低侵襲治療部門COKU – 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門「COKU」

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低侵襲治療部門COKU

術後の吐き気PONV

今回は、全身麻酔による手術後の吐き気について考えてみたいと思います。

術後に吐き気がしたり吐いてしまったりすることを、医学用語では「術後悪心・嘔吐(PONV:Post-Operative Nausea and Vomiting)」といいます。発生頻度は一般的に約30%の割合で発症し、辛い思いをされる患者さんもいらっしゃるため避けたい麻酔合併症の一つです。

1.どのような患者さんにリスクがある?

2020年に米国PONVガイドラインが発表されました。

「Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting」(Gan TJ, et. Anesth Analg 131: 411-448, 2020)

解析されたPONVのリスク因子として、最も関連されている項目は「女性」とされ、男性に比べて女性は約2.6倍も頻度が高いとされています。続いて、「術式」でガイドラインでは、腹腔鏡手術、婦人科手術、胆のう摘出術が取り上げられています。ほかに、「吸入麻酔薬」「PONV既往や乗り物酔い」「非喫煙者」「長時間手術」「50歳未満」となります。

ガイドラインにはPONVの発生率を評価するスコアとして、「Apfel simplified score」が使われます。女性・非喫煙者・PONV既往や乗り物酔い・術後オピオイド使用の4つのリスク因子のうち、項目が1つ当てはまるごとに約20%ずつPONVの発生率が増加するというものです。問診でわかるものですので、術前診察でお聞きします。

術後の吐き気

なお、当院では胆石や胆のうポリープなどに対して腹腔鏡胆のう摘出術を行っていますが、胆石のできやすい方の特徴として、太っている(Fatty)、40から50歳代(Forty-Fifty)、女性(Female)、たくさんお産をされた方(Fertile)とされ、英語の頭文字をとって4Fと言われています。これは、PONVのリスク因子と重なる項目が多く、女性の胆のう手術の際には、特にPONVに留意する必要があると考えられます。

2.PONVの予防のためには

PONVの予防のためには、まずは予防薬剤の使用が挙げられます。

制吐作用を期待していくつか使用される薬剤があります。

まずは、ステロイドです。主にデキサメタゾンが使用されます。効果の発現までに、時間を要するために手術開始後早期に投与されます。単回使用ではステロイドの副作用として一般的な血糖や感染に関しての問題視は必要ないとされています。

次にドロペリドールです。手術の終了時に投与します。錐体外路症状や心電図でのQT延長に注意が必要とされています。

次に、メトクロプラミド(プリンペラン)です。病棟で嘔気のある方によく使用される薬です。副作用も大きなものがなく使いやすい薬ではあります。

海外では、PONVの予防・治療薬としてゴールデンスタンダードであったセロトニン(5-HT3)受容体拮抗薬(オンダンセトロンとグラニセトロン)が2021年に日本でも「術後の消化器症状(悪心・嘔吐)」に使用することが許可されました。もともと日本でも5-HT3受容体拮抗薬は抗がん剤に対する制吐薬として長らく使用されてきました。

術後の制吐薬

抗がん剤に対する制吐薬は様々なものが使われ、5-HT3受容体拮抗薬(第一世代)であるオンダンセトロンやグラニセトロンなど、5-HT3受容体拮抗薬(第二世代)のパロノセトロン、NK1受容体拮抗薬であるアプレピタント、多受容体作用抗精神病薬であるオランザピンなどがあげられます。

米国PONVガイドラインではオンダンセトロンが最も一般的に使用・研究されている5-HT3受容体拮抗薬とされています。

5-HT3受容体拮抗薬の作用機序としては、延髄にあるCTZ(chemoreceptor trigger zone)や求心性迷走神経の5-HT3受容体に作用して、嘔吐を抑制すると考えられています。なお、投与タイミングですが、「患者背景や術式等を考慮し、術前から術後の適切なタイミングで投与してください」とされております。

3.日帰り手術とPONV

日帰り手術を行う上で、PONVは大きな障害となるため当院でもPONVを予防することは重要な課題と考えています。そのため、腹腔鏡手術ではオンダンセトロンの投与を麻酔科医師と相談し積極的に使用しています。また、腹腔鏡下胆のう摘出術では、前述のようにPONVのリスク因子の高い患者さんも多く、オンダンセトロンに加えて他の制吐薬の投与なども検討を行います。

当院では、術中麻酔は麻酔科の専門の先生方にお願いしています。薬剤の選択や麻酔方法の選択など、患者さんごとに適したものを相談しながら選択していきたいと思います。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森

腹腔鏡手術後の肩の痛み

手術にまつわるトピックを定期的にあげていきたいと思います。

今回は、腹腔鏡手術後に起こることのある肩の痛みについて考えてみたいと思います。

1.お腹の手術後に肩の痛み?

