大腸がんは、男性の約10人に1人、女性の約12人に1人がかかるといわれており、日本人にとって身近ながんです。自覚症状が少なく、本人が気付かないうちに進行してしまう大腸がんですが、初期の段階で発見し、治療を開始することができれば完治が目指せる病気です。ただし、大腸がんを早期に発見するためには、大腸カメラ検査が欠かせません。
ここでは、大腸がんに対する不安を抱く方のために、大腸がんになりやすい年齢や生活習慣について解説するとともに、大腸カメラ検査を受けるべき年齢の目安や頻度について説明します。
厚生労働省が公表している「全国がん登録罹患データ(2016年~2020年)」によると、大腸がんは、男女ともに40歳以上から罹患者(りかんしゃ・かかる人)が増加しはじめ、年齢を重ねるにつれて罹患者が増えることが報告されています。そのため、厚生労働省は、40歳以上の方を対象に1年に1度の定期検診を受診することを推奨しています。
ただし、40歳未満であっても、大腸がんになるリスクがないわけではなく、若くても大腸がんになるケースもあります。そのため30歳ぐらいから、大腸がんのリスクに対する意識を高めておいても損することはありません。
大腸がんのほとんどは、生活習慣に関連して発症すると考えられています。大腸がんのリスクを高める生活習慣について詳しくみていきましょう。
2.1 喫煙
喫煙は、大腸がんになるリスクを上げる可能性があります。たばこの煙には、約70種類の発がん性物質が含まれており、喫煙によって体内に取り込むことで、身体の細胞ががん化するリスクが高まるのです。国立がん研究センターが、国内の40〜69歳の男女約9万人を対象にした研究では、男女ともにたばこを吸う人は、吸わない人に比べて、大腸がんの罹患率が1.4倍高く、大腸がんになりやすいことが報告されています。
2.2 飲酒
飲酒も大腸がんになるリスクを上げると考えられています。国立がん研究センターが、約20万人の日本人のデータを対象に、飲酒と大腸がんのリスクについて調査したところ、男性では1日あたり23~45.9gのアルコールを摂取する人は、飲まない人に比べて大腸がんになるリスクが1.4倍高いことが報告されています。女性でも、アルコールを1日あたり23g以上摂取する人は、飲まない人に比べて大腸がんになるリスクが約1.6倍高いことがわかっています。さらに、男女ともに1日あたりのアルコール摂取量が15g増えるごとに、大腸がんになるリスクは10%ずつ増えると考えられています。アルコール23gは、ビールだと大びん1本(633ml)、日本酒だと1合(180ml)、ワインだとグラス2杯(200ml)程度にあたります。アルコールが大腸がんを引き起こすメカニズムはまだ解明されていませんが、アルコールを分解してできるアセトアルデヒドという発がん性物質による影響や、アルコールの摂取によって葉酸というビタミンBの一種の働きが阻害され、その影響によって大腸の細胞の遺伝子の状態が変化し、がん化を引き起こす説などが考えられています。
2.3 肥満
肥満も大腸がんの発生リスクを高めます。国立がん研究センターが、約30万人の日本人のデータを対象に、肥満と大腸がんのリスクについて検証したところ、特に男性では、BMI(肥満指数)が27以上の人は、BMIが27未満の人に比べて、大腸がんになるリスクが高く、BMIが高いほどそのリスクも上昇することが明らかになっています。女性では、男性ほど顕著ではありませんが、BMIが高いほど、大腸がんのリスクが高くなる傾向があることが報告されています。肥満が大腸がんを引き起こすメカニズムの一つとしては、肥満によってインスリンというホルモンやインスリン様成長因子という物質が血中に増え、その影響でがん細胞が増えやすくなると考えられています。
大腸がんの中には、遺伝性のタイプもあり、これを家族性大腸がん(または遺伝性大腸がん)といいます。家族性大腸がんでは、生まれながらにして遺伝子の一部に異常があるために、親子や兄弟、従妹同士などの血縁者の中に高い確率で大腸がんが発生します。家族性大腸がんは、40歳未満の若年で発症しやすい、大腸がんを繰り返しやすい、同時に複数のがんができやすい、大腸や小腸、胃などにポリープができやすいなどの特徴があります。よくある大腸がんとは異なり、10代、20代でも大腸にポリープができはじめる人もいるため、家族性大腸がんの家系の人は、40歳未満でも大腸がん検診を受けることが大切です。
