「足のつけ根のふくらみは、もしかしたら鼠径(そけい)ヘルニア?」と心当たりがあっても、痛みなど他の症状がないからとそのままにしていないでしょうか?
鼠径ヘルニアについてよくわからないから、年のせいだから、と違和感を放置していると、重症化する恐れもあるため注意が必要です。
この記事では鼠径ヘルニアが発症しやすい年齢だけでなく、種類や原因、治療法なども詳しく解説します。外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニアの違いについて知りたい方も、ぜひ参考にしてください。
ヘルニアとは、お腹の中の腸や脂肪が、本来の位置から外に飛び出してしまう状態で、いわゆる「脱腸」とも呼ばれています。なかでも下腹部の足のつけ根に起こるものが「鼠径(そけい)ヘルニア」です。全年齢で起こりえますが、年齢や性別によって発症しやすさや種類に違いがあります。ここでは、発症しやすい年齢や男女差について解説します。
鼠径ヘルニアは、乳児期と中高年以降に発症しやすい病気です。乳児では、生まれる前に形成される腹膜の通り道が出生後も閉じずに残ってしまうという先天的な原因で、腸などの臓器がそこから飛び出してしまいます。鼠径ヘルニアは小児の外科手術で最も多い病気のひとつです。
一方、成人では、加齢によって下腹部の筋肉や筋膜と呼ばれる組織のゆるみ、咳や便秘などでお腹に強い力がかかるなどの要因が重なると、鼠径部にすき間ができて発症しやすくなります。
厚生労働省の統計によると、鼠径ヘルニアの手術を受けた人の約9割が15歳以上で、特に65〜84歳の中高年層に多く見られます。乳児期にも比較的多い病気ではありますが、統計的には中高年に最も多く、年齢を重ねるほど注意が必要です。
下腹部や足の付け根に違和感がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
鼠径ヘルニアは特に中高年の男性に多く、厚生労働省の統計によると手術を受けた人の約85%が男性、15%が女性です。男女で発症のしやすさに違いがあるだけでなく、かかりやすいヘルニアの種類にも差があります。
男性で多く見られるタイプは、下腹部のあたりから腸が出る「外鼠径(がいそけい)ヘルニア」や「内鼠径(ないそけい)ヘルニア」です。一方、女性ではこれらに加えて、年齢とともに「大腿(だいたい)ヘルニア」と呼ばれる太もものつけ根の深い部分に起こるタイプが増える傾向があります。
また、20-40代の若い女性では、子供の頃のヘルニアが再発するケースが多くあります。また鼠径ヘルニアの類似疾患として扱われますNuck管水腫では、子宮内膜症が合併すると、月経周期に合わせて大きさの変化するしこりを触れることもあります。さらに、飛び出た腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」のリスクが高い大腿ヘルニアは、やせ型で出産経験の多い女性に多いといわれているのです。
このように、性別や年齢によって注意すべき点が異なるため、下腹部や足のつけ根がふくらんでいるなどの症状に気づいた場合は、早めに医療機関へ相談することが大切です。
鼠径ヘルニアはどの部分に発症するかによって、3種類に分類されています。主な鼠径ヘルニアの種類は以下のとおりです。
これらは、性別や年齢によって発症しやすさが異なるのが特徴です。ここでは鼠径ヘルニアの中でもよくみられる「外鼠径ヘルニア」と「内鼠径ヘルニア」の違いについて詳しく見ていきましょう。
外鼠径ヘルニアは、鼠径ヘルニアのなかでも特に若年層に多く見られ、その多くは先天的な原因によって起こるとされています。腸などが飛び出すことによって、下腹部の足の付け根あたりにふくらみや違和感が現れます。
主な原因は生まれる前にできたお腹の通り道が、出生後も閉じずに残ってしまうことです。男児の場合、胎児期に精巣が陰嚢(いんのう)へ降りる際、お腹の膜が一緒に引き伸ばされ「腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)」という管状の構造ができます。通常は出生前に閉じますが、閉じずに残ると、腹圧がかかったときに腸などが入り込み、鼠径ヘルニアが起こるのです。
女児でも同じように、お腹の膜が大陰唇まで伸びた「ヌック管(ヌックかん)」という通り道が閉じないまま残ることで、ヘルニアが発生することがあります。
若年層に起こる鼠径ヘルニアの多くは、このように先天的な体の構造に起因しています。
一方、大人になってから発症する場合は、スポーツや重い物を持ち上げる力仕事など、お腹に強い力がかかる生活習慣が引き金になるため、注意が必要です。
鼠径ヘルニアは中高年に多い病気と思われがちですが、このように乳児や若い世代でもみられることがあります。
内鼠径ヘルニアは、年齢を重ねた中高年に多く見られるタイプの鼠径ヘルニアです。加齢によりお腹の筋肉や組織のゆるみによって足のつけ根(鼠径部)にすき間ができることが主な原因です。すき間から腸の一部が押し出され、外鼠径ヘルニアと同様にふくらみや違和感などの症状が現れます。
外鼠径ヘルニアが主に生まれつきの構造によって起こるのに対し、内鼠径ヘルニアは主に加齢や生活習慣が引き金となる、後天的な鼠径ヘルニアといえるでしょう。
