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低侵襲治療部門COKUに関するブログ記事一覧

低侵襲治療部門COKU

鼠径ヘルニア手術のメッシュ

鼠径ヘルニア手術で用いるメッシュについて説明いたします。

1. 鼠径ヘルニア手術にはメッシュが必要?

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術において、腹腔鏡、鼠径部切開法にかかわらず、メッシュを用いた術式を「メッシュ法」、メッシュを用いない術式を「組織縫合法」とよびます。組織縫合法はメッシュ法と比較して、再発率が高く慢性疼痛の発生率が高いとされています。本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)でも、「成人鼠径部ヘルニアに対して組織縫合法は推奨できるか?(CQ9)」というクリニカルクエスチョンに対して「成人鼠径ヘルニアに対して、原則的には組織縫合法は推奨できない(推奨グレードB)」とされており現在はほとんどの鼠径ヘルニアの手術において「メッシュ法」が一般的に行われます。しかし、ヘルニア嵌頓での緊急手術時に腸液の逸脱など汚染手術となった場合には人工物であるメッシュは使用できず、組織縫合法が必要となる場合もあります。

2. 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術のメッシュの種類

メッシュ法が主流である現在、腹腔鏡手術においてもメッシュは使用されます。手術に用いる人工のメッシュは、ポリプロピレンやポリエステルが主な材質であり、網目の細かさや材質量により軽量メッシュ(light weight mesh) と標準メッシュ(heavy weight meshやmiddle weight mesh)と分けられ、各メーカーにより様々なラインナップが揃えられています。

なお、本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)では「成人鼠径部ヘルニアに対し推奨されるメッシュの材質は?CQ17」に対して、「light weight mesh使用により、術後に違和感をきたすリスクが低下するが、再発率および重篤な慢性疼痛の発生頻度は変わらない。成人鼠径部ヘルニアの初回手術ではlight weight meshの使用が推奨される(推奨グレードB)」とされています。ただし、この回答の根拠となる論文はいずれも鼠径部切開法であるLichtenstein法によるものです。解説にも、「日本においてもこのエビデンスが適応できるかどうかは不明である。また長期的な再発や違和感に関する結果も不明である。」とされています。最近新しくなった診療ガイドライン(鼠径ヘルニア診療ガイドライン2024)では「鼠径部ヘルニア手術においてどのメッシュが推奨されるか?CQ12-1」に対して、「軽量メッシュと重量メッシュのどちらか一方を強く推奨することはできない。」とされ、すべての鼠径ヘルニアに対して一律には決まっていない状況です。

当院でも鼠径部切開法でのLichtenstein法やMesh-plug法のメッシュはlight weight meshを用いています。ただし、腹腔鏡手術で留置するメッシュの部位は腹膜前腔であり、鼠径部切開法でも同じ部位に留置するKugel法ではheavy weight meshが用いられていることを考えると、light weight mesh一択ではないと考えます。

2021年にAnn Surg誌(Ann Surg 273(5):890-899, 2021)より報告された「Heavyweight Mesh Is Superior to Lightweight Mesh in Laparo-endoscopic Inguinal Hernia Repair: A Meta-analysis and Trial Sequential Analysis of Randomized Controlled Trials」では、12本の研究において、2909名の評価を行っています。Light weight mesh群(1490名)とheavy weight mesh群(1419名)が比較されています。結果は、light weightの使用が再発リスクを増加させ、特に大きなヘルニア欠損においては顕著であったとされています。

3. 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術のメッシュの固定

次にそのメッシュの固定について考えてみたいと思います。なお、2022年の腹腔鏡手術におけるメッシュ固定に関する論文(J Am Coll Surg 234(3): 311-325, 2022)が報告されていました。腹腔鏡手術(TEP法、TAPP法)に用いた標準ポリプロピレンメッシュ(middle-heavy weight meshに相当)と軽量メッシュ(light weight meshに相当)をタッカー(固定用ホッチキス)、フィブリン接着剤(本邦では使用不可)、固定なしの3群で評価されています。結果は、対象25190例のうち、再発のため再手術を受けたのが924例(3.7%)で、固定なしの標準メッシュ、タッカーを用いた標準メッシュ、フィブリン接着剤を用いた標準メッシュ、フィブリン接着剤を用いた軽量メッシュが同等であり、タッカーを用いた軽量メッシュと固定なしの軽量メッシュは、再発のリスクが増加すると報告されています。本邦ではフィブリン接着剤の認可が下りていませんので、この結果を本邦の現状にあてはめると標準メッシュの固定なしの使用が推奨されます。

