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女性の鼠径ヘルニアの特徴や似ている病気について

鼠径ヘルニアは、いわゆる脱腸と呼ばれ、小児や中年男性の病気として知られていますが、女性も男性に比べると少ないものの、すべての年代で発症する可能性のある病気です。

ただし、男性と女性では体のつくりが違うことから、それぞれの鼠径ヘルニアの特徴も異なります。ここでは、女性の鼠径ヘルニアについて、その特徴や似ている病気、治療法のポイントなどについて解説します。

1.鼠径ヘルニアになる男女の割合は?

鼠径ヘルニアの男女の割合は、5:1~10:1といわれており、男性が多いのはもちろんですが、女性も少なからず発症することがあります。男女の割合に幅があるのは、20~40歳代の若年層は、女性の比率が高い傾向であり、50代以降になると男性が圧倒的に多くなるためです。ただし、日本ヘルニア学会の報告では、2011年から2017年に鼠径ヘルニアの手術を受けた方全体で見ると、平均年齢は65歳前後で、男女の割合は、男性が約85%、女性が約15%でした。

2.女性の鼠径ヘルニアの特徴

鼠径ヘルニアは、何らかの原因で弱くなった腹壁を構成する組織のすき間にできた穴(ヘルニア門)から、腸などの内臓が腹膜ごと押し出されている状態です。女性の鼠径ヘルニアには、ヘルニア門の位置によって、鼠径部ヘルニア(外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア)や閉鎖孔ヘルニアがあります。


(図)鼠径ヘルニアの種類

■  鼠径ヘルニアの種類と特徴

鼠径ヘルニアの種類特徴
外鼠径ヘルニア鼠径管の入り口付近の筋膜が弱くなり、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)*に押し出される
内鼠径ヘルニア鼠径部の腹壁が弱くなり、すき間から皮下へ押し出される
大腿ヘルニア骨盤から下肢へ向かう血管が通る穴から大腿部の付け根に押し出される
閉鎖孔ヘルニア骨盤の恥骨と坐骨からなる小さい穴から押し出される

*腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)
お腹の中にいる間に、女性では子宮を支える靱帯が鼠径管を通る際に腹膜が引っ張られてできる袋で、通常は出生後に閉じるが、開いたまま残ると外鼠径ヘルニアなどの原因となる。

女性は年代によって、できやすい鼠径ヘルニアに違いがあります。以下に、女性の鼠径ヘルニアの特徴を年代別に説明していきます。

2.1.若年層に多いのが「外鼠径ヘルニア」

20歳代から40歳代までの若年層の女性の鼠径ヘルニアは、小児の鼠径ヘルニアの再発や放置のことが多く、外鼠径ヘルニアがほとんどです。この年代では、脱出した腸や内臓が引っ込まなくなる嵌頓(かんとん)を起こすことは、ほとんどありません。若年層の女性の場合、生理周期に合わせて鼠径部のふくらみが大きくなったり、痛みなどの症状が出たりすることがあります。これは、ヘルニアの袋に腹水がたまっている場合(ヌック管水腫)や、子宮内膜症が入りこんでいる場合などがあり、鼠径ヘルニアと似た症状のため、専門医による診断が必要です。また、この年代では妊娠や出産がきっかけで発症したり、悪化したりすることがあります。

2.2.中高年層に多いのが「内鼠径ヘルニア」

中高年層の女性では、外鼠径ヘルニアに加え、内鼠径ヘルニアも増えてきます。内鼠径ヘルニアは、鼠径管の入り口より内側の筋膜が弱くなり、すき間ができて皮膚の下に腸などの内臓が押し出されて起こります。加齢により筋膜が弱くなったり、慢性的に鼠径部に圧力がかかりやすい生活習慣などが原因のため、中高年男性にも多い鼠径ヘルニアです。

2.3.やせ型の中高年層に多いのが「大腿ヘルニア」や「閉鎖孔ヘルニア」

中高年層でやせ型の女性に多い鼠径ヘルニアとして、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアがあります。それぞれの特徴は以下の通りです。

■ 大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは、血管が骨盤の中から下肢へ向かう時に通過する場所(大腿輪:だいたいりん)から、腹膜や内臓が押し出されて起こります。女性の中でも痩せている方で、特に出産経験がある方が大腿ヘルニアになりやすいといわれています。なぜならば、女性は男性と比べて骨盤が広く、特に痩せている方は大腿輪がひろがりやすいからです。さらに出産経験のある方は、大腿輪周囲の筋肉や筋膜が弱くなり、すき間ができやすくなり、腸などが押し出されやすくなるためです。