腹腔鏡手術 肩の痛み

腹腔鏡下胆のう摘出術や婦人科領域の腹腔鏡手術において、術後に肩が痛いということが起きることがあります。お腹にしか傷がないのに、肩が痛むというこの現象には様々な原因が考えられています。手術中にお腹を膨らませるために使用する二酸化炭素ガスを原因とするアシドーシスによって横隔膜や横隔神経が刺激されて痛みが生じるメカニズムや、気腹による腹膜や横隔膜の進展によるものが報告されています。治療介入が必要なことは少ないとされますが、手術部位とは関係ない部位の痛みのため不安に感じられる方もいらっしゃいます。

2.腹腔鏡に使うガスについて

この腹腔鏡手術で使う医療ガスについて考えてみたいと思います。まず、腹腔鏡手術を行うためには、ガスを送り込んでお腹を膨らませることが操作スペースの確保のために必要になります。腹腔内に送気するには、次のような条件がそろった気体である必要があります。

①引火性や爆発性がないこと

②無色透明であること

③患者さんおよび手術スタッフへの害がないこと

④吸収が早く体内から容易に排出されること

⑤安価であること

腹腔鏡手術 二酸化炭素

これらのことから、酸素はもちろん引火性がありますし、吸収がよくない気体だと空気塞栓(血管内の空気が肺に詰まること)のリスクがあります。腹腔鏡の手術では多くの気体を使用するので、コスト面も重要です。そのようなことから、これらの条件を満たす気体として、現在は腹腔鏡手術時に使用するガスは二酸化炭素が一般的になっています。消化器内視鏡で観察時に腸内を膨らます際にも二酸化炭素ガスを使用します。

3.腹腔鏡手術時の気腹圧について

腹腔鏡手術時に用いる気体は二酸化炭素を用いますが、実際に使用の際には気腹装置により腹腔内に送り込む圧の設定が必要となります。一般的には<12mmHgが低圧気腹、12-15mmHgで通常圧気腹、15mmHg以上で高圧気腹と考えられています。気腹圧が高いほどお腹の膨らみは大きくなり、操作スペースが広くなるのですが、その一方で皮下気腫(皮膚組織の間にガスが入り込むこと)や空気塞栓、圧による門脈血流の低下のリスクともされています。また、横隔膜の過伸展は前述のとおり肩の痛みの原因にもなっているかもしれません。

2020年にSurgical Endoscopy誌(Surg Endosc 34(7):2878-2890, 2020)より報告された「The impact of intra-abdominal pressure on perioperative outcomes in laparoscopic cholecystectomy: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials」では、22本の研究(2909名)においてシステマティックレビューが行われています。結果は、バイアスリスクがあるためさらに研究を要するとの注釈がありますが、低圧気腹群で標準圧気腹群より肩痛を含む術後疼痛や入院期間が減少したという報告があります。

また2022年にSurgical Endoscopy誌(Surg Endosc 36(10):7092-7113, 2022)で発表された「Low-pressure versus standard-pressure pneumoperitoneum in laparoscopic cholecystectomy: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials」では、待機的腹腔鏡下胆のう摘出術において異なる気腹圧で比較した44のランダム化試験のシステマティックレビューとメタアナリシスが行われ、入院期間や合併症には差がなかったが、術後の疼痛と鎮痛薬の消費量では低圧気腹において有意に低かったと報告されています。肩痛に関しては、このうち12の研究で解析され低圧気腹群で肩痛の発生率が有意に低かったとされています(1032人、RR 0.48, 95%CI 0.39 to 0.60)。

