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便秘症とその治療薬について

便秘症はありふれた疾患ですが、人知れず悩んでおられる方もおられます。
かかりつけ医に相談できている方もいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃると思います。
今回のテーマは、便秘症に対する考え方と、近年種類が増えた慢性便秘症治療薬についての解説です。
2024年9月時点で最新の便通異常症診療ガイドライン20231)に準拠したお話となります。

慢性便秘症の定義

一言に「便秘」と言っても、患者様にとってその定義は様々です。
1日排便がない場合に「便秘」とおっしゃる方もいれば、3-4日排便がなくても普通で特に便秘と思っていない方もいらっしゃいます。
2023年のガイドライン上の便秘の定義は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な努責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されます。
長くて読みにくいですが、重要なのは排便回数による定義ではないということです。
1-2日に1回出ていたとしても毎日硬くて排便が辛い方も便秘に入ります。
「2日に1回出てるならそれは便秘じゃないから大丈夫!」と、便秘の相談にきちんと取り合わないケースを耳にしますがそれではいけないということです。
慢性便秘症の定義は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも様々な支障をきたしうる病態」とされています。
便秘は腹部膨満だけでなく腹痛や食欲不振を来したり、ひどいケースでは糞便性イレウス直腸潰瘍による大量血便を起こします。虚血性腸炎のリスクにもなります。
最重症のケースでは大腸に穴が開いてしまい命に係わるケースがあります。

慢性便秘症の注意点

大腸癌が隠れている可能性

慢性便秘症自体は大腸癌のリスクにはなりません2)
しかし、大腸癌の症状の中に便秘があり、以前はなかった便秘が出現したり、もともとある便秘がひどくなった場合は、大腸カメラで大腸癌の可能性を除外することが望まれます。
便秘と合わせて、「排便習慣の急激な変化」「血便」「6か月で3kg以上の予期せぬ体重減少」「発熱」「関節痛」「異常な身体所見(腹部腫瘤触知、腹部の波動、直腸指診による腫瘤触知や血液の付着など)」があることを警告症状・徴候と呼び、大腸癌や炎症性腸疾患を鑑別する必要があります。

別の病気や服用中の薬による便秘の可能性

便秘の陰に違う病気が隠れている可能性や、薬剤性の便秘の可能性は常に考える必要があります。
便秘の原因となりうる病気の例としてはパーキンソン病などの神経疾患や糖尿病、甲状腺機能低下症低カリウム血症高カルシウム血症強皮症アミロイドーシスなど多岐にわたります。
もちろん便秘で来られた方皆さんにこれらを除外するためにすべての検査をするのは日常診療では一般的ではありません。
付随する症状で疑うものがあれば採血など他の検査を追加するべきだと考えます。

便秘に関連する薬剤としては麻薬性の薬剤(オピオイドと総称します。トラマール®やトラムセット®なども含む)が代表的です。
オピオイド誘発性便秘症として区別されますが、治療薬の選択は効果と薬価を鑑みて通常の便秘症の治療薬か、それに1対1で対応するスインプロイク®(ナルデメジントシル酸塩)で対応します。
その他の薬剤ですが、よく使われるお薬の中では、カルシウム拮抗薬(降圧薬)、向精神薬(抗精神病薬抗うつ薬)や抗パーキンソン病薬利尿薬カリウム吸着薬リン吸着薬(リンやカリウムの吸収を阻害する薬)、一部の抗癌剤(植物アルカロイドタキサン系アルキル化薬)などがあります。
※服用されているお薬とご自身の便秘症の間に因果関係があるかについては、まずは処方医と相談下さい。

生活習慣の改善を図るとともに、服薬量は自己調節を併用する必要がある

ガイドライン上、まず初めに食物繊維の摂取量を上げることや、運動量を上げることなどの生活習慣改善が推奨されています。
ただ、医師のところに来る前にこれらの取り組みはなさっていることが多いのが実情かと思います。
そのため、薬物療法へ早期に移ることがほとんどではあるのですが、我々医療従事者は患者様と一緒に生活しているわけではないため、細かい日常の便通の変化には、どうしても自己調整で対応する必要が出てきます。
下剤が効きすぎたり、他の要因があって下痢気味になってきた場合、黙々と同じ量の下剤を服用し続けると、脱水になってしまいます。
また、初めの処方が量が足りなかった場合に備えて、刺激性下剤を併用頂くこともあります。
処方薬は医師からもらう武器だと思って、ご自身で積極的に使い方を理解するほうが、慢性便秘症治療はうまくいくことが多いです。
(使い方が煩雑だと事故のもとですので、あまり難しい使い方の説明は致しませんのでご安心ください)

