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鼠径ヘルニア検査:腹臥位CTについて ~足の付け根の違和感は本当に鼠径ヘルニア?~

足の付け根に違和感があるけれど、これは本当に鼠径ヘルニア?脱腸?そのような場合に行う検査について当院の方針をご説明します。

鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(第2版)が2024年5月に発刊されました。第1版の発刊は2015年でしたので、9年ぶりの刷新となります。

新しくなったガイドラインの内容を紐解きながら、今回は術前の検査について考えてみたいと思います。

鼠径ヘルニア診療ガイドライン2024

ガイドラインには、

CQ3-1 鼠径部ヘルニアの診断に画像検査は推奨されるか?

Answer:還納可能な鼠径部の膨隆を認める鼠径部ヘルニアの診断にルーチンの画像検査は推奨されない。膨隆がはっきりしない鼠径部ヘルニアの診断には、立位やバルサルバ手技を伴う超音波検査を第一選択とすることが望ましい

エビデンスの確実性:低(効果の推定値が推奨を支持する適切さに対する確信は限定的である)

とあります。

鼠径ヘルニア(脱腸)の特徴は、「足の付け根(太ももの付け根)が立つとぽっこりと膨らみ、寝ると戻る」ことです。そのため、私たちは鼠径部ヘルニアの診察時には必ず立位で膨らみを確認し、膨らみが押して戻るのか、寝て戻るのかを確認します。膨らみがはっきりしない時は、お腹に力を入れてもらうこともあります。膨らみがはっきりすれば鼠径部ヘルニアと診断がつきます。臨床所見の確認による診断率は、70-90%とされています。

しかし、下腹部の脂肪の分厚い方や初期の小さなヘルニアの方は診察時に確実に膨らみをとらえることが難しい場合があります。「立ち仕事をしていると夕方くらいに痛みが強くなってくる。その時は少し膨らんでいると思う。今は全然出ていません。」という方の場合、診断は慎重になります。

鼠径ヘルニアの診断は重要です。治療は手術になるため、確定診断がされていないままの手術は許されません。

当院では鼠径部を除圧した腹臥位でCTを撮影して診断を進めていきます。

鼠径ヘルニアとCTに関しては、本邦から次のような論文が報告されています。

914名の方を対象に研究を行った、「Prone “computed tomography hernia study” for the diagnosis of inguinal hernia」(Natsuko Kamei, et al. Surg Today 49: 936-941, 2019)では、腹臥位での非造影下腹部CTを術前に行った結果について述べられています。結果として診断率は98.3%の精度を示しています。

当院では80列の高精度のCTを用いています。臨床所見で鼠径部ヘルニアではないとわかっても他の病態を鑑別する必要があります。その際に高精度のCTはとても役に立ちます。足の付け根や陰嚢の膨らみとして、鼠径ヘルニアではない場合、リンパ節腫大、大伏在静脈瘤や大伏在静脈血栓、精索静脈瘤、脂肪腫、陰嚢水腫はよく診断されます。リンパ節腫大が累々としている方は、総合病院で精査を依頼したところ悪性リンパ腫であったこともあります。また、痩せている方では、下腹部の膨隆は便秘で硬くなった便を腹壁から触れているとか、子宮筋腫の圧迫といったこともあります。画像的明らかな所見がない場合、関節痛や筋肉痛といった時間経過でよくなる病態のこともよくあります。

鼠経ヘルニアの腹臥位CT検査

本当に初期の鼠径ヘルニアで臨床的にもCT検査でもはっきりしない方は数か月間の経過観察後に再度の診察をおすすめしています。

鼠径部の違和感や痛みだけで、膨隆がはっきりしないのにすぐに手術を勧められた場合にはぜひ慎重に判断された方がよいと思います。嵌頓の話があるとは思いますが、そのような小さな鼠径ヘルニアの場合は、腸がはまってしまう嵌頓のリスクは極めて低いため経過観察は妥当と考えます。鼠径ヘルニアではない方を手術することだけは避けなければなりません。あと余談ですが、左右両側にはっきりと膨らみがあるのに予定で片方ずつの手術を勧められた場合は、両側同時に治療ができることもありますので病院の選択をよくお考え下さい。

鼠径ヘルニアの手術のタイミング

精度の高いCTでは下腹壁動静脈がはっきりと同定できます。外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニアといったヘルニアのタイプ分類も可能です。当院ではヘルニアのタイプによって適した術式を選んでいます。内鼠径ヘルニアであればTEP法がとても有用です。結腸が引きずり出されるような大きな外鼠径ヘルニアであれば腹腔内から状況を確認できるTAPP法が安全です。そのため、当院では基本的には術前診断として腹臥位のCTをおすすめさせていただいております。

また、当院では放射線科医によるCT画像の読影を行っています。鼠径部の診断はわれわれ外科医が読影に慣れていますが、肝臓や胆のう、腎臓など鼠径部以外の撮影範囲を放射線科医によって幅広く確認いたします。例えばCTで前立腺肥大が指摘され未治療の場合には、お近くの泌尿器科に紹介させていただくことも可能です。実際に今までにも術前のCTや胸部のレントゲン撮影、採血検査で肺癌や心不全、白血病などの隠れていた疾患を診断し専門病院にご紹介しております。

術前の検査に関してご質問があればお答えさせていただきますので、診察の際にぜひおたずねください。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学

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