私の感覚ですが、腹腔鏡手術が始まった当初は各施設において12mmHg~15mmHgで気腹をしていた印象がありますが、最近は8-10mmHg程度で行っているところが多いような気がします。肝切除や視野の取りにくい患者さんの時にはスペースの確保や止血のために気腹圧を挙げることもあります。しかし、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のう摘出術では操作スペースの確保が比較的容易なため、われわれの施設でもこれらの腹腔鏡手術は8-10mmHgで行っています。

4.腹腔鏡手術後の遺残ガスについて

低圧気腹が可能であればそちらを選択した方がよいという方針が確認できました。ほかに、肩痛の改善のために研究されている課題としては、手術後の遺残ガスについて複数の論文が報告されています。経験的にも腹腔鏡手術の数日後にCT検査が必要な方の所見をみると、多くの方で腹腔内にガスが遺残しています。横隔膜の下にガスのたまりが、横隔膜を伸展させて刺激になっている原因かもしれません。

この遺残ガスを減らす方法として、ドレーンといって腹腔内に管を入れたしする方法もあります。しかし、侵襲の少ない手術ではドレーンを留置をすることがありませんのでこの方法は現実的ではありません。ほかの方法を調べてみると、手術終了前の人工呼吸中に肺をしっかりと膨らませて横隔膜を押し下げてガスを追い出すという方法の論文が見られました。

2021年のWorld Journal of Surgery誌(World J Surg 45(12):3575-3583, 2021)「Pulmonary Recruitment Maneuver Reduces Shoulder Pain and Nausea After Laparoscopic Cholecystectomy: A Randomized Controlled Trial」では、147人の腹腔鏡下胆のう摘出術患者さんをPRM群(pulmonary recruitment maneuver)と通常群の比較が行われました。PRM群は手術終了時に、1分間高めの圧で換気を行い腹腔内の二酸化炭素を体外に追い出す方法です。PRM群で術後の肩痛と嘔気が軽減したという結果でした。2023年のSurgical Endoscopy誌(Surg Endosc 37(11):8473-8482, 2023)の「The influence of the pulmonary recruitment maneuver on post-laparoscopic shoulder pain in patients having a laparoscopic cholecystectomy: a randomized controlled trial」でも、ランダム化比較試験においてPRM群が従来群より肩痛を減らすという結果を報告しています。

5.当院での取り組み

術後の疼痛や嘔気に関して、多くの報告がされています。実際に論文を読んで吟味し、臨床に役立ちそうなことは麻酔科の先生たちともしっかり検討して、少しでも手術を楽に受けていただけるように知識もアップデートしていきます。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森

鼠径ヘルニア手術のメッシュ

前回は鼠径ヘルニア手術の術式についてお伝えしました。

今回は、鼠径ヘルニア手術に用いるメッシュの固定について解説したいと思います。

1. 鼠径ヘルニア手術にはメッシュが必要?

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術において、腹腔鏡、鼠径部切開法にかかわらず、メッシュを用いた術式を「メッシュ法」、メッシュを用いない術式を「組織縫合法」とよびます。組織縫合法はメッシュ法と比較して、再発率が高く慢性疼痛の発生率が高いとされています。本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)でも、「成人鼠径部ヘルニアに対して組織縫合法は推奨できるか?(CQ9)」というクリニカルクエスチョンに対して「成人鼠径ヘルニアに対して、原則的には組織縫合法は推奨できない(推奨グレードB)」とされており現在はほとんどの鼠径ヘルニアの手術において「メッシュ法」が一般的に行われます。しかし、ヘルニア嵌頓での緊急手術時に腸液の逸脱など汚染手術となった場合には人工物であるメッシュは使用できず、組織縫合法が必要となる場合もあります。

2. 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術のメッシュの種類

メッシュ法が主流である現在、腹腔鏡手術においてもメッシュは使用されます。手術に用いる人工のメッシュは、ポリプロピレンやポリエステルが主な材質であり、網目の細かさや材質量により軽量メッシュ(light weight mesh) と標準メッシュ(heavy weight meshやmiddle weight mesh)と分けられ、各メーカーにより様々なラインナップが揃えられています。

なお、本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)では「成人鼠径部ヘルニアに対し推奨されるメッシュの材質は?CQ17」に対して、「light weight mesh使用により、術後に違和感をきたすリスクが低下するが、再発率および重篤な慢性疼痛の発生頻度は変わらない。成人鼠径部ヘルニアの初回手術ではlight weight meshの使用が推奨される(推奨グレードB)」とされています。ただし、この回答の根拠となる論文はいずれも鼠径部切開法であるLichtenstein法によるものです。解説にも、「日本においてもこのエビデンスが適応できるかどうかは不明である。また長期的な再発や違和感に関する結果も不明である。」とされています。