少し話は変わりますが、腹壁ヘルニアの手術で腹腔内から癒着防止メッシュを固定するIPOMという術式があります。固定には鼠径ヘルニアでも使用するタッカーを用いるのですが、多くの固定が必要となり術後の疼痛が多い印象があります。この腹壁ヘルニアの手術の手技を筋肉の後鞘前にメッシュを留置する方法(Rives-stoppa法)に変えると疼痛が軽減した経験があります。

そのためなるべくタッカーによる固定は避けたいという思いがあります。近年学会でも、タッカーを使用するときはあまり押し付けないで固定するとか、針糸で直接縫合するといった先生方の発表も見受けられました。

4. 当院での鼠径ヘルニア手術のメッシュの選定や固定

術式と同様、メッシュの種類や固定についてもヘルニアの大きさや発生部位により異なります。小さな外鼠径ヘルニアと大きな内鼠径ヘルニアではメッシュに対する考え方も大きく変わってくると思います。

当院では大まかな方針として下記のような判断基準を設けています。基本にはタッカー固定による疼痛をへらすべくなるべくタッカーを用いない方法をとりたいと思っています。なお、病状に応じて変更が必要なこともありますので、すべてがこの限りではありません。

・小さな外鼠径ヘルニアではTEP法で標準メッシュを固定なしでの留置を行っています。TEP法ではメッシュを置くところのみの剥離のため大きくずれるリスクも少なくなるためです。

・中くらいの外鼠径ヘルニアや大きくない内鼠径ヘルニアでは吸収性マイクログリップを用いたSelf-Fixating Meshの使用を考慮いたします。これは本邦で使用可能なメッシュで、接着面にマイクログリップというマジックテープのようなザラザラした突起が約5000個以上ついており、被覆面に固定されメッシュのズレを防止し、タッカー固定に近い効果が期待できます。マイクログリップは、時間とともに吸収され、最終的にはメッシュだけが残ります。これにより吸収前はmiddle weightで吸収後はlight weightという特徴があります。特殊加工のため高価なメッシュですが、保険診療において患者さんの費用負担は変わりません。

・大きな内鼠径ヘルニアの場合は、メッシュそのものがヘルニア嚢内に滑り出すこと(building)が懸念されるため、標準メッシュをタッカー固定することを行っています。

当院ではヘルニアの状況に応じて、再発リスクと疼痛リスクがなるべく低くなるように様々なメッシュを用意して、その中から最適と考えられるものを選択していきたいと思います。外来では各種メッシュのサンプルもお見せして説明いたします。ご不明な点があればご質問ください。

鼠径ヘルニアのメッシュの種類

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

大腸カメラ前日の食事②

こんにちは。看護師の金光です。

夏空

暑さが厳しい夏になっていますが、水分はしっかりとっていますか?

体調管理の為、ご自身のメンテナンスの為

大腸検査はとても大切なのでぜひ受けてくださいね。

さて、今回も大腸検査前の食事のメニューが増えたのでご紹介しますね。

料理上手な看護師さんが手作りで作ってくれました。

写真で見るだけでも美味しそうですね(・・☆/

前回は自炊編①と外食バージョンをご紹介しました。

「内視鏡検査(大腸カメラ)前日の食事」

今回は自炊編②と自炊編③です。

大腸カメラ前日の食事(自炊編②)

大腸カメラの前日の食事(シュウマイ)

シュウマイ(豚ひき肉・玉ねぎみじん切りをよく練ってシュウマイの皮で包みます) 

厚揚げ

豆腐の味噌汁

白ご飯

です。

大腸カメラ前日の食事(自炊編③)

大腸カメラの前日の食事(からあげとちくわのソテー)

みんな大好きから揚げ(醤油・にんにく・酒・しお・コショウで漬け込んで)