■ 閉鎖孔ヘルニア
閉鎖孔ヘルニアは、骨盤の恥骨と坐骨からなる神経や血管が通過する小さい穴から、腹膜や内臓が押し出されて起こります。通常、閉鎖孔は脂肪で覆われていますが、やせ型の方では脂肪が薄くなり、腸などが押し出される原因となります。



大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは、いずれもヘルニア門が小さいため、一端押し出された腸が腹膜内に戻らなくなる嵌頓(かんとん)になりやすいのが特徴です。嵌頓になると血液の流れが悪くなり、押し出された腸が壊死したり、腸閉塞を起こしたりすることもあり、緊急手術が必要となります。

3.女性が鼠径ヘルニアになる原因

女性が鼠径ヘルニアを発症する原因には、生まれつきヘルニアの袋ができている場合(先天性)と、生まれた後にヘルニアになる場合(後天性)があります。

先天性の場合、お腹の中にいる間にできる腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき:ヌック管)が開いたままになって、生まれつきヘルニアの袋ができると、腸などの内臓が押し出されて、乳児期から鼠径ヘルニアを発症する原因になります。

後天性の場合の原因は男性と共通で、生活習慣や加齢などにより腹壁全体の筋力が弱くなり、慢性的な鼠径部への圧力によって、筋膜の弱くなっているすき間から、腸などの臓器が押し出されて発症します。お腹に力を入れて踏ん張ることの多い便秘症や肥満の方、咳がひどいなどが多いようです。また、妊娠時に腹圧がかかることがきっかけになることもあります。

4.女性の鼠径ヘルニアの症状

女性の鼠径ヘルニアは、男性と比べてふくらみは小さく、鼠径部の不快感や違和感だけの場合もあります。女性に多い大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは、いずれもヘルニア門が小さいため嵌頓をおこしやすいにも関わらず発見しにくく、腸がはさまれて起こる腸閉塞にともなう食欲不振やお腹の張り、吐き気や嘔吐などで発見される場合もあります。

若い女性の場合、生理周期に関連して鼠径部のふくらみが大きくなることがありますが、子宮内膜症が入り込んでいることが原因のため注意が必要です。

5.女性の鼠径ヘルニアの診断は難しい?

女性の鼠径ヘルニアは、男性よりも診断が難しいといわれています。
理由は以下の通りです。


■ 一般的にふくらみの大きさが小さく、診察時にふくらみが出ていない場合もある
■ 女性の場合、後述する鼠径ヘルニアと似た症状の病気がある
■ 鼠経ヘルニアの中でも女性に多く、発見されにくい大腿ヘルニアなどがある



以上のことから鼠経ヘルニアが気になったら、まず専門医への受診がすすめられます。

6.鼠径ヘルニアに似ている病気

女性の鼠径部にふくらみが生じ、痛みなどの症状が出る、鼠径ヘルニアに似ている病気を紹介します。

6.1.ヌック(Nuck)管水腫

ヌック管水腫とは、出生後に閉じるはずのヌック管(腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき))の内部に腹水がたまった状態のことです。

鼠径部のふくらみが、生理の周期により大きくなったり小さくなったりすることがあり、痛みをともなうこともあります。鼠径ヘルニアとの違いとして、押しても引っ込まないことが多いようです。鼠径ヘルニアとの鑑別にはCTなどの画像診断をおこないます。Nuck管水腫に鼠径ヘルニアが合併していることもあります。生理周期による大きさや痛みの変化があれば子宮内膜症が入り込んでいる可能性があり、切除が必要です。

6.2.子宮内膜症

子宮内膜症は、子宮内膜が子宮の内腔以外の卵巣や腹膜などにでき、生理で体外に排出されることなく炎症が起きたり、周囲の組織と癒着したりして痛みを生じる病気です。鼠径部のふくらみが、生理周期と一致して大きくなったり痛みをともなったりする場合には、前述のヌック管の子宮内膜症や、子宮内膜症が鼠径ヘルニアに併存している可能性もあります。超音波検査やCTなどの画像診断をおこない、子宮内膜症があればヌック管やヘルニアごと切除します。

