西宮敬愛会病院消化器外科部長の三賀森学です。当院では主に鼠径ヘルニア(脱腸)手術や腹腔鏡下胆のう摘出術などの手術を全身麻酔で行っています。今回は当院での手術体制についてご紹介いたします。
当院での手術は以下のメンバーで行います。
・外科医 2名
・麻酔科医 1名
・器械出し看護師 1名
・外回り看護師 1~2名
外科医2名は、私と大塚医師です。すべての手術に両者が入り、術者と助手を務めます。鼠径ヘルニアの手術は両者とも十分な経験を積んでおり、どちらも術者を行っています。腹腔鏡下胆のう摘出術は、肝胆膵外科高度技能専門医である私が担当します。
総合病院では、多くの場合レジデントとスタッフの2名体制になります。スタッフの指導のもと若手の先生が執刀することもあります。クリニックでの手術では、外科医1名で行うところもあると聞いています。
今までに癌の手術や緊急手術なども含めて様々な経験をしてきましたが、やはり手術というのは、毎回全く同じようにはいきません。鼠径ヘルニア手術や胆のう手術でも解剖学的な個人差があったり、癒着が強かったりして困難な症例を経験することもあります。
そのため、外科医同士が解剖や手順を確認しながら手術をすすめていくことは安全のためにとても大切です。私も大塚医師も外科学会および消化器外科学会の専門医・指導医を取得しており、さらにそれぞれ肝胆膵外科高度技能専門医・ヘルニア学会評議員や内視鏡外科技術認定医・大腸肛門病学会専門医・指導医などの資格を有しています。それらの経験と研究会や学会での新しい知識をお互いに交換し合いながら手術をすすめています。鼠径ヘルニア手術では、メッシュの選定や剥離範囲などもその都度話し合いながら行っています。
「通常のリスクの少ない手術は確実に、困難な症例はいかに安全に行うか」を常に意識して手術を行っています。
全身麻酔はよく飛行機のフライトに例えられます。麻酔の導入、術中の維持、麻酔の覚醒がそれぞれ離陸、飛行、着陸となります。麻酔の導入時や覚醒時には血圧などの循環動態が変動することがあり、適切な薬剤の投与が求められます。
当院では、全身麻酔は必ず麻酔科専門医の資格を持った麻酔科医師が行います。日帰り手術や短期滞在手術を行うにあたっては、術中の鎮静剤や鎮痛剤の量にも十分に気を使う必要があります。また、術後の嘔気・嘔吐(PONV)を予防するために、過去に麻酔で吐き気が強かった方や若年の女性などでは全静脈麻酔(TIVA)で麻酔管理を選択してもらっています。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術では外科医は患者さんの頭側に立ち足側を向いて手術を行います(手術鉗子を持つ手が顔に近くなります)。そのため、人工呼吸の気道確保にも常に気を使ってもらっています。このように全身管理を麻酔科医師が担当することで、外科医は集中して手術を行うことができます。
全身麻酔も手術と同じで多くの場合は何事もなく安全に行われます。しかし、少ない頻度ではありますが、不整脈やアレルギーなど様々なことが起こります。その際には経験のある麻酔科医による対応が不可欠となります。当院では様々な病態に対応できるように多くの薬剤も麻酔科医師と話し合い、使用できるように準備しています。
手術室看護師は、手術を直接サポートする器械出し看護師と、術野の外で手術の物品の準備や麻酔科医のサポートを行う外回り看護師にわかれます。看護師業務は、手術室だけでなく、外来やリカバリー室、機械の洗浄を行う中央材料室など多岐にわたるためシフトを組んで交代で担当していきます。
当院の看護師はさまざまな病院や部署での経験があります。それらの経験や知識をもとに、当院での診察や治療にあったシステムを作り上げています。手術室では術前のタイムアウト(手術に関わる医師、看護師のメンバーが一斉に手を止めて、患者情報および手術部位を確認すること)、ガーゼや針のカウントなどを行っており、漏れのないように安全第一のシステムを構築しています。看護師皆で日々意見交換を行いながら、よりよい看護を提供できるように努めています。
このように西宮敬愛会病院低侵襲治療部門COKUでは各職種が、一丸となって手術を行っています。安心して治療を受けていただけるようにスタッフ一同心がけていきます。
文責 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器外科部長 三賀森 学