大腸がんは早期に発見し、初期の段階で治療を開始すれば完治が目指せる病気です。しかし、大腸がんのほとんどは、初期の段階では無症状であり、気付かないうちにがんが進行しているケースが少なくありません。このため、大腸がんを早期発見し、治療につなげるためには定期的に検査を受けることがとても大切です。
厚生労働省は、40歳以上の方を対象に、1年に1回の大腸がん検診の定期受診を推奨しています。この大腸がん検診は、各市町村で受けることができ、「便潜血検査」という便の中に血液が混じっていないかを調べる検査方法でおこないます。この便潜血検査で異常が見つかった場合は、精密検査として大腸内視鏡検査、いわゆる大腸カメラ検査を実施します。
大腸カメラ検査では、肛門から内視鏡を挿入し、大腸の粘膜に異常がないかを直接観察します。腸粘膜にある小さなポリープや色調変化などのわずかな病変も見つけることができ、検査と同時に組織を採取し、顕微鏡で細胞に異常がないか詳しく調べることもできるため、大腸がんの早期発見や確定診断に威力を発揮する検査です。
大腸がんは、40歳を超えると発症率が高くなる病気です。そのため、大腸がんができやすくなる40代に差し掛かったら、一度大腸カメラ検査を検討することをおすすめします。
大腸がんは、先にも述べたように生活習慣によっては発症リスクが高くなります。
喫煙・飲酒の習慣のある人、肥満が気になる人は、40歳未満でも注意が必要ですので、消化器内科の医師に相談しましょう。そのほか、糖尿病や潰瘍性(かいようせい)大腸炎などの持病がある方や、胃や腸の不快感などのおなかの症状がある方も、大腸カメラ検査が必要な場合がありますので医師に相談してください。
大腸カメラ検査を受けるべき頻度は、まず異常が見られなかった場合と大腸ポリープが見つかったことのある場合で異なります。さらに大腸ポリープが見つかったことがある場合は、見つかったポリープの大きさや数、切除したかどうかなどによって再検査の推奨間隔がさまざまになります。詳しくは以下の通りです。
6.1 特に異常が見られない場合
初回の大腸カメラ検査で特に異常がみられなかった場合については、5年後をめどに大腸カメラによる再検査をおこなうことが日本消化器内視鏡学会のガイドラインで推奨されています。ただし、便潜血検査については1年に1回定期的に受診しましょう。そのほか、便秘や下痢、吐き気などのお腹の症状が続いている場合も、「大腸カメラ検査で異常がなかったから」と安心せず、医師に相談するようにしましょう。
6.2 大腸ポリープが見つかったことのある場合
大腸カメラ検査を受けるべき頻度については、日本消化器内視鏡学会が2020年に発表したガイドラインを遵守し、決定しています。
同ガイドラインでは、どれぐらいの頻度で大腸カメラ検査を受けるべきかについて、初回の検査で得られた結果に基づいて以下のように推奨しています。
表:ガイドラインに基づく大腸カメラ検査の推奨頻度
初回の大腸カメラ検査の結果 | 再検査の頻度 | |
1 | 大腸癌または20mm以上の病変が見つかった。10個以上のポリープ(良性)が見つかった。 | 1年後に再検査 |
2 | 1番にあてはまらず、異形度の高い腺腫があった、または10~19mmの腺腫があった場合であり、かつポリープの数が9個以下であった。 | 1~3年後に再検査 |
3 | 1,2番以外のケースで、ポリープの総数が3-9個であった。 | 3年後に再検査 |
4 | 1,2番以外のケースで、ポリープの総数が1-2個であった。 | 3~5年後に再検査 |
当院では、上記のガイドラインに沿って再検査のタイミングを推奨しておりますが、個々の患者様の状態やご希望も鑑みて、柔軟な検査間隔を提案します。
日本消化器内視鏡学会のガイドラインによる大腸内視鏡検査の間隔についてはこちらをご覧ください。
>>昨年大腸内視鏡検査を受けました。今年も受ける必要がありますか?[1]
大腸カメラ検査は大腸がんの早期発見に威力を発揮するのにとても重要です。大腸がんが増え始める40代に差し掛かったら、大腸カメラ検査を受け、異常がないか調べておくとよいでしょう。ただし、40歳未満であっても、喫煙、飲酒習慣のある方、肥満が気になる方は、大腸がんにかかるリスクが高いため、早めの検査を検討しましょう。
大腸がんは、年齢を重ねるごとに、発症率が高まっていくため、40歳以降は定期的に受診し、初期の病変を見逃さないことが大切です。初回の大腸カメラ検査で異常が見つからなかった方も、異常が見つかった方も、それぞれ推奨される頻度で大腸カメラ検査を定期的に受けるようにしましょう。