当院でも鼠径部切開法でのLichtenstein法やMesh-plug法のメッシュはlight weight meshを用いています。ただし、腹腔鏡手術で留置するメッシュの部位は腹膜前腔であり、鼠径部切開法でも同じ部位に留置するKugel法ではheavy weight meshが用いられていることを考えると、light weight mesh一択ではないと考えます。

2021年にAnn Surg誌(Ann Surg 273(5):890-899, 2021)より報告された「Heavyweight Mesh Is Superior to Lightweight Mesh in Laparo-endoscopic Inguinal Hernia Repair: A Meta-analysis and Trial Sequential Analysis of Randomized Controlled Trials」では、12本の研究において、2909名の評価を行っています。Light weight mesh群(1490名)とheavy weight mesh群(1419名)が比較されています。結果は、light weightの使用が再発リスクを増加させ、特に大きなヘルニア欠損においては顕著であったとされています。

3. 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術のメッシュの固定

次にそのメッシュの固定について考えてみたいと思います。なお、2022年の腹腔鏡手術におけるメッシュ固定に関する論文(J Am Coll Surg 234(3): 311-325, 2022)が報告されていました。腹腔鏡手術(TEP法、TAPP法)に用いた標準ポリプロピレンメッシュ(middle-heavy weight meshに相当)と軽量メッシュ(light weight meshに相当)をタッカー(固定用ホッチキス)、フィブリン接着剤(本邦では使用不可)、固定なしの3群で評価されています。結果は、対象25190例のうち、再発のため再手術を受けたのが924例(3.7%)で、固定なしの標準メッシュ、タッカーを用いた標準メッシュ、フィブリン接着剤を用いた標準メッシュ、フィブリン接着剤を用いた軽量メッシュが同等であり、タッカーを用いた軽量メッシュと固定なしの軽量メッシュは、再発のリスクが増加すると報告されています。本邦ではフィブリン接着剤の認可が下りていませんので、この結果を本邦の現状にあてはめると標準メッシュの固定なしの使用が推奨されます。

少し話は変わりますが、腹壁ヘルニアの手術で腹腔内から癒着防止メッシュを固定するIPOMという術式があります。固定には鼠径ヘルニアでも使用するタッカーを用いるのですが、多くの固定が必要となり術後の疼痛が多い印象があります。この腹壁ヘルニアの手術の手技を筋肉の後鞘前にメッシュを留置する方法(Rives-stoppa法)に変えると疼痛が軽減した経験があります。

そのためなるべくタッカーによる固定は避けたいという思いがあります。近年学会でも、タッカーを使用するときはあまり押し付けないで固定するとか、針糸で直接縫合するといった先生方の発表も見受けられました。

4. 当院での鼠径ヘルニア手術のメッシュの選定や固定

術式と同様、メッシュの種類や固定についてもヘルニアの大きさや発生部位により異なります。小さな外鼠径ヘルニアと大きな内鼠径ヘルニアではメッシュに対する考え方も大きく変わってくると思います。

当院では大まかな方針として下記のような判断基準を設けています。基本にはタッカー固定による疼痛をへらすべくなるべくタッカーを用いない方法をとりたいと思っています。なお、病状に応じて変更が必要なこともありますので、すべてがこの限りではありません。

・小さな外鼠径ヘルニアではTEP法で標準メッシュを固定なしでの留置を行っています。TEP法ではメッシュを置くところの剥離のため大きくずれるリスクも少なくなるためです。

・中くらいの外鼠径ヘルニアや大きくない内鼠径ヘルニアでは吸収性マイクログリップを用いたSelf-Fixating Meshの使用を考慮いたします。これは本邦で使用可能なメッシュで、接着面にマイクログリップというマジックテープのようなザラザラした突起が約5000個以上ついており、被覆面に固定されメッシュのズレを防止し、タッカー固定に近い効果が期待できます。マイクログリップは、時間とともに吸収され、最終的にはメッシュだけが残ります。これにより吸収前はmiddle weightで吸収後はlight weightという特徴があります。特殊加工のため高価なメッシュですが、保険診療において患者さんの費用負担は変わりません。

