予約・お問い合わせ
お問い合わせ電話番号
0798-64-0059
0798-64-0059
医療関係者の皆様へのご案内はこちら

手術後の吐き気(PONV)について~予防・対策と当院での取り組み~

西宮敬愛会病院COKU消化器外科部長の三賀森 学です。

今回は全身麻酔による手術後の吐き気(PONV:Post-Operative Nausea and Vomiting)について解説します。

術後の吐き気・嘔吐は術後合併症のひとつであり、一般的に約30%の患者さんに発生するとされています。辛い思いをされる患者さんも少なくなく、予防と適切な対応が重要です。


1.どのような患者さんがPONVのリスクが高い?

2020年に発表された米国PONVガイドライン(Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting, Gan TJ, et al., Anesth Analg 131: 411-448, 2020)では、PONVのリスク因子として以下が挙げられています。

  • 女性(男性の約2.6倍の頻度)
  • 腹腔鏡手術・婦人科手術・胆のう摘出術
  • 吸入麻酔薬使用
  • PONV既往歴・乗り物酔いしやすい
  • 非喫煙者
  • 長時間手術
  • 50歳未満

ガイドラインでは「Apfel simplified score」が使用され、女性・非喫煙者・PONV既往(乗り物酔い含む)・術後オピオイド使用の4項目のうち該当するごとにPONV発生率が約20%ずつ増加します。これらは術前診察時の問診で評価します。

当院で行う腹腔鏡下胆のう摘出術では、胆石ができやすい方の特徴(4F:Fatty, Forty-Fifty, Female, Fertile)とPONVリスクが重なることが多いため、特に女性の胆のう手術ではPONV予防に細心の注意を払っています

術後の吐き気

2.PONV予防の方法

PONVの予防には薬剤の適切な使用が重要です。主に以下の制吐薬が使用されます。

  • ステロイド(デキサメタゾン):手術開始時に投与。血糖上昇や感染リスクは単回使用では問題視されません。
  • ドロペリドール:手術終了時に投与。QT延長・錐体外路症状に注意。
  • メトクロプラミド(プリンペラン):嘔気時に病棟で使用。副作用が少なく扱いやすい薬剤です。

5-HT3受容体拮抗薬(オンダンセトロン、グラニセトロン)は長らく抗がん剤による制吐薬として使用されてきましたが、2021年より日本でも「術後悪心・嘔吐」に使用可能となりました。米国PONVガイドラインでも標準的に使用される薬剤であり、当院でも術後吐き気予防の重要な選択肢としています。

作用機序としては、延髄のCTZ(chemoreceptor trigger zone)や迷走神経の5-HT3受容体をブロックし、吐き気や嘔吐を抑えます。投与タイミングは患者背景・術式を考慮し、術前・術後で適切に調整します。

抗がん剤の制吐薬として使用される以下の薬剤も参考にされます。

  • 第一世代5-HT3受容体拮抗薬:オンダンセトロン、グラニセトロン
  • 第二世代5-HT3受容体拮抗薬:パロノセトロン
  • NK1受容体拮抗薬:アプレピタント
  • 多受容体作用抗精神病薬:オランザピン
術後の制吐薬

3.日帰り手術におけるPONV対策

日帰り手術でPONVは退院遅延の大きな原因となるため、当院でも予防に力を入れています。

腹腔鏡手術では麻酔科医師と連携し、オンダンセトロンやグラニセトロンなどの5-HT3受容体拮抗薬の積極的使用を実施。加えてステロイドなど他の制吐薬の併用も検討し、患者さんの状態や手術内容に応じて最適化しています。5-HT3受容体拮抗薬の使用では術後に便秘が起こることもあるため、退院処方では下剤も使用も可能なように調整しています。

当院の麻酔は麻酔科専門医による管理のもと、安全性と快適さを両立できるように対応しています。手術の種類や患者さんの背景を踏まえ、一人ひとりに合った麻酔方法・制吐薬の組み合わせを相談しながら選択していきます。


【まとめ】

全身麻酔・腹腔鏡手術後の吐き気(PONV)は発症率が高く日帰り手術の大きな課題ですが、適切な予防薬の使用と麻酔管理で予防可能です。当院では患者さんが安心して手術を受けられるよう、麻酔科専門医と協力しながら術後吐き気対策に取り組んでいます。

術後の吐き気に不安がある方は、手術前の診察時にお気軽にご相談ください。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

公開日:2024年2月8日 更新日:2025年7月11日

関連記事

当院の新規患者様が2000名を超えました
2025.08.28

開設から2,000名以上の新規患者様にご来院いただきました

ヌック管水腫について西宮敬愛会病院鼠径ヘルニアセンターの方針を解説
2025.08.16

Nuck管水腫(ヌック管水腫)について

鼠径ヘルニア手術はどんな病院を選ぶべき?
2025.07.19

鼠径ヘルニア手術、どんな病院を選ぶべき?|日帰り手術から一泊入院まで対応可能な当院の特徴とは

当院で行う腹腔鏡下胆のう摘出術について解説
2025.07.18

当院で行う腹腔鏡下胆のう摘出術について

質の高い大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
2025.07.08

質の高い大腸内視鏡検査とは?ポリープ切除と腺腫発見率の重要性

内視鏡とアロマ
2025.07.03

「内視鏡検査とアロマ」シリーズ第3弾:気持ちを整える“サイプレス”の香り

内視鏡検査とアロマ第2弾
2025.06.28

【内視鏡検査とアロマ】シリーズ第2弾:ローズの香りでリラックス

内視鏡検査食そうめん
2025.06.26

【大腸カメラ前日④】夏にぴったり!そうめん&盛岡冷麺メニュー

鼠径ヘルニアの日
2025.05.31

6月1日は『鼠径ヘルニアの日』!

第23回日本ヘルニア学会
2025.05.30

第23回日本ヘルニア学会学術集会

2025.09.03

伊丹市在住の方が鼠径ヘルニア(脱腸)手術を西宮敬愛会病院COKUで受けるポイント

2025.07.28

宝塚市在住の方が鼠径ヘルニア(脱腸)手術を西宮敬愛会病院COKUで受けるポイント

2025.04.30

尼崎市在住の方が鼠径ヘルニア(脱腸)手術を西宮敬愛会病院COKUで受けるポイント

2025.04.20

鼠径ヘルニアのメッシュがずれる原因とずれないための対策について解説

2025.04.10

鼠径ヘルニア(脱腸)とは?症状や種類について解説

2025.03.10

大阪在住の方が鼠径ヘルニア(脱腸)手術を西宮敬愛会病院COKUで受けるポイント

2025.02.28

鼠径ヘルニア(脱腸)は何科を受診すればよい?受診のタイミングも解説

2025.02.20

鼠径ヘルニアは予防可能?予防方法と発症時に注意すべきこと

2025.02.10

鼠径ヘルニアと便秘は関係ある?便秘の対処方法も紹介

2025.02.01

鼠径ヘルニアは遺伝する?遺伝の確率と発症の要因、予防方法について

お探しの情報は見つかりましたか