検診などで胃カメラをお受けになった方は、時々「バレット食道」という診断名が書かれているのを目にするかもしれません。
これは簡潔に表すと、食道と胃の境目の食道側が胃粘膜と同じタイプの組織に置き換わった状態を言います。
このバレット食道について少し詳しく説明します。
食道も胃も、中を食べ物が通過する点は共通ですが、食道の役割は食べ物を通過させることであり、胃の役割は胃酸や消化酵素を分泌して食べ物を消化することです。食道と胃では役割が異なります。
そのため、食べ物と接する面(いわゆる粘膜)を構成する組織の種類が違ってきます。
食道の粘膜は「扁平上皮」という細胞が折り重なったような上皮で、胃の粘膜は「円柱上皮」といって胃酸や消化酵素などが分泌できるようになっています。
食道が胃酸や胆汁(肝臓から胆管を通して十二指腸に分泌される)にさらされると、円柱上皮に置き換わる場合があり、これをバレット食道といいます。こういう置き換わりを、組織学的には「化生」といいます。
逆流症状がある方のうちバレット食道を呈するのは7.2%と言われておりますので、胸やけがある方皆さんがなるわけではありません1)。
食道胃接合部からの最大長が1cm以下…Ultra-Short Segment Barrett’s Esophagus (USSBE)
食道胃接合部からの最大長が1cm~3cm…Short Segment Barrett’s Esophagus (SSBE)
食道胃接合部からの最大長が3cm以上…Long Segment Barrett’s Esophagus (LSBE)
上記のように分類します。
最大長が、という注釈がありますが、バレット食道は全周性にきれいに横並びの進展をするわけではなく、一部は2cmあるが、別の部位は1cm、というような広がり方をします。どこの長さを重視するのかで、定義の仕方が異なってきます。
もともと日本の規約では全周性に3cm以上のバレット食道を認める場合がLSBEでした。
すなわち、一番短い場所でも3cmはあるということですが、逆に言うと一番長いところは5cmというのもあり得るわけです。
この定義は国際的には一般的でないため、食道癌取扱い規約第12版から、分類の仕方が上記のように変更になっています。
逆流性食道炎による症状がある方のうちLSBEの頻度は1%以下程度と言われており2)、バレット食道の中でも珍しいと言えます。
バレット食道の問題点は、バレット食道癌の発症です。
発癌率については、病変が短いSSBEについては不明、病変が長いLSBEについては年率1.2%程度とされています2)。
確率は低くみえますが、無視できない数字です。早期癌のうちに見つけるためにはLSBEについては定期的な胃カメラが奨励されます。
日本のガイドラインでは何年に1回やったらよいという記載はありません。
個人的には、LSBEについては、年に1回程度の内視鏡検査をお勧めします。
バレット食道癌の早期のものは内視鏡上もわかりにくく、慎重に観察するべきであると考えるためです。
SSBEについては、LSBEに近い長さの方は別として、2-3年に1回程度でよいと思います。
今後の具体的なガイドラインが待たれます。
American College of Gastroenterology発行の2022年のガイドライン3)上、異型のない(細胞の顔つきの変化がない)場合、SSBEについては5年に1回、LSBEについては3年に1回のサーベイランスが推奨されています。
ただ、バレット食道の診断の仕方や、サーベイランスに生検を重視すること、医療費など、日本の環境とは違うため、そのまま当てはめて考えるべきではないと思います。
1) Eusebi LH, Cirota GG, Zagari RM, et al : Global prevalence of Barrett’s oesophagus and oesophageal cancer in individuals with gastro-oesophageal reflux: a systematic review and meta-analysis Gut. 2021 Mar;70(3):456-463.
2) 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第三版)
3) Shaheen NJ, Falk GW, lyer PG et al : Diagnosis and Management of Barrett’s Esophagus: An Updated ACG Guideline Am J Gastroenterol. 2022 Apr 1;117(4):559-587.
文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器内科部長 嶋吉 章紀