ちくわのソテー

たまご焼き

白ご飯

です。

検査前でも美味しいものを食べて次の日の検査に備えましょう。

また、新しいメニューを料理が上手な看護師さんが考えてくるので紹介していきますね。

胃バリウム検査の異常所見の解説

 正式には上部消化管造影検査と呼びます。
 胃透視検査や胃部X線検査と呼ばれる場合もあります。
 費用が安いことやのどへの刺激が少ないこと、移動式の検査室が利用できることなどから今でも胃癌検診ではよく用いられています。
 X線を通さない白い液体(バリウム)を飲み、レントゲンをとることで、食道・胃・十二指腸を浮かび上がらせて検査をしています。
 今回は、胃癌検診で異常所見がついていた場合にどういう病気が想定されるかについて記載します。

辺縁不正

 不整であるとは、通常より形がギザギザしていたりでこぼこしていることを言います。慢性胃炎や胃癌で起こり得ます。

辺縁硬化

 胃は食べ物を入れるために伸び縮みしますが、癌や潰瘍などで胃の壁が硬くなると伸び縮みが悪くなります。

ニッシェ

 胃の壁がくぼんでバリウムが溜まっている像です。深い胃潰瘍や胃癌で見られます。

隆起性病変

 胃の一部が盛り上がっているように見える像で、胃ポリープや粘膜下腫瘍、胃癌の可能性があります。

陥凹性病変

 胃の一部が凹んで見えていることを陥凹性病変と呼びます。胃炎や胃癌、潰瘍で認められます。

透亮像

 粘膜が隆起しているためにバリウムがたまりにくくなった場所を示し、バリウムの白色に対して黒く抜けたように映ります。ポリープや胃癌などの可能性があります。

陰影欠損

 バリウムを胃内に満たしたときに、本来映っているはずの胃の壁が映っていない場所をいいます。比較的大きなポリープや、胃癌、胃粘膜下腫瘍などの疑いがあります。

レリーフ不整、レリーフ集中、レリーフ肥大

 胃は普段、食事が入ってきたときに膨らむためのシワ(襞)があり、それがX線で映ったものをいいます。襞の形がでこぼこすることをレリーフ不整、1か所にシワが集まっている像をレリーフ集中(ひだ集中)、シワの間隔が広がり腫れぼったくなっている像をレリーフ肥大(皺襞腫大)と呼びます。いずれも胃潰瘍や胃炎、胃癌の可能性があります。

アレア不整

 胃粘膜には通常、胃小区と呼ばれる網目状の模様がありますが、胃炎や胃癌でこれらの所見の規則性が失われることがあります。これをアレア不整と呼びます。

バリウム斑

 粘膜の一部がくぼみ、バリウムが少したまった場所のことを呼びます。胃炎、胃潰瘍、胃癌などの可能性があります。

狭窄

食べ物の通り道が狭くなっていることを言います。潰瘍が治ったあとや、癌によって起こる場合があります。

胃ポリープ

 胃の中に飛び出た病変をポリープと呼びます。経過観察でよいか精密検査を要するかは、アルファベットの判定区分やコメントで記載されていることが多く、基本的にはそちらに従っていて問題はありませんが、今までに一度も胃カメラを受けたことがない方は、一度どういうポリープであるか胃カメラで確認しておくほうが安心です。バリウムでは病変の色や細かい表面性状の観察が難しいからです。

慢性胃炎

 ピロリ菌が胃内に寄生しており、それによる胃炎が起きている状態を指します。バリウムで慢性胃炎が指摘され、今までに胃カメラを受けたことがない場合は、必ず検査を受けて、ピロリ菌の有無を確認したほうがよいです。なぜなら、ピロリ菌が陽性のままだと、85歳までに男性の17.0%、女性の7.7%が胃癌にかかると推定されているからです。

まとめ

 バリウムの所見については専門的な言い回しが多く戸惑われることも多いと思います。

 異常所見が付いていて、一度も胃カメラでの精密検査を受けたことがない方は、一度受けておくことをお勧めします。  上記にある通り、多くの場合に癌の可能性が否定できないためです。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器内科部長 嶋吉 章紀

鼠径ヘルニアの術前検査

鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(第2版)が2024年5月に発刊されました。第1版の発刊は2015年でしたので、9年ぶりの刷新となります。

新しくなったガイドラインの内容を紐解きながら、今回は術前の検査について考えてみたいと思います。

ガイドラインには、

CQ3-1 鼠径部ヘルニアの診断に画像検査は推奨されるか?

