近年、腹腔鏡手術の普及によって、「小さい傷で手術できる時代になった」というイメージを持たれることが増えました。
ただ、腹腔鏡下胆嚢摘出術に関して言えば、実は腹腔鏡手術の中でもかなり早い時期から行われてきた、歴史の長い手術です。
つまり、胆嚢摘出術は「最近急に低侵襲になった手術」というわけではありません。
それでもなお、現在でも多くの施設で入院管理が行われているのには理由があります。
腹腔鏡下胆嚢摘出術は、長年にわたり数日間の入院で運用されることが一般的でした。
ただし、これは必ずしも『全員にその日数が必要だった』という意味ではありません。
実際には、
なども含めて、病院全体でクリニカルパスとして標準化されていた側面があります。
また、DPC制度下では、在院日数や病院運営上の区切りも、クリニカルパス設計に影響してきました。
そのため、従来の入院日数が必ずしも医学的必要性だけで決まっていたわけではありません。
実際には、経験的にも「もっと短くても問題ない患者さんが多い」ことは以前から分かってきています。近年は、大きな総合病院でも、従来の3泊4日から1泊2日など短期化が進んでいます。
一方で、入院期間を短縮できる患者さんが多いことと、全例を日帰りで行うことは同じではありません。
ここが重要な点だと思います。
もし胆嚢摘出術が、鼠径ヘルニア手術と同じように術後負担が少ないのであれば、もっと日帰り化が広がっていてもおかしくありません。
しかし現実には、日本全体でみても「日帰り胆嚢摘出術」が主流になっているわけではありません。
もちろん、技術的には可能です。
私自身、鼠径ヘルニア手術では日帰り・短期入院の両方を行っていますし、純粋に手術操作だけを考えれば、胆嚢摘出術も日帰り可能と感じる症例はあります。
それでもなお、胆嚢摘出術では『少なくとも一泊』が望ましいと感じる場面が少なくありません。
胆嚢摘出術は上腹部の手術です。
鼠径ヘルニアと比較すると、
などが比較的出やすい印象があります。
また、鼠径ヘルニアと胆嚢摘出術では、疾患そのものの対象年齢層や患者背景にも違いがあります。
鼠径ヘルニアは高齢男性に多くみられる一方で、胆石症は中年女性に多い疾患です。
そのため、術後の疼痛や嘔気によって、帰宅後につらさを感じる患者さんも少なくありません。
もちろん、大きな合併症は稀です。
ただ、
などによって、結果的に再受診につながることはあります。
実際には、術後当日は想像以上に吐き気や痛みが出て、「今日は泊まれてよかった」と言われる患者さんを多く経験します。
だからこそ当院では、「帰宅できる状態か」だけではなく、「安心して術後を過ごせるか」を重視しています。
もちろん当院でも、術後の疼痛や嘔気を少しでも減らすために、さまざまな工夫を行っています。
全身麻酔についても麻酔科専門医と相談しながら、
など、患者さんの負担を減らすための取り組みを行っています。
それでもなお、胆嚢摘出術では術後症状がゼロになるわけではありません。
だからこそ、少なくとも術後当日は、医療者が経過を見守れる環境が望ましいと考えています。
当院では、腹腔鏡下胆嚢摘出術は、
などの資格を持つ外科医が担当しています。
胆嚢手術としては、全国的に見ても高い専門性を持った体制で行っています。
それでもなお、一泊入院を基本としているのは、「手術が安全に終わること」と、「帰宅後まで安心して過ごせること」は、完全には同じではないと考えているためです。
どれだけ手術が順調でも、
をゼロにすることはできません。
特に胆嚢摘出術は、鼠径ヘルニア手術よりも術後症状が出やすいと感じており、少なくとも術後当日は、医療者が経過を見守れる環境が望ましいと考えています。
もちろん、医療技術は進歩しています。
今後さらに短期入院化が進む可能性もあると思いますし、実際に日帰り胆嚢摘出術を安全に行っている施設もあると思います。
一方で、鼠径ヘルニアと胆嚢摘出術では、術後管理の性質は決して同じではありません。
当院では、
「本当に安心して帰宅できる状態か」
その視点を大切にしながら、現在は少なくとも一泊入院を基本方針としています。
文責 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学
公開日:2026年3月20日