慢性便秘症の薬剤

実際に使用されるお薬について、以下に解説してゆきます。
便秘症に対する保険適応があるものを主に解説します。

①浸透圧性下剤

酸化マグネシウム(マグミット®)

浸透圧性下剤に分類されます。古くから使用されているお薬で、安価で使いやすいお薬です。
ほとんどの方について、効きすぎて下痢になる以外に目立った副作用はありません。
最大の注意点は、マグネシウムが体にたまってしまい最悪命に係わる「高マグネシウム血症」です。
厚生労働省より何度か注意喚起がなされており、長期投与に加え、ご高齢の方へ投与する場合には定期的な血清マグネシウム濃度測定が推奨されています。

ラクツロース(モニラック®、ラグノス®)

人間が消化吸収できない糖類による下剤で、浸透圧性の下剤に分類されます。
腸内細菌によって分解され、有機酸を生成することでマイルドな蠕動亢進作用を有します。
禁忌も少なく、甘くて飲みやすく、持ち運びもしやすく安全性も高くて使いやすいお薬です。

PEG製剤(モビコール®)

ポリエチレングリコール(PEG)により便の浸透圧を高めて、水分を閉じ込めます。
大腸内視鏡前の下剤を少しだけ飲むというイメージです。
便中の水分量増加に高い効果があり、安全性も高いです。
水に溶かして飲むため、飲み方がやや煩雑な点は難点です。

②刺激性下剤

大腸を刺激して運動を促す物質です。
いわゆるセンノシド、ピコスルファートナトリウム、ビサコジルなどです。

(プルゼニド®、ラキソベロン®、市販のコーラック®)
服用後翌日などに効果が表れやすいため使用感がよく、医薬品としてはもちろん、市販品にも多く含まれます。
重大な副作用は長期連用により効果が薄れること(耐性)と、弛緩性便秘症です。
弛緩性便秘は超重症便秘と言い換えてよく、多量の刺激性下剤やその他新規下剤を併用しても排便コントロール不良となります。消化器外科へ大腸亜全摘を依頼することもあります。
また、長期連用が大腸腫瘍のリスクになる可能性を指摘されたことがあります3)が、あまりエビデンスレベルの高い報告はありません。
現時点で長期連用が大腸腫瘍のリスクにならないという結論に至っていないことも注意が必要です。
そのため、弛緩性便秘に至る可能性も含め、緩和ケア領域やそれに準ずる状態以外では、長期連用は避けて頂くようにいつも説明しています。
この点はガイドラインにも記載があります。
短期的な服用は問題ありません。
使用感がよいですし、せっかく開始した便秘治療からドロップアウトしてしまわないように、他の薬剤をベースとしつつ刺激性下剤を週1-2回のレスキューにとどめて処方することは私自身もよくあります。

③漢方 (≒刺激性下剤)

便秘治療に使用される漢方やハーブには、ダイオウやセンナが含まれているものが多く見受けられます。
(大黄甘草湯、麻子仁丸、桃核承気湯、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯、防風通聖散など。含まれる成分については調剤してもらった薬局に問い合わせましょう)
これらの成分はセンノシド(=センノサイド)で、刺激性下剤の成分と同一です。
刺激性下剤とは別のカテゴリーにはしていますが、同じものです。
確かに効果はあり、製造販売を否定するものではありませんが、耐性発現や弛緩性便秘を防ぐために長期連用を控える旨の注意書きをし、または指導があるべきです。
便が出にくいときに週に1-2回程度服用するのは問題ないでしょう。

④上皮機能変容薬

リナクロチド(リンゼス®)、ルビプロストン(アミティーザ®)がこれにあたります。
小腸粘膜から水を染み出させるお薬と考えてください。
便の水分量を増やす戦略という意味で酸化マグネシウムと似ていますが、効果は数倍と考えてください。

