細胞が生き残りやすいため、余裕をもって大きめの切除する必要があります。
当院でのCold snare polypectomyは十分なマージン(余剰)をつけて行い、再発が起こらないように細心の注意を払って行います。
食道、胃、大腸にできた腫瘍を、スネアと呼ばれる金属製の輪っかで掴んで、電気メスで切除する方法です。
病変の下へ生理食塩水などを注射し病変を浮かせてから、金属の輪で縛って電気メスで焼き切ります。
生理食塩水などを注射しなくてもよい場合も多く、病変をそのまま金属の輪で縛って電気メスで焼き切ることをポリペクトミーと呼びます。
(このとき、電気を加えずに、縛り上げて物理的にちぎってしまうのが、Cold snare polypectomyです)
①消化管にポリープを認めます。
②ポリープの下に生理食塩水などを注入して浮かび上がらせ、切ってはいけない筋層から離します。(ポリペクトミーの場合はこれを行わず③に進みます)
③スネアと呼ばれる金属の輪をかけて縛り、電気メスの機械で通電することで切除されます。
④傷口は潰瘍となります。必要があればクリップ装置を用いて傷口を縫い閉じます。
日本語に訳すと「浸水下での内視鏡的粘膜切除術」となります。
病変を観察するためには、通常腸管内に二酸化炭素を注入して腸を広げますが、それでは病変まで横に伸びてしまうため、大きな病変では金属の輪をかけにくくなります。
腸管内に水を注入すると、ポリープが見えるだけでなく、切りたい病変が浮かび上がるような形になるため、金属の輪をかけやすくなります。水が入っているので熱によるダメージが及びにくい特性もあります。
① 消化管内の模式図です。ポリープを認めます(矢頭)。外側の茶色が筋肉の層、内側が食べ物の通る空間になります。
② 空気を過度に抜いた状態では、ポリープのサイズが縮み、切除用の金属の輪でつかみやすくはなりますが、切ってはいけない筋肉の層までつかみやすくなります。
③ 空気をたくさん入れると、筋肉は外へ逃げてつかみにくくなりますが、ポリープもいっしょに伸びてしまい、つかみにくくなります。
④ 内部に水を入れると、筋肉は外へ逃げますが、切りたい層は内側へ浮かび上がる現象が起こります。
⑤ 金属の輪で掴み、切除します。空気が張った状態で切離するより傷口が小さくなり、傷口を閉じる作業もやりやすくなります。水により、周囲組織への通電の熱ダメージ軽減も期待されます。
ポリープの切除の方法の一部をご説明しました。
色々な工夫がされるようになってきており、以前よりも大きな病変でも手術に回さず、かつ短時間で処置を終了できるようになってきています。
一般的に市中病院に回ることが多い比較的大きなポリープの切除術についても、COKUではこれらの方法に習熟した医師が処置を行いますので、安心してご来院ください。
参考文献:大腸ポリープ診療ガイドライン2020 改訂第2版
文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器内科部長 嶋吉 章紀