お腹が空くとみぞおちが痛む、何かを食べると痛みが落ち着く。こうした症状は、胃を守るバリア(防御因子)と胃酸(攻撃因子)のバランスが崩れているサインです。食後にいったん落ち着くため、一時的な不調と見過ごされがちです。
しかし、放置すると十二指腸潰瘍などの深刻な病変や、胃や十二指腸に穴が開く「穿孔(せんこう)」といった緊急事態を招く恐れがあります。
本記事では、空腹時に胃痛が起こるメカニズムをはじめ、疑われる病気の特徴や自宅でできる応急処置、さらに受診を急ぐべき基準まで解説します。
胃が痛くなる直接的な原因は、強い酸である胃酸が空っぽの胃や十二指腸の粘膜を直接刺激することです。
普段、胃の中では「食べ物を溶かすための胃酸分泌(攻撃因子)」と「粘膜を保護する粘液やアルカリ性の物質の分泌(防御因子)」が絶妙なバランスを保っています。
しかし、以下の3つの要因によってこの絶妙なバランスが崩れると、痛みが生じます。
胃酸は本来、食べ物を消化するために分泌されます。空腹時には中和してくれる食べ物がないため、分泌された胃酸がむき出しの粘膜に直接触れ、しみるような痛みが生じます。
加齢や過労、あるいはロキソニンなどの鎮痛薬(NSAIDs)の服用によって、粘膜を守る粘液の分泌が減ることがあります。バリアが薄くなると、通常量の胃酸であっても粘膜を深く傷つけてしまいます。
消化液の分泌や消化運動は、自律神経によってコントロールされています。ストレスなどで自律神経のバランスが乱れると胃の粘液(防御因子)の分泌が弱くなります。さらに、胃が知覚過敏になることで、痛みを感じやすくなることもあります。

空腹時の胃の痛みはさまざまな病気で起こります。それぞれの病気で、痛みの出る仕組みも違います。痛み方や症状の出方によって、疑わしい病気の目安がつくこともあります。代表的な病気の特徴は次の通りです。
胃の粘膜に炎症が起きている状態です。急性胃炎は暴飲暴食やストレス、慢性胃炎はピロリ菌感染などが原因です。急性胃炎では、炎症部分に胃酸が触れることで痛みが生じ、慢性胃炎では、粘膜が薄くなって防御因子が弱くなることで痛みを生じます。みぞおちの痛みや胃もたれなどの症状が出ることもあります。
胃酸が食道に逆流し、炎症を起こす病気です。本来、食道は胃酸にさらされるように作られていないので、防御因子である粘液が少ないため痛みを感じます。胸焼けや胃の上のほうの痛みとして感じることがあります。
胃の粘膜が深く傷つく病気です。胃のぜん動運動によって直接傷ついた部分がこすれて痛みが出ます。消化のために分泌された胃酸が傷口を刺激することも痛みの原因となります。キリキリとした痛みが特徴です。多くの場合、痛みは食後60〜90分後の胃の内容物が排出されるときに生じます。潰瘍の場所や状態によっては空腹時に痛むこともあります。
胃酸が十二指腸の粘膜を溶かしてえぐってしまう病気です。起きた時には痛くないことが多い傾向にあります。午前中に痛くなり、食事により軽減することもありますが、食後2~3時間で再発します。傷口に胃酸が流れてくることで刺激されて痛みが出ます。食事を摂って胃酸が中和されると、一時的に痛みが和らぐ特徴があります。夜間に痛みで目が覚めることもあります。
検査で潰瘍などの異常がないにもかかわらず、痛みやもたれが慢性的に続く状態です。胃酸に対する知覚過敏が痛みを引き起こします。
※機能性というのは、医学でよく使われる表現で、姿形(形態)には異常がないということです。
初期段階では自覚症状がほとんどありません。進行とともに空腹時も食後も潰瘍に似た痛みのほか、胃のあたりの不快感が出ることがあります。他の病気に比べると頻度は稀です。しかし、進行する前に早い段階で受診することが大切です。
空腹時の胃痛は、自宅でも和らげることができる可能性があります。すぐに実践できるものもあります。しかし、これらはあくまで一時的な応急処置で、良くならない場合や繰り返す場合、痛みが持続する場合には無理をせず消化器内科の受診を検討しましょう。
胃酸を中和させることで、痛みを和らげられることがあります。人肌に温めた白湯や少量のおかゆなどが適しています。食べ過ぎは逆に胃酸の分泌を促すおそれがあるため、少量で様子をみます。
前かがみの姿勢や、ベルトなどで腹部を強く圧迫する服装は避けます。横になる場合は、体の右側を下にします。胃の出口が下側になることで、消化の流れを助け、負担軽減が期待できます。
胃酸の分泌を抑える薬や、中和によって胃酸によるダメージを抑える薬、胃粘膜を保護して修復を促す薬が有効な場合があります。
しかし、これらは一時的な対応です。市販薬を数日服用しても症状が改善しない場合は、背後に潜む病気を確認するために医療機関で詳しい検査をしましょう。他の薬を内服している場合は飲み合わせに注意が必要です。持病がある方や妊娠中の方は、服用前に必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