リナクロチド(リンゼス®)

湿気に弱く防湿のシートに入った錠剤です。そのため一包化(複数の薬剤を一つの袋にまとめること)はできません。
原則として食前服用ですが、効果が不良の場合には食後に服用頂くことがあります。食後のほうが効果が高まるためです。
自己調節の幅が大きいため、その点は重症の方に使いやすいお薬です。
腹痛軽減作用もあると言われています。

ルビプロストン(アミティーザ®)

カプセル製剤です。食後のお薬になります。
注意するべき副作用は食欲不振・嘔気です。
嘔気の原因として見逃されがちなため、服用開始後はこれらの症状が起きないか注意する必要があります。(中止すると改善します)

⑤胆汁酸トランスポーター阻害剤

2024年8月現在で利用可能な薬剤はエロビキシバット(グーフィス®)という薬剤名です。
小腸の中には肝臓から分泌された胆汁酸が流れ込みますが、これらは小腸の後半部分で再吸収されています。
胆汁酸には大腸を刺激して蠕動を促すとともに水分分泌を促す作用がありますが、小腸での再吸収がされないようにすることで、大腸に胆汁酸が流入するのを増加させる作用があります。
特徴的な副作用として、腸が動くことによる腹痛が起こる場合がありますが、2~数週間程度で収まります。

⑥膨張性下剤

カルメロースナトリウム(バルコーゼR®)は水分と同時に服用することで消化管内で膨張し、便のかさ上げをすることで蠕動を促す薬剤です。
排便量が少なく、便の貯留も多くない場合は食物繊維の摂取を第一選択とするほうがよいです。
十分量の水分といっしょに服用します。

⑦コリンエステラーゼ阻害薬

ネオスチグミン臭化物(ワゴスチグミン®)は腸管を動かす神経である副交感神経を刺激するお薬です。
弛緩性便秘症に適応があります。
全身の副交感神経を刺激することによる副作用が起こり得るため、他の薬剤の効果が薄い場合に試してみることが多いです。

⑧外用剤(坐剤、浣腸)

炭酸水素ナトリウム坐剤(新レシカルボン坐剤®)やビサコジル坐剤(テレミンソフト®)、グリセリン浣腸があり、いずれも直接直腸を指摘して排便を促す作用があります。
直腸まで便が運ばれていれば効果がありますが、便の運搬がよくない方は他の経口的な薬剤で調整する必要があります。

⑨便秘症に対する保険適応はないが、効果がある可能性がある薬剤

消化管運動機能改善薬

選択的セロトニン5-HT4受容体作動薬であるモサプリド(ガスモチン®)は、腸管のセロトニン受容体に作用し、蠕動を亢進させます。ドパミンD2受容体拮抗薬であるイトプリド(ガナトン®)は、腸管の神経に作用するアセチルコリンの量を増やし、分解を妨げることで効果を発揮します。

プロバイオティクス

いわゆる乳酸菌や酪酸菌などの製剤です。ビオフェルミン®やビオスリー®やミヤBM®などが該当します。有機酸の生成により腸の蠕動を刺激する作用が期待されます。

パントテン酸(パントール®)

術後の腸管麻痺に使用されるビタミンの一種で、腸の蠕動を促します。

ベタネコール(ベサコリン®)

前述のワゴスチグミンと同じような作用があります。術後腸管麻痺などに使用されます。
喘息、胃潰瘍など多数の禁忌疾患があり、使用に注意が必要な薬です。

かつては便秘症の治療は刺激性下剤(漢方含む)とマグネシウムくらいでしたが、近年はよい薬剤が多数出てきています。
西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 COKUでは、消化器内科一般の診療も行っており、慢性便秘症に対する服薬調整も行っています。
便秘症が気になる方はぜひ当院でご相談ください。

文責/医療監修 西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門 消化器内科部長 嶋吉 章紀

1)日本消化管学会(編) 便通異常症診療ガイドライン 2023. 南江堂, 東京, 2023
2) Ann Epidemiol 2006 Dec;16(12):888-94.
3)van Gorkom BA, et al : Review article: anthranoid laxatives and their potential carcinogenic effects. Aliment Pharmacol Ther 13: 443―452, 1999.

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