右上腹部に突然の激しい痛みを感じたことはありませんか?その痛みは、もしかすると胆嚢炎(たんのうえん)のサインかもしれません。胆嚢炎は、胆汁を蓄える「胆嚢」に炎症が起こる病気で、放置すると命にかかわる重篤な状態に進行することもあります。特に胆石をお持ちの方や、脂っこい食事の後に腹部の不快感を覚える方は注意が必要です。
今回は、胆嚢炎の症状から原因、検査・診断方法、治療法を分かりやすく解説します。また胆嚢炎を予防する生活習慣も紹介しますので、健康管理に役立てましょう。
胆嚢炎は、肝臓で作られる消化液の胆汁を一時的に蓄える胆嚢に炎症が起こる病気です。胆嚢炎は、急性胆嚢炎と慢性胆嚢炎の2つに分けられます。
急性胆嚢炎は、急激な炎症が起こり、右腹部の強い痛みに加え、発熱・吐き気などをともなう状態です。進行すると胆嚢が壊死したり破裂したりして、腹膜炎や敗血症など命に関わる状態となり、緊急手術が必要になる場合もあります。一方、慢性胆嚢炎は、緩やかな炎症がくり返し起こることで胆嚢の壁が厚くなり、機能が低下した状態をいいます。
胆嚢炎の主な原因は、胆汁をためる胆嚢にできる胆石です。胆石が胆嚢の出口に詰まることで胆汁が排出されず、胆嚢の壁が腫れて炎症を引き起こします。まれに胆石がなくても、胆嚢の血流が悪くなることや細菌感染・胆嚢のねじれ・外傷などが原因で胆嚢炎が起こることもあるため注意が必要です。
胆嚢炎は、胆石の生じやすい女性や50~60歳代の中年で発症しやすい傾向があります。
胆嚢炎の症状は、腹部の違和感から始まることが多く、進行すると日常生活に支障をきたすほど深刻になることがあります。特徴的な症状を知っておくことで、早期発見・早期治療につながり、重症化を防ぐことが可能です。代表的な5つの症状について詳しく解説しましょう。
胆嚢炎の典型的な症状は、右上腹部やみぞおちの激しい痛みです。はじめのうちは上腹部の不快感や鈍い痛みが現れ、炎症の進行とともに右の肋骨の下あたりに強い痛みが生じ、次第に激痛へと変わります。
痛みの症状は、胆石が胆嚢の出口に詰まって胆汁が溜まり、胆嚢が膨れ上がることで炎症が起こるために生じます。特に脂っこい食事を摂った後に、痛みが誘発されます。また、胆嚢のある右上腹部を圧迫しながら深呼吸をすると痛みのために息ができなくなる「マーフィー徴候」は、急性胆嚢炎に特徴的な症状です。
細菌感染を起こし胆嚢炎が悪化すると、発熱や寒気が現れます。体内で炎症反応が活発になり、血液検査では白血球数やCRP値の上昇といった異常が認められます。寒気をともなう38℃以上の高熱・激しい腹痛・黄疸がみられる場合は、重症化している可能性があるため、早急な入院治療が必要です。
右上腹部の痛みに加えて、吐き気や嘔吐も頻繁にみられます。特に、脂っぽい食事の後に胆嚢が収縮しようとすることで痛みが生じ、それが引き金となって吐き気や嘔吐を引き起こすケースもあります。消化液である胆汁の排出が滞ることで、消化機能にも影響が出やすいため、食後に吐き気を感じやすくなることもあるのです。
急性胆嚢炎が悪化して、総胆管まで炎症が広がったり、敗血症を引き起こして胆嚢機能不全に陥ったりすると、黄疸を引き起こすことがあります。黄疸は、胆汁の流れが滞ることで胆汁色素であるビリルビンが血液中に増加するために、皮膚や白目の部分が黄色くなる症状です。腹痛や発熱に加えて黄疸が見られる場合は胆管炎を併発している可能性があり、重症化すると命に関わる危険性があるため、早急な医療機関の受診が重要です。
胆嚢炎では、右上腹部の痛みや発熱、吐き気などの症状が続くことで、食欲不振や倦怠感が生じることがあります。胆管炎やミリッツィ症候群などを合併しているケースでも、肝機能障害により食欲不振や倦怠感がみられることもあります。また高齢者では、食欲不振や倦怠感が胆嚢炎の唯一の症状として現れることがあり、ほかの病気でもみられる症状であるため注意が必要です。