普段の生活に胃痛の原因が潜んでいることがあります。応急処置ではなく、毎日の生活習慣を変えることで空腹時の胃痛を和らげたり、発生を予防したりすることが期待できます。
コーヒーに含まれるカフェインやアルコール、香辛料などは胃酸の分泌を過剰にします。特にカフェインの作用は、個人差が大きいため、空腹時に飲んで胃痛を感じたことがある場合には何かと一緒に飲むようにしましょう。また、極端に熱い・冷たい飲食物は、胃の粘膜を傷めるため、空腹時には控えることをおすすめします。
ストレスによって交感神経が優位になると、胃の血流や粘液分泌が低下し、防御因子が弱まる一方で、胃酸などの攻撃因子が強くなります。その結果、胃の痛みや胃もたれが起こりやすくなります。こうした胃への負担を軽減するためにも、ストレスをため込まないことが大切です。胃痛があるときは、ストレスの原因から少し距離を置き、十分な睡眠を確保しながら、深呼吸や軽い運動、入浴などでこまめに気分転換を図り、心身を休めるようにします。
不規則な睡眠時間や寝不足は、日中の自律神経のバランスを乱します。また、不規則な食事時間や欠食は、胃酸の分泌リズムを狂わせます。その結果、空腹時に胃の不快感や痛みが生じやすくなります。こうした生活リズムの乱れを防ぐためにも、心身の健康を維持するために必要とされる6〜8時間以上を目安に十分な睡眠時間を確保しましょう。加えて、朝・昼・夕の3食をなるべく決まった時間にとり、長い空腹時間をつくらないようにすることも大切です。規則正しい生活を送ることが、胃の健康を保つことにつながります。
以下の症状がある場合は、速やかに消化器内科を受診してください。
痛みへの対応も大切ですが、早い段階で適切な治療をおこなうことで悪化を防ぐことができます。そのために、どのような検査をおこない、診断を進めるか、それぞれの検査のメリットと具体的な内容をまとめます。
カメラを鼻か口から入れて、粘膜を直接観察して、炎症、潰瘍、腫瘍の有無を確認します。症状がないことが多い「がんになる前の小さな病変」も見つけられるのはこの検査の大きなメリットです。必要に応じて組織を採取して顕微鏡で確認する検査(組織生検)をおこなうことも可能です。鎮静剤を使用して、うとうとしている間に検査を終えることもできます。
CT検査では、おなかの中にある臓器全体を断面でとらえ、膵臓や肝臓など内視鏡では確認できない部位まで幅広く評価することが可能です。カメラの検査では把握しにくい領域の診断に有用であり、当院では来院当日にCT検査を受けることもできます。一方で、逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍、また早期のがんなど粘膜の細かな変化を確認するためには、内視鏡検査が適しています。
ピロリ菌は、慢性胃炎や消化性潰瘍の原因になることもあります。また、機能性ディスペプシアの症状を引き起こすこともあり、これはピロリ関連ディスペプシアと呼ばれます。ピロリ菌検査では、現在ピロリ菌に感染しているかを確認します。陽性の場合は除菌治療をおこないます。除菌によって将来的な胃がんのリスクを低下させることができます。検査は、内視鏡を使う侵襲的診断法と内視鏡を使わない非侵襲的診断法に分けられます。
内視鏡を使う検査(侵襲的診断法)
内視鏡を使わない検査(非侵襲的診断法)

空腹時の胃痛についてのよくある質問です。回答は、一般的な内容であり、現在治療中のご病気やお身体の状態によって対応が異なる場合もあります。気になることがあれば受診し、医師に相談することが早期解決の糸口になります。
食後に改善して繰り返さないような場合には、様子見でも問題ないことがあります。しかし、繰り返す場合や数週間持続する場合には放っておくことはおすすめできません。悪化して重症になる場合や、稀ですががんのひとつの症状という可能性もあります。また、原因に合わせた迅速な対応によって、改善が早くなることが期待できます。
はい。ストレスで交感神経が緊張すると、胃粘膜の血流が低下してバリア機能(防御)が弱まります。また、自律神経が乱れると、胃が知覚過敏となり、通常の胃酸でも痛みを感じやすくなります。他に、器質的な異常がなくても痛みが出る機能性ディスペプシアの原因になることもあります。
一時的に痛みが落ち着く可能性はあります。一方で、原因が残っていれば再発します。市販薬を飲んでも繰り返す場合は、消化器内科を受診して検査を受けて状態を確認する必要があります。
空腹時の胃痛は、胃酸が多く分泌されている場合や粘膜機能の低下などによって生じるサインです。単なる胃痛と自己判断して放置すると、少しずつ症状が悪化して、胃に穴が開くなどの事態を招く恐れがあります。
痛みの出方が目安になることはありますが、症状だけで重大な病気を見分けることはできません。症状が繰り返し起こる場合や、数週間続く場合には、消化器内科の受診が必要です。胃の痛みで受診するのに大げさということはありません。ぜひ早めに医療機関を受診してください。