・大きな内鼠径ヘルニアの場合は、メッシュそのものがヘルニア嚢内に滑り出すこと(building)が懸念されるため、標準メッシュをタッカー固定することを行っています。

ヘルニアの状況に応じて、再発リスクと疼痛リスクがなるべく低くなるように様々なメッシュの中から最適と考えられるものを選択していきたいと思います。外来では各種メッシュのサンプルもお見せして説明いたします。ご不明な点があればご質問ください。

鼠径ヘルニア(脱腸)手術に使用するメッシュ

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森

鼠径ヘルニア(脱腸)手術 術式

当院では様々な情報を定期的にお伝えしていきます。

今回は、鼠径ヘルニア手術の種類など術式について解説したいと思います。

・鼠径ヘルニア手術における腹腔鏡手術と鼠径部切開法

鼠径ヘルニア(脱腸)の手術には腹腔鏡手術法(laparoscopic surgery)と鼠径部切開法(open inguinal hernia repair)の2つに大きく分かれており、どちらがよりよいかという議論が今までに多くなされています。本邦の診療ガイドライン(鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015)では、「手技に十分習熟した外科医が実施する場合には、鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下ヘルニア修復術は推奨できる」とされています。両者の違いとして、再発率は同等でありますが、腹腔鏡手術では手術時間が長いものの、術後疼痛、神経損傷、慢性疼痛は軽度で回復が早いとされています。

また、論文報告ではHernia誌(Hernia 23(3): 461-472, 2019)では、片側の鼠径ヘルニア手術において腹腔鏡下手術(TAPP、TEP)と鼠径部切開法(Lichtenstein法)の再発に関してメタアナリシス(複数の研究結果の統合と分析)が行われています。12のランダム化比較試験を対象として、腹腔鏡下手術群(2040名)と鼠径部切開法群(1926名)の比較が行われました。結果は両群で再発率には有意差がありませんでした。ただし、副次解析において、急性及び慢性疼痛の割合が腹腔鏡下手術群で少なかったとされています。

・鼠径ヘルニア手術の腹腔鏡手術におけるTEP法とTAPP法

さて、それでは腹腔鏡手術においてTEP法とTAPP法の結果の違いがあるのでしょうか?この両者の術式の比較に関しても多くの検討がされています。

なお、TAPPはTrans-Abdominal Pre-Peritoneal repair(経腹的腹膜外修復法)とよばれ、おなかの中から鼠径ヘルニアの穴を確認し、その周りの腹膜を切開・剥離し、鼠径ヘルニアの穴をメッシュで閉鎖し、腹膜を閉鎖します。

TEPはTotally Extra-Peritoneal repair(完全腹膜外修復法)といい、おなかの中に入らずに、おなかの壁の中で、筋膜と腹膜の間を剥がして鼠径ヘルニアの穴まで到達し、メッシュで穴を閉鎖します。

TEP法とTAPP法の比較については多くの論文が報告されていますが、2021年のHernia誌(Hernia 25(5): 1147-1157, 2021)では15の研究結果を集めて、TAPP(702名)、TEP(657名)を評価しています。結果は、両群ともに再発率や慢性疼痛に関して同等であり、術後早期の疼痛、手術時間、創部の合併症、仕事や日常への復帰、費用についても有意差がなかったとされています。結語に、これ以上比較をしても両術式に差は出ないのではないかとも書かれています。

本邦では腹腔鏡手術の約8割がTAPP法で行われています。欧米ではTEP法が主流となっています。このことは本邦では、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術の黎明期にご活躍された先生がTAPP法で開始されたことや、消化器外科医が主に鼠径ヘルニア手術を担当することから腹腔内からのアプローチに慣れていることなどが要因に考えられます。TEP法は腹腔内に入らないことから腹腔内臓器合併症のリスクが低いことや、腹膜縫合が不要なことからメリットも大きいと考えられますが、腹壁の中をアプローチしていくことから解剖学的な把握や視野の取りにくさによる手技の難しさが課題とされています。

・鼠径ヘルニア手術のベストな術式は?

