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ピロリ菌と萎縮性胃炎について

・ピロリ菌について

ヘリコバクターピロリ

 正式名称はヘリコバクター・ピロリと呼びます。
 ヒトの胃内に寄生する菌です。
 幼い頃に主に家庭内感染で口から摂取されることで感染が成立します。大人になってからは感染しにくいといわれています。
 上下水道などのインフラが整っていなかった時代に幼少期を過ごした方々に感染している方が多くいらっしゃいます。
 ピロリ菌が引き起こす病気は多数ありますが、やはり「胃癌」「胃・十二指腸潰瘍」が代表です。
 最近の研究で、ピロリ菌が陽性の方は、85歳までに男性では17.0%、女性では7.7%が胃癌にかかると推定されています1)。
 ピロリ菌の陽性率は1950年以前に生まれた方は40%以上で、1970年代で20%、1980年代で12% 2)と、年代が下がるにつれ低下しますが、生涯の胃癌のリスクを考えると無視できない数字です。
 胃・十二指腸潰瘍については、ピロリ菌だけが原因ではありませんが、ピロリ菌が陽性である方の場合は、除菌治療をすると再発率が胃潰瘍で65%→11%、十二指腸潰瘍で85%→6%へ著明に低下3)します。胃・十二指腸潰瘍治療において、ピロリ除菌は必須といえます。
 胃癌は早期であれば根治可能です。
 40歳以上の方で、今までに一度も内視鏡検査を受けたことがない方は、胃癌の有無を含め一度検査をお受けになることを強くお勧めいたします。

ピロリ菌の除菌の薬

・ピロリ菌の除菌の方法

 ピロリ菌は細菌ですので、抗生物質を用いて除菌することができます。
 除菌の方法は、
・胃酸を抑える薬1種類 (ボノプラザン)
・抗菌薬2種類(クラリスロマイシン+アモキシシリンか、メトロニダゾール+アモキシシリン)
の合計3種類の組み合わせを、1日2回朝夕、7日間服用します。

当院では便利なパック製剤であるボノサップ、ボノピオンを使用します。ボノサップはボノプラザン+クラリスロマイシン+アモキシシリン、ボノピオンはボノプラザン+メトロニダゾール+アモキシシリンです。
 主な副作用は下痢です。ほとんどは、腸内細菌が殺菌されることによる浸透圧性の下痢(抗菌薬関連下痢症で最も多い)で、水分を多めにとって対応します。しかし、7-8回/日に及ぶようなひどい下痢の場合はクロストリジウム・ディフィシルによる特殊な腸炎の可能性もあるためご相談ください。
 
 あとは薬剤性の肝機能障害(薬が体にあわず肝臓の細胞が一部損傷を受けること)、味覚障害などです。
 最も気を付けるべき副作用はアレルギーで、皮膚に蕁麻疹などのできものが広がったケースではすぐに服用を中止し受診していただきます。
 ピロリ菌を除菌した後も胃癌が発生することがあるため、定期的に胃カメラを受けることをおすすめいたします。

・萎縮性胃炎について

 胃のバリウム検査や健診内視鏡などをお受けになった方で、結果報告書に「萎縮性胃炎」と書かれていることがあると思います。
 同様の意味で「慢性胃炎」と書かれていることがあるかもしれませんが、多くの場合は萎縮性胃炎を指しています。
 萎縮性胃炎というと、多くの場合はピロリ菌感染が原因となっています。ピロリ菌が感染すると、胃の粘膜に炎症がおきます。
 粘膜に炎症が起きるというと、概念的でわかりにくいかもしれませんね。
 目に見える「炎症」を例に挙げますと、擦り傷ができたあとに傷口やその周りが少し腫れると思いますが、そういう状態を炎症を起こしていると表現することになっています。
 侵入したばい菌やついた汚れ、傷ついた組織を処理する白血球という細胞が、いろんな物質を出すので、傷口が腫れたり熱を持ったりします。
 胃粘膜に話を戻しますと、ピロリ菌がいる限り、24時間365日、そういう「炎症」が続きます。
 炎症が続くことで粘膜の細胞の一部が脱落し、粘膜が薄くなります。粘膜が薄くなることを「萎縮」と呼び、萎縮性胃炎という名前になりました。ピロリ菌が炎症を起こし続けることで、最終的に、腸のような組織に入れ替わっていきます(腸上皮化生)。
 胃粘膜に限らず慢性炎症が起きている場所、あるいは起きていた場所は、細胞の破壊と再生を繰り返す(繰り返していた)ことにより、癌の発生母地になります。
 ピロリ菌による慢性炎症の場合、DNAのメチル化異常を引き起こすことも発がんの原因とされ、除菌によってメチル化異常は徐々に改善することが分かっています。
 ピロリ菌の除菌後の胃癌は、場合によっては除菌後10年以上を経てから発生することがあります。定期的な内視鏡経過観察期間は諸説ありますが、より早期に胃癌を指摘するため、当院では年に1回の胃カメラによる検査をおすすめします。
 何歳までしたらよいかについては、明確な基準はなく、ご本人のお体の状態と人生観によって、ご相談しながら決めているのが実情と思います。
 近年は早期癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌)であれば内視鏡治療を提案できます。その点も考慮に入れつつ、一人一人の患者様と一緒に方針決定ができればと考えています。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器内科部長 嶋吉 章紀

1) Kawai S, Wang C, Lin Y, Sasakabe T, Okuda M, Kikuchi S. Lifetime incidence risk for gastric cancer in the Helicobacter pylori-infected and uninfected population in Japan: A Monte Carlo simulation study. Int J Cancer. 2022 Jan 1;150(1):18-27.
2) Ueda J, Gosho M, Inui Y, Matsuda T, Sakakibara M, Mabe K, Nakajima S, Shimoyama T, Yasuda M, Kawai T, Murakami K, Kamada T, Mizuno M, Kikuchi S, Lin Y, Kato M. Prevalence of Helicobacter pylori infection by birth year and geographic area in Japan. Helicobacter. 2014 Apr;19(2):105-10.
3) Asaka M, Kato M, Sugiyama T, Satoh K, Kuwayama H, Fukuda Y, Fujioka T, Takemoto T, Kimura K, Shimoyama T, Shimizu K, Kobayashi S; Japan Helicobacter pylori Eradication Study Group. Follow-up survey of a large-scale multicenter, double-blind study of triple therapy with lansoprazole, amoxicillin, and clarithromycin for eradication of Helicobacter pylori in Japanese peptic ulcer patients. J Gastroenterol. 2003;38(4):339-47.

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