Answer:還納可能な鼠径部の膨隆を認める鼠径部ヘルニアの診断にルーチンの画像検査は推奨されない。膨隆がはっきりしない鼠径部ヘルニアの診断には、立位やバルサルバ手技を伴う超音波検査を第一選択とすることが望ましい

エビデンスの確実性:低(効果の推定値が推奨を支持する適切さに対する確信は限定的である)

とあります。

鼠径ヘルニア(脱腸)の特徴は、「足の付け根(太ももの付け根)が立つとぽっこりと膨らみ、寝ると戻る」ことです。そのため、私たちは鼠径部ヘルニアの診察時には必ず立位で膨らみを確認し、膨らみが押して戻るのか、寝て戻るのかを確認します。膨らみがはっきりしない時は、お腹に力を入れてもらうこともあります。膨らみがはっきりすれば鼠径部ヘルニアと診断がつきます。臨床所見の確認による診断率は、70-90%とされています。

しかし、下腹部の脂肪の分厚い方や初期の小さなヘルニアの方は診察時に確実に膨らみをとらえることが難しい場合があります。「立ち仕事をしていると夕方くらいに痛みが強くなってくる。その時は少し膨らんでいると思う。今は全然出ていません。」という方の場合、診断は慎重になります。当院では鼠径部を除圧した腹臥位でCTを撮影して診断を進めていきます。

鼠径ヘルニアとCTに関しては、本邦から次のような論文が報告されています。

914名の方を対象に研究を行った、「Prone “computed tomography hernia study” for the diagnosis of inguinal hernia」(Natsuko Kamei, et al. Surg Today 49: 936-941, 2019)では、腹臥位での非造影下腹部CTを術前に行った結果について述べられています。結果として診断率は98.3%の精度を示しています。

鼠経ヘルニアのCT検査

当院では80列の高精度のCTを用いています。臨床所見で鼠径部ヘルニアではないとわかっても他の病態を鑑別する必要があります。その際に高精度のCTはとても役に立ちます。足の付け根の膨らみとして、大伏在静脈瘤や大伏在静脈血栓、精索静脈瘤などが診断されたこともあります。リンパ節腫大が累々としている方は、総合病院で精査を依頼したところ悪性リンパ腫であったこともあります。また、痩せている方では、下腹部の膨隆は便秘で硬くなった便を腹壁から触れているとか、子宮筋腫の圧迫といったこともあります。

本当に初期で臨床的にも、CTでもはっきりしない方は基本的には数か月間の経過観察をおすすめしています。そのような小さな鼠径ヘルニアの場合は、腸がはまってしまう嵌頓のリスクは極めて低いため経過観察は妥当と考えます。鼠径ヘルニアでない方を手術することだけは避けなければなりません。

精度の高いCTでは下腹壁動静脈がはっきりと同定できます。外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニアといったヘルニアのタイプ分類も可能です。当院ではヘルニアのタイプによって適した術式を選んでいます。内鼠径ヘルニアであればTEP法がとても有用です。結腸が引きずり出されるような大きな外鼠径ヘルニアであれば腹腔内から状況を確認できるTAPP法が安全です。そのため、当院では基本的には術前診断として腹臥位のCTをおすすめさせていただいております。

また、当院では放射線科医によるCT画像の読影を行っています。鼠径部の診断はわれわれ外科医が読影に慣れていますが、肝臓や胆のう、腎臓など鼠径部以外の撮影範囲を放射線科医によって幅広く確認いたします。例えばCTで前立腺肥大が指摘され未治療の場合には、お近くの泌尿器科に紹介させていただくことも可能です。

術前の検査に関してもご相談いただければお答えさせていただきますので、診察の際にぜひおたずねください。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

鼠径ヘルニア(脱腸)手術 術式

当院では様々な情報を定期的にお伝えしていきます。

今回は、鼠径ヘルニア手術の種類など術式について解説したいと思います。

・鼠径ヘルニア手術における腹腔鏡手術と鼠径部切開法

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術は大きく分けて腹腔鏡手術(laparoscopic surgery)と鼠径部切開法(open inguinal hernia repair)の2つがあり、どちらがよりよいかという議論が多くなされています。本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)では、「手技に十分習熟した外科医が実施する場合には、鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下ヘルニア修復術は推奨できる」とされています。両者の再発率は同等でありますが、腹腔鏡手術は手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早いとされています。