ここまでをまとめると、「腹腔鏡手術であるTEP法、TAPP法と鼠径部切開法のいずれも再発率には差がなく、腹腔鏡手術で疼痛が軽度である。しかし、手術時間は鼠径部切開法が短い」となります。

もちろんそれぞれのエキスパートが実施すればいずれの術式も良好な成績は報告されており、各施設で習熟した方法で行うという方針は揺るぎないものと思います。

ただし、経験上は患者さんの体格や鼠径ヘルニアの状態によって適した術式は異なることはよく経験します。両側の場合は、腹腔鏡手術では同じ傷から両方できるため適していると考えます。内鼠径ヘルニアではTEP法がとても適していますし、ヘルニアが大きく年季が入っていて精索周囲の瘢痕化が強い場合はTAPP法の方が良好な視野で操作できます。また前立腺手術をされた方は、鼠径部切開法に軍配があがります。合併症などで全身麻酔が困難な方は局所麻酔が可能な鼠径部切開法が選択されます。

当院では、腹腔鏡手術を主として行っていますが鼠径部切開法も患者さんの病態に応じてご提案させていただいております。われわれはTEP法もTAPP法も鼠径部切開法も経験を積んできており、大まかな方針としては以下のフローチャートのように適応を考えております。またTEP法は一つの傷で行う単孔式TEP法(SILS-TEP)を行っております。術式に関しては、患者さんの状態やご希望もふまえて検討いたしますのでぜひご相談ください。

当院での鼠径ヘルニア手術の術式選択

文責 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森

西宮敬愛会低侵襲治療部門Youtube動画

当院を紹介したYouTube動画がupされました。

私の友人で、大阪大学消化器外科学の大学院時代の同期でもある太田医院の太田勝也先生がCOKUの内覧会の様子をYouTubeに動画配信してくれました。当院の特徴を凝縮した内容にまとめていただいてます。

『外科医太田勝也の同級生が立ち上げたCOKU!?に潜入してきた 番外編』

https://youtube.com/shorts/7BfsuEYyiiA?si=pk_uVk-hN1wheMmG

太田先生と私は大阪大学消化器外科学の医局に所属している際には大腸疾患グループに所属しており、公私共に仲良くさせてもらっています。今はご実家のある茨城県に戻られ、鼠径ヘルニア(脱腸)に対する日帰り腹腔鏡手術を行なっておられます。我々もCOKU開院の際には太田先生に色々と指導をいただきました。

我々は鼠径ヘルニア(脱腸)に対しては一つの小さい傷で行う単孔式腹腔鏡下ヘルニア修復術(SILS-TEP)を中心に行なっており、太田先生はTAPPを中心に手術をされています。

手術手技は違い、関西・関東と地域は違いますが、これからも外科医の同期として切磋琢磨していければと思います。

太田先生、本当にありがとうございました!

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 COKU 主任部長 大塚正久

西宮敬愛会病院 新年のあいさつ

新年明けましておめでとうございます。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 COKUの主任部長 大塚正久です。
西宮敬愛会病院 COKUですが、昨年12月4日から診療を開始し、旧年中は無事
に診療・手術を行うことが出来ました。これもひとえにご支援いただいた皆様
のおかげと感謝しております。

さて、新年を迎え、主任部長として今年の二つの計画を実現していきます。

一つ目は、COKUの外科部門で行なっている鼠径ヘルニア(脱腸)に対する単
孔式腹腔鏡下ヘルニア修復術(SILS-TEP)などの手術手技や我々の安全を第一
に考えた治療環境について更に幅広く皆様に知っていただく機会を増やしてい
く事です。鼠径ヘルニア(脱腸)や胆石などでお困りの患者様に疾患の説明や
治療法を知っていただく事で、治療にお困りの方の治療の選択肢を増やすこと
ができれば、地域医療への貢献につながると考えております。

二つ目は、新規部門の増設です。現時点では私、三賀森Dr、麻酔科Drが
在籍している外科部門ですが、今後、低侵襲治療部門として、更に多くの
患者様に多様な『負担の少ない』治療を提供できるように診療科を拡充させて
いきたいと考えております。

医療法人敬愛会グループとしましても、COKUは今後の地域医療に貢献できる
重要な部門と考えております。西宮敬愛会病院は、これまで慢性期医療を中心
に提供してきましたが、COKUと連携することにより更に積極的な慢性期治療
を提供できると考えております。COKUの低侵襲治療と西宮敬愛会病院本院の
慢性期治療によって、阪神間の患者様に多様な医療を提供出来ればと考えてお
ります。