外鼠径ヘルニアは、鼠径ヘルニアの中でも最も多く見られるタイプです。特に男性や若年層に多い傾向があります。ここでは、外鼠径ヘルニアにはどのような症状が現れるのか、また発症しやすい人の特徴について詳しく解説します。
外鼠径ヘルニアの主な症状は下腹部の足のつけ根付近にできる、やわらかいふくらみです。このふくらみは、立っているときやお腹に力を入れたときに目立ち、横になると小さくなる、あるいは消えることがあります。
初期はあまり目立たず、指でふくらみを押すと引っ込むこともありますが、進行するとふくらみが大きくなり、重さや張りを感じるようになります。
ふくらみが硬くなってきた、押しても戻らない、痛みをともなうといった場合は、緊急性の高い状態に移行している可能性もあるため、早めに医療機関を受診しましょう。
男性は解剖学的な構造上、女性よりも外鼠径ヘルニアが起こりやすいといわれています。乳児に見られる生まれつきの外鼠径ヘルニアも男性に多く見られます。
他に、以下のような職業や生活習慣がある方はお腹に強い圧力がかかりやすいため、発症リスクが高まります。
ただし、外鼠径ヘルニアは男性に多いものの、女性でも筋肉の弱さや妊娠・出産の影響により発症することがあるため、性別にかかわらず注意が必要です。
内鼠径ヘルニアは、鼠径部のやや内側にあるすき間から腸などが押し出されて起こるタイプのヘルニアです。加齢や筋力の低下などが関係しており、中高年以降に多くみられるのが特徴です。ここでは具体的な症状と、発症しやすい人の傾向について解説します。
内鼠径ヘルニアでは下腹部の足の付け根、内側寄りにふくらみや違和感が現れることが多く、外鼠径ヘルニアと似た症状が見られます。ふくらみは、立っているときや咳・くしゃみなどお腹に力が入ったときに目立ち、横になると小さくなる、または消えることもあります。
初期は自覚症状がほとんどありません。ただし、気づかないうちに進行し、中高年の方では筋力の低下や腹圧の上昇などが重なることで、ある日突然ふくらみが戻らなくなることもあります。違和感が続く、張りや重さを感じるといった症状がある場合は、放置せずに早めに医療機関を受診しましょう。
内鼠径ヘルニアは特に中高年に多くみられるタイプです。女性では内鼠径ヘルニアの発症はまれであるといわれています。
加齢により筋力が低下することで足のつけ根の内側にすき間ができやすくなるためです。外鼠径ヘルニアと同様に以下のような生活習慣がある方は発症リスクが高まります。
内鼠径ヘルニアは、先天的な要因ではなく加齢や生活習慣により発症リスクが高まります。
径ヘルニアは基本的に手術による治療が必要です。どのタイプのヘルニアでも治療法は変わらず、弱くなった部分を補強する手術がおこなわれます。
現在の鼠径ヘルニアの手術では、飛び出した腸などの臓器をお腹の中に戻したうえで、出口をメッシュで補強する方法が主流です。手術はアプローチの仕方によって大きく二つに分けられます。
「鼠径部切開法」は、太ももの付け根を約4〜6cm切開し、患部を直接確認しながら修復する方法です。局所麻酔での対応が可能で手術時間も比較的短く、費用も抑えられることが多い傾向にあります。
「腹腔鏡手術」は、お腹に5〜10mm程度の小さな穴を数ヵ所開けて腹腔鏡を挿入し、体の内側から修復する方法です。傷が小さく術後の痛みが少ないため、早期の社会復帰が期待できる点が特徴です。西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKU鼠径ヘルニアセンターでは、へその部分に約2cmの穴を1ヵ所あけ、そこから腹腔鏡を挿入する「SILS-TEP法(単孔式腹腔鏡手術)」もおこなわれています。切開部を1ヵ所にとどめるため術後の傷跡が目立ちにくく、患者さまの負担が少ないとされる手術方法です。
鼠径ヘルニアの手術は病態や患部の大きさを考慮し、それぞれに合った手術法が選択されます。
鼠径ヘルニアは、生まれつきの体の構造によって若年層に発症することもあれば、加齢により筋肉が弱くなることで中高年に多く見られることもあります。赤ちゃんから高齢者まで幅広い年代で起こりうる病気です。
鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく「下腹部や足のつけ根にふくらみがある」「立つと膨らんで、横になるとへこむ」といった症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。痛みがないからと放置してしまうと、腸が戻らなくなり、緊急性の高い状態になることもあります。鼠径ヘルニアは、発症年齢やヘルニアの種類によって、最適な術式が異なることもあります。数多くの鼠径ヘルニア手術を手がけている西宮敬愛会病院 低侵襲治療部門COKU鼠径ヘルニアセンターでは、からだへの負担が少ない「単孔式腹腔鏡手術(SILS-TEP法)」をはじめ、患者さまの状態やご希望に合わせた術式をご提案しています。
手術が必要かどうかの判断や、ちょっとした違和感のご相談だけでも構いません。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。