また、Hernia誌(Hernia 23(3): 461-472, 2019)の論文報告では、片側の鼠径ヘルニア手術において腹腔鏡下手術(TAPP:タップ、TEP:テップ)と鼠径部切開法(Lichtenstein法)の再発に関して複数の研究結果の統合と分析が行われています。12のランダム化比較試験を対象として、腹腔鏡下手術群(2040名)と鼠径部切開法群(1926名)の比較が行われました。結果、再発率には有意差がありませんでしたが、副次解析において、腹腔鏡下手術群は急性及び慢性疼痛の割合が少なかったとされています。

・鼠径ヘルニア手術の腹腔鏡手術におけるTEP法とTAPP法

では、腹腔鏡手術においてTEP法とTAPP法の結果の違いはあるのでしょうか?この両者の術式の比較に関しても、多くの検討がされています。

TAPPはTrans-Abdominal Pre-Peritoneal repair(経腹的腹膜外修復法)といいます。おなかの中から鼠径ヘルニアの穴を確認し、その周りの腹膜を切開・剥離し、鼠径ヘルニアの穴をメッシュで閉鎖し、腹膜を閉鎖する方法です。

一方、TEPはTotally Extra-Peritoneal repair(完全腹膜外修復法)といいます。おなかの中に入らずに、おなかの壁の中で、筋膜と腹膜の間を剥がして鼠径ヘルニアの穴まで到達し、メッシュで穴を閉鎖する方法です。

TEP法とTAPP法の比較については多くの論文が報告されていますが、2021年のHernia誌(Hernia 25(5): 1147-1157, 2021)では15の研究結果を集めて、TAPP(702名)、TEP(657名)を評価しています。再発率や慢性疼痛に関しては両群ともに同等であり、術後早期の疼痛、手術時間、創部の合併症、仕事や日常への復帰、費用についても有意差がなかったとされています。結語に、「これ以上比較をしても両術式に差は出ないのではないか」とも書かれています。

欧米ではTEP法が主流となっていますが、本邦では腹腔鏡手術の約8割がTAPP法で行われています。その理由として、本邦では鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術がTAPP法で開始されたことや、鼠径ヘルニア手術を主に担当する消化器外科医が腹腔内からのアプローチに慣れていることなどが考えられます。TEP法のメリットは腹腔内に入らないため、腹腔内臓器合併症のリスクが低いことや腹膜縫合が不要なことが考えられますが、腹壁の中をアプローチしていくことから解剖学的な把握や視野の取りにくさによる手技の難しさが課題とされています。

・鼠径ヘルニア手術のベストな術式は?

ここまでをまとめると、「TEP法、TAPP法と鼠径部切開法のいずれも再発率に差はない。腹腔鏡手術は疼痛が軽度であるが、手術時間は鼠径部切開法が短い」となります。

TEP法とTAPP法両方の術式を十分に経験してきた私たちの意見では、ベストな術式は患者さんの体格や鼠径ヘルニアの状態によって異なります。

両側の鼠径ヘルニアでは、片側と同じ傷で手術ができるため腹腔鏡手術が適していると考えます。腹腔鏡手術のなかでも内鼠径ヘルニアは、頭側からの操作でヘルニア嚢を引き抜きやすいためTEP法がとても適しています。しかし大きな外鼠径ヘルニアで病悩期間が長く精索周囲の瘢痕化が強い場合は、TEP法よりTAPP法の方が良好な視野がえられ、精管や精索の分離操作が安定して行えます。患者さんの身長や骨盤の大きさ、腹直筋の厚さといった因子も各術式の有利不利に関わります。一方で、前立腺手術を受けた方は、腹腔鏡手術で操作する部位にすでに操作が加わってしまっているため、鼠径部切開法が適しています。合併症などで全身麻酔が困難な方は、局所麻酔が可能な鼠径部切開法が選択されます。