今年は我々の理念である『患者様のご負担を零に近づけたい』という想いを更
に追及し、多くの患者様に満足いただける治療が出来るように、COKUメンバ
ー一同精進していく所存です。


本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

COKUスタッフあいさつ
外科専門医について

当院では定期的に各部署からさまざまな情報を提供していきたいと思っています。

今回は、われわれ外科医から消化器外科領域における専門医制度について解説したいと思います。

専門医の資格というのは多くあるのですが、消化器外科領域では細分化された領域が多いため、3階建ての専門医構造になっています。

外科 専門医 消化器外科 専門医

1.外科専門医

多くの医師は、卒後2年間の初期研修医を終了後に自分の専門科を決定していきます。消化器外科や心臓血管外科、呼吸器外科などの外科系にすすむことを決めた人は、まずは「外科専門医」を目指します。これが1階部分にあたります。一昔前までは、自身で病院を決めて研修して外科専門医試験を受けていましたが、2018年より日本専門医機構による新専門医制度が開始され、専門研修プログラムを受けることで外科専門医の取得を目指すようになりました。外科の基本的な知識や手技を学んで試験に合格すれば、おおよそ卒後7年目で「外科専門医」が取得できます。

また「外科指導医」というものもあり、こちらは認定施設での十分な期間と複数の論文発表が必要となり、最短でも卒後17-8年は取得にかかります。

2.消化器外科専門医

消化器外科医が次に目指す専門医資格は、「消化器外科専門医」です。ここが2階部分になります。サブスペシャリティとよばれて、外科専門医より一段階上の専門性の資格となります。消化器外科専門医試験の受験資格には、指定修練施設での規定年数の修練と、規定症例数の診療経験がまずは必要となります。また、消化器外科に関する論文発表が筆頭1編、共著2編以上(私たちの時代は筆頭が3編以上でした)と学会発表3件と学術活動の実績も必要となります。そのほか、学会参加や教育集会の参加などを満たすと、受験が可能となります。試験は、消化器外科領域全般にわたり、総論・上部消化管・下部消化管・肝胆膵脾の4領域に分けて出題され、100題の問題を回答し、70%以上で合格とされています。

消化器外科医として、まずはこの「消化器外科専門医」の取得を目指します。地域や大学によりキャリアの進み方に若干の違いがあると思いますが、消化器外科専門医取得後に病院のスタッフとして後輩の指導をはじめることが一般的でしょうか。つまり、消化器外科専門医の取得はレジデント(専修医)終了のようなイメージでもあります。そこからは上の3階部分の資格を目指します。

なお、消化器外科学会から「消化器外科指導医」という資格もあり、専門医取得後に十分な症例数や発表などの業績が認められれば取得できます。

3.内視鏡外科技術認定医や肝胆膵高度技能専門医など

消化器外科のキャリアで3階部分にあたる高次専門医として、「内視鏡外科技術認定医」「肝胆膵外科高度技能専門医」「食道外科専門医」などがあります。消化器外科専門医は経験症例や学会参加などの実績と試験が取得の要件ですが、3階部分の内視鏡外科技術認定医や肝胆膵外科高度技能専門医は、術者としての多くの経験症例に加え、実際の手術ビデオの審査が必要となります。両資格とも、執刀開始から終了までのフルビデオを編集なしで評価され、合格が決まります。つまり、これらの試験の特徴は、実際に手術の技術が評価されるということです。内視鏡技術認定医の合格率は2023年で各領域全体の平均は31%、肝胆膵高度技能専門は受験資格のハードルの高さもあり2011年~2022年で約500名程度の狭き門となっています。

資格というと知識だけでとれるイメージがあるかもしれませんが、消化器外科領域において3階部分の高次専門医までとるためには、技術も必要となります。わたしも大塚Drも「外科専門医」「外科学会指導医」「消化器外科専門」「消化器外科指導医」を取得しており、大塚Drは「内視鏡外科技術認定医」わたしは「肝胆膵外科高度技能専門医」を取得しています。ほかにも、各分野で多くの資格を取得するべく努力を行ってきましたのでプロフィールをぜひご確認ください。