胆石は、急性胆嚢炎の原因の約9割を占めるとされています。胆石があっても無症状のまま経過することが多いですが、定期的に検査を受けて異常がみられないか確認しましょう。
右上腹部痛やみぞおちの痛み、発熱といった症状が現れた場合は、有症状胆石となるため、早めの受診が必要です。放置すると急性胆嚢炎を発症するリスクが高まり、場合によっては胆嚢の穿孔(せんこう)※穴が開くことや腹膜炎などの重篤な合併症につながり、命に関わる可能性もあります。そのため、右上腹部の痛みや発熱などの症状が現れたら早急に医師と相談し、適切な治療を検討することが非常に重要です。
胆嚢炎の診断は、右上腹部痛や発熱症状だけでなく、腹部超音波検査(エコー)・血液検査・CT検査の3つを組み合わせておこないます。
腹部超音波検査は、体の負担が少なく実施できて、胆嚢炎の状態を高い精度で判別できる検査です。胆嚢の腫れや壁の厚み、胆石の有無を確認します。
血液検査では、炎症反応や肝機能を確認します。炎症反応は白血球数やCRP(C反応性蛋白)値が上昇しているかを確認し、肝機能は肝臓・胆道系の酵素に異常がないかを確認するのです。
CT検査は、腹部超音波検査で確定診断が出来ない場合や合併症が疑われる場合におこないます。胆嚢の炎症の広がり、胆嚢の穿孔、胆管炎などの合併症の有無を詳しく調べることが可能です。
胆嚢炎の治療法は、症状の重さや患者さんの全身状態によって異なります。
初期治療として、絶食と点滴、抗生物質や鎮痛剤などの投与により炎症や感染を抑えます。
軽症から中等度の胆嚢炎で胆石がある場合は、再発を防ぐために、早期に胆嚢を取り除く手術をおこなうのが一般的です。手術は、主に腹腔鏡下胆嚢摘出術をおこないますが、腹腔内の状況に応じて開腹手術になることもあります。
重症化して膿瘍や穿孔・腹膜炎などの合併症をともなう場合は、緊急手術がおこなわれることもあり、急性胆嚢炎の治療に精通した医師による集中的な管理が必要です。また、手術リスクの高い患者さんには、溜まった胆汁を排出させる胆嚢ドレナージ術をおこなうことがあります。胆嚢炎の治療後は、再発予防のために脂肪分の多い食事を控えるなど、生活習慣の改善も大切です。
胆嚢炎の多くは胆石が原因で起こるため、日頃の生活習慣を見直し、胆石を発症しないようにすることが予防につながります。
食生活では、脂肪分やコレステロールの摂りすぎに注意し、野菜・果物・食物繊維を積極的に摂りましょう。不規則な食事や過度な断食は避け、規則正しい食事を心がけることが大切です。
【食生活の改善の実践例】
肥満は胆石のリスクを高めるため、適正体重を維持しましょう。
【体重管理の実践例】
定期的にウォーキングなどの適度な運動をおこなうと代謝改善につながり、胆石のリスク因子となるコレステロール値の異常や肥満を改善します。
【適度な運動の実践例】
過度な飲酒や喫煙も胆石のリスク因子となり得るため、見直すことをおすすめします。
【飲酒・喫煙習慣の見直しの実践例】
胆嚢炎は、胆嚢に炎症が起こる病気で、その原因の約9割は胆石によるものです。右上腹部の激しい痛みや発熱、吐き気などの症状が特徴的で、放置すると胆嚢の穿孔や腹膜炎、敗血症といった重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
診断には腹部超音波検査や血液検査、CT検査を組み合わせておこない、治療は症状の程度に応じて薬物療法から胆嚢摘出術まで複数の選択肢があります。胆嚢炎の予防は、脂肪分を控えた食事・適正体重の維持・適度な運動など生活習慣の改善をおこない、胆石が形成されないようにすることが大切です。
また、胆石のある方は、自覚症状がなくても定期的な検査を受け、右上腹部の痛みや発熱などの症状が現れたら、胆嚢炎の発症を防ぐためにも早めに医療機関を受診しましょう。