当院では、腹腔鏡手術を主として行っていますが鼠径部切開法も患者さんの病態に応じてご提案させていただいております。われわれはTEP法もTAPP法も鼠径部切開法も経験を積んできており、以下のフローチャートのように適応を考えております。またTEP法は一つの傷で行う単孔式TEP法(SILS-TEP)を行っております。術式に関しては、患者さんの状態やご希望もふまえて検討いたしますのでぜひご相談ください。

当院での鼠径ヘルニア(脱腸)手術の術式

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

内視鏡検査と仕事(大阪 梅田)

胃痛がある、血便が少し出た。
受診したいけど、仕事の都合がつかない、どれくらい休んだらいいのかわからない。
今回はこのような疑問に答えていきたいと思います。

※鎮静剤を使用する前提で記載します。
※院内滞在目安時間は、診療状況や必要な検査、麻酔の覚め具合によって前後します。

・予約当日胃カメラを受けたい場合

前日の夜21時までに食べ過ぎないように夕食をとってください。当日は朝から絶食です。水・お茶は摂取可能のため、予約時間が遅めの方で仕事をしたい方は一度出勤後に来院頂くことも可能です。
受付してから、採血やエコーなどのほかの検査の必要がなかった場合、鎮静剤を覚ます休憩時間を含めて院内滞在時間は1-2時間程度が目安となります。
検査後は仕事をすることは可能ですが、鎮静剤を使用していると当日は自転車を含めた車両の運転ができません。
また、判断力が低下する可能性があるため重大な決定を伴う仕事や安全に係わる仕事は避けてください。
翌日からは通常通り運転・仕事が可能です。
組織の検査(生検)など、当日結果がわからない検査をした方は、後日に外来受診が必要です。

・大腸カメラを受けたい場合

大腸カメラをするためには、下剤の処方や飲み方の説明、あるいは安全に検査ができそうかの判断が必要ですので、まず診察を受けて頂きます。
(血便が多量の場合など、緊急性がある場合、当日可能な範囲で大腸カメラを行うこともあります)
診察やオリエンテーションのみで、その他のCTやエコーなどの検査がなかった場合、院内滞在時間は1時間程度が目安です。
後日、大腸カメラの日を別途予約します。
大腸カメラの日は前日の行動制限はありませんが、食事の制限があり、診察時にご案内いたします。
当日は朝から下剤を服用頂きますので、頻回に排便があり、仕事はお休みして頂くほうがよいです。
来院後、体調をお聞きしてお着換えをして頂きます。便の状況を確認して問題がなければ検査を開始でき、2-3時間程度が院内滞在時間の目安となります。
便がきれいになっていなければ追加の下剤服用が必要となる場合もありますので、時間に余裕をもって頂くようにお願いしています。
お仕事については、鎮静剤使用のこともありますし、1日お休み頂くことをお勧めします。
どうしても休みがとりづらい場合、午前の早い時間から下剤を服用頂いて午前中に大腸検査をすることも可能です。
この場合も、鎮静剤を使用する場合は、当日自転車を含めた車両の運転はできず、重大な決定を伴う仕事や安全に係わる仕事は避けて頂く必要があります。
検査後はポリープ切除をしていない方は特に食事や行動の制限はありません。
ポリープ切除をした方は、1週間程度は遠出や激しい運動、アルコールを控えて頂きます。

COKUでは、スムーズに診療できるように、常に改善点を検討していきます。
何でもご相談いただければ幸いです。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU看板

当院の道路側に面した壁に、低侵襲治療部門COKUの看板を設置いたしました。既存棟に増築する形で始めているため、入り口や場所が分かりにくいというお声にお応えするために目印として掲げています。

ぜひ看板を目安にご来院いただければと思います。

看板設置
大腸カメラ前日の食事

内視鏡検査前の食事は何が食べられるの(・・?

こんにちは。看護師の金光です。

大腸カメラの前日に何をたべればいいの?