専門医資格の意義として、資格をとるためにさまざま工夫や反省を行ってきた経験が細かなところまでこだわった手術を行うことにつながるのではないかと思います。みなさんに安心して鼠径ヘルニア(脱腸)や胆のうの手術をうけていただけるようにこれらの経験を活かしたいと思います。

文責  西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森

ヘルニア 外科 専門医 資格 
西宮敬愛会病院ホームページ写真の更新

先月末に施設の写真をとりました。今まで建築中のこともありホームページの写真もパースやイメージ図が多かったのですが、実際のわれわれの施設の写真を載せることができました。

手術室では実際にガウンをきて、麻酔科の先生や手術室看護師とともに手術台を囲み、手術器具を用いて雰囲気が少しでも伝わればと思い写真をとってもらいました。

外来診察室では実際に患者さん役の方に鼠径ヘルニア手術の説明を行っているところを撮影しています。

手術を考えられている患者さんの不安や心配は当然大きなものだと思います。われわれのホームページをみていただき施設やスタッフの雰囲気を感じていただき、少しでも安心いただき受診いただければと思います。

鼠径ヘルニア(脱腸)や胆石などを指摘されたことのある方はぜひ一度ご相談ください。

西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 COKU(ヘルニア・内視鏡病院)
西宮敬愛会病院COKU内覧会

当院 新低侵襲治療部門COKUの内覧会を11月30日から12月2日にかけて行いました。

内覧会にあたり、たくさんのお祝いのお花をいただき、COKUのエントランスが華やかになりました。

内覧会中は多くの方々に来院いただき、当施設の特徴やコンセプトを知っていただける良い機会となりました。以前に所属していた施設で一緒に働いていた先生方にも足を運んでいただき、思い出話も交えながら大変充実した3日間でした。

さて、12月4日からはCOKUは本格始動します。

今後、鼠径ヘルニア(脱腸)や胆嚢疾患などの良性疾患の患者様に腹腔鏡手術による治療を提供していきます。

COKUチーム一丸となり、患者様のご負担を心身ともにゼロに近づけるというCOKUのコンセプトを実現するように日々精進してまいります。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU内覧会
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU内覧会
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU内覧会
西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKU内覧会
西宮敬愛会病院手術室

手術室のご紹介をさせていただきたいと思います。

大型の機械の搬入を順調にすすんでいます。腹腔鏡手術を安全・安心に行うために様々な手術機器を導入しており、今回はいくつかの説明をさせていただきます。

まずは、腹腔鏡システムです。腹腔鏡システムはオリンパス社の最新モデルであるVISERA ELITEⅢを採用しています。優れた画像処理能力により小さな傷のために使用する細径スコープでも近年は鮮明な画像が得られます。腹腔鏡手術ではスコープの画像を見ながら手術を行いますので、画像の質は手術の質に関わってきます。

次に全身麻酔に必要な麻酔器です。麻酔器はドレーゲル社のDräger Atlan® A350を採用しております。ドレーゲル社は麻酔器に長い歴史があります。電気駆動のベンチレーターによる精度の高い換気を実現し、AutoFlow搭載で設定換気量をターゲットにしながら必要最低限の吸気圧による呼吸器管理ができ、腹腔鏡、気腹下症例などの肺コンプライアンス変動にも対応可能です。また、日本光電社の生体モニターでは心電図、血圧や酸素化のモニターはもとより、麻酔に用いる筋弛緩薬の効果を確かめる生体モニターや脳波で麻酔深度を確認するBISモニターも使用可能です。バイタルサインがリアルタイムに電子記録されることで、より安全安心な麻酔管理が可能です。

電気メスなどのエネルギーデバイスシステムは、アムコ社のVIO3とオリンパス社のSURGICAL ENERGY PLATFORM(ESG-410/ USG-410)を採用しています。どちらも最新モデルであり、電圧制御技術から生み出された出力により、安定した止血と迅速な切開をサポートします。手術室は2つあるため、万が一の機械トラブルなどに際しても複数台の機器でバックアップ可能です。

最後に手術器具では、腹腔鏡鉗子や持針器などわれわれ外科医の手の代わりとなるものですので、先端の形状や長さなど十分にこだわって選んだものを用意しています。

これらの手術器具に加えて、われわれの経験や技術力をあわせて安全な麻酔、丁寧な手術を行っていきたいと思います。

鼠径ヘルニア手術 手術室

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