6.3.子宮円索静脈瘤

子宮円索静脈瘤(しきゅうえんさくじょうみゃくりゅう)は、妊娠中に子宮が大きくなり、鼠径部を通る子宮円索と呼ばれる靱帯周辺にある静脈に静脈瘤ができる病気です。

鼠径部に鼠径ヘルニアと似たふくらみができ、静脈瘤による静脈炎や血栓ができると痛みが出ることがあります。超音波検査で診断し、出産すると自然とふくらみや症状はなくなるため経過観察しますが、鼠径ヘルニアが併存している場合や血栓ができている場合には、手術などの治療が必要になることもあります。

7.女性の鼠径ヘルニアの治療法

鼠径ヘルニアは自然に治ることはないため、手術が唯一の治療法です。

手術方法は男性と基本的には同じで、鼠径ヘルニアの原因となっている、腹壁を構成する組織にあいた穴を網状のメッシュでふさぐ手術です。ヘルニア門に到達する方法には、大きく分けて2つあります。お腹に1か所の2cm程度、もしくは3カ所(腹腔鏡用・両手の鉗子用)5~10mmほどの小さい穴を開け、腹腔鏡と細い鉗子を挿入しておこなう腹腔鏡手術法と、鼠径ヘルニアのふくらみの部分を約5cmほど切開しておこなう鼠径部切開法です。女性の鼠径ヘルニアの治療には、腹腔鏡手術をおすすめします。その理由は以下の通りです。


① 腹腔内から腹膜を直接確認できる
女性は、男性と比較して大腿ヘルニアが多く(女性13%、男性1%)、他の鼠径ヘルニアとの併存も多い(5%)傾向があります。腹腔鏡手術の場合、腹腔内(TAPP法)または筋層と腹膜の間(TEP法)に挿入した腹腔鏡で、ヘルニアになりやすい部位を直接確認することができます。

② 大腿ヘルニアや併存する鼠経ヘルニアの見落としがない
女性の鼠径ヘルニアは、男性に比べて再発率が高いことがわかっていますが、他の鼠径ヘルニアの手術における大腿ヘルニアの見落としが原因として挙げられるといわれています。腹腔鏡手術(TEP法、TAPP法)では、大腿ヘルニアの部分も剥離して必ず確認するため、見落とすことがありません。

③ 大腿ヘルニアの治療に適している
大腿ヘルニアの治療に対し、鼠径部切開法のうちリヒテンシュタイン法という術式は、効果がないことがわかっています。また、他の術式の鼠径部切開法と比較しても、腹腔鏡手術は併存する他の鼠径ヘルニアの見落としによる再発が少なく、術後の異物感などの後遺症が少ない点でも優れているといわれています。

8.まとめ

鼠径ヘルニアは、一般的に脱腸と呼ばれ、鼠径部にふくらみができる良性の病気です。中年以降の男性の病気というイメージが強いですが、女性にも少なからず発症し、若年からすべての年代で発症する可能性があります。

鼠径ヘルニアは、鼠径部の筋膜が何らかの原因で弱くなった部分に、慢性的に圧力がかかることで、筋膜のすき間から腸などの内臓が押し出されて起こり、その押し出された穴の位置によって、外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアの3種類に分けられます。

女性は骨盤から下肢へ神経や血管が通る穴から押し出される大腿ヘルニアが多いのが特徴です。女性の鼠径ヘルニアは、ふくらみが小さいことや、似た症状を呈する女性特有の病気があることなどから、診断が難しいとされています。

鼠径ヘルニアは自然治癒することがないため、ふくらみや症状を取り除き、嵌頓を予防するための手術が唯一の治療法です。女性の鼠径ヘルニアは嵌頓になりやすいため、診断と同時に手術による治療を検討する必要があります。女性の場合、女性に多い大腿ヘルニアの発見を念頭に、腹腔鏡による手術がすすめられています。

西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは、鼠経ヘルニアの治療において腹腔鏡手術を中心に行っています。資格を備え、また消化器外科手術の経験を十分に積んだ専門の医師が先進的な治療環境で鼠径ヘルニア手術(腹腔鏡手術:TEP法やTAPP法)を行います。鼠経ヘルニアに関して、ご不明点やご要望などがあればお気軽にご相談ください。患者さまの状態やご希望もふまえて最適な術式をご提案いたします。

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