私たち看護師は大腸カメラを受ける患者さんへ検査前の食事について説明をしますが、「何を食べればよいのか、本当に迷うの」という声がとても多いです。

「食物繊維の多いものは控えるとは何?検査食っておいしいのかな?」

「家族が大腸カメラを受けるからできれば食事を作ってあげたいけど、何がつくれるのかな」などと色々なお言葉をいただきました。

COKUには

料理が得意な看護師がいます。使える食材があれば何でも作れるよと心強い言葉をもらいましたので使える食材リストを渡してみました。

するとどうしたことでしょう。素敵なメニューがたくさん出来上がりました。

そこで今日はその中から

メニューをいくつかご紹介しますね。

大腸カメラ前日の食事(自炊編①)

大腸カメラ前日の食事

朝食:トースト・バナナ・リンゴの皮なし・コーヒー

昼食:親子丼・お豆腐のお味噌汁

間食:カステラ・紅茶

夕食:豆腐ハンバーグのデミグラスソースがけ・マッシュポテト・お豆腐のお味噌汁・あつあつ白ご飯

お酒はビール350ml程度で飲みすぎないでくださいね。

食後のデザート:バニラアイス

大腸カメラ前日の食事(外食バージョン)

お忙しい方向けご飯 の外食バージョン

朝食:ソーセージエッグマフィン・ハッシュドポテト・コーヒー

昼食:かまたまうどん かしわ天トッピング (ショウガ・ゴマ・ねぎは抜きで)

おやつ:コンビニプリン(生クリームがのっていないものがおすすめ)

夕食:お寿司 たい・ヒラメ・マグロ・サーモン・カンパチ・卵(わさび・ショウガ・海苔は控えて)

かまたまうどん
プリン
サーモン

お食事はゆっくりと良く噛んで美味しくお召し上がりくださいね。

大腸カメラで不安や緊張もあるなかですが。こんなものも食べていいよ!(^^)!となれば少し心が軽くなるのでは。

また、順次メニューを考えてお伝えしていきますね。

ドクターズインタビュー

ドクターズインタビューに、主任部長の大塚と消化器外科部長の三賀森、消化器内科部長の嶋吉が取材していただいた記事が掲載されていますのでお知らせさせていただきます。

当院の低侵襲治療部門の紹介や、鼠径ヘルニア(脱腸)のトピックス、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)のトピックスも患者様にわかりやすくインタビューしていただきお答えしています。

よろしければぜひご一読ください。

ドクターズインタビュー:西宮敬愛会病院(大塚正久・三賀森学・嶋吉章紀)
内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD)について

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)とは

 消化管にできた大きな腫瘍を内視鏡を用いてはがし取る技術を言います。
 昔は消化管にできた腫瘍はすべて外科医が手術でとっていましたが、どうしても切除の範囲が大きくなりがちでした。
 とれた腫瘍を分析してゆくうち、一定の条件を満たすものはリンパ節転移の可能性が極めて低く、内視鏡で局所を切除しても余命に影響がないことがわかってきました。
 そのための方法の一つが内視鏡的粘膜下層剥離術と言います。
 従来からある内視鏡的粘膜切除術(EMR)より大きな腫瘍に対応することが可能です。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の治療方法

①横に広がるタイプの腫瘍を確認します。

②食道・胃に対して行うときは電気メスで腫瘍の周囲に焼き印を付け、切除の目印とします。大腸においても境界がわかりにくい場合は行うことがあります。

③ 病変の下にヒアルロン酸などを注入し、切除する層(粘膜下層)を膨らませます。

④ 電気メスで端から徐々に剥離してゆきます。

⑤ 一括切除(病変を分割せず、一枚板で取ること)を行い、必要に応じて傷口の血管を処理して終了となります。

 主に静脈麻酔を用いて行います。眠り薬と痛み止めを注射することで眠った状態で行います。
 必要に応じて全身麻酔を使用する場合もあります。この場合は切除途中に目が覚めることはありませんが、自分で呼吸することができなくなるため、気管にチューブを置くなどの方法で呼吸を確保します。当院では全身麻酔は麻酔科医が担当します。
 原則は入院で行い、処置後の出血等の合併症がないかを確認してから退院となります。

 とれた組織は顕微鏡検査で深さなどを確認します。
 原則はリンパ節転移を伴わないと予想される腫瘍に対して行いますが、手術前診断の精度を100%にすることは難しく、どのような腫瘍であるかの確認が必要なためです。
 その結果によっては、追加で外科手術などをお勧めしなければいけない場合もあります。

 当院ではこの処置に習熟した医師が確実に執刀します。
 処置に際して不安な点などがあっても丁寧に対応しますので、お気軽にお尋ねください。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器内科部長 嶋吉 章紀

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